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平和軍縮時評2015年5月号 川内原発事故と海の汚染―黒潮、対馬暖流が西日本一帯に放射能を拡散  湯浅一郎

2015年5月30日

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はじめに

   東京電力福島第一原発事故から4年強になる15年4月、高浜、川内原発の運転差し止めを求める仮処分につき、全く異なる決定が相次いで出た。14日、福井地裁は、高浜原発の運転差し止めに関する仮処分につき運転差し止めを命じた。これは、日本の原発訴訟で初めてのことであり、原子力規制委員会の規制基準の不当性にも触れる画期的な決定であった。他方、22日、鹿児島地裁は、川内原発の運転差し止めを求める仮処分について、住民敗訴の決定を下した。判断は分かれたが、福島事態を踏まえて、司法の判断が重要な意味をもつ時代が始まっている。
   しかし、両者ともに、当事者性に関してはあまり触れられていない。現在、政府は、福島事故を踏まえ、「原子力災害対策指針」により「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)として「原子力施設から概ね30km」圏内を目安に避難計画の策定を自治体に義務付けている。これは、少なくとも30km圏内の自治体は、原発の当事者であることを政府として認めたことを意味する。それならば、それらの自治体は、原発再稼働の決定に当事者として関与する権利があるはずである。しかるに例えば川内原発(九州電力)の再稼働に関しては、薩摩川内市と鹿児島県知事が容認の立場を取ったことだけで、既に再稼働が既成事実のごとく扱われている。立地市町村と県知事だけが当事者であるかの流れは、福島事故以前と何ら変わらない。
   更に、それでもなお福島の事態の経験を踏まえたことになるのか大きな疑問が残る。福島事故は、様々な形で人々の暮らしと生き方を強制的に変更している。これは、市民が安全・安心に暮らしていくために不可欠な平和を脅かす問題である。その上、あらゆる生命の生息環境の隅々に放射能汚染をもたらした。再稼動を言うのであれば、少なくとも各原発が福島並みの事故を起こした場合、山、川、湖、そして海の汚染についていかなる事態が起こりうるのか客観的に評価しておくべきであろう。そこで、最も早い再稼動の候補とされる川内原発を例に、とりわけ海への影響という観点から考える。

1. 川内原発で福島のような事故が起きたら

   川内原発は、鹿児島県西北部の薩摩川内市久見崎の川内川河口に位置し、前面は東シナ海側に面している。加圧水型軽水炉(PWR)2基(1、2号機ともに電気出力89.0万kw)、合計178万kwの規模を有する。福島原発事故以降、日本の原子力規制行政は、従来の「原発は絶対に苛酷事故を起こさない」とするものから、「いかなる原発も苛酷事故を起こす可能性がある」という方向に劇的な方針転換を遂げた。その考え方にのっとり、原子力規制庁は、自治体が地域防災計画を策定する際の参考として、福島第一原発を除く16原発につき「放射性物質の拡散シミュレーション」を行い、12年12月、公表した(注1)。個々の風向ごとに拡散することを仮定した単純な推算であるが、事故がおきた時の放射能の拡散について、ひとつの目安を与えている。ここでは、川内原発でサイト出力に対応した放射性物質が放出された場合の海への影響を推測する。

2. 放射能が海へ影響をもたらすプロセス

   川内原発で事故が起きた時、海へ影響をもたらすプロセスには一次汚染としてのa)大気に放出されたのちの海への降下、b)原発付近から海への直接的な漏出、及び二次汚染としてのc)陸への降下物の河川、地下水による海への輸送、d)海底に堆積した汚染物質の溶出が考えられる。

a)大気からの降下
   大気に放出された放射性物質は、原発からの距離、風の向きや強さにより不均一に降下する。図1は、11年1年分の気象データを使用した原子力規制委員会による川内原発の拡散シミュレーション結果である。原発からの距離に対応した平均的な被曝の実効線量に関するグラフを使用し、国際原子力機関(IAEA)が定める避難の判断基準(事故後一週間の内部・外部被曝の積算線量が計100ミリシーベルト)に達する最も遠い地点までの距離を方位ごとに示している。
   最も頻度が高い風向きは、風下方位が南(S)17%、次いで西北西(WNW)14%、及び北西(NW)13%である。これらも含め、60%以上が海上を拡散する風向である。福島事故で大気に放出されたものの8割は太平洋に降下したが、日本列島の位置する緯度は、偏西風の影響が支配的である。川内で事故があれば、放射性物質は、鹿児島市、宮崎市、高知市、和歌山市など、濃度は下がりつつも東へと輸送されていく。更には、東日本の太平洋側、ひいてはグローバルな大気大循環に乗って、より広範囲に拡散するものもあるに違いない。

b)原発から海への直接的な漏出
   大気からの降下に少し遅れて、崩壊熱に対処するため溶融燃料に直接触れ、高濃度に汚染された冷却水が原発サイトから流出する可能性が高い。メルトダウンを伴う大事故が発生した時、仮に核分裂反応は止まっても、冷却系統の閉じた状態を維持することは、まず不可能である。福島原発で、未だに溶融燃料の所在や存在状態が不明なため、対処困難になっている「放射能汚染水問題」は、避けて通れない。地震に伴う事故であれば、冷却系統の破綻は複雑で、建屋の地下への漏水も多岐にわたり、海へ通じた地下水への混入を中心に流出ルートはいくつもできる公算が強い。この問題は、福島と同様、連続的な負荷源となり、終息の見えないまま推移するであろう。
   そして、現実の事故では、a)、b)が同時に重なったものとして現出する。

