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平和軍縮時評3月号 北東アジア非核兵器地帯へ新たな環境―核抑止策から抜け出す絶好の機会  湯浅一郎

2014年3月30日

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   2013年は、朝鮮戦争停戦協定の締結から60年目、6か国協議が始まってから10年の節目であった。しかし、北朝鮮の衛星発射をめぐる対立構図や中国の軍事力の拡大に対する米日韓の軍事的対応などにより、冷戦終結から四半世紀近くたつ今も、北東アジアでは軍事的な緊張と対立が続き、冷戦は保持されたままである。1995年に欧州安全保障協力機構(OSCE)ができ、曲がりなりにも欧州内の戦争はない枠組みが出来上がっている欧州と比べ、北東アジアは、いまだ軍事的緊張を含め、何一つ改善されていない。
   安倍政権は、こうした軍事緊張を前提として、「国際協調主義による積極的平和主義」を基本理念とした国家安全保障戦略を策定し、それに対応して防衛大綱を見直し、オスプレイや無人機の購入を含む中期防を決定し、集団的自衛権行使の容認へと進もうとしている。これは、防衛費の増大と日米同盟の強化による軍事的対応を柱としたもので、軍事的緊張を高めるものでしかない。今、求められているのは、不信と対立の悪循環から抜け出すための、対話と協調による包括的な「平和のビジョン」ではないのか。我々は、朝鮮戦争停戦協定の平和協定への変換と、北東アジア非核兵器地帯(以下、NEA-NWFZ)を切り口として、平和の枠組みは形成できるとの信念から、この間、活動を進めてきている。そして、ここにきて、それを具体化していくための新たな環境が形成されつつある。

1)   整いつつある国際的な環境

   2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終文書に、核兵器禁止条約への留意や国際人道法の遵守が初めて盛り込まれてから4年がたつ。2015年NPT再検討会議まで残すところ1年となった。核抑止に固執し、相変わらず核兵器の近代化を進める核兵器国や、日韓を始め、その核兵器国の有する核兵器の抑止力に自国の安全保障を依存する相当数の国々の姿勢により、核軍縮は停滞したままである。それでも、2013年の後半、北東アジアの非核化にかかわり、状況を変える可能性を持つ、いくつかの新たな出来事があった。

1.   国連軍縮諮問委員会が画期的な勧告
   第1は、13年7月26日、国連事務総長の諮問機関である国連軍縮諮問委員会が、核軍縮における非核兵器地帯の役割に関する文書において、「北東アジア非核兵器地帯の設立に向けた適切な行動を検討すべきである」との画期的な勧告を行ったことである。以下に、勧告の関連部分を引用する。

   「事務総長は、北東アジア非核兵器地帯の設立に向けた適切な行動を検討すべきである。とりわけ、事務総長は、地域国家間の透明性や信頼醸成を奨励する地域フォーラムの開催に向けて、一層、積極的な役割を強めることができる。」

   同委員会の議論では、新たな非核兵器地帯の設立にあたって、「いくつかの国の拡大抑止について議論することが必要である」とも指摘している。NEA-NWFZをめぐっては、米国の「核の傘」に依存し続ける日韓の安全保障政策のあり方が問われることになる。
   特定の非核兵器地帯に関しては、関係国自身のイニシャチブがなければ国連関係の会議の議題にはならない。その意味で、北東アジア非核兵器地帯に関しては、日本や韓国政府が消極的であることから、これまで正式の議題に上ることはなかった。そうした中で、国連軍縮諮問委員会が国連事務総長に北東アジア非核兵器地帯の設立に向け行動すべきことを勧告したことは、世論形成と環境整備のために活用すべき大きな窓が開かれたことを意味している。

2.   モンゴル政府の積極的な姿勢
   さらに13年9月26日の国連総会ハイレベル会合において、モンゴルのエルベグドルジ大統領は、NEA-NWFZの設立への検討作業を行う準備があることを表明した。大統領は、演説で6つの項目をとりあげたが、4つ目に「非核兵器地帯」、6つ目に「北東アジア」を挙げ、以下のように述べた。

「6   北東アジア
   政治的・外交的手段を柱とする安全保障の確保を身をもって体験した国として、モンゴルは、この地に非核兵器地帯を設立することが可能か、そしてそれはいかにして達成可能か、を検討する非公式ベースの作業を北東アジアの国々と行う準備ができている。それが容易なことではなく、勇気、政治的意思、忍耐力を要するものであることを私たちは十分に理解している。しかしそれは、たとえ直ちに可能ではなくとも、間違いなく実現可能である。実現までの間においては、さらなる信頼醸成の促進のための措置がとられるべきである。このことを念頭に、この3月、私は「北東アジアの安全保障に関するウランバートル協議」の開始を提案し、段階的な地域間の信頼醸成を可能にするオープン協議に地域諸国を招待した。」

   この2つの動きを重ねることで、おそらくは、6カ国協議の枠組みを生かしながら、国連が関与した形での論議を始めていける環境ができつつあるといえる。これらの環境の中でNEA-NWFZの形成はますます重要性を増し、かつ実現可能であることが見えてきているのである。

