ニュースペーパー

2020年04月01日

ニュースペーパー2020年4月

軍事ローン残高、予算額を超える!



後年度負担額、当初防衛予算額は単位兆円・左軸、FMSは単位億円・右軸

当初防衛予算額、後年度負担額、FMSの推移
 財政赤字増大が続く中、防衛予算が巨大に膨れあがっています。さらに「後年度負担額」という防衛装備品のローン残高は予算額を超える規模に、対外有償援助(FMS)額も数千億円にのぼります。
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インタビュー・シリーズ:155
日韓、そしてアジアの未来に向けて 人と人とのつながりを広げていこう
アジアの平和と歴史教育連帯 国際協力委員長 カン・ヘジョンさんに聞く

姜恵楨さんプロフィール
韓国ソウル在住。韓国の大学卒業後、日本での留学を経験。会議通訳・翻訳を仕事としながら、日韓共通の市民的課題に関心を持って活動中。「アジアの平和と歴史教育連帯」国際協力委員長。「正義記憶連帯」運営委員など。

─カン・ヘジョンさんは、通訳、翻訳の仕事をしながら「アジアの平和と歴史教育連帯」などのNGOの活動もされています。訪日されたのはいつ頃なのですか。
 韓国の大学を卒業してから、1988年に京都にある大学院に留学したのが最初です。その後、東京で大学の非常勤講師を務めたりして、あしかけ13年日本で生活していました。
 当初は二、三年の留学のつもりだったのですが、教室の外側の日本社会にも目が向き、被差別部落に隣接し在日コリアンが多く居住する東九条という地域での活動に携わることになりました。この活動から多様な人間関係が広がり、学校生活では経験できないような議論を重ねたことが、下からの日本社会への理解を深めるきっかけになったように思います。また、1991年から韓国の海外旅行自由化を受け、日韓連帯の市民運動で交流の場面が増えてきます。そのお手伝いは、結果的には通訳のトレーニングにつながったのかもしれません。
 私が日本にいた時代は、日本社会が本当に激動のなかにありました。昭和天皇が死去し、東西冷戦が終結して、社会主義圏が崩れ、日本経済もバブルになってそれが崩壊しました。1991年にはキム・ハクスンさんが日本軍「慰安婦」であったとカミングアウトしています。その後戦後補償の運動が提起されて、歴史認識について日韓の市民レベルの対話が生まれ、村山談話へとつながっていきます。すると今度は、それに対する反動で、歴史修正主義者が出てくる。そうした時期を日本で過ごしてきました。

─「アジアの平和と歴史教育連帯」はどのような経緯で結成されたのですか?
 「新しい歴史教科書をつくる会」が1997年に結成されて、歴史認識の問題を提起し始めますよね。そして2001年には『新しい歴史教科書』の市販本が出版されます。この時韓国社会では、日本での歴史修正主義の動きに対して、労働者や研究者、教員や文化人を含め全社会的に、反対、抵抗、批判が拡がりました。この抗議の広がりを、長期的にとりくむ常設的な機構として組織したのが始まりです。
 当時の日本社会では、歴史修正や教育の反動化に対応しようとする動きが強かったですよね。市民運動や教育関係者たちも、韓国の市民と共に考えようという機運があったと思います。日本各地の市民運動と韓国の市民運動が連携し、教科書採択の時期には韓国から人を招いて集会をしたり、教育委員会への申し入れや記者会見などを、一緒にやってきました。
 また抗議や批判だけじゃなくて、北東アジア市民として共通の歴史認識をつくることを目指して、日中韓が歴史対話を重ねながら、三国共通の歴史教材を編さんしたり、中高生の青少年歴史体験キャンプを毎年開催したりしています。

