2018年、ニュースペーパー

2018年12月01日

ニュースペーパー2018年12月



止めよう!改憲発議 ―この憲法で未来をつくる11・3国会前大行動―
 日本国憲法公布から72年目を迎えた11月3日、「止めよう!改憲発議―この憲法で未来をつくる11・3国会前大行動―」が開催され、約18,000人が参加し「9条変えるな!憲法いかせ!」「改憲発議を絶対止めよう!」と訴えました。同日、大阪でも「11.3憲法集会」が開催され、約12,000人が参加しました。
 10月24日、安倍首相は第197回国会における所信表明演説で「国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています。そのあるべき姿を最終的に決めるのは、国民の皆様です。制定から70年以上を経た今、国民の皆様と共に議論を深め、私たち国会議員の責任を、共に、果たしていこうではありませんか」と、改憲に向けた強い意欲を示しています。
 改めて「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」に結集し、絶対に改憲を阻止しましょう!

インタビュー・シリーズ:139
役に立つことが存在意義となるのはとても危険なこと
日本基督教団牧師 平良愛香さんに聞く

たいら あいかさん プロフィール
 1968年米軍施政権下の沖縄に生まれる。男性同性愛者としてカミングアウト(公言)して牧師となり、「LGBTセクシャルマイノリティの人権」「沖縄と基地の問題」などについて取り組んでいる。現在、農村伝道神学校教師、桜美林大学・立教大学非常勤講師、平和を実現するキリスト者ネット事務局代表、日本基督教団川和教会牧師。近著に『あなたが気づかないだけで神様もゲイもいつもあなたのそばにいる』(学研プラス)。

─平良さんは日本基督教団所属の牧師さんですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。
 教会は日曜日に礼拝があります。平日はその準備作業、事務作業をしています。また、所属の会員の相談を受けたりもするのも牧師の仕事ですが、神学校教師や大学講師の仕事も持っているうえ、集会もひっきりなしなので、なかなか教会にいられないことが多いのが悩ましいところです。

─牧師になったきっかけはなんですか。
 父(平良修さん)は沖縄では有名な牧師で、「キリスト者だからこそ社会の問題に関わるのは当然」と、基地問題に一所懸命とりくんできましたが、セクシャルマイノリティの問題についてはとりくんでいませんでした。父が取りこぼした問題だから、私が拾わなくてはならないという思いと、キリスト者として、セクシャルマイノリティの問題にしっかりとりくむ牧師が必要でしょうと気づいて、気づいたことは自分がやればいい、と。キリスト教自体が、セクシャルマイノリティを弾圧してきた歴史があります。自分自身キリスト教を離れようとしていた時期もありますが、ゲイであることと、キリスト者であることは両立できると思い至りました。

─同性愛者であることをカミングアウトされたのには、どのようなお考えがあったのでしょうか。
 キリスト者になったのは子どものころからですが、自分が他人と違う、まわりは同性愛を好ましくないものだと考えていることに気づいたのが中学生になってからです。そしてさらに高校生のころには、社会に受け入れられていないということ、そしてキリスト教にも受け入れられていないことがわかってきました。
 高校生のときが一番しんどかった時期でした。最初にカミングアウトしたのは、一番親しいクラスメイト。とにかく自分が苦しみもがいていることを知ってほしい、という思いでした。友達は私の思いを受けとめてくれました。好きになった人を聞かれたら、「いないよ」ではなく、「○○くんだよ」と、自分を隠さなくてもいい会話ができるようになってきました。
 その後、進学した群馬県の短大で、初めての彼氏ができて、その人が人権意識の高い人だったこともあり、人権の問題として考え始めました。「動くゲイとレズビアンの会」の裁判(同性愛者の団体の宿泊施設利用申請に対し、東京都が「青少年の健全な育成に悪い影響を与える」として拒否、損害賠償訴訟となった。原告勝訴)を知り、こういう活動をしたいと考えるようになりました。
 「同性愛者の人権って蔑ろにされているよね」と言うと、「でもみたことないよ」と言われて、目の前にいるのに見えていないじゃん!これじゃ変わらない!と思いました。そして、目の前にもいますよ、気づいてください、差別しないでくださいという、社会に対するカミングアウトへとつながっていきました。

─ご家族との関係では、どのようなことがありましたか。
 LGBTは、家族が敵になってしまうこともあります。親がショックを受けて寝込んだり、恥さらしだとか、親に逆らう行為だと怒り出すケースはよく聞きます。私がカミングアウトしたとき、母は、「育て方に影響があったのか」と問いました。そんなことはない、むしろ自分らしく生きなさいと言われてきたから、気づいたときに自分自身を受け入れられたんだと答えました。
 「治らないの?」とも言われ、その言葉は同性愛が異常という前提です、変わる可能性があるのかと言われれば答えますと言うと、「訂正します、変わらないの?」。これまで同性愛者として生きてきたし、変えたいとは思わないと答えました。母は、「あなたは私の子どものなかで一番線の細い子だったから、これ以上苦しむのは耐えられない」と悩んでもいましたが、すぐに「撤回!応援したいから、学ばせてほしい」となり、それからたくさんの話をしました。その後、「私の自慢の息子はゲイです」というTシャツを作って、街を歩き始めるようになりました(笑)

─『新潮45』の杉田水脈議員の論文問題について、どのようにお考えになりましたか。
 むしろよく本音を言ったな、とも思いました。みんなが思っていたことを、言葉にしてしまっただけなんです。そして、ああいうことを言えば、みんなから褒められると思い込んでいたんです。でも、彼女はそれを自分の考えだと思い込んでいるけど、実際は上から期待されている通りに動いただけではないでしょうか。
 LGBTに対する批判だけだったら、みんなここまで怒らなかったかもしれません。「生産性のない人」すべてを排除する文章だったので、結果的にたくさんの人がその問題性に気づいたのだと思います。沖縄も、お国のための沖縄でありなさい、と取り扱われてきたのと同じで、LGBTも国の役に立たないんだったら、いらない。これがすすむと、今後はお国のためになるLGBTになりなさい、という声も出てくるかもしれません。今回も、LGBTだって役に立っているんだ、税金も払っているんだ、という「反論」が出ていました。でも、そういう価値観に乗っかっちゃいけません。役に立つから存在意義があるんだという視点はとても危ういものです。
 同性愛者の権利として同性婚を求める人が結構いますが、婚姻制度そのものが無批判にいいものだ、という前提に立ってしまってはいないでしょうか。LGBTも気がつきにくい問題です。たとえば、「結婚していないと老後が心配じゃないですか」と言われるけど、結婚したら心配がなくなると思いますか?また、女性が家庭にいれば育児も介護も問題なくなるという思いこみのなかにいる人たちが多いです。親の介護についての相談がよくあります。したければしたらいいが、義務ではないんです。そういう問題が起こった時サポートするのが社会や国の役割なのに、そうはなっていない現実があります。