   さらに事故直後に大量に放出された環境中の放射性物質による二次的プロセスが加わる。

c)河川、湖沼の底質汚染と河川・地下水による海への輸送
   福島事故に伴う陸上におけるセシウム沈着量の分布からわかるように、事故時の気象条件に対応して、山間部などに沿って高濃度の汚染地帯ができる(注2)。一旦、落ち着いた分布も、雨に溶け、風により輸送されることで、その分布は変化する。その過程で、河川や湖沼を汚染しつつ、海に流入する二次的な汚染が派生する。15年1月現在、福島事故に伴い、ヤマメ、イワナ、ウグイ、アユ、ワカサギ、ウナギなど内水面漁業の出荷停止や操業自粛は、福島県をはじめ、岩手県から東京都までの1都8県の広範囲に及んでいる。また11年夏に阿武隈川から海に流出しているセシウム137は、1日に524億ベクレルという試算値がある(注3)。
   例えば九州山脈にそって南北に高濃度の地帯ができれば、球磨川、大淀川五ヶ瀬川など大小さまざまな河川が汚染され、結果として鹿児島湾、八代海、天草灘、有明海、日向灘などに流入する。県内各所にある鹿児島県の水源地が汚染されれば、鹿児島県民の飲み水が危機にひんする。九州、四国地方を中心に、そのほか関西地方も含めて広域的に淡水魚が汚染され、操業や出荷ができない状態が続くことは必至である。

d)海底の汚染物質による二次汚染
   海底土に堆積した放射能は泥から海水へと再溶出し、じわじわと海水中に浸透していく。この問題は、福島事故に関しても未確認で今後の課題であるが、イギリスのセラフィールド再処理工場が面するアイリッシュ海では大きな問題になっている。

3. 海洋環境への影響

   海に入ったあと放射能は、海水に溶けたり、また微粒子に付着して、流れによって海水中を移動、拡散していく。福島沖と異なり、川内原発の前面には、甑島(こしきじま)列島との間に甑海峡がある。ここでは、潮汐に伴って発生する潮流が卓越している。これは往復流であり、上げ潮には北~北東向き、下げ潮では逆に南に向かう流れとなる。こうして行ったり来たりを繰り返しながら、少しづつ残余の流れ(潮汐残差流)によって、水そのものが移動していく。甑海峡の流れは平均すると南向きの恒流があり、甑南下流として知られている(注4)。いずれにせよ、一方向に流れていた福島と比べ往復流のため、海水の移動は緩慢で、高濃度汚染の状態がより長く継続する可能性が高い。
   当該海域における海流の概略を示した図2から推測すると、薩摩半島の西南端に達した放射能は大隈海峡における東向きの流れにのり、種子島の北側を東に移動し、その後は、南側から北東に向けて移動している黒潮の本流に乗る可能性が高い。黒潮は世界的に見ても最も強い海流であり、その速度は、場所や深さにより大きく異なるが、強流域では毎秒0.5~2.0mはある。これは、時速1.8~7.2kmになり、一日で40~170kmも移動する。仮に平均で毎秒1mとすると、2週間で1200kmになる。蛇行などを考慮したとしても、優に房総半島まで到達する。ひとたび黒潮に乗れば、鉛直方向の混合に伴う希釈はあるにせよ、さほど薄まることなく、高濃度のまま太平洋岸を移動する。土佐湾、紀伊半島沖、熊野灘、遠州灘、そして伊豆半島沖を経由して房総半島までの一帯を汚染することになりかねない。これは、東に向けて千kmを超えて影響範囲が出現することを意味する。土佐湾のカツオ漁、遠州灘のシラス漁など、各地に特色のある漁業も、事故が起きた時の季節によっては大打撃を食うはずである。親潮と黒潮がぶつかり合い、押しつ押されつしていた福島沖とは全く異なる広がり方となる。
   他方、季節によると、甑海峡の東岸側では、黒潮系の水塊が北ないし北東に向けて移動するという文献もある。その現象は冬から春にかけて見られ、先に見た甑海峡の南下流とは別の要因による。事故発生の季節によれば、北方向への移動も想定せねばならない。これに関連して、九州大学の広瀬(注5)の海洋拡散シミュレーションによると、高濃度の水塊は九州西岸の北方域に広がり、日本海へ至るとされる。中でも有明海内外では長期にわたって高濃度の状態が続くという。潮流による輸送が、大勢として北へ向うのか、南へ向かうのかは今後の検証が必要である。
   これに大気経由で海に降下する放射性物質による汚染が加わる。事故時の風向きにより、様々なケースが考えられるが、例えば、相当量の降下が考えられる薩摩半島西岸沖では、その多くが甑海峡の南下流の影響を受ける。また約3割はある西北西から北西へ向いた風で九州の西側沖を流れる対馬海流に降下する場合もありうる。このときは、相当量が、対馬海流により佐賀県、福岡県を経て、山口県、島根県の日本海へと輸送される。川内原発は日本の原発の中で最も南に位置し、黒潮、対馬海流ともども関連があり、どちらも東に向けて放射能を輸送する機能を持つがゆえに、日本列島の多くの沿岸に影響を与えるであろう。
   福島では、事故当時、親潮系の海水が原発沖に分布し、南へ向かう流れが卓越していたため、原発から南側の福島県沖と茨城県側の海底に濃度の高い領域ができた。川内原発の前面の海は水深が浅く、汚染水は表層を移動しながらも、短時間のうちに海底付近に到達するものも多いであろう。さらに甑海峡とその周辺では、強い潮流に伴う鉛直混合により、多くの物質が下層に輸送され、潮流が停滞する領域で海底に沈積することも考えられる。

