平和軍縮時評

2012年01月30日

平和軍縮時評1月号 国際的論議に対する市民社会の監視を強めたい―第66回国連総会軍縮決議への投票行動―  湯浅一郎

 

1. 国連総会で52の軍縮決議を採択

2011年12月2日、第66回国連総会は閉幕した。2010年NPT再検討会議から1年半がたち、2012年春から次のサイクルである2015年再検討会議に向けた準備委員会が始まる前の重要な会議であったが、核兵器廃絶に向け目ぼしい動きはなかった。しかし、国連を舞台として、核軍縮に関する多くの議論が行われており、その現状を知っておくことは、日本での核廃絶をめざす運動作りのための基礎的な素材になる。国連における議論の一端を紹介する。
第66回国連総会では、軍縮及び安全保障に関連して52の決議が採択された。対象は、核軍縮、大量破壊兵器、宇宙、通常兵器、地域軍縮など多岐にわたる。この一つ一つへの投票行動に、各国の公式の姿勢や立場が刻印されている。ピースデポでは、2011年から重要な決議、約40弱を取り上げ、ジュネーブ軍縮会議(CD)参加65か国に関する投票結果を一覧表にして、「核兵器・核実験モニター」、及び「イアブック核軍縮・平和」に掲載している。そのなかでも、実質的な核兵器保有など9か国と日本の主要な決議に対する投票結果を表に示した。
毎年のように同じ形式で提案されている決議が多く、年による若干の変化もあるが、大勢としての投票行動は、決議ごとに一定の傾向が見られる。それが、NPT再検討会議の合意や、オバマ大統領のプラハ演説などによって、どのくらい変化するのか、またしないのかを見極めることは重要である。

66UN決議

2. 核抑止に固執する核兵器保有国の投票行動

核軍縮に関しては、以下のような毎年、恒例のように提出されるいくつかの重要な決議がある。

①マレーシア決議;「核兵器の威嚇または使用の合法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見のフォローアップ」
マレーシアを中心とした55か国が提案し、「核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議」として知られている。提案国には、北朝鮮、インド、イランなども含まれる。表にあるように、賛成130、反対26、棄権23で採択された。中国、インド、パキスタンは賛成であるが、米英ロ仏、イスラエル、さらにNATO北太平洋条約機構の非核兵器国は反対である。日本、韓国は棄権している。2010年NPT再検討会議の最終合意に核兵器禁止条約という文言が初めて入ったという成果にも関わらず、本決議に対する、上記の国々の投票行動は、一向に変化が見られない。中国を除く、核兵器保有国は、こぞって核兵器禁止条約への前進に強く反対している。世界に向け核兵器廃絶を訴える日本が、一貫して棄権であることも極めて重大である。2010年NPT再検討会議の合意を踏まえた行動が求められている。

②新アジェンダ連合(以下、NAC)決議:「核兵器のない世界へ;核軍縮の誓約の履行を加速する」
これはニュージーランド、スウェーデンなど、NAC7か国が提案する決議である。同決議は、賛成168、反対6、棄権6で採択された。NACは、1998年に外相声明「核兵器のない世界へ:新しいアジェンダの必要性」を発し、その後も活発に活動を続ける国家グループである。95年、2000年のNPT再検討会議において、核兵器国によってなされた誓約の履行を強く求める決議を繰り返しだしている。特に2000年NPTの「保有核兵器の完全廃棄を達成するという明確な約束」を含む実際的措置を求めている。これに、米英仏は一貫して反対している。ロシア、中国は棄権である。本来であれば、NPT再検討会議の最終合意の履行を求めているのであるから、全てのNPT上の核保有国が賛成すべきものである。日本は、当初は棄権していたが、近年は賛成している。

③日本決議;「核兵器の全面的廃絶に向けた団結した行動」
同決議は、日本を中心とした99か国が提案国となり、賛成169、反対1(北朝鮮)、棄権11(中国、インド、パキスタン、イスラエル、イランなど)で採択された。日本政府による核軍縮決議は1994年以降、18回提出されており、現在のタイトルでは2年目となる。中国を除く4核兵器国は賛成し、米国は今回も共同提案国となった。
日本決議では、2010年NPT最終文書の成果である「核兵器禁止条約」に関する言及はなく、焦点化している中東決議についても、1995年NPT再検討・延長会議の決議を「想起」するだけで、その完全履行への措置を明確に要求もしていないなどの問題がある。日本決議は、総じて米国など核兵器国への具体的要求が弱いという特徴がある。これは、新アジェンダ連合(NAC)提出決議(②)と比較するとよくわかる。NAC決議は2011年、核兵器国による核軍縮誓約を列挙した2010年NPT最終文書の行動5をはじめ、過去の合意の履行の加速を徹底的に求めるという姿勢をいっそう明確にした。核兵器国の削減努力やパリ会議開催を手放しで評価するのみの日本決議に対し、NAC決議は2012年5月の第1回準備委員会を「履行状況を監視する基礎作業の第一歩」と位置付け、核兵器国に誓約の実質的進捗を求めている。

④消極的安全保証;「非核兵器国に対して、核兵器の使用または使用の威嚇をしないことを確約する効果的な国際協定の締結」
キューバ、エジプト、インドネシアなど28か国が提案する決議である。非核兵器国に対し、核兵器の使用や威嚇をしないことの保証を求めるものである。賛成120、反対0、棄権57で採択された。核兵器国のなかでは、中国のみが従来から賛成しているが、他の米ロ英仏の4か国は、一貫して棄権し続けている。NATO非核兵器国も、米国の核の傘に依存する立場から棄権である。日本は賛成である。

