平和軍縮時評

2012年03月30日

平和軍縮時評3月号 在沖海兵隊見直し―日本でも、幅広い議論をすべきとき 塚田晋一郎

日米両政府、普天間移設とグアム移転の「パッケージ」を解消
2012年2月8日、日米両政府は、在日米軍再編に関する共同報道発表を行った。
両政府は、2006年の「ロードマップ」合意以降、同時実施の「パッケージ」としてきた、在沖縄米海兵隊のグアム移転および嘉手納より南の土地の返還と、普天間飛行場代替施設建設(辺野古)を切り離す公式議論を開始したことを明らかにした。

<2012年2月8日・日米共同報道発表(概要)>

  • 日本及びアジア太平洋地域の平和と安全を維持するため、両国の強固な安全保障同盟を強化する。
  • 沖縄における米軍の影響を軽減する。
  • 普天間飛行場の代替施設は現在の計画が唯一の有効な進め方であると信じている。
  • 米国は、地理的により分散し、運用面でより抗堪性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢を達成するために、アジアにおける防衛の態勢に関する戦略的な見直しを行ってきた。日本はこのイニシアティブを歓迎する。
  • 海兵隊グアム移転及び、嘉手納以南の土地返還を普天間代替施設の進展から切り離すことについて、公式な議論を開始した。
  • 最終的に沖縄に残留する海兵隊は、ロードマップに沿ったものとなる。
  • 今後数週間ないし数か月の間に、このような複数の課題に取り組むべく作業を行う。

 

玄葉光一郎外相は同日の記者会見において、「数か月かけて日米間で協議を行い、結果をとりまとめたい」と述べ、今春の日米首脳会談での新たなロードマップの合意を目指す意向を示した。「パッケージ」切り離しにより、理論上は、普天間移設問題の進展に関わらず、在沖海兵隊のグアム移転と嘉手納より南の土地の返還交渉が行われることとなり、日本政府も沖縄の基地負担軽減につながるとしている。海兵隊グアム移転と嘉手納より南の土地返還の先行実施は、仲井眞弘多沖縄県知事などもかねてから求めてきた。
しかし、辺野古への代替施設建設が普天間返還の前提であるという「パッケージ」は未だ温存されたままだ。また、嘉手納より南の5つの基地・施設の返還は、現在の機能を県内の別の施設に移すことが前提とされており、ただちに返還が実現されることはない。外相も「複雑なプロセスがあり、簡単ではない」と述べ、また、「『負担軽減』ならぬ『負担移転』で、県内のどこに移すにしても調整は大変であり、返還までには10年以上はかかる」との日本政府関係者の見解も報じられている。

海兵隊「ローテーション配備」では、普天間問題は解決しない
「パッケージ切り離し」の計画変更には、昨年末に成立した米2012会計年国防認可法において、上下両院協議会が国防総省による海兵隊グアム移転の関連施設建設費の支出を全額凍結したことが大きく影響している(「核兵器・核実験モニター」391‐2号に詳細)。議会は、国防総省による海兵隊グアム施設建設の包括的マスタープラン(基本計画)の不在状態が継続していることを指摘したのみならず、「日本政府が普天間代替施設に関する実質的な前進を示せずにいることは、再編計画にさらなるリスクを及ぼしている」とし、日本政府の姿勢にまで踏み込んで懸念を表明した。
1月5日、オバマ政権が発表した新国防戦略指針は、米国の軍事費総体は削減する一方で、アジア太平洋及び中東を戦略的重要性の高い地域とし、大規模部隊の長期駐留に代えて「ローテーション配備と2国間及び多国間演習の実施によるプレゼンス」を重視する方針を打ち出した(「核兵器・核実験モニター」394号に詳細)。在沖海兵隊のグアム移転規模は、2006年「ロードマップ合意」の8000人から半分程度に縮小され、グアム、オーストラリア、ハワイ、フィリピンなどへのローテーション拠点の分散移転が行われようとしている。2月8日の日米共同発表は、この方針と軌を一にするものである。
しかし、「新指針」の以前から、海兵隊の実動部隊は「ローテーション部隊」であり、現在、沖縄に常駐しているのは、司令部、後方支援、管理部門である。今回打ち出された「ローテーション配備」によっても、沖縄にいる海兵隊の実数が削減され、基地の縮小につながるというわけではない。
今後、米国が、「新指針」アジア太平洋戦略に沿って、同盟国への責任分担、財政負担、相互運用への要求を一層強めていくであろう。オーストラリア・ダーウィンへの米海兵隊の2500人規模の移転は、段階的な実施が始まっている。日米間でも、米側が負担する予定だったグアム訓練施設などの一部建設費を、日本側に肩代わりするよう、米政府が求めていることなども報じられた。
このように、今回の日米共同発表の裏側にあるのは、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスを保ち続けながら、自国の支出を削減するための米政府の意思である。今後の日米協議において、米国の要求を日本政府が軌道修正させることができなければ、普天間の固定化のみならず、日本側の経費負担増という最悪のシナリオを辿る可能性がある。