2)   日本政府も核の不使用声明に賛同

   13年10月21日、国連総会第一委員会でニュージーランドが提案した4回目の「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に国連加盟国の3分の2に当たる125カ国が賛同した。そして、何よりも日本が初めて賛同した。この声明には、「核兵器がふたたび、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっています」と言う文言が含まれており、いわば「核兵器の不使用を求める共同声明」としての性格を有している(核軍縮・平和時評13年11月号参照)。これは、核抑止論による安全保障政策と、正面から矛盾する内容を含んでいる。
   日本が、この声明に賛同しそうだという情報が流れてから、米国の核の傘に依存し、同様の立場にいるオーストラリア政府は、慌てふためき、また米国からは日本政府に対し強い牽制があったこともICANオーストラリアがオーストラリア情報公開法に基づき入手した、外交官のメイルや文書から明らかになっている。賛同に際して出た岸田外相の談話は、「同ステートメント全体の趣旨が,我が国の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的な内容に修正されたことをふまえ,今般,同ステートメントに参加することとしました」としている。しかし、声明にそのような内容は含まれておらず、腑に落ちないもので、なぜ賛同したのかが理解しにくいものであった。広島、長崎を初めとした市民社会からの圧力の前で、ある種の勢いで賛同した側面が見受けられる。
   しかし、本年1月20日、岸田外相は、長崎大での「核軍縮・不拡散政策スピーチ」において、「核兵器の使用を個別的・集団的自衛権に基づく極限の状況に限定する、こういった宣言を行うべきだ」と述べた。「極限の状況下に限定」してはいるが、核兵器使用を容認した見解である。この立場は、米国とその同盟国の「死活的な利益を守るという極限的な状況においてのみ核兵器の使用を考慮する」との米核態勢見直しと完全に整合するもので、米国の核基本政策の域を一歩も出ようとしていない。岸田外相は、前記の声明に賛同したことと、「極限の状況下」での核兵器使用の容認との関連性について講演で触れることはなかった。
   我々は、この矛盾をこそ追求していかねばならない。それでも日本政府が「核の不使用声明」に賛同したことにより、日本が、核抑止に依存しない安全保障政策へと転換するべき新たな状況が生まれつつあることは確かである。

3)   市民社会の声を国連軍縮局へ届けよう

   こうした環境を活かすためには、市民社会の様々な領域で、非核兵器地帯を作ろうとの声を盛り上げていく必要がある。我々の、いくつかの取り組みを紹介する。
   まず自治体であるが、13年6月3日には、NEA-NWFZを支持する自治体首長409名の署名を、田上長崎市長、鈴木藤沢市長が、松山外務副大臣に提出した。その後も、非核宣言自治体協議会が独自に会員自治体へ呼び掛けることにより、賛同は14年3月現在、543名に達している。
   13年4月、ジュネーブでの2015年NPT再検討会議第2回準備委員会における日韓NGO共催のワークショップでは、日韓を始め5か国の政府代表部関係者の発言を引き出すことができた。また国際平和ビューロ―(IPB)、世界教会協議会(WCC)、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)という国際組織が協力団体となり、これを基盤に「北東アジアにおける平和プロセスと非核兵器地帯促進のための共同アピール」を採択した。
   11月8日、WCCは、ジュネーブでの共同アピールも踏まえ、釜山での年次総会で採択した「朝鮮半島の平和と統一に関する声明」において、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に代えること、及び北東アジアのあらゆる核兵器と原発の廃棄を勧告した。
   日本政府をしてNEA-NWFZの創設を表明させるためには、まだまだ強力な世論が必要である。WCCの釜山における声明なども活かし、日韓の宗教界にNEA-NWFZの支持を広げていく方策を練りたい。そのために日韓を中心に国境を越えた市民社会の重層的な連携を構築し、「平和のかたち」への協働に取り組まねばならない。
   本年4月28日から2015年NPT再検討会議への最後の機会となる第3回準備委員会がニューヨークで開催される。これまで述べた13年に動き出した新たな気運を形にし、日本政府に、核抑止に変わる安全保障政策をうちださせるために、この場は絶好の機会である。
   我々、日韓NGOグループは、2003年以来、NEA-NWFZを設立する努力が、「核兵器のない世界」へむけて大きく寄与できるはずとの観点から、NPT再検討会議の場などで、北東アジア非核兵器地帯を求めるワークショップを何度も開催してきた。近年では、ニューヨーク(2009年、2010年)、ウイーン(2012)、ジュネーブ(2013)など、ほぼ毎年行っている。そこでは、自治体、国会議員、宗教界、そしてNGO平和団体など様々な社会領域での取り組みをつなぐ努力が積み重ねられた。
   今年は、国連軍縮諮問委員会の勧告が出され、モンゴル大統領の公式の意思表明が行われたという新たな環境の中で、上記の蓄積をいかに生かしていくのかが問われている。そこで、まず543名のNEA-NWFZを支持する日本の自治体首長署名を国連本部で、長崎、広島市長から、国連事務総長へ手渡すことを考えている。その上で、韓国やモンゴルのNGOと共催して、「北東アジア非核兵器地帯の設立へ、今、行動するとき」と題した市民フォーラムを開催する。国連軍縮局、国連軍縮諮問委員会のメンバー、さらに6カ国協議に関わる政府代表部の関係者に招請状を送り、参加を要請する。北東アジアの市民社会におけるNEA-NWFZの設立を求める努力と声を国連軍縮局や諮問委員会メンバー及び政府代表部の関係者に直接届け、建設的な意見交換の場にしたい。
   そのような努力を通じて、国連事務総長の動きを促進することができれば、北東アジアの非核化へ向けて大きな前進となるのみならず、安部政権の軍拡路線を抑制するもう一つの力となるはずである。

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