─歴史認識を共通理解のもとでつくることは、将来に向けたお互いの発展にとって好ましいことですね。1995年の村山談話の頃には、ゆがんだ歴史認識を質していこうという動きが一定はあったけれども、その後右の動きが大きく広がっていきます。
 1999年の年末まで日本にいたんですよ。日本滞在の最後の年だったので、当時の日本社会の雰囲気をよく覚えています。90年代後半から急激に右旋回していく勢いがすごかったことを覚えています。
 いまも、日韓市民による共同行動の場面が全くないわけではありませんが、日本の植民地支配の歴史について韓国の人びとがどのように考えているのかを、現在の日本社会に問うことは難しくなってきたと感じます。逆に反発をくらうような雰囲気にすらなっていますね。
 さらに状況を悪化させたのが、2015年の日韓「慰安婦」合意でしょう。合意から今日までの間に、韓国ではろうそく革命で政権が変わっていますが、この韓国の変化に日本では非常に不満が多いですよね。安倍政権だけでなく、比較的リベラルな人々の中にもあるのではないかと感じます。
 しかし韓国社会では合意の直後から、全社会的に猛反発がありました。被害当事者の意思を問わないまま、両国外相の会見文だけで問題の最終的・不可逆的解決と見なすとした合意は、問題解決にほど遠い両国政府の野合だという批判でした。そのため2017年の韓国大統領選挙では、自由韓国党(現在の未来統合党)を除いて、候補者5人のうち保守も含めた4人の候補が、合意の撤回または再交渉を求めるべきだと公約をかかげるほどでした。
 日本のメディアは、反日政権が誕生して、政府間の合意を破ったというとらえ方ですけれども、合意直後からの広範な抗議を、政策的に実現したというのが正確な捉え方です。

─中国の徴用工問題では、賠償、謝罪、記憶の継承が行われている。しかしながら韓国の慰安婦・徴用工の問題ではなぜ、メディアも含め日本社会の反発が根強いとお考えでしょうか。
 日本にとって、中国は戦争をした国で、朝鮮は植民地にした国ですね。ここが大きく違う。日本は侵略戦争は反省したかもしれないけれども、植民地はどうでしょうか。極東国際軍事裁判(東京裁判)で戦犯が裁かれていますが、植民地支配が悪いことだったと国際社会から裁かれたことはないのです。
 サンフランシスコ講和会議は、かつて戦争を起こした日本を国際舞台に復帰させるものとなりました。ですがその議論から、植民地であった朝鮮や台湾は排除されました。結果として、日本の植民地責任には触れられないまま、朝鮮戦争の起こっているさなかに、サンフランシスコ条約の調印・発効となったわけですね。
 そのような状況下で、日韓国交正常化交渉が始まりました。アメリカは東西冷戦下、北東アジアにおける西側の態勢を固める必要があり、日韓の歩み寄りを迫りました。その圧力からも植民地問題に対する日韓の認識の隔たりは玉虫色にされたまま、1965年に国交正常化がまとまってしまいます。
 ですからサンフランシスコ条約体制を前提とした65年体制というのは、北東アジアの中にアメリカがあって、その下に日本、その下に植民地だった朝鮮を置くという縦の「協力」関係で行きましょうということだったと思います。
 そんな中で2019年、韓国の大法院判決は、不法な植民地支配という従来からの認識を前提に、不法な労働被害への慰謝料の支払いを命じました。中国の被害と実態は似ていても、植民地責任が不問にされた日本、とりわけ安倍政権にとっては許せない判決なのでしょう。
 1995年の村山談話、2010年には菅直人首相談話で、植民地支配への「反省とお詫び」が表明されましたが、その認識が日本社会で広く内面化されているかも疑問に思います。

─朝鮮と中国への対応の違いは、植民地支配があったかどうかというところにある。そのことの反省なくして、お互いの将来はないと思います。しかしそうした状況がわからない人たちが多くいることも事実です。わからないがゆえに、反韓国、嫌韓国の感情が強くなる。
 植民地支配の責任に向き合わないということは、自分が上、相手が下、という意識をずっと引きずることにつながったと思います。脱亜入欧以来のアジア蔑視と重なって、相手を見下す視線は継承、再生産されている。実際、戦後の韓国経済は日本の経済に従属していたし、国力も弱かった。軍事独裁政権が続いて、政治的にも未熟な時期が長く続いていましたから、それが成り立っていましたよね。
 でも、韓国では80年代後半から民主化が進んで、政治意識も高まり、紆余曲折を経ながらも社会変革が深まってきています。90年代には、韓国内の歴史問題への取り組みが、厳しくなされているんですね。現代史の中で起こった民衆虐殺や、労働者や農民への抑圧など、国家権力が民衆を不当に弾圧した事件が多くありました。それらについて、特別法や政府の委員会をつくって、真相調査や責任の究明、被害者の名誉回復や補償など、過去の清算を行ってきたのです。歴史問題の解決が民主化に欠かせないという認識の深まりが、日本に対しても歴史認識の問いかけとして提起されているということなのです。その点がおそらく理解されていないのでしょう。そのため、韓国からの歴史認識の問題提起が、反日だ、民族主義的な攻撃だとうつるのでしょう。

