平和軍縮時評

2015年07月30日

平和軍縮時評2015年7月号 CV22米空軍オスプレイの横田配備を許すな  湯浅一郎

米国防総省、CV22オスプレイ配備計画を発表

米国防総省は、5月11日(日本時間12日未明)、米空軍が在日米軍横田基地に特殊作戦部隊用の空軍仕様(以下、CV22)オスプレイを2017年に3機、2021年までに7機、計10機配備する方針であることを発表した。それによると配備の目的や意義は以下である。

「ティルトローター機の配備は、米特殊作戦部隊が、人道危機や自然災害を含め日本とアジア太平洋地域全体での危機や緊急事態に迅速に対応するために、能力の向上をもたらす。また、日本の自衛隊との相互運用性の向上、運用協力の強化、及び日米防衛関係をより強固にさせる。
CV-22オスプレイは、ユニークな性能と優れた運用安全記録を持つ高度な航空機である。その展開は、日本を守るための米国の確固たるコミットメントを反映しており、アジア太平洋重視のリバランスの一部として、その最も高度な能力を前方に配置することを意味する。」

これに伴い、空軍の特殊部隊要員400人を横田に新たに配置する計画も明らかにした。横田ではオスプレイの整備施設など関連施設の建設が早ければ16年にも始まり、19年後半には完成させるという。横田基地は、東西約3km、南北約4.5km、面積約7平方キロ、3350m長の滑走路を有する在日米軍司令部のある米空軍基地である。12年3月、米軍再編に伴い、航空自衛隊の航空総隊司令部が府中から移転し、現在は、日米共同統合運用調整所が設置されている。C-130、C-12などの輸送機が配備されている。これらに加えて、CV22オスプレイを擁する特殊作戦部隊が配備されれば、米国が世界規模で引き起こす戦争の最前線部隊が首都圏の真ん中に出現することになり、基地の性格はより戦闘性をも備えたものに変質する。
13年7月、当時のカーライル空軍司令官がワシントンでの記者会見において、同型機9機を15年には嘉手納に配備すると述べ、横田も候補の一つであるとしていた。つまり、本命は嘉手納基地にあったとみられる。しかし、今回の結果は、嘉手納は消え、すべて横田に集中すると言うことである。AV22オスプレイ配備に対する島ぐるみの反対運動を契機に沖縄でオール沖縄ともいうべき新たな状況が生まれ、普天間代替基地としての辺野古埋め立てを巡って熾烈な攻防が展開される事態に至り、嘉手納案は消滅したと推測される。妥協に応じる気配がない中、政府は、辺野古埋め立て工事を中断し、8月12日から9月11日までの1か月間協議の期間を設定する事態にまで至っている。これは、事実上、沖縄がCV22の沖縄配備計画を食い止めたと見ることができる。

日本政府は、自治体へ説明

5月12日、中谷防衛大臣は、記者会見において、米国防省とほぼ同じ内容を発表した。日本政府の言う配備の意義は以下である。

  1. アジア太平洋地域重視政策や即応態勢整備の一環であり、日米同盟に対する米国のコミットメントを示す。
  2. 我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、高い性能を有するCV-22が我が国に配備されることは日米同盟の抑止力・対処力を向上させ、アジア太平洋地域の安定にも資する。
  3. 3.首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模災害が発生した場合にも、迅速かつ広範囲にわたって、人道支援・災害救援活動を行うことができる。

1.と2.はガイドライン見直しや安保法制の審議が始まる中で、在日米軍強化と軍事一体化の促進を意図したものであろう。しかし、軍事的な強化は、北東アジアにおいては、そうでなくとも冷戦終結から四半世紀がたつ今もなお、冷戦構造が継続する状況をより悪化させるだけの効果しかない。3.は、災害対応であれば、風にも強くより機動性の高い災害対策用の回転翼機を準備すれば済むことである。
同日、外務・防衛の担当者が、横田基地に敷地を提供する5市1町(立川市、昭島市、福生市、武蔵村山市、羽村市、瑞穂町)に相次いで説明に回った。どの自治体も、事前に何の相談もないままの頭ごなしの計画発表に対し共通に不満を表明したあと、この説明では納得がいかないので、今後の、さらなる説明を求めた。
その後、周辺市町では、6月議会において、「米国政府に対しCV22オスプレイの米軍横田基地への配備計画の再検討を強く働きかけること」(福生市議会)、「地元自治体や周辺住民に対して更なる具体的な説明や迅速かつ正確な情報提供を行うことはもとより、周辺住民の生活に支障をきたすことが無いよう、徹底した安全対策と環境への配慮を講ずること」(武蔵村山市議会)などを盛り込んだ意見書や決議が相次いで採択された。また横田基地の北側に位置する埼玉県基地対策協議会(会長・上田清司埼玉県知事)は、防衛省に対し、関係自治体及び住民の理解が得られるよう十分な説明を行うことを要請している。