米国内からの海兵隊削減・撤退論
前述のとおり、オバマ政権を急速に突き動かしているのは、軍事費削減がもはや聖域ではなくなった米国内における、議会および有識者らからの圧力である。国防総省と軍は「ローテーション配備」への転換と、グアムへの移転規模縮小が「再編計画の見直し」の結果であると印象付け、グアム移転関連予算が復活されることを目論んでいる。これに議会がどう対応していくのかが注目される。
一方、議会の外にまで視野を広げれば、米国内ではより本質的な転換につながる可能性のある議論が展開されている。いくつかの特筆すべき主張・提言を紹介したい。

1. カール・レビン米上院軍事委員長「このままでは普天間の使用が続く」
前述の2012国防認可法を主導したカール・レビン上院軍事委員長は、議会において、軍および政権の姿勢を継続して追及している。2月28日の上院軍事委員会公聴会の議長冒頭発言では、以下のように述べた。

「在沖海兵隊の再編に関しては、マケイン上院議員、ウェッブ上院議員と私も、現在の計画を変更するよう、提唱してきた。最近の日米政府による計画の諸要素の再考に関する発表は歓迎する。しかし、その新たな考え方もまだ十分ではない。たとえば、経済的に見合わない普天間代替施設のキャンプ・シュワブへの建設計画については、未だに再考の意思がまったくみられない。より実現可能で持続可能な、日本およびグアムにおける米国のプレゼンスが合意されることが重要だ。

レビン委員長は、続いて行われたロバート・ウィラード太平洋軍司令官の証言を受けて、以下のように追及した。

「あなたもご存じのとおり、マケイン、ウェッブ両上院議員と私は、キャンプ・シュワブへの代替施設建設は、非現実的で、機能せず、経済的に見合わないと信じている。今週、日本の首相と沖縄県知事が会談し、県知事は再び代替施設計画に反対し、沖縄県外への移設を求めたようである。つまり、我々には、キャンプ・シュワブへの代替施設建設計画に代わる案が必要であることがはっきりしているように思われる。さもなければ、当分の間、現在の普天間飛行場の使用が続くことになる。」

2. 米民主党4議員「海兵隊撤退で軍事費削減を」
これまでも軍事費削減や海兵隊移転で繰り返し発言をしてきた民主党の重鎮、バーニー・フランク(下院)ら民主党の議員も、今年1月25日、オバマ大統領へ書簡を送った。書簡に名を連ねたのは、フランクと、ラッシュ・ホルト(上院)、バーバラ・リー(下院)、リン・ウールシー(下院)の4名である。4議員は、「在沖海兵隊は、費用負担や日本との対立の要因になっているにも関わらず、よく精査されないまま駐留している」と指摘し、軍事費削減のため、米軍の配置見直しを求めた。

3. ジョセフ・ナイ「県内移転は受け入れられないだろう」
昨年11月21日付のニューヨーク・タイムズに、1996年SACO合意の際に米側の当事者だった、ジョセフ・ナイ元国防次官補(現ハーバード大学名誉教授)の寄稿「積年の懸案への回転軸」が掲載された。ナイはオバマ政権のオーストラリアへの海兵隊移転方針を評価し、次のように述べた。

「住宅密集地域にある普天間基地は、我々のより大きな戦略を損なう摩擦を引き起こしてきた。海兵隊を沖縄県内に移転する政府の現在の計画は、沖縄の人々からは受け入れられそうにない。海兵隊をオーストラリアへ移転することは賢明である。なぜなら、この地域からの撤退という誤ったシグナルを送ることなく、自由に訓練を行うことができるからだ。」