─韓国社会は、非常に厳しい民主化の闘いをしながら、経済的にも成長してくる。しかし日本は民主化の闘いの経験がないんですよ。ですから、民主化の闘いの中で、提起される問題を日本は理解できない。もう一つは、経済的にどんどん追いつかれ、追い越されそうになっている。これに対する不安、気に入らないというのがベースにある。これは理屈があるわけじゃない。だからよけいに厄介ですね。
 2019年7月以降の日本による経済制裁は、日韓双方にとってマイナスでした。日本の経済に絞ってもリスキーであると、多くの人が指摘していました。今、数字を見てみると、日本のほうが打撃を受けているじゃないですか。
 韓国のトップスリー企業に影響するような経済制裁を加えたわけですよね。それまで日本企業は優秀で信頼できるビジネスパートナーでしたが、経済論理より政治論理を優先させた安倍政権の対応によって、韓国企業にとって、日本との取引がリスクにもなり得ると認識されはじめたのではないかと思います。

─安倍政権は経済政策でも成果を上げられず、外交政策も失敗の連続です。相当追い詰められているにもかかわらず、支持率は高い。日本社会にはびこっている空気は、今を変えたくないというもののように思えます。日韓の対立がなかなか改善しないなか、最後に一言お願いします。
 韓国と日本は一番近い国ですし、長い歴史では協力したり仲良く過ごした例も多くありました。今も視野を広げてアジアや世界の中で見れば、人も社会も一番共通点が多いのではないでしょうか。日韓市民が共有できる価値感もありますよね。平和や民主主義だったり、人権、公正や配慮でもいいです。歴史認識の課題で努力はしつつ、ほかでもつながれるところはつながって、関係を深めていく。当面は交流と協力の経験や成果を市民同士で作っていくしかないのかなと思っています。
 例えば平和フォーラムだったら、脱原発や反戦平和、米軍基地、朝鮮学校差別、教科書問題など実践の現場をたくさん持っておられます。それらのなかで、韓国との共通項がありますよね。そうした取り組みでの交流を続けていくことが大切じゃないでしょうか。
 社会運動に限らず、日常生活の中での交流や接点が多くなればと願っています。人や情報の出会いがなければ、親密感はなかなか生まれない。日韓に限らず中国、北朝鮮、台湾を含めて、文化的な交流が広がってほしいです。

インタビューを終えて
 日本人より日本を知る韓国人。カン・ヘジョンさんは、そういう人です。日韓を行き来しながら、歴史認識の課題に立ち向かってきました。「日本への歴史認識の問題提起は、韓国内の歴史問題への内省から出たもの」「これが日本人には、反日に映る」との指摘は、隣国韓国を日本人が理解していない証拠。カンさんは訴えます、「市民同士で、交流と協力の成果を積み上げよう」と。平和フォーラムは、それに応えなくてはなりません。
(藤本泰成)

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森林・林業・木材産業に係る現状と課題について
全日本森林林業木材関連産業労働組合連合会 書記次長 佐藤 賢太郎

 森林は、水源かん養、国土の保全、土砂災害等の未然防止、地球温暖化防止、レクリエーションや教育の場としての利用等、多面的な機能の発揮が求められており、これに応えるためには適切な森林整備と保全を行うこと等が重要となっています。また、戦後造林された人工林を中心に本格的な利用期を迎えており、国内の豊富な森林資源を循環利用することも重要となっています。

地球温暖化対策と森林
 地球温暖化については、国際的にも重要な環境問題であり、1980年代以降、様々な国際的な対策が行われています。その対策として、現在は1997年に採択された「京都議定書」の第2約束期間として、1990年度比で平均3.5%の温室効果ガスの吸収を森林が確保することとなっています。具体的には、年平均52万ヘクタールの間伐などの森林整備による吸収源対策を着実に実施する必要があります。
 しかし、2014年度以降、森林吸収源対策に必要な森林整備量が、確保されておらず、その解消策についても明らかになっていません。また、2020年以降についても、「パリ協定」を踏まえた新たな枠組みの下で、十分に貢献できるよう、森林吸収源対策を着実に実施する必要があります。

