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平和軍縮時評2015年6月号 NPT(核不拡散条約)再検討会議、最終文書に合意できず―「人道的結末」への認識は基層に定着  田巻一彦

2015年6月30日

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   4月27日から5月22日にかけて、ニューヨークの国連本部で2015年NPT(核不拡散条約)再検討会議が開かれた。2010年「最終文書」の行動計画を含む諸合意の履行状況を評価し、次なる行動計画を合意することが目的である。
   核兵器廃絶を願う市民が期待したのは、10年以来広がりを見せる「核兵器の非人道性」の認識を、「核兵器禁止」の法的枠組みへと展開していく道筋が示されることにあった。
   一方では5つの核兵器国の不作為(サボタージュ)や、ウクライナを巡る米ロ対決の深化によって、会議は目にみえるえた成果なく終わるのではないか、果ては「最終文書」の合意すらできず「決裂」に終わるのではとの懸念すら拡がる中、開会した会議であった。
   結果的には、その懸念は的中する。そのことには後に触れるとして、不安を抱えながらニューヨークに滞在していた筆者が受け取った二つの知らせについて書くことから始めたい。
   一つはよい知らせ、もう一つは悪いニュースである。

北東アジア非核兵器地帯の促進を―国連軍縮担当高等代表が発言

   4月24日にニューヨークで開催された第3回非核兵器地帯締約国会議の冒頭、国連軍縮問題担当高等代表のアンゲラ・ケイン氏は、「潜在的非核兵器地帯として、3つの地域がすぐに心に浮かぶ」として、北東アジア、北極そして中東を順に上げた。ケイン氏は「世界で最もダイナミックな経済力を持つ」北東アジアは同時に「もっとも困難な争いが存在する」地域であるとしつつ、地域国家、市民社会、国際機関がともに「地域における核兵器の脅威を除去するために力を合わせてほしい」と述べた。
   NPT会議の機をとらえて、韓国、日本、モンゴルのNGOとともに「地帯」設立を目指すワークショップを開催することを含めた努力を続けてきた私たちにとって、これは大きな前進であり激励であった。長年の取組が「地帯」設立という課題の水位をここまで押し上げたことを確認した次第である。
   こうして迎えた今年のワークショップ(4月30日)の主催はピースデポ、ピースボート(日本)、平和ネットワーク、参与連帯(韓国)、ブルーバナー(モンゴル))、協力団体はレリジョンズ・フォー・ピース(RfP、平和のための宗教者連合)、国際平和ビューロー(IPB)、世界教会協議会(WCC)、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)、ノーチラス研究所である。コーディネートの実務はピースデポが担った。
   今年、参加者が初めて100人を超えたワークショップの冒頭、田上富久長崎市長、松井一實広島市長、鈴木恒夫藤沢市長がそれぞれに核兵器廃絶と「地帯」設立への期待を語った。その後、NGO専門家、宗教者、国会議員から北東アジア非核兵器地帯に関するレクチャーがつづいた。関係5か国(日、韓、中、ロ、米)の政府代表団メンバーも出席、非公式ながら発言を受けることができた。プログラム、発言要旨、共同声明等の資料はピースデポの次のサイトにある。www.peacedepot.org/e-news/2015NPTWS.pdf

日米「新ガイドライン」、「核抑止依存」を再確認

   次に悪い知らせについて書く。筆者は心底、落胆と怒りを禁じられなかった。多分、他の多くの市民もそうであったろう。
   再検討会議開会日と前後して、日米政府は二つの文書を発表した。「核不拡散条約に関する日米共同声明(4月28日)」は軍縮面では何らの新味も持たないものであった。それどころか「共同声明」とその前日(27日)に発表された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」と併せて読む時に浮かび上がる、日米両政府の意図は「無残」なものだった。「指針」は冒頭部で次のように言う。「米国は、引き続き、その核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じ、日本に対して拡大抑止を提供する。」
   日米同盟を「核同盟」であることを明言して憚らず、一方で「不拡散・軍縮」を語る。この「同盟」の実態を直視するとき、日本市民の前途は厳しさを感じざるを得なかった。(「指針」にはこれ以外にも重大な問題があり、それが現在の「安保法制」議論につながってゆくのだが、そのことは、次の機会に書きたい。)