4. 海洋生物(水産)、海洋生態系への影響

   川内原発から放射能が流出したとすると、福島と同様、まず表層性のキビナゴやシラス(カタクチイワシ)が汚染される。これは、それらを食べるカジキ、タイ、アジ、サバなどの汚染につながる。鹿児島県は、黒潮の影響を受け、ミナミマグロ、ソウダカツオ類、ウルメイワシ、アジ類、シラス、イセエビ、アカイカなどが全国有数の漁獲量を上げているが、これらへの長期にわたる汚染を覚悟せねばならない。他にもアサヒガニ、ツキヒガイ、トコブシなども名が知られている。ブリ、カンパチ、クルマエビの養殖も盛んであるが、これらは海経由の汚染とともに、大気経由の降下物によっても汚染されるであろう。まずは原発に近い海から始まり、数か月もたてば九州西岸から房総半島に至る太平洋岸の一帯、更には玄界灘から日本海の沿岸で基準値を超えるものが出るに違いない。これは、否応なく出荷停止を意味する。
   その上、本質的に問題なのは、放射能汚染による個々の生物の繁殖力の低下、遺伝的変化、そして、それらが織りなす食物連鎖構造、即ち沿岸生態系への長期的な影響である。セシウム、ストロンチウムの半減期は約30年である。少なくとも60年は漁業操業はできない。これでは、沿岸漁業の技術、人材、歴史、伝統は消え、大げさでなく西日本の沿岸漁業の壊滅を意味する。

おわりに

   川内原発で福島並みの事故が起きたとき、放射能汚染は、汚染源に最も近い甑海峡を初めとした九州西岸部、黒潮の影響を受ける太平洋岸一帯、さらには対馬暖流の流れる九州北岸や日本海沿岸域へと及び、広域的に生態系を破壊し、世界有数の海洋生物の多様性を背景にした漁業は壊滅的被害を受けることが予想される。これを基準にすると、30kmを目安とした防災計画を策定するだけの原子力災害対策は、原発の過酷事故による被害をあまりにも過小評価していることがわかる。大飯原発運転差し止め訴訟の福井地裁判決にあるように、「原子力委員会委員長が福島第1原発から250km圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって、チェルノブイリ事故の場合の避難区域も同様の規模に及んでいる」のである。川内原発の再稼働をめぐっては、鹿児島県のみならず、少なくとも九州全県、高知県、愛媛県、和歌山県、三重県、愛知県、静岡県、神奈川県、千葉県、更には山口県、及び島根県などの漁業者や自治体、市民の意向を聞いてから判断すべきであると言う結論が出てくる。しかるに再稼働を巡る手続きにおいて、これらの問題は全く無視されている。
   福島事故を踏まえ改めて当事者とは何かが問われている。生存の基盤たる環境汚染の影響が及ぶ範囲の住民はすべて当事者であるとの原則を明確にさせることが急務である。

注:
1) 原子力規制庁(2012);「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」。
2) 湯浅一郎(2014);「海・川・湖の放射能汚染」、緑風出版。
3) 湯浅一郎(2012);「海の放射能汚染」、緑風出版。
4) 鹿児島県水産技術開発センター(2002);
「係留系電磁流速計による甑海峡における潮流観測」、「うしお」293号。
5) 広瀬直毅(2011): 「川内原子力発電所付近を起源とする海水輸送シミュレーション」 、
日本海洋学会秋季大会。

図1 薩南海域における海流の概略図(注4)

図2 川内原発における放射性物質の拡散シミュレーション結果
(サイト出力に対応した放射性物質量を仮定した場合)(注1)。

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