市町村の体制強化に向けた支援が重要
 森林・林業・木材関連の政策では、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立に向け、林業イノベーションの推進、新たな木材需要の創出、森林整備等を通じた森林の多面的機能の維持・向上を図るとしています。しかし、こうした政策を進めるうえで、森林所有者や境界が分からない森林の増加、担い手の不足等が大きな課題となっています。
 こうした中、2018年に成立した「森林経営管理法」は、森林の適切な経営管理について森林所有者の責務を明確化するとともに、経営管理が適切に行われていない森林を、林業経営者や市町村に委ねる「森林経営管理制度」が措置されました。
 このことにより、市町村が主体となった森林整備と管理が進められることになり、市町村の役割強化が求められています。しかしその内実は、市町村で林務を担当する職員が0~1人程度の市町村が約2/3を占めており、市町村への林務担当職員の配置や国の技術的支援の拡充、林業労働者の育成・確保を図ることが急務となっています。

森林環境税・森林環境譲与税の創設
 そして、森林経営管理法を踏まえ、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保するために、森林環境税・森林環境譲与税が創設されました。
 森林環境税は、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収するかたちで、2024年度からのスタートとなっています。また、森林環境譲与税については、2019年度から譲与が開始されています。その譲与基準は、私有林人工林面積、林業就業者数、人口による客観的な基準で按分して譲与されています。
 一方、現行の森林環境譲与税の譲与基準では、総体的に人口の多い市町村の譲与額が大きくなる傾向となっていることから、税の趣旨に基づき、これまでの森林施策では対応出来なかった奥地等の森林整備が着実に進展するよう、譲与基準の見直しを図ることが必要となっています。

林業労働者の現状
 林業における新規就業者は、林野庁の「緑の雇用」事業等により、年間3,000人を超える雇用が生まれていますが、2015年の国勢調査においてはこれまで維持していた5万人を割り込み、約45,000人まで減少しています。こうした中、林業労働者の処遇や労働環境については、年平均所得が全産業の平均と比べて約100万円程度も低く、約7割の事業体が日給制の雇用となっています。また、急傾斜地などの危険な作業環境の中でチェーンソーなどの刃物を使うことや重量物である木材を扱うことなどから、労働災害の発生率(死傷年千人率)が、全産業の10倍以上という非常に高い水準となっています。
 こうした中で、林業を他産業並みの処遇に改善するには、労働安全対策の更なる推進はもとより、「森林・林業基本計画」の着実な推進、森林整備等の森林吸収源対策を着実に実施するための必要予算の確保、山村振興対策、木材価格の安定など、国の施策として対策を図ることが必要です。
 そして、政府が提案する「林業の成長産業化」を図るためには、すべての林業労働者の処遇改善に係る対策を、より一層講じる必要があります。すなわち「人(労働者)への投資」が、今後何より重要だと思っています。
(さとう けんたろう)

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入管収容施設での人権侵害にSTOP!
山岸素子(NPO法人移住者と連帯する 全国ネットワーク理事・事務局長)

入管施設での死亡事件とハンスト
 2019年6月に、大村入国管理センターで、40代のナイジェリア人男性がハンガーストライキにより「餓死」するという事件が起きた。その背景には、入管収容施設における非正規滞在の外国人の長期収容が過去に例をみないほど深刻化している現状がある。法務省の統計によると、2019年6月末時点で全国の収容施設に収容されている人は1253名で、そのうちの半数以上が6ヶ月以上の長期収容者で、さらに2年3年の収容を強いられている人も少なくない。前年の2018年には長期収容に絶望したインド人男性が自死した事件が起きたが、2019年に入ってからは、長期収容に抗議する大規模なハンガーストライキが全国に広がり、ついに被収容者が「餓死」する事件が起きるに至った。筆者が支援しているイラン人Sさんの例を紹介したい。彼は、祖国での迫害を訴えて現在3回目の難民申請中だが、2016年に収容されてから10数回の仮放免許可申請が不許可とされ、3年余りの長期収容を強いられていた。収容施設から出るにはハンストで心身を衰弱させること以外に方法がないと決死のハンストを行い、自力では歩行が困難なほどに衰弱した結果ようやく仮放免許可をえた。しかしその後2週間で再収容され、以後、3回の仮放免と再収容を繰り返し、現在も収容中である。拒食を繰り返した結果、現在は、生きるために食べなければと思って努力しても、固形物は喉をとおらない状態になっている。ハンストで衰弱した人にたいして、仮放免をいったんは認めても、2週間で再収容するというきわめて非人道的な入管の対応はこの間ずっと繰り返されている。このような状況のなかで、絶望し、自傷行為や自殺未遂をする人が、後を絶たない。
 このような長期収容がもたらす人権侵害については、国連の人権諸条約の委員会等からも繰りかえし改善勧告が出ている。それにもかかわらず、非人道的な「長期収容」がなぜ終わらないのか?

