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平和軍縮時評5月号 北朝鮮「衛星打上げ」 非難―制裁―挑発の負のスパイラルから抜け出す時 東北アジアにミサイル軍縮・管理の枠組みを  田巻一彦

2012年5月30日

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   4月13日の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「衛星打地上げ」に対して、国連安保理はこれを「弾道ミサイル発射」だとして、4月16日に非難の議長声明を発した。北朝鮮はこれに強く反発している。一連の事態は、2月29日の「米朝合意」で見え始めた和解の兆しをかき消すだけでなく、6か国協議などを通して積み重ねられてきた朝鮮半島の信頼醸成の枠組全体を大きく後退させる可能性がある。しかし、私たちは20年近くくりかえされてきた「非難」と「挑発」の応酬から抜け出し、この地域の平和と安心のために何が必要かを冷静に考えるべきときである。

◆事実経過
   まず簡単に事実経過をおさらいしておこう。
   今回、北朝鮮は早くから「衛星打上げ」を予告し、国際海事機構1を通して予想落下時刻、地点の通告2を行ったほか、4月9日には国外の専門家、メディアを西海発射場に招き、「銀河3号」と命名された打上げ用ロケットと搭載する衛星「光明星(カンミョンソン) 3号」を公開した。

  1. 海上の安全、船舶の航行、海洋汚染の防止などに関する規則や慣行に対し確立運用することを目的として1959年に設立。本部はイギリスのロンドン。2012年3月現在170の国・地域が正式に加盟し、3地域が準加盟国となっている。
  2. IMOがウェブサイトに載せた「航行警戒情報」
    http://www.imo.org/blast/mainframe.asp?tppic_id=1773&doc_id=11174

   しかし、米韓日はこれを「弾道ミサイルの発射」であると断定し、北朝鮮に発射の中止を求めた。それを振り切って北朝鮮が「発射」に踏み切るや、安全保障理事会に持ち込み、冒頭の「議長声明」を発したのである。
   日本は、「弾道ミサイル等に対する破壊措置命令」(3月30日)を発令し、PAC3部隊を沖縄本島(2か所)、石垣島、宮古島に配置して落下物の迎撃態勢をとるとともに、SM-3搭載イージス艦を日本海に1隻、東シナ海に2隻展開した。

◆「ミサイル発射」か「衛星打上げ」か?
   4月13日午前7時39分(日本時間)、北朝鮮北西部の黄海に面する鉄山(チョルサン)郡東倉里(トンチャンリ)の西海(ソヘ)発射場から発射され、ソウルから165㎞西方の東海海上に落下(韓国国防部はもっと南に落下したといっている)した物体について、北朝鮮は「地球観測衛星の軌道投入に失敗した」と説明した(4月13日「朝鮮中央通信」。米国防当局や専門家の分析もそれは嘘ではないことを示している。発射前には「ミサイル発射」だと騒いでいた米日韓も「安保理議長声明」ではたんに「発射」と呼んでいる。どうも両者の言い分は、基本的なところでかみ合っていない。
   その事情の理解のために、ここで「SLV(宇宙発射体)」という耳慣れない言葉を使うことを許していただきたい。“Space Launching Vehicle”の頭文字だ。弾道ミサイル発射も衛星の打上げも、SLVを使って何物かを宇宙空間に打ち上げることに変わりはない。違いは積荷(ペイロード)と飛行方法を制御する技術である。ペイロードが爆弾(核、通常)である場合には「ミサイル発射」と呼ばれ、衛星であれば「衛星打上げ」である。一方後者の制御技術については外からの見分けはつかない。
   かつての冷戦下における米ソ(現ロ)の核軍拡競争とは、核弾頭の高性能化と合わせてSLVの性能を競うという二つの面をもっていた。両方の技術において相手を凌駕するものが「核軍拡競争」の「勝者」(そんなものはありえないが)だったのである。米ソだけではない、フランスも英国も中国も、次々と「衛星打上げ」に成功してきた。
   現在、衛星打上げに成功している国は次の9か国である:ロシア(ソ連)(1957年)、米国(1958年)、フランス(1965年)、日本(1970年)、中国(1970年)、英国(1971年)、インド(1980年)、イスラエル(1988年)、イラン(2009年)。一見してわかるように、日本を除く8カ国は核兵器保有国、もしくは核兵器の開発の疑惑がもたれている国だ。
   つまり、衛星打上げと核ミサイル開発の間には、ほんの紙一重のきわどい「境界線」しかない。というよりは、日本を除く8カ国は明確に「核ミサイル」を目標に定めて、SLVの開発と衛星を使った実験を繰り返してきたのである。ミサイル発射実験は今も繰り返されている。公式データはないが米国は年数回のミサイル発射をしている。
   北朝鮮は、「安保理議長声明」に対する反論声明(4月17日)の中で、「衛星発射は主権国家としての正統な権利だ」と主張した。しかし、国連加盟国195か国の中でその権利を行使しているのは、一握りでしかなく、そのほとんどが「核ミサイル」開発と密接に関連している国なのである。逆に、国連安保理常任理事国(米、ロ、仏、英、中)にも、「非難」の前にわが身を省みよと言わねばなるまい。

