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平和軍縮時評8月号 核兵器の人道的側面に関する国際的議論と若者の役割  金マリア

2013年8月30日

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1.   「核兵器の人道的側面」に関する国際的議論の昂揚

   世界で初めて、そして唯一、核爆弾の直接的被害を受けた日本。1945年8月、広島と長崎に原爆が投下されてから68周年を迎えた。この半世紀を越える期間中、数多くの日本の被爆者は、肌で経験してきた核兵器の非人道性を世界の人々に訴えてきた。そして、やっと近年、核軍縮を議論する国際社会の場において、核兵器の非人道性への関心が高まってきた。
   2010年NPT(核不拡散条約)再検討会議の「最終文書」で初めて「核兵器の非人道性」が言及されて以来、12年5月に開かれた15年NPT再検討会議第1回準備委員会や同年10月の国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障)における議論を通して、「核軍縮の人道的側面」に対する議論が拡大してきた。12年5月2日には16か国による「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」が発表された。続いて、同年10月には2回目の声明が発表され、賛同国が35か国(国連オブザーバーのバチカンを含む)に拡大した。そして、5月のNPT準備委員会において、ノルウェー政府は、13年春にこの問題に関する国際会議を主催する方針を明らかにした。その結果、今年3月4日から5日に掛けて、オスロで「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(以下、「オスロ会議」)が開かれ、127か国、国連、赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月運動、それから市民社会の代表者が参加した。
   今年4月24日の15年NPT再検討会議第2回準備委員会では、南アフリカ政府の主導によって3回目の共同声明が発表された。「核兵器の人道的影響に関する共同声明」というタイトルに変わった声明は、オスロ会議を「核兵器爆発のもたらす影響についての事実情報を基盤とする議論のプラットフォームを提供した」と評価した。同声明の賛同国の数は80か国にまで増えた。オスロ会議が核兵器の人道的側面に関する国際的議論に弾みを付け、支持を拡大させたことがわかる。核兵器の非人道性を最もよく知っているはずの日本政府と広島・長崎の被爆者が多数いる韓国が、この声明に賛同していないことは極めて残念である。日韓両政府に賛同させるよう求めていくことは、私たちの大きな課題であろう。

2.   世界の若者「BANg」の結成と特徴

   核兵器の人道的側面に関する国際社会の議論に関わっている多様なアクターの中で、若者の果たす役割は決して小さくない。筆者もいわゆる「若者」の一人として、ここでは特に若者の取り組みを紹介し、その意味を考えたい。実際、オスロ会議成功への貢献という意味で、最も際立っていたことの一つに、「核兵器廃絶世代」(BANg: Ban All Nukes generation)という若い活動家たちの素晴らしい取り組みがあった。
   BANgは、2005年のNPT再検討会議が失敗のうちに閉会した直後、ニューヨーク国連本部のカフェテリアにいたヨーロッパの数人の若者から始まった。当時、彼らはお互いのことをよく知らなかったが、会議の失敗を防ぐために自分たちがどんな役割も果たせなかったことについて話し合った。その中で彼らは、若者が与えられる影響は大きく、更に団結するとその力は大きくなるという事実に気付いた。その結果、同年にBANgが結成された。BANgは、「若者が一緒にプロジェクトを行う」という極めて基本的な概念に基づき、それぞれが持っているアイデアを、皆で協働して現実化することを目指している。

   今年3月4日朝8時、氷点下14℃。オスロのラディソンブルホテルの向かい側に30か国語で「ありがとう」と書いたバナーを持った32人の若者が並んだ。BANgによるプロジェクト「あなたの声を上げよう―核爆弾禁止!」(Claim Your Voice-Ban the Bomb)の一員として筆者もこの中にいた。オスロ会議の参加者を迎えるためだった。私たちは、開会の前にポジティブな雰囲気を整えることによって、政府や市民団体という組織ではなく、人間一人ひとりの心を開きたかった。実際、私たちが「ありがとう」と叫ぶ姿を見た人は、誰もが笑顔に変わって会場のホテルに入った。ノルウェーのアイデ外相の場合は、応援している私たちに近づいてきて握手をしてくれるなど、世界各国の政府代表が熱い反応を見せてくれた。