新アジェンダ連合の声明―「効果的措置」前進の決定を

   会議の議論に目を移そう。
   一貫して果敢かつ具体的に核軍縮議論をリードしてきた新アジェンダ連合(NAC。ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ)は、「NPT第6条」と題された作業文書を早々と3月9日に提出していた。これは、非核兵器国と核兵器廃絶を願う市民の多くに強い印象と期待を与えた。
   NACはここで、自ら2014年の再検討準備委員会に提出した作業文書で示した、核兵器廃絶のための4つの選択肢(①包括的な核兵器禁止条約、②簡潔型核兵器禁止条約、③枠組み協定、④混合型協定)を、次の2つの選択肢に再構成し提案した。1)包括的もしくは簡潔型の単独の条約(上記①と②を統合)と2)相互に補強しあう枠組み協定(上記③)である。NACは、NPT締約国が2つの選択肢のうちどちらが「効果的措置」として優位であるかを判断するよう促した。さらにNACは、①再検討会議の主委員会の下部機関を「効果的措置」のための法的アプローチに関する議論に充てること、②国連総会をはじめ、あらゆる軍縮フォーラムを活用して議論を継続することを要求した。
   「効果的措置」が議題とされた主委員会Ⅰ・第1日目の5月1日、H.E.デル・ヒギー・ニュージーランド軍縮担当大使は新アジェンダ連合(NAC)を代表して、本再検討会議の目標を次のように述べた。
   第1に、NPT第6条が求める核軍縮に関する「効果的措置」を前進させるのに有用な法的アプローチを探究すること。第2に、「効果的措置」を前進させるための決定を行うこと。そして第3に、国連総会のみならずすべての軍縮議論の場での適切なフォローアップ行動を要求すること。(下線強調は草稿原文)
   つづいて大使はNACが前記「作業文書」で示した、①包括的もしくは簡潔型の単独の条約と②相互に補強しあう枠組み協定、という法的アプローチの選択肢を論じることの意義を強調した。「条約第6条を効果的ならしめる方法に関与することによって、締約国は同条を一般的に遵守することにとどまらず、そのような方法の提案へと歩を進めることになるだろう。このギア・チェンジは、核軍縮を前進させるために至急必要だ。」
   さらに大使は、締約国の中に今日の混迷した安全保障環境を理由に核兵器の保持を合理化する国があると指摘、「核兵器は安定を提供しないし、紛争を予防するのに役立ちはしない。それどころか、たった一発の核兵器の爆発によって引き起こされる健康、環境、食物連鎖の破壊それ自体が世界秩序に永続的な後遺症をもたらす」と、このような立場を批判した。

米国の反論―「効果的措置」即「法的拘束力」は誤り

   5月8日の主委員会Ⅰ・下部機関Ⅰにおいて、ロバート・ウッド米軍縮会議特別代表は、「効果的措置について述べる」と切り出して、次のような論理を展開した。

   「我々は、多国的な法的拘束力のある協定のみが『効果的措置』であるという前提を受け入れることはできない。このような前提は、第6条の条文とその交渉過程に忠実ではない。(略)核軍縮プロセスの最終局面が、合意された法的枠組みの中で追求されなければならないことは、我々は受け入れられる。しかし、第6条が核兵器を最終的に廃絶するための時間枠も特定の要件も要求していないことは明白だ。」

   そして特別代表は、核軍縮はステップ・バイ・ステップでしか進みえないと次のように強調した。

   「それぞれのステップが次のステップの条件と機会を創り出す。条件と機会はビジョンと現実主義の産物だ。」

   このように、「効果的措置」の法的アプローチを巡る議論の入口には大きな見解の相違が存在した。それは「核兵器廃絶」を目指すNAC、同調する多くの国そして市民社会と、あくまでも「ステップ・バイ・ステップ」に留めようとする米国を代表とする核兵器国とその同調者の立場である。
   この議論の構造にはもう一つの重要な局面がある。それはNACが核兵器の「壊滅的な人道上の結末」を認識することが核軍縮の「効果的措置」を検討するための動機とされなければならない主張し、米国はこの2つを切り離そうと画策したことだ。実際、議論の初期から「最終文書案」に向かって何度か書き換えられた文案の流れを追えば、この対立構造=核兵器国などの意向を受けて、文案が弱体化されてゆくプロセスがよくわかる。(「核兵器・核実験モニター」473号(6月1日号)参照。関心のある方はピースデポにお問い合わせを)。

「人道的結末」への認識が深化・拡大

   すでに周知のとおり、この「効果的措置」を含めて、最終文書案は合意に至らなかった。合意できなかった理由は、「中東非核兵器地帯」設立のための会議開催に米・英らが反対したからであることもすでによく知られている。(再検討会議はコンセンサス・ルールで運営される)
   しかし、最終文書案の次の一節が事実上の合意として残されたことは大きな手がかりだ。
   「会議は、国連総会第70会期において、核兵器のない世界の実現と維持に貢献しかつ必要とされる法的諸条項もしくは他の取極めを含む、第6条の完全履行のための効果的措置を特定し精査するための公開作業部会を設立するよう勧告する。」―なぜこれが「事実上の合意」であるかと言えば、5月22日の最終会合で、米国は「合意できなかったのは『中東会議』開催だけだ」と強調したからである。裏を返せば、これは国連総会での「公開作業部会」の開催に反対しないとの言質と読むことができる。秋の国連総会に向けて、手掛かりが残されたことになる。

   会議全体を見るとき、核兵器の「人道的結末」への認識が核兵器廃絶の動機として焦点化されたことが強く印象づけられるのも、今回の再検討会議の成果であった。
   4月28日の「一般討論」においてオーストリアは、「核兵器の人道的結末に関する共同声明」(賛同国159か国。日本も賛同)を発表、「人道性という焦点がグローバル・アジェンダとして確立された」と述べた。オーストリアはさらに5月22日の閉会会合において「核兵器の人道上の影響と効果を回避するのは、すべての国の責任である」ことを強調した。「人道的結末」を根拠に「法的ギャップを埋める」ことを訴える「オーストリアの誓約」1は、本会議中に「人道の誓約」と改題され、賛同国は109か国(6月10日現在)になった。
   パン・ギムン国連事務総長は、5月22日の「NPT再検討会議の成果に関する声明」で次のように述べた。「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結末をもたらすとの認識の拡大が、核兵器の禁止と廃絶を導く効果的措置を目指す緊急の行動を強制するものであり続けることを希望する」。この文章は、核兵器国等の意向で「骨抜き」とされる前の、最終文書案のごく初期の原案とほぼ一致する。事務総長の認識は、再検討会議よりも直截的である。

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