◆「ミサイル」保有、発射は禁止されていない
   「ミサイル」と「衛星」の間の境界はわずかなものだ。これをSLV技術の「両用性」と呼ぶことにしよう。しかも、前記のように核などの大量破壊兵器(WMD)と結びつくとき―「結びついている」歴史的現実は先にみたとおりだ―それは大量破壊兵器自体と同じ脅威を地域と世界にもたらす。したがって、ミサイル、とりわけ他国に届くような長距離弾道ミサイルにどうやって「軍縮」と「管理」の網をかけるのという問題が、国際社会の長年の課題となってきた。
   これまでにも、WMDの運搬に用いられるミサイルについては、二国間あるいは多国間条約の形で管理枠組みが作られ実行されてきた。例としては米ソ(当時)の「中距離核戦力全廃条約」(INF条約、1988年)や第1次戦略兵器削減条約(STARTⅠ、1991年)などが上げられる。また、宇宙条約(1967年)は宇宙空間においてラテンアメリカ非核兵器地帯条約(1967年)は地帯内において、WMD運搬のためのミサイルの配備を禁止する条項を持っている。ミサイル及びミサイル関連技術の制限のための、拘束力のない措置としてはミサイル技術管理体制(MTCR、1987年)とそれを土台として作られた「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範」(ICOC、2002年発効。通称「ハーグ行動規範」があり、いずれも輸出管理などの分野で一定の成果を上げている。
   「ハーグ行動規範」には、「両用性」と宇宙開発の権利に関連する次のような条項がある。これらは、「SLV計画が弾道ミサイル計画を隠蔽するために利用されるかもしれない」という認識に基づくものだ。

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弾道ミサイル拡散に立ち向かうための国際行動規範(ICOC)第4節 <抜粋訳>
② 使い捨てSLV計画に関して、商業上、経済上の秘密性の原則と一致するように、
③弾道ミサイル及びSLV計画に関して、
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   この「規範」に北朝鮮は未だ署名していない。しかし、今回IMOに事前通告し、海外メディアや専門家に発射場を公開したことによって、北朝鮮は「③」の規定を一応形式的にはクリアしたことになる。
   だが、ぞっとするのはこの「規範」が弾道ミサイルの存在、もしくはその「発射の権利」を自明の前提としていることである。この「規範」さえクリアすればどこの国も、弾道ミサイルを開発し、発射してもよい、とさえ言っているようだ。

◆必要なのは誰もが遵守しなければならないルール
   4月16日の安保理議長声明は、「これ以上弾道ミサイル技術を用いた発射を行わず、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止するとともに、この文脈において、ミサイル発射に関するすべての既存の誓約とモラトリアムに復帰することによって、決議1718(2006年)及び1874(2009年)を遵守するよう」北朝鮮に求めた。引用された決議1718と1874はいずれも北朝鮮の核実験を非難した決議であることからわかるように、弾道ミサイル技術を用いた発射(さすがに安保理も「弾道ミサイル発射」そのものとは決めつけていない)は、核不拡散条約(NPT)で禁止された大量破壊兵器と結びついて―初めて「制裁」の対象となりうる国際法違反行為と認定されるのである。
   しかし、「ミサイル」は核を搭載して初めて「脅威」となるわけではない。それはWMD以外の通常弾頭であったとして甚大な人的被害をもたらす。北朝鮮は、米国が米本土や公海上から北朝鮮を射程に収めている「弾道核ミサイル」に加えて、日本を母港にした米国のイージス艦が搭載する「通常弾頭付巡航ミサイル=トマホーク」を重大な脅威と考えているのである。
   北東アジアに今必要なのが、地域的な核軍縮の枠組み=非核兵器地帯の設立と「ミサイル軍縮・管理」の枠組み形成を、同時並行で進めることである。その時には、北朝鮮のいうとおり「宇宙開発の権利はどの国にもある」ことを前提にして、兵器としての「ミサイル」を削減、禁止してゆく「検証プロセス」を同時に開発してゆくというアプローチが避けられないだろう。
   確かに、道のりは遠い。だがそれは可能であるし、北東アジアを安心して暮らせる場所にしてゆく道はそれ以外にない。少なくとも、ミサイル軍拡の「負のスパイラル」を生み出す「ミサイル防衛」路線に、私たちの未来を託することはできない。

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