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平和軍縮時評8月号 福島原発事態による海洋の放射能汚染  湯浅一郎

2011年8月30日

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 福島事態から、半年がたとうとしている。環境や、そこを生活の場とするあらゆる生物に浸透する放射能の脅威は、依然として続いている。福島原発の立地条件から、陸上の汚染とともに海洋汚染が必然的に重大な問題になった。いま放射能が流れ込んでいる福島沖の海は、世界三大漁場のひとつである。地球には大気と海洋があり、太陽の熱エネルギーと地球自転により大洋には惑星スケールの巨大な海流系が生まれる。その西端に暖流と寒流が交差する海域ができ世界屈指の好漁場となる。そのひとつが黒潮と親潮の出会う三陸沖の海である。下北から銚子までの南北500kmにわたるこの広大な海域は、今回の地震の断層面とほぼ一致する。そこには動植物プランクトンや小魚が多く集まり、北からサケやタラが、南からカツオ、サンマ、サバなどが海流に乗って集ってくる。東北沖の海の豊かさは、地球が生み出す永遠の恵みである。そのような場に、たった一つの工場の事故に伴い放射能が流れ込んだのである。

海洋への放射能流出

 福島事態では、なぜ大量の放射能が海に流れだしたのか。東京電力は、事故は主に津波のせいだと主張しているが、実際には津波の前の地震によって一次冷却系の配管が破損していた。これが致命的であった。地震がおこるとすぐに制御棒を挿入して核分裂反応は停止した。しかし放射性物質は膨大な崩壊熱をだしつづける。100万キロワット原発を停止した瞬間には、約20万キロワット分の崩壊熱をだしている。これを冷やさないと燃料が溶け出し、水素爆発や水蒸気爆発、再臨界・核分裂をおこし、原子炉を破壊しかねない。3月15日の新聞報道で2号炉の「燃料棒すべて露出」と出たのを見て、肝を冷やした。燃料棒は溶融して落下しているはずで、最悪の事態になりかねない。水を循環して冷却する通常のシステムは破壊しているので、外から海水や真水を原子炉に注入し、冷却しつづける以外に対策はない。最初のころは毎日1000トンもの水を注入したという。ところが水を原子炉圧力容器に注入しても配管や容器が破損しているので、漏れ出てしまい水位は上がらない。汚染水は建屋底部や隣りのタービン建屋、それにつらなるトレンチやピツトなどへと漏れ出す。その結果、溶融した燃料の「死の灰」と触れ合って高濃度の放射能で汚染された水の一部が、海に流れだした。破損個所を調べようにも、対策工事をしようにも、すべての作業は放射能によって阻害され、四苦八苦の状況にある。これは、人間の能力を超えた恐ろしき放射能を相手にした現実であり、ひたすら水を注入して後は運を天に任せるしかなかった。この恐怖を体験した人たちは東電も政府も、二度と原発を動かしたくないと思ったはずである。こうして放射能による海洋汚染が始まった。3月末になり、汚染水がどこにどれくらい溜まっているのかもわかってきた。
 いったいどれだけの放射能が福島原発から放出されたのか未だ定かではない。新聞報道によれば、およその量として核燃料が溶融した1から3号基の炉内にある「死の灰」の数パーセントが大気、および海洋に放出されたといわれる。4月9日の朝日新聞によると原子炉が破壊した1~3号機の炉内にある放射性ヨウ素の合計は5900ペタベクレル(ペタ=1000兆)で、大気への放出量は30から110ペタベクレル、海への放出量は40ペタベクレルとある。それ以外にも使用済み燃料が大量にあり、ここにも「死の灰」がいっぱい詰まっている。1から6号基の「使用済み燃料プール」にある燃料集合体は4546体で、「共用プール」には6375体ある。福島第一原発全体では約1万900体というすさまじい量である。一か所に原子炉を6基も配置すると、こんな恐ろしい量の「死の灰」をためこむことになる。
 海洋への直接的な放出に関して、東電が最初に発表したことは、4月2日に2号機の取水口付近から高濃度の汚染水が流出していたことである。海水基準濃度の1000万倍のヨウ素などで、4月6日に止めるまでの水量は520トンで放射能量は4700テラベクレル(テラ=1兆)と推定。二つ目は汚染水集中処理施設にたまった低濃度汚染水で1万1千トンを意図的に放水した。前よりは濃度が薄いので、この放射能量は0.15テラベクレル。三つ目は3号基の高濃度汚染水が流出していたことで、水量は250トンで放射能量は20テラベクレル。しかし、もつと多いはずの3月中に漏れ出した汚染水のデータ。さらに5月中旬以降の流出データは未発表である。