「長期収容」の背景に、東京オリンピック・パラリンピック対策
 入管施設における長期収容と人権侵害の背景にある原因の一つに、2020東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた非正規滞在者の「縮減」政策がある。法務省入管局長は2016年4月に「安全・安心な社会の実現のための取組について(通知)」を発出し、東京オリンピック・パラリンピック大会の年までに「2000万人以上の外国人を歓迎する安全・安心な社会の実現を図るため」、「近年増加傾向にある不法残留者及び偽装滞在者のほか、退去強制令書が発付されても送還を忌避する外国人など、我が国社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することは(中略)当局にとって喫緊の課題」であるとし、「我が国社会に不安を与える外国人の効率的・効果的な排除に、具体的かつ積極的に取り組んでいく」よう通知した。
 さらにこれを具体化するものとして、法務入管局長が2019年2月28日に発出した「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」(指示)では、「仮放免を許可することが適当と認められない者は、送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」という当事者や支援者、弁護士らを驚愕させる方針が示された。
 日本の入管収容施設における長期収容の要因の一つには、そもそも入管法上の強制令書による収容に収容期間の上限が定められていない、という根本的な問題が存在する。さらに前述の運用による締めつけが加わり、2018年から長期収容者の数は急増し、2019年には、それに耐えられないと悲鳴を上げた被収容者のハンストや死亡事件が起きたのである。

STOP! 長期収容~人権尊重の政策への転換を!
 そもそも、現在、入管収容施設に長期収容されながらも帰国に同意していない非正規滞在の外国人の多くは、すでに長年日本に暮らし、日本生まれの子どもがいるなど日本に家族がいる人、迫害を逃れて難民申請中である人など、祖国には帰れない事情をそれぞれに抱えている。
 法務省入管庁は、2019年10月、法務大臣の私的懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置し、長期収容の改善策を検討し、5月に結果をとりまとめる予定とのことである。しかしそこでの議論が、送還の促進など、非正規滞在者の排除を強化する方向で進められていることに強い危機感を抱かざるをえない。
 移住者と連帯する全国ネットワークをはじめとする6団体は、長期収容問題を解決するための共同提言を発表し、(1)長期収容解決のための収容制度の法改正、(2)難民の適正な保護のための法制度改正、(3)非正規滞在者の正規化の実施という3つの柱となる政策を提言している。関連団体が連携して「STOP!長期収容」市民ネットワークを結成し、政府や議会への働きかけで連携しているほか、オンライン署名などのアクションも実施している。非正規滞在者の排除を許さない取り組みにさらに多くの人が参加することを呼びかけたい。
(やまぎ しもとこ)

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日米安全保障条約の今、混迷する東アジアにあって
フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本 泰成