─大学で講師をされているということですが、どういったことを教えていらっしゃいますか。
 大学では、キリスト教とジェンダーについて教えています。キリスト教がいかに性差別の激しい宗教かという話をするので、私の授業を受けた学生は、キリスト教から心が離れます(笑)。でも、大学からは、平良さんなら、今までのキリスト教を壊してくれると期待している、と言ってもらっています。
 キリスト教の良妻賢母を育てるという意識は、国家と結びつきやすい。そんなキリスト教はなくていい。自分が正しいと思いこませてしまう宗教が多いですが、ほんとうは、自分は間違っているかもしれない、と考えるためのものでなくてはならないと思います。「生めよ増やせよ」という考え方や禁欲主義、男と女の役割意識、そして結婚の神聖化は、差別を生み出すキリスト教のよくない側面です。学校でも教会でも結婚を神聖視しすぎです。DVで苦しんでいるのに、離婚することもできなくなるんです。

─牧師さんとは思えないなかなか刺激的なお話ですが、では、キリスト教のいい面はなんでしょうか。
 絶対的な存在が、あなたは大切だと言ってくれているということです。自分が死にたい、自分が自分を肯定できないときに、自分を肯定してくれる存在があるんです。そして、あなただけではなく、あなたのまわりの一人一人が大切なんだよという教えです。「敵を愛せよ」と言いますが、あなたが大切なように、あなた以外の人も大切だということに気づきなさいという教えなんです。
 目標は、イエスの生き方に倣うということです。イエスはキリスト教を拡げたかったんではなくて、一人ひとりが大事にされる社会を拡げようとした人だと私は思っているので、信者が増えること以上に社会に出て人を大切にする活動をすることが重要であると考えています。キリスト者の強みは、こうなったらいいな、ではなく、平和は必ず実現するという前提があるから、道は険しくともゴールがみえていることでしょうか。「現実が見えていない」とも言われるけど、否定はせず、そうかもね、いいんですゴールを見ているんです、と答えます。

─憲法や沖縄の課題でも、活発に活動されていますね。
 憲法について考えるとき、やっぱり沖縄のことが念頭にあります。なぜ基地があるの?憲法が沖縄で全然生きていないのを感じると、なぜ憲法を変えるのか、何を考えているのか。同時に、あなたたち日本人が憲法を手に入れる、そのために沖縄を切り捨てた歴史を知ってほしいという思いがあります。沖縄の歴史、基地問題、安倍政権の問題、憲法はすべてつながっているんです。沖縄についても、根底には、お国のためにならないものはいらないという価値観があると感じます。
 翁長さんの言った「うちなんちゅー、うしぇーてないびらんど(沖縄県民をないがしろにするな)」という言葉は、多くの人の心を打ちました。自分たちの言葉で言ったことで、お国にも逆らっていいんだ、自分たちのアイデンティティを取り戻す、大きなきっかけになったのではないでしょうか。

─今後とりくみたい課題はなんですか。
 安倍政権を倒すことを目標にしたくはないですが、まずは安倍政権を、と思いますね。安倍さんがやってきたことをみると、なんだそりゃ、となることも多いですが、まだやり直せるとも思います。これからとくに重要なのは、教育です。お国に従いなさい、個人の権利よりも、一致団結することなんだ、となってきたらたいへん危ないと思います。

インタビューを終えて
 多様性を認めない社会のあり方、そして生産性がないと個人を切り捨てる社会のあり方、戦前へと回帰する政治のあり方に危機を感じます。平良さんの「宗教も寛容ではない」との発言に、ことの深刻さを感じました。カミングアウトの勇気と周りの理解、きっと社会は変わるものと信じます。
(藤本泰成)

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国がつくる弱い者いじめ―人に優しい社会をつくれるか!
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成

隠される「障がい者」 有事で真っ先に切り捨て
 障がい者雇用の水増しが社会問題化した。第三者委員会は、国の33の行政機関のうち28の機関で、3700人を不正に障がい者としてカウントしていたという。「障害者雇用促進法」は、国、地方公共団体、特殊法人に対しては2.5%の障がい者雇用率を課している。法の趣旨は「障がい者の雇用機会を広げ、障がい者が自立できる社会を築くこと」にある。1960年に「身体障害者雇用促進法」として制定されて以降、何度かの改定を経て雇用は努力義務から法的義務へと押し上げられた。
 今回の事件は、国の機関が国の制度を全く守ることなく、恒常的に不正を働いていたということになる。弱者の生活を守る旗を掲げながら、影で弱い者いじめを繰り返す。障がい者の人間としての尊厳に、日本の政治に関わる者たちが誰も見向きもしなかったのか。総理大臣の責任さえ問われる事態に、しかし、何らの処分も発表されていない。そのこと自体に、この国の政府の異常を感じざるを得ない。
 子どもの頃、私は北海道の田舎で育った。田舎の生活は、穏やかなもので日々喧噪の中に放り出されることはない。事件など、たまにしか起こらない。そのような中で、ある日、消防車のサイレンが鳴り響き、農家の納屋が全焼した。その納屋の中で、1人の女性が亡くなった。障がい者ゆえに納屋での生活を余儀なくされ半ば拘禁状態にあったらしい。障がい者への差別がきびしく、障がい者は一家の恥とされた時代の悲劇だった。子ども心に衝撃的で、未だに忘れることができない。
 NHKのEテレ「シリーズ・戦後70年」のチーフプロデューサー熊田佳代子さんは、障がい者は危機感を今持っているという。「戦争などの有事には真っ先に切り捨てられる」からだ。戦争に役立たない、お国ために役立たないとして、障がい者は非国民扱いされた。「穀潰し」「国の米食い虫」などと呼ばれた。ドイツでは20万人以上の障がい者が断種させられたり「ガス室」で殺されたりもした。日本でも、戦争中、障がい者に青酸カリが配られた事実も聞いている。
 戦後もなお、優生保護法に基づく不妊手術(優生手術)などの強要があった。障がい者は、常に国との関係の中で、困苦を強いられ、差別されてきた。「LGBTは生産性がない」とした杉田水脈自民党衆議院議員の言葉は、障がい者と国家の関係性の中で、その差別の本質から生まれているきわめて重要な発言だ。私たちの社会は、そのような関係性を断ち切って、障がい者が人間として自立し主体的に歩んでいくことを、選択してきたのだ。