⑤「核兵器の危険性の低減」
インド、インドネシアなど28か国が提案し、賛成117、反対49、棄権13で採択された。パキスタン、北朝鮮は賛成である。これに対し、米英仏、NATO非核兵器国は反対。中国、ロシアは棄権である。日本も棄権している。決議の内容からすれば、日本は、どう見ても賛成すべきところであるが、内容以上に提案国がどこかが投票行動に大きく影響しているなど国際社会の複雑さが見えている。

⑥「核兵器使用の禁止に関する条約」
エジプト、インド、インドネシア、マレーシアなど31か国が提案し、賛成117、反対48、棄権12で採択された。決議⑤と非常によく似た投票結果である。核兵器国のなかで、唯一、中国が賛成。パキスタン、北朝鮮も賛成である。米英仏、イスラエル、NATO非核兵器国が反対している。ロシア、日本は棄権である。

⑦「核軍縮」
キューバ、イラン、インドネシアなど37か国が提案し、賛成117、反対45、棄権18で採択された。中国、北朝鮮は賛成。米英仏、イスラエル、NATO非核兵器国は反対。ロシア、日本は棄権である。⑥とほぼ同じような投票結果である。
⑤~⑦は同じような投票結果が出ているが、国際人道法に照らした時、核兵器の非人道性は誰が見ても明らかであるはずなのに、中国を除く核兵器保有国は、これを一切無視する姿勢を貫いている。ここでは2010年NPT再検討会議の以下の合意を是非とも想起すべきである。
「会議は、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を順守する必要性を再確認する。」(IAv)
この合意を履行する立場に立てば、上記の⑤~⑦決議に反対するなどあり得ないことである。中国を除く4核兵器国は、NPT合意はあくまでも理念上のことで、核抑止戦略をとる限りにおいて、従う必要はないとでもいう投票をくり返している。また日本政府も、①、⑤~⑦に棄権している意味を市民に説明すべきである。

⑧NPT再検討会議に関する2つの決議。
・「1995,2000,2010年のNPT再検討会議核軍縮合意のフォローアップ」
イランなど3か国が提案。中国を除く4核兵器国、イスラエル、NATO非核兵器国、日本が反対。中国、インド、パキスタンは棄権である。提案国が好ましくない国なので、賛成しないという要素が入ることはありうるにしても、この間のNPT再検討会議の軍縮合意をフォローしようとの決議に反対する意味は、全く理解できないものである。
・「2015年NPT再検討会議及び準備委員会」
これは、2010年NPT再検討会議の議長国であったフィリッピンが提案しており、その意味で反対はゼロである。インド、パキスタン、イスラエルと言うNPTの外にいる国が棄権し、北朝鮮は欠席している。

3. 評価されるオーストリアなどの挑戦

最後にジュネーブ軍縮会議(以下、CD)の停滞を打破しようとする決議をめぐる動きである。国連総会第1委員会にはCDの現状打開に関係する決議案が3件、提案され、「軍縮機関」というテーマで集中討論された。その一つに、オーストリア、メキシコ、ノルウェーが提出した「多国間軍縮交渉の前進」なる決議案がある。CDの停滞を打開するため、総会のイニシャティブで複数の作業部会を設立し、そこで懸案の核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、消極的安全保証を含む核軍縮全般の交渉を前進させようという革新的な決議案である。
これに対し、非同盟運動(NAM)諸国の多くは、全会一致ルールを重視し、CDの行き詰まりの原因はFMCTを重視して核兵器禁止条約などを軽視するアンバランスにあり、それを乗り越えようとする政治意志を示すことがCD打開への道だとの主張を繰り返し、オーストリア案には一様に否定的であった。修正努力の末、オーストリアは「決議案の一体性と強さを保持するため」、今次委員会では採決を求めないと表明した。残念な結果である。しかし、同決議案は、疑いなく国際的核軍縮議論において問題の本質に触れる重要な一石を投じる役割を果たした。同じ狙いをもった決議案が今後再び提出される可能性に期待したい。
ここで重要なことは、同決議案はNGOの提言が発端になっていたことである。2011年7月27日から29日にかけ、CDの現状打開のための国連ハイレベル会議が開催された。その会議に向け、リーチング・クリティカルウィル(RCW)と「核政策法律家委員会」の2NGOは「多国間軍縮交渉の再活性化:一つの代案」なる共同提言を提出した。オーストリアなど3か国の「決議案」は、その提言が下敷きとなって生まれたという経緯がある。  総じて低調に終わった国連総会であったが、オーストリア案により、核軍縮への道筋をどう作るのかの論議が熱く行われたことは意義深い。

4~5月、ウイーンで2015年NPT再検討会議に向けた第1回準備委員会が開催される。2010年最終合意に一定の前進があったとはいえ、その後の2年弱は、核保有国の核抑止への執着と、核戦力近代化への動きが目立った。第66回国連総会軍縮決議への投票結果は、それを象徴している。市民社会が投票を監視し、核のない世界への道を前進させていく取り組みが求められる。私たち日本の市民には、核兵器国に対して筋道を立てた要求をしない日本政府の姿勢を変えさせるという課題が、依然として目の前にある。

 

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