広がる海水や魚介類の汚染

 東電は3月21日から福島第一、第二原発放水口付近の各2点で、ようやく海水の測定をはじめた。文部科学省も3月23から沖合30キロメートルの南北10地点で測定をはじめた。まず3月21日に、福島第一原発から10キロメートル南にある福島第二原発放水口でセシウム137で1リットル当たり50ベクレルの放射能が検出されている。これは、相当量の放射能が事故直後から3月末までに、海に放出されていたことを示唆している。放水口付近の経日変化を見ると、3月30日が最も高濃度で、その日のセシウム137は、放水口で1リットル当たり12000ベクレルや47000ベクレル、福島第2原発で340ベクレル、沖合30kmでは7~8ベクレルであった。沖合は放水口の5千分の1のオーダーである。4月6日に高濃度汚染水を止めた頃から後は、徐々に減っていく。しかし4月中旬以後は横ばいである。これは、特定できない不明個所から汚染水が漏れ続けていることを示唆する。原子力安全保安院は、放射能が出ても潮流にのって拡散していくから、魚介類や海藻に取り込まれるまでには薄まっていて問題はないと言ったが、この嘘は、事実によって否定される。
 4月の初めになり魚介類の放射能汚染が公表された。水産庁が3月24日から海産物の調査をはじめ7月1日までに853検体の測定をしたもので、項目はヨウ素131とセシウム137。対象はコウナゴ、シラス、カタクチイワシ、アイナメ、ヒラメ、アナゴ、エゾアワビ、ムラサキウニ、ヒジキ、ワカメ、アラメなどである。そして近海小魚のコウナゴの高濃度汚染が明らかになった。範囲は福島原発から南方向にいわき市や北茨城までと広いものだ。また海藻類のヨウ素濃度が高いことも明らかになった。気になるのは銚子沖のように福島からかなり遠いところでも3月末の時期にカタクチイワシ、マサバ、ヤリイカなどでヨウ素やセシウムが検出された。あまりに早い汚染で、大気経由の物質によると見られる。さらに河川の淡水魚の汚染も見つかり、アユ、ヤマメ、ワカサギなどで高濃度のセシウムが検出された。しかも茨城県や東京都という遠い地域のアユまでもセシウムが検出された。これは大気に拡散した放射能が地上に落ち、雨に流されて川に流れ込み、プランクトンを経て淡水魚を汚染する過程を示している。
 しかも魚介類には生物濃縮がある。海水の濃度と生物の濃度を比べて何倍になるのか。水産庁の研究者は10倍から100倍になるとしている。農薬やPCBの生物濃縮と比べ低い値だから気にしなくていいというのが国の主張である。この間のデータから濃縮度合を計算してみると、ヨウ素では40から300倍、セシウムでは20から700倍になる。ここで問題なのは、プランクトンが調査対象になっていないことである。プランクトンが汚染されると、それを食べる小魚に生物濃縮が起こる。次に小魚を食べる魚、さらにそれを食べる高級魚に生物濃縮が起こる。コウナゴが汚染されていると、それを食べるサバやサンマやサケが汚染される。食物連鎖における生物濃縮の最も基礎となるのは植物プランクトンなので、この調査は欠かせない。