分断・差別化される市民、異常なる政治
 日本社会は、弱い者に冷たいのか。「箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる」─萩原慎一郎の歌集「滑走路」の一首。朝日新聞の書評では「中学、高校時代にいじめを受け、その後も精神的不調に悩まされ、非正規として働き、32歳で自ら命を絶った歌人」と紹介されている。「きみのために用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい」「滑走路」という題名は、死の直前に本人が考えたもの。飛び立つ用意とは、何だったのだろうか。生き抜いて欲しかったと思うのは、私のエゴか。
 「生きているというより生き抜いているこころに雨の記憶を抱いて」。貧困と格差の拡大の中で、また、非正規雇用が増大する中で、市民社会の階層化が進んでいる。そしてそのことが、市民社会の対立を生んでいないか。差別される側も、差別する側も、社会の勝者ではない。虐げられる人間同士の撃ちあいが続いている。
 「生活保護は、働けるのに働かない人々を生み出す」「生活保護は、権利ばかり主張して義務を果たさない人々を生み出す」─片山さつき地方創生大臣はこのように主張していた。「ホームレスが糖尿病になる国だ。生活保護は生きるか死ぬかのレベルの人がもらうもの」との発言は、謝罪に追い込まれている。生活保護法は、日本国憲法25条に基づくもので、そのルーツは1919年のワイマール憲法に遡る。生活保護法の歴史的意義も考えない発言が閣僚のものであることも、この国の異常を象徴している。どうして人に優しい政治が、人に優しい政治家が生まれてこないのか。

出会った詩
 最後は、心温まる障がい者の詩を紹介して終わろう。
 「あなたのことを好きだけど/『あきらめますと』/あの人につたえてください/小鳥さん/私はあの人を困らせる花嫁になりたくないんです/そうじ洗濯料理などなにもできません/手のつかえない花嫁は/花むこを苦しませるだけなんです
 私はまちがっていました/『花嫁に』と/あの人につたえてください/小鳥さん/あの人がこんな私を必要とする/花嫁になれるのなら/あたたかい心だけは/だれにも負けません/手のつかえない花嫁は/笑顔がいっぱいです/手のつかえない花嫁は/花むこを心をこめてむかえます」(山城誠美:手のつかえない花嫁)
(ふじもとやすなり)

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安倍改憲に対抗し9条理念をめざす「平和基本法」の再興を
肥大化する自衛隊の縮小への道筋示すジャーナリスト
前田 哲男

 私も名をつらねた「共同提言平和基本法をつくろう」が発表されたのは、1993年4月号の『世界』誌上においてであった。東西冷戦が終結、国内では自民党単独政権が終末期をむかえていた時期だ(同年8月に細川内閣成立)。大転換する国際社会、やがて国内政治に波及してくる必然性を予感しつつ、あらたな時代に向けた安全保障政策に一石投じたい意欲が、9人の提案者に共有されていたと思う。提唱から四半世紀たった。だが「平和基本法」は、まだ存在しない。
 共同提言の主旨を端的にいえば、「憲法第9条の下位法に位置づけられる準憲法的な法律として平和憲法の精神にのっとった『平和基本法』をつくることを提唱」するものだった。それまでの9条の論じ方―「憲法解釈論=自衛隊違憲」―ではなく、憲法理念を「憲法政策」としてとらえ、現実に存在し肥大化する自衛隊と9条の矛盾を解消させる方策、つまり政策過程と移行手続きを「平和基本法」に明示・具現化して制定し、軍縮=自衛隊縮小の道筋を示すことにあった。


「9条で政治を変える 平和基本法」
(2008年10月刊・高文研)

前向きに受け止められたが全体に共有されず
 多くの反響があった。『世界』6月号は「平和基本法─私はこう思う」として自民党・田中秀征氏ら3人、社会党・上原康助氏ら2人、公明党・遠藤乙彦氏、共産党・上田耕一郎氏、社民連・江田五月氏、日本新党・細川護熙氏という国会議員の見解を掲載した。また8月号では「平和運動の現場から」の声が、福生市議・遠藤洋一氏、ピースリンク・湯浅一郎氏、非核市民宣言運動・新倉裕史氏たち6人から寄せられた。自民党議員をふくめ提言を「全否定」する意見はなかった。
 とくに「平和運動の現場から」の意見は背中を叩かれる思いで受けとめた。「平和運動の練習問題だ。共同提案を真正面から受け止めようと思っている」(遠藤氏)、「平和基本法の提言は、想いを一にするもので、前向きに受けとめたい」(湯浅氏)、「読みながら唸ってしまう。(悪い意味に読まれる心配があるが)それでも、この提言を歓迎したいと思う」(新倉氏)などなど。他にも、憲法学者である奥平康弘、深瀬忠一両氏からの意見と論考にも好意的で有益なものがあった。
 同主旨の提言は、その後2003年、自民党の「改憲マニフェスト」を受け、05年「共同提言・憲法9条維持のもとでいかなる安全保障政策が可能か」(『世界』同年6月号)と、単行本『9条で政治を変える平和基本法』(高文研2008年刊)でも続けられた。それらは「平和フォーラム」加盟の組織や団体から真剣に受けとめられた。だが、護憲勢力全体に共有される対抗構想となるほど内容が深められ、「真の9条補強策」となるまで鍛えられるにはいたらなかった。
 その後の情勢、とりわけ安倍政権以後の「憲法危機」について、あらためて言及するまでもない。改憲の企図が現実の日程にのぼったからには(それを阻止する努力はもとよりとして)、護憲の側が「安倍改憲」に立ち向かう選択肢として、「平和基本法」のような「9条を具現化する対抗構想」を提示し、国民に「どちらを選ぶか」を訴えることの必要性はますます高まった。その意味からも「ニューバージョン平和基本法」をつくることは、いやまして重要だと感じている。