60年目の安保、政府は賞賛の声
 1960年の日米安全保障条約(以下日米安保条約)の改定から60年が経過した2020年1月19日、日本政府は、アイゼンハワー元米大統領の孫メアリー・ジーン・アイゼンハワーさん、ひ孫のメリル・アイゼンハワー・アトウォーターさんを招き、「安全保障条約60周年記念レセプション」を開催しました。安倍首相は、挨拶に立って「……いまや、日米安保条約は、いつの時代にも増して不滅の柱。アジアと、インド・太平洋、世界の平和を守り、繁栄を保証する不動の柱です」「……日米同盟は、その始まりから、希望の同盟でした。私たちが歩むべき道は、ただ一筋。希望の同盟の、その希望の光を、もっと輝かせることです」と、惜しみない賞賛の言葉を贈りました。
 日米安全保障協議委員会(「2+2」:茂木外務大臣、河野防衛大臣、ポンペオ国務長官、エスパー国防長官)は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の署名60周年に際する共同発表(2020年1月17日)」の中で、「日米同盟は、地域における安全保障協力等を通じて自由で開かれたインド太平洋という両国が共有するビジョンを実現しつつ、日米両国の平和と安全を確保するに際して不可欠な役割を果たしてきており、今後もその役割を果たし続ける。日米同盟は、いまだかつてないほど強固で、幅広く、そして不可欠なものとなっている」と述べています。
 安倍首相にしろ、茂木・河野両大臣にしろ、日米同盟は不可欠なものであり、未来への希望の光だとして、どこからも日米同盟やその根本を定める日米安保条約の問題性に関しての発言は聞こえてきませんでした。大手メディアは、「安保条約60年」に際して、特集を組んで様々な視点から検証しているものの、市民社会で大きな論議が巻き起こったわけでもありません。伝え聞く「60年安保闘争」が嘘のようです。同郷の先輩唐牛健太郎全学連委員長、亡くなった樺美智子さん、様々なドラマを生み、様々な人材を輩出した全学連、当時20代の若者は80代に、60年を経て今、日米安保条約への批判を聞かないのはなぜでしょうか。安倍政権への、憲法改悪への危機感の中で、日米安保条約は耳目の外に置かれているのか、そうではなく、日米安保条約は日常に埋没しているのか。どちらにせよ安倍政権の思うつぼなのかもしれません。日米安保条約とそれに基づく日米同盟は、今まさに、日本の将来に深刻な影を落としていると言えます。

安保の役割、日米は一体の覇権国家か
 日米安保条約は、第2次大戦後の米ソ冷戦と中華人民共和国の成立を受けて、朝鮮戦争の最中の1951年に、サンフランシスコ講和条約と同時に締結されました。敗戦国日本の国際社会復帰と米軍の日本駐留の継続の決定でした。極東の安全保障という名の下に、旧ソ連と中国や朝鮮半島をめぐって台頭する共産主義勢力への橋頭堡としての日本に、在日米軍が駐留する意味は、自由主義社会の中心としての米国にとって重要な選択であり、戦後世界の米国のイニシアチブに大きく貢献したに違いありません。しかし、東アジアの安全保障にどのように貢献してきたのかと問えば、ことはそんなに簡単ではないと思います。米ソの軍事対立が日本の安全をどこまで脅かしたのか、旧ソ連による日本侵攻がどこまで現実的であったのかは疑問です。この間、日本とロシア(旧ソ連)や韓国・中国などとの外交交渉に、米国の意志が強く反映してきました。日ソ共同宣言や北方領土問題、日韓基本条約など米国の圧力によって強要されたり、潰されたり、脅かされたりしたものも少なくありません。また、沖縄返還交渉では、沖縄における核戦力の維持や、韓国・台湾・ベトナムなどの地域に対する在沖米軍の出撃の自由を条件としたとも言われています。「MilitaryLogistic(s兵站)」という言葉が、戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したものであるとすれば、日本はまさに朝鮮戦争やベトナム戦争では「兵站」の役割を担い、日米安保条約を基本に集団的安全保障の義務を果たしてきたと言えます。戦後75年、私たちは憲法9条に基づく「平和国家」とよく口にしますが、自衛隊が戦闘に参加せず、銃口を他に向けることがなかったことは評価できるとしても、国家のありようとしての日本が、決して「平和国家」と呼べるものではなかったのです。「共産主義と闘い、自由と民主主義を守る」とする米国の欺瞞に付き合う、「覇権国家」と呼んでも差し支えないのかもしれません。そのことが、日米安保条約の本質なのです。

