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平和軍縮時評2014年10月号 「戦争をしない」という誓いは被爆地の原点―被爆69年の広島・長崎平和宣言と読む  湯浅一郎

2014年10月30日

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   14年8月、広島・長崎は69回目の原爆忌を迎えた。両市長による平和宣言は、核兵器の法的禁止を求め、核保有国とその傘の下にいる国に対し、絶対悪である非人道的な兵器に基づく脅しにより国を守るという核抑止政策からの脱却を強く求めた。これは、核兵器に安全保障をゆだねる日本政府の方針を変更するよう求めていることになる。更に今日的には、14年7月1日、日本政府が集団的自衛権の行使容認に踏みこんだありようを念頭に、日本国憲法の平和主義の下で新たな安全保障体制の構築に貢献することを求めた。
   これに対し、両式典に出席した安倍首相は、自らが進める戦後平和体制の変更に触れることなく、「核のない世界」へ向けた具体的な方針を何一つ示すことはなかった。8月6日の広島の平和祈念式典での安倍晋三首相のあいさつは、天候の部分が変わったほかは前年のコピーアンドペーストであった。9日の長崎においても状況は同じで、ともに真情のこもったものではなかった。安倍首相は、「『核兵器のない世界』を実現するための取組をさらに前へ」進めていくとしながらも、そのための具体的方針の提示はなかった。1か月前、集団的自衛権の行使容認を柱に閣議決定を強行した攻勢的姿勢とはうって変わり、核兵器廃絶への意志がいかに空疎であるかが透けて見えた。これに対する広島・長崎の宣言は、もろもろの要素への配慮はあるものの、進行しつつある現実に厳しく切り込み、政府に行動を切実に訴えるものであった。

核兵器廃絶と恒久平和への想いは一繋がり

   長崎宣言の注目すべき特徴は、相当の紙幅をさいて集団的自衛権行使に関する議論への懸念を表明したことである。宣言は、「集団的自衛権の議論を機に、『平和国家』としての安全保障のあり方についてさまざまな意見が交わされている」とした上で、「長崎は『ノーモア・ナガサキ』とともに、『ノーモア・ウォー』と叫び続けてきました。日本国憲法に込められた『戦争をしない』という誓いは、被爆国日本の原点であるとともに、被爆地長崎の原点でもあります」とした。さらに「被爆者たちが自らの体験を語ることで伝え続けてきた、その平和の原点がいま揺らいでいるのではないか、という不安と懸念が、急ぐ議論の中で生まれています」とし、「日本政府にはこの不安と懸念の声に、真摯に向き合い、耳を傾けることを強く求めます」とした。このとき、列席していた安倍首相の渋い顔がテレビに映し出されていた。これは、直接的な批判を控えつつも、核兵器廃絶を求める長崎の声の根底に「戦争をしない」という思いがあることを表明したものであり、軍事優先に走る安倍政権への被爆地からの真摯なメッセージであった。
   長崎の宣言は、被爆者、研究者、市民団体を含む起草委員会における議論を踏まえて、最終的に委員長である市長が作成する。3回にわたる委員会の議論では、より直接的に、安倍政権の集団的自衛権行使を容認した姿勢を批判する表現が必要であるとの意見が多数を占めた。しかし、長崎市側から出てくる起草案に、「集団的自衛権」という文言はなかった。これに対し、「この言葉自体が出てこないと、逃げてしまっている印象を持たれかねない」と多くの委員が異議を唱えた。土山秀夫元長崎大学長は、2度にわたり、自ら作成した文案を読み上げた。こうした経過を経て、田上市長が作成したのが、先に見た宣言文である。市長は、「集団的自衛権」と言う文言は、「状況を示す表現の一部として使う」とした。それは、安倍政権による集団的自衛権行使容認を正面から批判すべきと言う多くの起草委員の意見とは相当異なるものにとどまっている。それでも、「集団的自衛権」という文言が宣言に残ったのは、起草委員会における議論が反映されたものであることも確かである。
   一方、広島宣言には、「集団的自衛権」という文言は含まれず、この問題に直接触れることはなかった。しいて言えば、「わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している今こそ、日本国憲法の崇高な平和主義のもとで、69年間戦争をしなかった事実を重く受け止める必要があります」とした上で、「今後も名実ともに平和国家の道を歩み続け、各国政府とともに新たな安全保障体制の構築に貢献する」ことを求めた部分が、これに関わる意志の表明になっている。これは、安倍政権の安保防衛政策を念頭に日本国憲法の平和主義の重要性を強調したもので、例年にない主張と見ることができる。 これらは、広島・長崎の核兵器廃絶を求める声の根底に流れている「いかなる戦争も否定する」強い意志に基づく、安倍政権の軍事優先路線に対する被爆地からの警鐘である。戦争の最終局面においてヒバクを体験した被爆地にとって核兵器廃絶と恒久平和への想いは一繋がりのものであることを率直に表明したものと言える。市民の立場からは不満足な面は否めないが、様々な立場の考え方があることを考慮すると、「戦争をしない」ことと核兵器廃絶は人つながりのものであることを自治体として表明した意義は大きい。
   この問題に関しては、長崎市の式典において、被爆者代表として「平和の誓い」を読んだ城?美弥子さんの訴えを紹介しておきたい。 「集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です。日本の平和を武力で守ろうと言うのですか。武器輸出は戦争への道です。戦争は戦争を呼びます。」と安倍首相の目の前で堂々と読み上げたのである。