「憲法を活かす」ことを政策次元で実践
 「平和基本法」は、「9条のもとでの安全保障政策」を具体的にしめす護憲のための対抗構想である。それは9条を補強し、かつ、前に向けてひらく。「安倍改憲」を阻止するには、「では、どうする」を提示しなければならない。コスタリカ方式で、というなら、同国は非武装ながら人口493万人の国に1万600人からなる「特殊侵略阻止隊」「沿岸警備隊」「航空警戒隊」を保有している事実も知っておく必要がある。「コスタリカの奇跡」は「最小防御力」があってのものだ。
 ニュージーランドの軍縮も参考になる。米・豪とANZUS条約でむすばれる同国は、01年に労働党政権ものと攻撃戦闘機の全廃を決定した。陸軍に戦車は保有されず装甲車主体に4500人。海軍もフリゲート2隻のみ。それが「最小限防御力」なのだ。それでもANZUSは維持されアメリカと「同盟関係」にある。コスタリカとニュージーランドが教えるのは「憲法を活かす」ことを政策次元で実践していくことの大切さだろう。日本では「平和基本法」がそれにあたる。
 「望むこと」と「できること」を弁別しよう。「望むこと=到達目標=9条実現」を展望しながら、当面は「できること=最小限防御力=自衛隊縮小」の実現に全力をあげる。「安保廃棄」はさておいても、「日米地位協定」の不平等性打破においてはいかなる妥協もしない。そのような国民的基盤をつくりだすことが急務である。それには「平和基本法」が、依然として有効だと信じている。
(まえだてつお)

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抜け穴だらけの遺伝子組み換え表示制度
日本の立ち遅れが一層顕著に
日本消費者連盟 事務局長 纐纈 美千世

 遺伝子組み換え表示制度は、日本が遺伝子組み換え作物の輸入を始めた1996年から5年後の2001年にできました。現在、8作物とそれらを原料とする33の加工食品群に表示義務を課しています。しかし、大量の遺伝子組み換え食品が出回っているにもかかわらず、「遺伝子組み換え」と書いた商品を目にすることはありません。遺伝子組み換え原料を使っていても「遺伝子組み換え」表示を免れる抜け穴が存在するからです。

「遺伝子組み換えでない」表示が消える?
 遺伝子組み換えでない」表示が消える?2017年4月に消費者庁で遺伝子組み換え表示制度について検討する有識者会議(以下、検討会)が始まり、今年3月に報告書をまとめました。その内容は消費者の要求を無視するものでした。前述の「義務表示対象は8作物33加工食品群」に加え、「表示義務のある原材料の範囲は、原料に占める割合が上位3位以内で、かつ全重量の5%以上」「最終製品に組み換えられたDNAやタンパク質が残らない場合は義務表示対象外」「意図せざる混入率は5%」という抜け穴はそのままにする一方、「遺伝子組み換えでない」表示を実質できなくしたのです。現行の制度では、意図せざる混入率の5%までなら「遺伝子組み換えでない」と表示できますが、検討会はこの条件を「不検出」に変更しました。今の分析技術なら検出限界値はほぼゼロ%のため、「遺伝子組み換えでない」と表示した食品からごく微量でも混入が見つかれば違反となります。表示をしなくなる事業者は出てくるでしょう。
 現在の「遺伝子組み換えでない」表示は、生産から流通、加工の各段階で分別管理された、つまり遺伝子組み換え原料の混入が最大でも5%以下に抑えられた食品についています。5%は高過ぎ、引き下げは必要です。しかし、油や糖類のようにほぼ100%遺伝子組み換え原料で作られた食品が、DNA等が残留しないという理由で「遺伝子組み換え」表示を逃れている現状を放置し、ほとんど遺伝子組み換え原料が混じっていない豆腐や納豆に「遺伝子組み換えでない」と表示できなくする今回の改正は、明らかに公正さに欠けます。
 今回の表示改正案について10月から11月にかけて意見募集(パブリックコメント)が行われました。しかし、一般的にパブコメは、政府が意見を聞いたと主張する、一種のガス抜きに過ぎません。すべての食品を遺伝子組み換え表示の対象にしてほしいという私たちの要求が反映される可能性は極めて低いと考えられます。


卵に表示された「遺伝子組み換えフリー」マーク

表示改善に動いた韓国と台湾、ドイツは卵や肉に表示
 海外に目を向けると、EU(欧州連合)ではDNA等の残留の有無にかかわらず全食品が義務表示の対象で、意図せざる混入率は0.9%です。韓国はすべての原材料を表示対象としていますが、DNA等を検出できない油等は対象外で、意図せざる混入率は3%。台湾はEU同様、DNA残留条件を設けず全食品が対象、意図せざる混入率は3%です。韓国は2017年にそれまで上位5位までとしていた要件を全食品に拡大、台湾は2015年にDNA残留条件を廃止し、5%だった意図せざる混入率も3%に引き下げました。
 消費者庁は、組み換えられたDNA等を検出できないと表示の正確性が担保できないと言い訳しますが、EUは科学的検証(原料段階での検査)および社会的検証(生産流通等の各段階での書類確認)を使って表示制度を運用しています。日本と同様、食料自給率が低く、米国やブラジル等から大量の遺伝子組み換え作物を輸入している韓国や台湾は表示を拡大させました。消費者庁によると、日本でも「遺伝子組み換えでない」表示は、科学的検証と社会的検証で真正性を担保しています。「できない」のではなく、消費者庁に「やる気がない」だけです。
 今年9月にGMOフリーゾーン(遺伝子組み換え作物を栽培させない地域)欧州会議で訪れたドイツでは、「遺伝子組み換えフリー」マークのついた卵や肉、チーズ等の乳製品が市中のスーパーに並んでいました。ドイツでも遺伝子組み換え飼料使用の有無を食品に表示する義務はありませんが、消費者の要望を受けて、ここ数年、アイテム数も表示率も増えています。マークの使用条件は、一定期間、遺伝子組み換えでない飼料で飼養した動物由来の食品なので、完全な遺伝子組み換えフリーではありません。しかし、遺伝子組み換え飼料で育った家畜の肉やチーズを少しでも避けたい消費者にとって、重要な手掛かりとなっています。
 表示対象を広げるドイツや、最近相次いで表示を改正した韓国、台湾に比べて、日本では消費者の知る権利・選ぶ権利が軽視されていると言わざるを得ません。消費者庁のみならず、事業者も消費者の「知りたい、選びたい」という声に耳を傾けるべきです。消費者の権利があるように、事業者には表示する義務があるのではないでしょうか。
(こうけつみちよ)

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福島原発 汚染水の海洋投棄は非現実的
危険なトリチウムは貯蔵を継続するべき
原子力資料情報室 共同代表 伴 英幸