変貌する東アジア情勢と安保
 改定から60年を迎える日米安保条約を取り巻く東アジア情勢は、大きな変貌を遂げています。ソ連の崩壊とロシア・プーチン政権の出現、中国経済の台頭と習近平政権の出現、そして朝鮮民主主義人民共和国の若き指導者金正恩、その東アジアと対峙するのが、自国第一主義を唱える米トランプ政権であれば、東アジア情勢が不確実性を増していることは当然ではないでしょうか。冒頭の安倍首相挨拶や2+2の共同発表を聞く限り、日本政府には成立から60年を経過した日米安保条約体制・日米同盟は、いまだ「希望の同盟」であり日米の平和と安全のためには「不可欠」なものと認識されているのです。安倍政権は、集団的自衛権行使を容認し安全保障関連法を成立させ、米軍と自衛隊の一体となった軍事行動を可能にしました。そのことが、東アジアにおける覇権維持への米国の要求のもとに、中国や朝鮮の脅威に対抗するとする日米安保体制・日米同盟を、安全保障のジレンマに落とし込んでいるのではないでしょうか。日本は必要性を考慮することなく、米国の要求の下、防衛装備の拡充を無分別に進めています。いまや、安保条約体制・日米同盟が、日本の大きな経済的・社会的負担になっています。同時に、中国やロシア、朝鮮との外交にも影響を与えています。
 マサチューセッツ工科大学のジョン・ダワー名誉教授とオーストラリア国立大学のガヴァン・マコーマック名誉教授は、2014年1月に出版した共著「転換期の日本へ-『パックス・アメリカーナ』か『パックス・アジア』か」(NHK出版新書)の中で、「日本の難題は、新しい『アジア太平洋』共同体をイメージし、敵対的対立ではなく経済的・文化的な協力関係に資源とエネルギーを注ぐことのできる指導者が存在しないことにある」と述べ、米国への「従属」を続けるのか、それともアジア中心の新たな安全保障体制を構築するのかの選択を求めています。黄昏ゆく「パックス・アメリカーナ」を目の前にして、日米安保条約と日米同盟は、本当に「希望の同盟」であり続けるのでしょうか。

バイ・アメリカン、増大する防衛費
 トランプ米大統領の「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」と言う要求に応じ、対外有償援助(ForeignMilitarySales,FMS)による高額防衛装備品の米国からの購入が続いています。2011年度に432億円だったFMSは、2019年度には7,013億円に膨れあがりました。その多くが、防衛省や現場の要求ではなく官邸主導(安全保障会議および安全保障局)によって決定されています。防衛装備品のローン残高(後年度負担)は、過去最高の5兆4,942億円と防衛予算を超える額となっています(内FMS関連は1兆6,069億円)。ご存じの通り、財政赤字は増え続け国・地方合わせた長期債務残高は約1,122兆円(2019年度末:財務省推計値)、債務残高の対GDP比は198%の見込みで、財務省は「債務残高の対GDP比は、他のG7諸国のみならず、世界的に見ても最も高い水準となっています」と述べています。政府は、2025年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化したいとしていますが、全く目処が立っていません。そのような財政状況の中にあって、前述の「バイ・アメリカン」の要求もあり、2020年度の防衛予算案は、文教科学振興費(5兆5,055億円)に匹敵する5兆3,133億円で前年度比1.1%増で6年連続で過去最高を記録しています。加えて2019年度防衛費補正予算額は4,287億円となっています。極めてきびしい財政状況の中にあっても、安倍政権の下では防衛予算は聖域化しています。
 また一方で、1978年に円高や米国の財政赤字などに配慮するとして日本が始めた「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)は、日米両政府の合意によって2016~2020年度までに9,465億円の支出をします。2021年3月の期限切れに対して、「トランプ政権は4倍増を要求している」と米国紙が報じています。トランプ政権は、韓国政府に対しても法外な要求を行い交渉は難航しています。エスパー米防衛長官は、「あらゆる同盟国による負担の増額は、米国にとって最優先課題」と述べ、トランプ大統領も「同盟国は米国が供与する安全保障に正当な対価を支払っていない」と主張してきました。今後も、法的根拠のない在日米軍駐留経費負担は増大していくことが予想されます。