核兵器の非人道性から核兵器を禁止する枠組みの構築へ

   両平和宣言は、いずれも「核兵器の非人道性」に焦点を当て、核兵器を禁止する枠組みの構築に向けて行動しようとの強いメッセージを発信した。
   広島宣言は、今年も冒頭で被爆者の声を聞いてほしいと、いくつかの例をあげ、核兵器が「絶対悪」であることを確認する。その「『絶対悪』をこの世からなくすためには、脅し脅され、殺し殺され、憎しみの連鎖を産み出す武力ではなく、国籍や人種、宗教などの違いを超え、人と人とのつながりを大切に、未来志向の対話ができる世界を築かなければなりません」とした。そして加盟都市が6200を超えた平和市長会議注1は、「核兵器の非人道性に焦点を当て非合法化を求める動きを着実に進め、2020年までの核兵器廃絶を目指し核兵器禁止条約の交渉開始を求める国際世論を拡大」するとした。
   一方の長崎宣言は「核の傘」に言及する特色があった。核兵器保有国とその傘の下にいる国々に対し、「『核兵器のない世界』の実現のために、いつまでに、何をするのかについて、核兵器の法的禁止を求めている国々と協議ができる場をまずつくり、対立を越える第一歩を踏み出してください」と呼びかけた。核兵器を禁止する法的枠組み作りに向け、期限を区切って交渉する場を設定することこそが、2015年NPT再検討会議に向け具体化させねばならない焦眉の課題である。

北東アジア非核兵器地帯を求める

   長崎宣言は、「核戦争から未来を守る地域的な方法として「非核兵器地帯」があります」とし、日本政府に対し「非核三原則の法制化とともに、北東アジア非核兵器地帯構想の検討を始めるよう提言」した。1996年以降、毎年、触れていることだが、今年はさらに、「この構想には、わが国の500人以上の自治体の首長が賛同しており、これからも賛同の輪を広げて」いくとの強い意欲が示された。
   広島宣言では、北東アジア非核兵器地帯への直接的言及はないが、「「絶対悪」による非人道的な脅しで国を守ることを止め、信頼と対話による新たな安全保障の仕組みづくりに全力で取り組んでください」として、核抑止に基づく安全保障政策からの脱却を求め、かつ「信頼と対話による新たな安全保障の仕組みづくり」を求めている。これを北東アジアに当てはめれば、北東アジア非核兵器地帯構想を推進することになる。
   ピースデポでは09年から、「北東アジア非核兵器地帯を支持する国際署名」への国内自治体首長の賛同を呼び掛けてきた。現在、賛同は全自治体の30%に相当する546名となった注2。そのほとんどが、平和市長会議および非核宣言自治体協議会(会長:田上富久長崎市長)とピースデポの協力によって得られたものである。長崎宣言にあるように更なる署名拡大の取り組みが求められる。

「福島」への言及を消すな

   11年3月11日の東日本大震災と福島第1原発における事故に伴い環境中に放出された放射性物質は、居場所を変えながら生態系の隅々に浸透している。10数万人の市民が、故郷を追われたままであることも続いている。しかし、今年の広島宣言に、「福島」の固有名詞が消えた。事故から3年が経つとはいえ、事故に伴う影響がなくなったわけではない。せめて、福島の被災者を支えていくとの意志表示があってしかるべきであろう。長崎の宣言では、「今も多くの方々が不安な暮らしを強いられています。長崎は、今後とも福島の一日も早い復興を願い、様々な支援を続けていきます」としている。
   さらに安倍政権が、半世紀にわたり福島事故の原因を作ってきた自民党政権としての責任を取り、反省することもなく、原発の再稼働や輸出に走っている現状を考えると、両市とも、福島事故が問う、核エネルギー利用総体を問う問題意識を宣言に盛り込むことも求められているはずである。時の経過とともに、福島事故の意味の位置づけを薄めていくことは許されない。

   来年は被曝から70年を迎える。また包括的核実験禁止条約(CTBT)や中東非大量破壊兵器地帯の構築などを条件にNPTが無期限延長されてから20年目であり、5年に1回のNPT再検討会議が開催される。この重要な節目を目前にした時期においてすら、日本政府は、核兵器の非合法化に向けて腰を上げようとしない状況が続いている。安倍政権の軍事優先路線によって、非核国,そして平和国家として歩んできた日本の実績と蓄積をないがしろにさせてはならない。。

  1. 会長:松井一實広島市長。副会長:田上富久長崎市長をはじめ、15か国からの15名。
  2. 「核兵器・核実験モニター」第453号(2014年8月1日号)。

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