 福島第一原発の事故処理で発生している汚染水を薄めて海へ流してしまう計画について、一般から意見を聞くために、経済産業省の審議会「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」は、8月末に公聴会を開催した。並行して書面による意見も受け付けていた。
 公聴会は30日に福島県富岡町で、31日に同県郡山市と東京で開催され、応募に当選した漁業関係者や市民ら計44名が意見を述べた。うち42名が海洋放出(以下、海洋投棄とする)に強く反対する意見で、多くは貯蔵の継続を訴えた。特に原子力市民委員会は10万トンクラスの大型タンクを建造して長期貯蔵が可能な具体案を提案した。こうした反対の結果、汚染水の海洋投棄は見送られ、審議会では公聴会で出された意見についての審議が継続している。

100万トン貯蔵 規制委員会が投棄を主張
 汚染水は、原子炉を冷やすための注水や建屋に入り込んでくる地下水が溶融燃料や高濃度に汚染された建屋内の水と混ざったものから、「多核種除去設備等」(ALPS)を使って放射性物質をできるだけ取り除く処理をしたものだ。しかし、どうしても取り除けないのがトリチウムだ。これをタンクに貯蔵している。現在、総量はおよそ100万トンで、放射線量は1000兆ベクレルと評価されている。
 更田豊志・原子力規制委員会会長は、基準以下に薄めて海へ投棄せよと東電に強く迫っている。公聴会では上記小委員会委員から「勝手に言っているのは原子力規制委員会だ。そもそも選択肢に貯蔵継続は入れずに検討することになっていた」といった発言が飛び出した。原子力規制委員会が投棄案の主役のようである。東電は海洋投棄をめざしてはいるが、漁民の理解が得られない限り投棄しないと繰り返し明言している。
 規制委員会の意向を受けたのか、経産省のトリチウム水タスクフォースが取りまとめた報告書によれば、ALPS処理水対策の選択肢は、地層注入、海洋放出、水蒸発放出、水素放出、地下埋設の5つに大別される。これによれば、海洋投棄が一番安価で期間も短くてすむ結論となっているが、この場合には漁業補償が避けて通れず、それを評価するべきであっただろう。小委員会委員が指摘するように選択肢に貯蔵継続が含まれていないことが大きな問題である。

実用化されていなかった凍土遮水壁に原因
 汚染水増加のそもそもの原因は凍土遮水壁の建設にあると筆者は考えている。大雨が降れば建屋への地下水流入量が大きく増える。こんな結果になるのは、凍土遮水壁が地下水をコントロールできていないからだ。もともと確実な遮水はできていないと言われていたにもかかわらず、これが導入されたのは、東電を救済するためであった。すなわち、凍土遮水壁は実用化されていない技術であり、国の予算が使える点に着目した対応で、この目先の東電救済策が今日の汚染水問題を引き起こしているのだ。
 トリチウムは人体への影響がほとんどないと安全性が強調されているが、しかし、トリチウム水(HTO)として環境に放出されても、生物(人を含む)の体内で一部が有機結合型トリチウム(OBT)となることが知られている。OBTは体内に長く留まり局所的な被ばくをもたらす。また、トリチウムは壊変するとヘリウムとなり、化学結合が破壊される。トリチウムの被ばく評価は従来考えられている以上に厳しく捉える必要がある。


東京電力福島第1原発汚染水タンク群

多核種除去はウソだった
 10月17日に開催された第10回小委員会で東京電力は一部のタンク内の核種と放射能濃度の測定結果を公表した。これによれば、測定されたタンク数は108で全体の約1割程度だが、このうち基準を超えたタンク数はトリチウムが107タンク、ヨウ素129が71タンク、ストロンチウム90が31タンク、ルテニウム106が4タンクであった。トリチウム以外は取り除かれているというのはまったくのデタラメであったことが明らかになった。東電は再び多核種除去設備を通して処理しトリチウム以外の核種を取り除く方針を示した。
 東電が地下水ドレンを海洋放出する時に定めた目標値はトリチウム1リットルあたり1500ベクレルである。これは現在の原子炉等規制法に基づくものだ。この自主基準を蔑ろにはできないだろう。この処理が終了するのは4,566年後となる。トリチウムの半減期による減衰の方が早く減る。貯蔵スペースがなくなるからというが、海洋投棄でもこの問題は解決しない。
 最近、トリチウムを分離・回収する実験に成功したとのニュースが報じられた。費用も従来の1割程度で済むという。こうした研究の実用化をめざして貯蔵を継続するのが良い方策といえる。実用化に成功すれば、回収したトリチウム水をコンクリート固化することで海洋投棄は回避できる。
(ばんひでゆき)

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北海道胆振東部地震がもたらしたブラックアウトを教訓に
原発再稼働を阻止し分散型電力システムの確立へ
北海道平和運動フォーラム 事務局長 難波 優

コスト優先―問われる北電の責任
 2018年9月6日午前3時7分、北海道胆振東部地震が発生しました。最大震度は震度階級で最も高い震度7(厚真町)で、北海道では初めてとなる観測でした。その後も、震度5が2回、震度4が20回など、310回の余震(10/28現在)が続き、人的被害は、死者41人・重傷18人・軽傷731人。建物被害は、全壊409棟・半壊1262棟・一部破損8463棟(10/29現在)となっています。
 さらに、北海道全域295万戸が停電するという前代未聞の被害をもたらしました。震源地近くに立地する北海道電力苫東厚真火力発電所も被災し、全道の電力発電量の半分近くに相当する165万kWもの電力が失われ、電力の需給バランスが大きく乱れ、日本では初ともいわれる連鎖的広域停電(いわゆる「ブラックアウト」)を引き起こしたのです。ブラックアウトによって、泊原発は9時間半にもわたり外部電源を喪失し、あわや大惨事となるところで、改めて原発の危険性が明らかとなりました。
 しかし、北海道のブラックアウトを検証する電力広域的運営推進機関の第三者委員会は、10月23日、「北海道電力の対応に問題はなかった」という中間報告をまとめました。北電擁護の姿勢に終始しており、責任問題には一切触れておりません。確かに事故後の対応に問題はなかったのかもしれません。しかし、当初から検証委の中立性を疑問視する声もあり、この間の泊原発再稼動ありきの北電の経営姿勢が、ブラックアウトを防ぐことができなかったと言っても過言ではありません。なぜならば、泊原発再稼動への投資を集中するため目先の発電コストの安さを優先して、苫東厚真に一極集中し、他の発電所などの整備が遅れたことが大きな原因であり、本来すべき対策を打っていなかった北電の責任は重大です。
 北電は、電力10社の中でも規模が小さく、発電最大出力は781万kWです。また、北電と東北電力の間では海底ケーブル「北本連系線」によって電力の融通が可能になっています。しかし、北本連系は直流送電で、主として予備電力不足対応であることから、北海道の電力供給は事実上「孤立」した状況にあります。