青森県三沢基地に配備されたステルス戦闘機F35A
航空自衛隊ホームページから

戦争法以降の変化-日米統合軍へ
 日米同盟における在日米軍と自衛隊は、新しい段階に突入していると言えます。防衛省は、次期主力戦闘機に米ロッキード・マーティン社製のF-35ステルス戦闘機を選定し、将来の147機体制を閣議決定しています。F-35は、「多機能先進データリンク」という機能によって「エンゲージ・オン・リモート」(遠隔交戦)の能力を有します。海上自衛隊に配備された7隻目のイージス自衛艦「まや」に搭載された「共同交戦能力」(CEC)との統合によって、F-35やこれも自衛隊が導入予定の早期警戒機E2D、無人偵察機グローバルホークなどが前方で探知した巡航ミサイルなどの情報を日米が瞬時に共有することで、共同対処による迎撃を可能にしています。そこには、日米が一体となった防衛体制が構築されています。2019年9月、中国の軍事戦略「接近阻止・領域拒否」(A2AD)に対抗し敵ミサイルの攻撃から米陸軍や自衛隊を防護する想定で、相模原補給敞(神奈川県相模原市)に置かれた「米陸軍第38防空砲兵旅団司令部」が中心となって、米海兵隊岩国基地で日米合同演習が行われました。第38砲兵防空旅団は、車力と経ヶ岬のXバンドレーダー基地、沖縄嘉手納基地そして韓国星州(ソンジュ)と米グアムに配備されている終末高高度ミサイル部隊を指揮下に、ミサイル防衛にあたる組織です。山口県と秋田県に配備を予定している「イージス・アショア」も、将来的にはこのような組織網に組み入れられることが考えられます。宇宙領域やサイバー領域を含めて、情報収集や共有、利用といった分野が軍事的に極めて重要となっている現在、日米安保条約は、米軍と自衛隊の一体的運用、すなわち自衛隊が情報量において圧倒的に有利な米軍の指揮下に組み入れられ一体となった軍事行動を行うことを予定するものとなっています。軍事力の近代化は、自衛隊は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる」(安全保障条約第3条)により専守防衛に務め、駐留米軍は「極東における国際の平和および安全の維持に寄与する」(安保条約第6条)とした、これまでの日米安保条約が規定してきた日米両軍事力の意味や役割を大きく変えるものとなっています。

指摘される日米同盟の見直し
 ジャパン・ハンドラーとしても著名なリチャード・アーミテージ元米国務副長官は、読売新聞紙上で、「世界の不確実な要素の最たるものがほかならぬ米国である」として、世界の信頼を失いつつあるとトランプ政権を非難し、「日本政府も政治・経済分野での米政府からの要求が一層強まることを覚悟すべきだろう」としています。日本にとっての現実は、安倍首相と後継者が日米同盟に変わる選択肢を検討しなくてはならないかもしれないというアーミテージ元長官の指摘は傾聴に値するものです。トランプ政権の不確実性は、「日本を守ってくれるのか」という疑義を抱かせるに不足はありません。日米安保条約の存在理由さえ問われることとなっています。防衛大学校長も務めた五十旗頭真アジア調査会会長は、毎日新聞紙上に「米中対立の世紀と日本」と題する論考を寄せています。五十旗頭会長は、「日本の役割-それは米国側について中国をおとしめることではない。……70年を経てほころびの目立つ戦後秩序の再編に向けて、中心的存在たるべき米中両国を誘導することである」と述べています。土山實男青山学院大学名誉教授も、朝日新聞紙上で「秩序揺らげば危うい同盟」と題して「日米同盟は日本外交の基軸ですが、日本は全てをこの同盟に依存すべきではありません」とし、大きな構想を持って外交問題にあたるべきと指摘しています。
 安倍首相は、2019年5月、来日したトランプ米大統領とともに、海上自衛隊横須賀基地に停泊中のヘリコプター搭載護衛艦「かが」(F-35B戦闘機搭載の空母に改修予定)の甲板に立ち、「日米同盟は、これまでになく強固になった。この艦上に、われわれが並んで立っていることがその証しだ」と述べました。トランプ米大統領は、安倍首相の挨拶に応えて、日本の軍事力強化が米国の安全の強化に貢献しているとしました。日本政府の、「安保条約体制・日米同盟の深化」という方向性を象徴するものとなっていますが、果たしてそのことで日本の将来は明るいのでしょうか。多様化する世界にあって、日本が果たす役割は「同盟の深化」ではないはずです。日米統合軍の行方は、日本の外交政策の硬直化を招き、新しい世界秩序への対応を極めて限定的なものとしています。
 日米安全保障条約60年にあたって、私たちは日本の将来にむけた外交のあり方を、真剣に議論しなくてはなりません。「日米同盟」が決して「希望の同盟」にならないことは、状況の全てが明らかにしています。アジアにおける安全保障を、アジアの国としての立場に立って日本は考えるべき時代に来ています。対立を深める米国と中国の狭間に立って、一方に与することなく、日本が取るべき態度を議論しなくてはなりません。それは、決して「同盟の深化」ではないはずです。

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