   今回のオスロ会議でBANgが行ったプロジェクト「あなたの声を上げよう―核爆弾禁止!」について具体的に紹介したい。BANgは、ノルウェー政府がオスロ会議の開催を発表した後、速やかに企画を立て、欧州連合(EU)から資金を調達することに成功した。12年の秋には、同プロジェクトを支持するヨーロッパ各国の反核・平和団体と協力関係を結んで、各国でプロジェクトの宣伝を行った。同年の冬には、参加者の募集を開始した。対象となったのは、主にEUからの資金の対象になる9か国(オーストリア、ベルギー、ドイツ、イタリア、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スイス、英国)の学生であったが、それ以外の地域からも「海外参加者」という名前で特別募集を行った。その結果、海外参加者はアメリカ、オーストラリア、韓国・日本、そしてイスラエルから一人ずつ選ばれた。筆者は、韓国・日本を代表する参加者であった。海外参加者の場合は、EUからの資金の対象にならなかったため、ウェブ上の募金運動を通して全世界の活動家や一般市民から募金を頂いて費用を充当することが出来た。

   13年1月から2月までは、選抜された参加者一同が事前準備に入った。数回のインターネット会議を通して、オスロ会議に向けて各地域で行っている活動を共有し、オスロで一緒に出来ることのアイデアを集めた。私たちがオスロで行う活動の目的は、次のようにシンプルで明確なものに設定した。「オスロ会議に参加する政府に対し、正しい選択をして、核兵器を廃絶するよう要求する。」
   2月27日から3月6までは、同プロジェクトのハイライトである、オスロ現地での活動を実施した。従来からのBANgの成果であり、強みでは3つある。まず1つ目は、核軍縮教育である。 BANgのホームページに行くと、独自で開発した核軍縮に関する教育資料や参考になるリンクなどの情報が載っている。BANgが教育を重要視する理由は、ただ「核兵器は悪いものだ」という言葉を聞いたり、話したりするだけでは本当の意味の運動が始まらないという思いからだ。核兵器というものが、人間と社会にとってどのように悪い影響を与えるのか、なぜ自国の安全保障に無用なものなのかなど、核軍縮について若者自身が納得できることが基本であるという考え方である。自分の頭で核軍縮の必要を理解し、核兵器廃絶運動の必要性を実感すれば、彼らが周りの人や自国政府に対して核軍縮を求める声をあげることは自然について来る。このように、 一人一人が確信さえ持てば、正しいことのために叫ぶ声にも自信が付くはずだ。
   2つ目は、国際舞台で行うロビー活動である。BANgは、今まで「ユース(若者)代表団」という名前で、NPT再検討会議や国連総会など国際会議に参加し、各国の外交官と面談を行ってきた。若者と外交官の面談ということは、短期的な観点から見ると、外交に与えられる影響が間接的であることから「ロビー活動」と言えないと思う人がいるかも知れない。また、外交官にとって若者との面談は、ただ一時的で表面的な顔合わせに過ぎず、自分たちを誇示するためのイベントのように見えるかも知れない。しかし、各国の外交官に対して、核兵器に反対する若者がこれだけいるということを見せ、ともすれば彼らが返答に困るような賢い質問をすることによって、外交官個人に深い印象を残したり、刺激を与えることができる可能性もある。そうすれば、長期的な観点で、一国の外交政策また国際的議論の方向を変えることにつながるとも考えられる。
   最後の3つ目は、「FUN」(楽しさ)である。どんな活動であれ、主体である自分が楽しまないとその活動は継続できない。楽しさという味がないと何か物足りなく感じる。また、難くて形式にとらわれる既成世代のやり方や考え方と異ならない限り、若者ならではの特性はなくなる。クリエーティブなアイデアに富み、それを行動に移せる情熱とエネルギーがあふれる、そして目立つ行動をしても温かく見てもらえる若者だからこそ、色んな新しくて楽しいアクションをすることができるのである。