さようなら原発 北海道集会(札幌市)

豊富な再生可能エネルギーへの送電網の開放を
 また、ブラックアウトから2日間、北電は再生可能エネルギー(再エネ)の受入を停止し、停電がほぼ解消した8日から徐々に受入を再開し、最大で道内電力需要の30%(80万kW)をまかないました。
 北海道は、風力・太陽光・バイオマス・地熱など豊富な再生可能エネルギーがあり、新エネルギーの宝庫とも言われています。しかし、この間、北電は送電網を制限し、再エネの受入を抑制してきました。
 再エネを積極的に行っているある自治体が、送電網の開放を北電に要請した際「電力は泊原発が再稼動すれば大丈夫。再エネへの送電網開放は必要ない」と言っておきながら、今回ブラックアウトが発生した北電の対応に憤慨している首長もいます。
 そして、石狩では2019年2月に、液化天然ガス(LNG)発電所である石狩湾新港発電所1号機(57万kW)を稼働させ、その後順次2・3号機を建設し170万kW規模まで拡大させる予定です。
 北海道平和運動フォーラムは、関係団体と連携し、原発に頼らず、二度とブラックアウトを引き起こさないための電力分散にむけ、あえて原発にはふれずに(1)北本連系送電ケーブルの増設、(2)再生可能エネルギーへの送電網の開放、(3)LNG発電所建設の前倒しを求め、全道緊急署名を取り組み、年内に経産省、北海道、北海道電力へ署名を提出して要請行動を行う予定です。
 また、泊原発3号機の再稼動をめぐっては、10月に、原子力規制委員会が原発敷地内に活断層があるかを見極めるための現地調査を実施しました。再稼動の条件となる新規制基準では、活断層が原発の重要施設の直下にあれば認められません。泊原発敷地内に断層は11本ありますが、この間、北電は「活断層はない」と主張していました。しかし、規制委員会は「説明が不充分」として、再稼動審査は長期化していました。今回の調査は両者の見解が違う地層の年代を調べることが主たる目的です。
 調査結果は、北電の主張に一定の評価を示したものの「敷地内の断層評価は原発の安全審査にとって出発点となる非常に重要な審査」とし、北電に追加データの提出を求め、さらに、原発を襲う地震の大きさの決定や安全対策など課題は山積しており、再稼動は依然不透明です。
 今回のブラックアウトは事前の対応次第で防げたものであり、原発を再稼働しなくても電力の需要も充分まかなえます。今回の災害を教訓にし、改めて原発再稼動阻止はもとより、安定・安心な電力供給のための分散型電力システムを確立するとともに、災害を口実とした緊急事態条項や自衛隊の憲法明記を許さない闘いの強化が求められます。
(なんばまさる)

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ふげんの使用済み燃料搬出でプルトニウム1.3トン増大

 10月26日、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、福井県敦賀市にある新型転換炉ふげん(廃炉作業中)にある使用済み燃料搬出について仏オラノ・サイクル社と準備契約を同25日に結んだと福井県および敦賀市に伝えました。各紙は、契約は4基のキャスク(輸送容器)製造と、これらを使った使用済み燃料集合体466体の搬出に関するもので、2023年頃搬出を開始し26年夏ごろに終了との内容と報じました。一方、オラノ社は11月15日、731体(核物質重量111トン)受け入れ準備契約と発表しました。数字が合わない理由は、機構の発表が東海再処理施設に保管されているふげんの使用済み燃料に触れていないからです。機構の説明は控えめに言っても不親切で、納税者に対する説明責任を果たしていません。

福井からの搬出にしか触れない機構の説明
 機構が10月26日に福井県で使った説明用資料から情報を抜粋してみましょう。

〇輸送キャスク(4基)製造時期(許認可取得含む):2018年度~2023年度
〇使用済燃料の搬出時期(輸送回数:4回):2023年度~2026年度
■昨日、輸送キャスクの製造、受け入れ先施設の改造および許認可取得の準備契約を仏国のオラノ・サイクル社と締結した。

 搬出計画の年表には次のような内容が記されています。

2018年 契約締結 キャスク製造(4基、許認可含む)、受入れ先施設改造等
2022年 キャスク1基先行搬入
2023年 キャスク3基搬入
2023年度 搬出開始
2026年夏頃 搬出終了 キャスクスペック[キャスク当たり]燃料収納体数32体

第1回輸送 第2回輸送 第3回輸送 第4回輸送
128(4基) 128(4基) 128(4基) 82 (3基) 466

 この内容に沿った報道のほとんどは福井県からの搬出のみに焦点を合わせ、機構資料にある「2014年9月より使用済燃料の海外再処理を視野に技術的確認・検討を実施」「使用済燃料保管量:466体保管中(全発生量1459体中、993体搬出済)」という情報についての検討が欠けていました。
 2003年に約25年の運転を終了したふげんの使用済み燃料は、全発生量を再処理する予定でした(これまで993体を機構の茨城県東海村施設に搬送済み)。ところが、2007年の新潟県中越沖地震で止まっていた東海再処理工場が、福島事故後の14年に廃止決定となります。その結果、07年度までに再処理されていなかったものが東海村で保管状態にあるのです。
 実はオラノ社発表の前日の14日、ふげんを所管する文部科学省は立憲民主党宮川伸議員事務所での面談で東海村施設での保管分について問われ、東海村にある265体が搬出計画に含まれると回答していました(照射後試験用5体は搬出せず)。つまり、敦賀と東海村合わせて731体を搬出する計画です。機構の資料はキャスク4基製造としていますが、実際は合計6基製造で、最初の3年間は敦賀用4基に東海村分用が2基ずつ、最後の年は敦賀用3基に3基が追加されるとのことです。文科省は使用済み燃料には1.3トンのプルトニウムが含まれると機構から聞いていると説明しています(核兵器約170発分)。