4. モチヅキ、オハンロンら「海兵隊は本国へ帰れ」
昨年11月4月、マイク・モチヅキ米ジョージワシントン大教授とマイケル・オハンロン・ブルッキングズ研究所上級研究員の共同寄稿「日本での米軍基地計画の再考を」が、CNNのホームページに掲載された。さらに今年2月5日付には、両氏の「沖縄の軍事再編計画の再考を」と題する同様の共同寄稿が、米政治専門紙「ポリティコ」に掲載された。両氏はともに米政権の政策に影響力のある専門家である。両氏は、巨額の経費を投じ、在沖海兵隊8000人をグアムへ移転する現在の計画よりも、在沖海兵隊の一部を米本国の西海岸やハワイへ移転する方が、財政的・戦略的に理に適っていると主張している。

「沖縄県知事や名護市長が普天間県外移設を求める中で辺野古移設を強行すれば、物理的衝突を引き起こし、嘉手納基地のような重要な基地を受け入れている人々の心情をも損ないかねない。」
米国が財政緊縮の重要な局面にある時に、グアム/辺野古計画はあまりに費用のかかりすぎる方法だ。おそらく今後10年間で、日米両政府はそれぞれ150億ドル負担することになる。この費用のほとんどの節約が可能な方法があり、そしてそれが太平洋における米国の影響力を弱めることはない。政府はグアムへの新施設建設なしに、単純に在沖海兵隊の規模を縮小すべきである。
今後数年のうちに、海兵隊の規模は約20000人削減される予定であり、おそらく多数の第3海兵遠征軍(在沖海兵隊)も削減可能である。これは規模ではなく、構成の変更を意味し、沖縄の部隊は現在の計画と同数が残る。加えて、いくらかの海兵隊は今秋発表されたイニシアティブによって、オーストラリアのダーウィンに移るだろう。
(米本土への移転により)米国内でまだ基地が必要とされる、カリフォルニア、ノースカロライナ、ハワイの3州の基地周辺コミュ二ティへの痛みを軽減することができる。つまり、大規模な支出を避けられ、また3州の経済的損失を最小化することができるのである。沖縄からグアムへの8000人の移転は、米軍の歴史の中で、兵員一人当たりでもっとも費用のかかる再編になるだろう。もし日本の国内政治と軍事的実利が、ワシントンに対し、沖縄における多くの航空基地機能の移転と規模の縮小を要請するのであれば、私たちは他の方法で東アジアの有事に即座に展開する能力を保持し続けることが可能だ。最良の方法は、日本の領海内に事前集積船を配置し、海兵隊をハワイやカリフォルニアに留まらせることだ。佐世保の4隻の揚陸艦に、同様の装備を搭載できるかもしれない。
この新しい方法は、3人の米大統領と10人の日本の首相を惑わせてきた、沖縄の航空基地および海兵隊再編計画をめぐる日米関係の停滞を打破することができる。世界で最も豊かな2つの民主主義国は、あまりに長い期間にわたり、あまりにも多くの外交エネルギーを浪費してきた。よりよく、そしてより安価な方法があるのだ。」

一方、共和党に近いシンクタンク、ケイトー研究所のダグ・バンドーは、「中国を封じ込めるには海軍と空軍によるべきである」として在沖海兵隊は不要であると主張している。
モチヅキ、オハンロン、バンドーの主張は、1990年代から一貫する彼らの持論ではあるが、財政危機による米国内における軍事費削減基調が、その現実的意義を高めているといえる。

 

日本も本質的な選択肢を
これらの米国内議論に共通しているのは、アジア太平洋地域での米軍のプレゼンスを維持し、より柔軟に展開可能な再配置にシフトしつつ、米側の支出を抑えるという発想である。当然のことながら、第一義にあるのは米国の戦略的利益である。しかし、米国内の論者たちが日本で想像されているよりも、はるかに幅広い選択肢をもって在沖海兵隊と「普天間」の将来を考えようとしていることに留意すべきだろう。
日本にはより本質的な選択肢がある。それは、海兵隊を含む米軍の「抑止力」を安全保障のための自明の前提にするのではなく、安全保障における軍事の役割の縮小と対話の拡大を主導することを通して、沖縄の負担を軽減していく道である。その文脈の中から、沖縄からの海兵隊の全面的な撤退と、普天間飛行場の移設なき閉鎖・返還という解を導き出していくことも、米国内議論と噛み合わせたアプローチを行うことによって、可能性が見えてくるはずである。

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