3.   オスロ会議での3つの活動と若者の役割

   BANgは、オスロでこの3つの強みを活かし、ソーシャルメディアを含むメディアの活用をさらに加え、大きく3つの活動を行った。
   1つ目は、各国政府との面談であった。まず、事前準備の段階に、核兵器の人道的側面の議論で重要な役割を果たしていると判断される国の政府に面談を要請した。その後、オスロ現地では、ロビー専門家である「核軍縮・不拡散議員連盟」(PNND)国際コーディネーターのアラン・ウェア氏を招いてワークショップを開いた。彼からは、核軍縮分野の政府関係者や議員などとの話し方やマナー、注意事項などを彼自信の体験を例に聞きながら学んだ。そして、実際の状況でどのように対処すれば良いかを仮想劇を通して理解を深めた。最終的に私たちの面談が決まった国は、ノルウェー、スイス、メキシコ、ドイツ、そしてルーマニア政府であった。私たちは、面談の時間と場所を決めた後、国別にチームを分けて、各国の核軍縮政策を把握したり、面談に出る外交官の特徴を調べたり、適切な質問を考案する準備を経て、実際の面談を行った。結果は、5つの国とも成功であった。
   2つ目の活動は、アクションであった。私たちはオスロ現地を見てから一番効果的なアクションを考えることが良いと判断し、現場で会場の前に行って環境を把握してから、アクションのアイデアを具体化した。そして、会議の数日前に、キャンペーン&アクション ワークショップを開いた。ここには、「IKVパックス・クリスティ」の核軍縮プログラム担当者であるスージー・スナイダー氏を招いて、アクションの成功と失敗の事例を聞きながら、実用的なノーハウを学んだ。その後、アイデア会議を持ち、オスロ会議とICAN市民社会フォーラムで行うアクションを決定し、準備物を作り、事前練習を行った。それに、オスロ警察と連絡を取って、行政的に必要な準備も済ませた。
   3月2日から3日までは、ICAN市民社会フォーラムの「マーケットプレイス」(イベント市)の時間に、ターゲットX、折鶴、Fish Bowl、バナーペインティングなど様々なプログラムを担当し、フォーラムに来た人々が楽しく参加できるようにした。4日と5日はオスロ会議であった。まず4日の朝8時から10時までは、会場のラディッソン・ブルーホテルの前で、「Thank you for caring!」(気遣ってくれてありがとう!)というメッセージを伝えるアクションを行った。目標は、各国政府と団体に感謝の気持ちを伝え、肯定的な心構えで会議に臨むように雰囲気を整えることであった。会議の最終日である5日の午後3時から4時半までは、同じ場所で「Abolish Nukes! Act Now!」(核兵器廃絶!いま行動を!)というメッセージを、色んな有名な曲に私たちが作った歌詞を入れて歌った。このアクションの目標は、会議の成功を喜び、各国政府が会議の結果を行動に移してくれるよう呼びかけることであった。
   3つ目の活動は、メディアの活用であった。まず、メディア・ワークショップを開いて、記事作成を練習したり、メディアとコミュニケーションをとる時の注意事項などを勉強した。その後、私たちの中でメディアを担当するチームを決めた。このチームは、写真撮影、メディアリリース、現地と各国のメディアへの記事転送、Facebook、Twitter、そして同プロジェクトのブログを管理する役割を担った。そして、この中で一人が私たちのスポークスマンになって、日程中ずっとメディアとのやり取りを担当した。

   3月5日、ノルウェーのアイデ外相が発表した議長要約で、オスロ会議の結論を出した。 筆者は、核兵器の人道的側面に関する国際的議論において、若者が一つの中心的な役割を果たすべきである理由を、外相が結論として示した3つのポイントから探せると思う。

  1. 「いかなる国家も国際機関も、核爆発によって引き起こされた直接的な人道的非常事態に適切に対処し、被災者を救援しうるとは考えにくい。さらにそのような能力を確立することは不可能である。」

       核兵器の爆発が起こり、非常事態になっても適切な対処はできないとしたら、この実態を知った以上、核兵器の使用を防止することが人間としての道義的な義務である。若者は、未来を担う責任を負っている存在として、この義務を果たすべきである。
  2. 「核兵器使用と実験の歴史的経験は、核兵器の直接的及び長期的な破壊的影響を示している。政治状況は変化したが、核兵器による破壊の可能性は依然として残されている。」

       核兵器による破壊の可能性が残されているとしたら、残っている人生の時間を考えると、既成世代より若者の方がその被害を受ける可能性が高い。その意味で、若者自身が自分たちを守るためには核兵器の廃絶にもっと積極的になるべきである。
  3. 「核爆発の影響を国境内に封じ込めることは不可能であり、地域的であれ地球規模であれ、複数の国家や国民が影響を被る。」

       核爆発の影響というのは、ただ国境と民族を超えるだけではない。空間だけではなく、時間も超えるものである。被爆の影響は複数の世代に及ぶということから、若者は自分たちの世代で、この悪い影響の連鎖を断ち切る責任を持っているのである。

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