保有プルトニウム削減を謳った原子力委員会は?
 原子力委員会は7月31日に発表した文書において、我が国は「プルトニウム保有量を減少させる」と述べています。具体的な措置や法的権限の明らかでない希望的観測の宣言のようなこの文書は「研究開発に利用されるプルトニウムについては、情勢の変化によって機動的に対応することとしつつ、当面の使用方針が明確でない場合には、その利用又は処分等の在り方について全てのオプションを検討する」としています。これは、昨年6月6日機構大洗施設で容器点検中に発生した作業員5人被曝事故で明らかになったずさんな管理状態のプルトニウムのうち、技術的に使用不能なものは処分検討というレベルの話と見た方がいいようです。
 宮川議員事務所での面談で、原子力委員会(10月13日)も文科省(同14日)も、今回の契約は準備契約であって再処理が決まったわけではないと強調しています。しかし、福井新聞(10月27日)が「再処理する内容の契約はキャスク製造期間中に締結する」と報じている通り、準備契約は再処理契約の一環です。原子力委と文科省は、再処理する場合にはその前に原子力委が内容を検討するから利用計画のないプルトニウムは生じないと主張します。その原子力委検討時期については、原子力委は再処理契約締結後、文科省は契約案の出た段階との説明です。
 3月にふげんの使用済み燃料の処分方法について原子力規制委員会から意見を求めらた原子力委は、4月17日に「使用済燃料は、国内又は我が国と原子力の平和利用に関する協力のための協定を締結している国の再処理事業者において全量再処理を行う」方針を良しとすると答申しています。利用計画については、再処理委託決定後「速やかに、原子力委員会に報告することを求める」との内容です。その段階で再処理を止めろとの指示が出るはずはなく、このままでは、福井現地の搬出要求の声を口実に必要のない再処理が進められることになります。分離されるプルトニウムには軽水炉で利用困難なものが含まれており、それを燃やすためとして高速炉計画が推進されるという構図です。
(「核情報」主宰田窪雅文)

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《投稿コーナー》
「強制動員問題」の真の解決のために 市民が連帯し日韓両国で共同行動を
朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動 事務局長 矢野 秀喜

 10月30日、韓国大法院は強制動員被害者訴訟(被告=新日鐵住金)で被害者の請求を認める判決を出しました。時効、別会社論、日韓請求権協定など幾つもの障害に阻まれてきた被害回復、補償実現の要求がようやく認められたのです。まさに歴史的な判決でした。

日本植民地支配の清算、関係団体が結集
 11月11日、東京で「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」(以下「共同行動」)を結成しました。結成集会には、朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動、長崎・広島・名古屋三菱強制動員被害者訴訟支援3団体、日本製鉄元徴用工裁判を支援する会、不二越連絡会、フォーラム平和・人権・環境、女たちの戦争と平和資料館(wam)など約20団体が結集。また、韓国側からパートナー団体の「強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動」(韓国「共同行動」)、新日鐵住金訴訟の原告代理人弁護士らも参加しました。
 先に8月9日、韓国で、民主労総、民主社会のための弁護士の会・過去事清算委員会、民族問題研究所、わが同胞一つになろう運動本部(キョレハナ)など16団体の参加で、韓国「共同行動」が結成。(1)日本植民地支配と過去の事を清算し、韓日関係を正しく確立すること、(2)日帝強制動員に対する日本の謝罪と賠償問題を解決すること、の2点を活動目標に掲げました。方針として、(ⅰ)強制動員の歴史と懸案問題に対して共同で対応して実践し、解決のために全国民的な世論を形成する、(ⅱ)強制動員問題に関して、南北交流を通じて持続可能で実践的な南北共同対応を作る、(ⅲ)強制動員問題解決のために在日同胞との交流、韓日市民連帯、進んで東アジアと国際的な平和連帯を構築する、を打ち出しています。
 今春以降、南北首脳会談が重ねられ、「板門店宣言」「平壌共同宣言」が出されて、南北間では軍事的敵対の停止、鉄道連結など経済交流促進の共同事業が拡大しています。そして、米朝協議も進み、遠からず日朝国交正常化交渉が開始されるのも間違いありません。このような流れを見すえて、韓国「共同行動」は、日韓だけではなく、南・北・日・在日の市民連帯で植民地支配の清算を進め、それによって東アジアの平和体制を構築していく運動をつくろうとしているのです。
 この運動を進めていくためには、韓国「共同行動」に連帯し、日本の中で活動する運動体が必要です。そのために「共同行動」を結成したのです。


判決の履行を求めて新日鐵住金本社を訪れた
共同行動メンバーと弁護士(2018年11月12日)

フェイク報道を乗り越え、世論を変えよう
 結成集会では、新日鐵住金訴訟の金世恩、林宰成弁護士が、判決の意義として(1)被害者に対する強制連行・強制労働は、違法な植民地支配に直結した反人道的不法行為に当たり、被告はそれに対する賠償責任を負うと判示したこと、(2)被害者の賠償請求権は、1965年の日韓請求権協定には含まれていない(多数意見)と判断したことにあると報告。存命の唯一の原告が94歳という高齢であることから、新日鐵住金が速やかに判決を履行するよう求めていくと強調しました。
 続いて、崔鳳泰弁護士(大韓弁協・日帝強制被害者人権特別委員会委員長)は、大法院判決報道に見る日本のメディアの「フェイク」(日韓の政府・司法とも「個人の請求権は消滅していない」と認めているのに一切報道しないこと等)を指摘し、これに対抗する世論を形成していくことの重要性を訴えました。
 韓国「共同行動」運営委員長の金敏喆さんは、強制労働問題に関しILOへの申立、キャンペーンを展開するとともに、南北共同で強制動員被害調査、記憶事業などに取り組んでいく方針を提起されました。
 韓国側の報告を受けて、「共同行動」は何を目標にして、どんな運動を組織していくのかについて提案し、議論を交わしました。日本の朝鮮植民地支配が残した問題の多くは、いまも未解決のままにあります。日本軍「慰安婦」問題、強制動員被害者補償、遺骨返還、BC級戦犯問題など。このような中での今回の判決により、1965年以来封じられてきた強制動員被害者の権利回復を実現する機会がめぐってきました。
 過去清算を進めていく”突破口”として、10.30判決を基礎に強制労働問題の包括的解決をめざしていく時です。NHKの世論調査(11.9~11)では、大法院判決をどう思うかとの質問に69%が「納得できない」、「納得できる」は2%、19%が「どちらとも言えない」でした。厳しい数字です。しかし、安倍政権がふりまくフェイクを暴露していけば世論を変えていくことは可能です。
 新日鐵住金、さらに三菱重工に強制動員の責任を果たさせ、強制労働問題の包括的解決の展望を切り開いていく、そのために「共同行動」は多くの団体、市民の力を結集して運動を進めていきます。ご支援、ご協力をお願いいたします。
(やのひでき)