危険性への懸念は増大している

折しも、CV22横田配備計画が発表されてから1週間もたたない5月17日、午前11時過ぎ(米ハワイ時間)、ハワイ・オアフ島のべローズ空軍基地において訓練中のMV-22オスプレイが着陸に失敗し、炎上した。隊員2名が死亡し、20人が負傷を負うという大事故になった。この事故によりオスプレイの安全性に対する懸念が、再度表面化したことへの不安の声もひろがっている。
今後、地元自治体を含めて焦点になるのは、危険性に対する懸念が払しょくされていないという課題であろう。5月12日の1回目の説明に対して、各自治体からは、事前の相談もなしに一方的に計画が提示されたことへの強い抗議の意思が示された。さらに直後の15日にも再度の説明があり、基地に敷地を提供する5市1町で構成する「横田基地周辺市町基地対策連絡会」(以下、連絡会。立川市、昭島市、福生市、武蔵村山市、羽村市、瑞穂町で構成)は、コメントを出し、「更なる具体的な説明を求めるとともに、周辺住民の安全・安心、良好な生活環境の確保を最優先に考え、対応して」いくとしている。ここでは、危険性への懸念で問題になることを、いくつかにつき概略を列挙しておく。

1) 事故率が高い。
米国防総省はCV22について「優れた安全性を記録している」とするが、過酷な状況下で運用されるためか事故率が高い。10万飛行時間当たりのクラスA(被害総額が200万ドル以上)の事故率は、MV22で1.93に対し、CV-22は7.21と大きく上回る。12年6月には米フロリダ州で2機編隊で訓練中に後方機が墜落し、乗員五人が負傷する事故を起こしている。
しかも、MV22の事故率は、13年9月時点では、1.93であったが、今回の発表では、2.12となり、飛行時間が増えていくにつれ、上昇している。7月28日、東日本連絡会として防衛・外務省への申し入れを行った際、防衛省の担当者は、事故率が上昇している事実を認めた。これまで、政府は、飛行時間が増大するにつれ、通常は事故率は下がっていくと説明していた。それが、オスプレイに限っては、逆に事故率は上がっているのである。ここには、オスプレイが通常の航空機と異なり、その構造的な欠陥の一端が現れていると言えよう。

2) 米国内における運用とのダブルスタンダード
11年8月、キャノン空軍基地(ニューメキシコ州)所属機による低空飛行訓練計画につき簡易な環境影響評価が行われた。パブリックコメントで住民から騒音や安全性に関する1600件もの意見が寄せられ、12年6月、空軍は再考を余儀なくされ、13年の早い時期に方向性を決定することになっていた。それから3年がたつ現在、本格的な環境影響評価(EIS)が必要となり、計画は一切進んでいない。このように米本国では、CV-22の低空飛行訓練計画についても、国家環境政策法(NEPA)に基づき、ことの是非が論じられている。これに対し、日本への配備や、その運用については、日米政府間の合意だけで、物事が進む構図になっている。

3) 低空飛行訓練の危険性
中谷防衛相は記者会見で「通常の飛行訓練に加えて、低空飛行、夜間飛行(訓練)は実施する」と述べた。12年9月、MV-22の普天間配備にあたり、もっぱら問題になったのが、低空飛行訓練である。しかし、13年春から鳴り物入りで岩国への飛来が始まってから、約2年半の間、いわゆる低空飛行訓練と言える訓練は行われていない。訓練コースを飛行することはあっても、地形に追随する形での低空飛行は、危険が伴うとの判断があると推測される。
CV-22は地形追随装置を有しており、低空飛行訓練が実施される可能性は高い。その時は、例えば群馬県にある対地攻撃訓練空域やブルー、グリーンを初めとした低空飛行訓練ルートを使用することになる。国は、低空飛行訓練ルート下の全自治体の意向を確認すべきである。

4) フロリダ事故原因はパイロットのミスだけではない。
12年6月14日、フロリダ州の訓練施設において、2機編隊で訓練中、後方機が墜落した。米事故報告書は、パイロットが判断ミスをして前方機の後方乱気流に侵入したことが原因で、機体に問題はなかったとしている。日本政府も、この説明を受け、独自の検討委員会による判断も経て、オスプレイの沖縄配備に合意した経緯がある。
しかし、報告書を何度読みなおしても、パイロットの要素だけに原因があるとは考えられない。とりわけ、事故時におけるコンピューター制御とマニュアル飛行の関連性についての記述がどこにもないことで、パイロットの判断ミスが事故の原因であるか否かを判断できる根拠がないことが明らかになりつつある。更に、一般的にいえば、オスプレイのもっとも重大な欠陥は、一度の飛行で少なくとも2回、短時間ではあるが転換モードによる飛行が欠かせない。フロリダ、モロッコの重大事故は、ともに転換モードにおいて、大気の状態の変化や渦が重なって発生している。ここには、1つの航空機で、垂直離着陸機と通常の固定翼機の両方の性能を持たせるというオスプレイ特有の構造的な欠陥が露呈しているのではないか。
同型機は、米海兵隊普天間基地に24機、配備されている。さらに陸上自衛隊が5年内に17機の導入を決め、それに、今回の空軍仕様のCV22、10機の横田配備が加わると、6年後には日本列島に51基のオスプレイが常駐する状態が出現する。さらに陸自の木更津駐屯地(千葉県)にオスプレイの整備場を作る計画も浮上している。日本列島の空を欠陥機と言われるオスプレイが縦横に飛行する場にさせてはならない。一方では、この計画を止める運動を通じて、安保をヤマト住民の問題にしていく可能性がある。沖縄との連帯を語るには、そのプロセスを経ることが不可欠である。

5月11日、「朝日」より。

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