海況と生物の生活史

 東北沖の漁場にはプランクトンがたくさん集まってくる。とりわけ親潮はプランクトンが豊富で、そのプランクトンで育った小魚を食べるためサンマやサバは南から、サケやタラは北から来る。だからここでは暖流系の魚と寒流系の魚の両方を採ることができる。
 地震が起こった3月11日の海面温度分布から、黒潮は銚子から東へ伸びている。福島沖には親潮の分枝が南下しており、沿岸には南に向かうゆっくりした流れがある。30日になると黒潮は北へ張り出し、小名浜あたりから東へ伸びている。そして福島と茨城県境に北から来る親潮とぶつかる顕著な潮境ができている。黒潮は摂氏20度くらいで、親潮は10度くらいなので海面温度の分布図を見ると顕著な潮境がよくわかる。この期間に福島原発から高濃度汚染水が放出されており、沿岸を南下したあと潮境で一部は沈降し、潮目にそって東へ流れていたと思われる。その場所で最初に、豊富なプランクトンが汚染され、コウナゴが汚染された。
 回遊する魚が汚染される過程を推測するには、魚の生活史との関連を知っておく必要がある。例えばサンマは黒潮と親潮の両方を実に上手に利用した生活史にそって一生をすごしている(図参照)。秋に親潮に乗って南下したサンマは2から3月ころ四国や紀伊半島沖で産卵し、その稚魚は黒潮に乗って沿岸を東に向かう。銚子沖から太平洋へ向かった幼魚は5月から6月に北上回遊して千島方面へ向かい、親潮に到達すると豊富なプランクトンで育つ。その後、親潮に乗り8月から9月に北海道から東北へ南下してくる。この時期が東北でのサンマの漁期になる。したがって3月の後半に放射能汚染が進んだ時期、サンマの幼魚は銚子から茨城沖に達しはじめておりコウナゴなどをエサとして食べている可能性がある。水産庁もこの問題を懸念し調査を計画しているが、単に水産食物の安全性の評価だけではなく海の生態系への影響をとらえる調査をしなければならない。そのためにはプランクトンの調査が必要であり、魚については内蔵など部位ごとの測定分析が必要であろう。
 放射能による海洋汚染の歴史を考えた場合、欠かせないのが大気圏核爆発に起因するものである。島嶼部で大気圏核爆発をした場合、放射能の半分は大気に、半分は海に拡散すると見られる。その典型が、ビキニ水爆実験である。この時、アメリカ原子力委員会のストローズ委員長は「実験場のごく近くを除いては、ビキニ海域の海水には放射能はない」と言い放った。この真偽を確かめるべく、政府は、水産庁の調査船「俊鶻丸」を核実験海域に派遣し5月15日から7月4日まで放射能汚染調査をした(本時評2011年3月号)。ビキニ海域の北を西方に流れる北赤道海流に入ると途端に海水から放射能が検出されはじめ、この海流の中にいる間は、常に検出され続けた。さらに当時は未知であつた生物濃縮が明らかになり、プランクトンは海水の1000から5000倍に、カツオの肝臓は海水の6万から8万倍の濃度になっていることがわかった。周辺の海は汚染され、約1000隻の漁船が漁獲したマグロなどの汚染魚はすべて廃棄され、水産業は大打撃を受けた。さらに、大気に拡散した放射能は雨とともに降り注ぎ、世界中で問題となった。この経験から推測すると、福島沖の海洋汚染についても、海洋の生態系全体を検討する視点から綿密な調査をしなければならない。

福島事態をとらえかえす

 原発事故では、平常時とはケタ違いの放射能が放出され、ひとたび事態が発生してしまったら手の施しようがない。たった一つの工場の事故で、日本のみならず地球上が大騒ぎになることだけでも、原発依存の不合理性は見えている。このような事態をもたらした1950年代からの政治の責任こそ、問われねばならない。
 福島事態での海洋汚染に関する今後の対策においては、繰り返しになるが調査の目標を「食品の安全」から「海洋生態系の総合的な評価」に変えて詳細に実施すべきである。そのために動植物プランクトンや魚の部位ごとの分析をしなければならない。また私見では、漁業を止めるのではなく漁獲を続けて、採った魚介類は政府、東電が買い上げて放射能を測定分析したうえで適正に処分するべきだ。海の中で何が起こっているのかを見るためにも、漁獲をつづけたほうがよい。
 今回の福島原発事故による汚染海域は、牡鹿半島から銚子沖にいたる東北の海であり、ここは国際的に見ても第一級の世界三大漁場の一つである。この漁場としての価値のかけがえのなさをみることなく、沿岸に原発や核施設を林立させたあやまちを猛省すべきである。海洋は生命が発生した源であり、無数の生物の生きる場である。その生命の母としての海を毒壺にしてはならない。

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