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加盟団体の活動から(第11回)
組織と雇用・労働条件を守る闘いを継続
政府関係法人労働組合連合 書記長 渡邉 努


第96回定期大会(2018年8月9日)

 政労連は、独立行政法人等の政府関係法人に働く仲間で構成される労働組合の連合体です。各現場では、この間、高速道路や空港などの運用管理、農林水産業に関する整備や振興、政策金融、奨学金等学生支援、研究・開発、職業能力開発、年金積立金管理運用、医療保険制度の運用、障がい者支援、国際交流、貿易促進等、多種多様な国民生活に直結する事業を担ってきました。また、多くの現場で、頻発する大規模災害からの復旧・復興を下支えするとともに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた諸事業、福島第一原子力発電所事故に関連する様々な事業も実施しています。
 1990年代後半から間断なく続いてきた行財政改革をめぐって、組織の統廃合を含め、仲間の雇用・労働条件は幾度となく危機的な状況にさらされてきました。今日に至っても、政府関係法人が関わる様々な事業や課題が衆目を集め、時には批判の的にもなっており、政労連の仲間も度々矢面に立たされています。私たちは、その都度、課題と真摯に向き合い、労働組合自らが、事業運営、諸課題の改善、解決に取り組んできました。そして、公共サービスの低下に繋がる組織改編や事業の廃止・縮小等に対しては徹底的に反対するとともに、国の雇用責任の追及、仲間の首切りを許さない闘いを展開し成果をあげてきました。
 政労連の仲間は公務員ではなく労基法適用の労働者であり、各労働組合には労働三権が保障されていることから、賃金の自主決着は当然の権利です。特殊法人から民営化されたグループにおいては、ベア等の成果をもって賃金の春季決着を実現しています。一方で、独立行政法人化されたグループを中心として、政府からの縛りが強く、実質的に各法人理事者に十分な裁量権が与えられていないため、法人側が国公準拠の姿勢を強め、人事院勧告の取り扱いが決定されるまで賃金交渉が進まず、春の段階で決着に至らない単組が多いのが実態です。
 政労連は、政府関係法人としての社会的使命と国民からの評価を意識しつつも、組織や職場の独自性を適切に労働条件に反映させていく姿勢を持って、組織と雇用・労働条件を守る闘いに取り組んでいきます。
(わたなべつとむ)

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〔本の紹介〕
『魂の政治家 翁長雄志発言録』
琉球新報社編著/高文研発行

 8月8日、翁長雄志沖縄県知事が膵臓癌で逝去し、多くの全国紙、地方紙が1面トップで伝えました。現職とはいえ一県の知事としては異例の報道が、今の沖縄が置かれている状況を物語っているのではないでしょうか。また9月2日の朝日新聞「朝日歌壇」では、県外在住者の9首の翁長知事追悼の歌が選ばれていました。
 この本は翁長雄志という政治家が沖縄県民とともに闘い続けた足跡と、県民にだけではなく日本人(ヤマトンチュウ)にも遺した重い問いかけとを、多くの写真とともにまとめたものです。
 オール沖縄の原点となった2007年9月29日の高校日本史教科書検定における沖縄戦「集団自決」の記述をめぐる「教科書検定意見撤回を求める県民大会」から、2018年7月27日の辺野古埋め立て承認の撤回表明、さらには樹子夫人へのインタビューまで、21編の発言が紹介されています。それぞれに当時の琉球新報の記事が併記されていますので、その言葉の背景が理解できる構成になっています。
 本書に収められた「イデオロギーよりアイデンティティー」、「うちなーんちゅうしぇーてぇーないびらんどー(沖縄の人をないがしろにしてはいけません)」、「沖縄が日本に甘えているのか、日本が沖縄に甘えているのか」、「沖縄に一方的に基地を押し付け、他の選択肢を示さないことは政治の堕落ではないのか」等々、翁長知事が発した研ぎ澄まされた歴史観に根差した言葉は、沖縄が誇りある豊かさを獲得するための言霊に思えます。沖縄県民同士が対立する歴史を断ち切り、県民の心をひとつに結ぼうとした翁長知事の、この本はまるで翁長雄志言霊事典のようです。
 9月30日投開票の県知事選で翁長知事の後継者として立候補した玉城デニーさんが圧勝し、再び「辺野古新基地ノー」の民意が明確に示されました。この県民の意思を踏みにじる安倍政権の策動が続く中、「基地のない、平和な誇りある豊かな沖縄」を求める闘いの場で生かされ、県民を励ます闘いの歴史書として読み継がれていってほしい。そして沖縄のあり方に正面から向き合いたい方にぜひ読んでいただきたい1冊です。
(市原まち子)

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核のキーワード図鑑


核のゴミ、廃棄できずにどこへ運ぶ…

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短信

 9月30日の沖縄県知事選挙は、辺野古移設に反対する玉城デニー候補が、安倍政権が全面支援した候補に8万票もの大差をつけて当選しました。選挙後、安倍晋三首相は記者団に対して「選挙結果は真摯に受け止め、今後も沖縄の振興と基地負担軽減に努める」と語ったようです。
 10月12日、玉城知事は、安倍首相や菅官房長官と会談し、辺野古移設反対の意思を伝え、問題解決に向けた対話を求めました。しかし、またしても政府は沖縄の思い・民意に寄り添うことなく、11月1日、防衛省沖縄防衛局は、辺野古沿岸部の埋め立てに向けた工事を再開しました。
 沖縄の思い・民意に寄り添うためにも、下記の集会・映画上映会に是非ご参加ください!

沖縄の民意を踏みにじるな!辺野古新基地建設強行を許さない!首都圏集会
日時:12月6日(木)18:30~20:30
場所:千代田区一ツ橋「日本教育会館 3階一ツ橋ホール」(地下鉄「神保町」下車)

映画「沖縄スパイ戦史」上映会
日時:12月11日(火)18:30~20:30
場所:千代田区神田駿河台「連合会館 2階大会議室」(地下鉄「新御茶ノ水」下車)
料金:¥500
※ 当日17:00から整理券を配布致します。

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