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平和軍縮時評2015年8月号 安保法案・新ガイドラインと核兵器-「非人道兵器依存」政策から脱却しよう  田巻一彦

2015年8月30日

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   違憲が明白な「安保法案」。同法案が『実効化」を目指す「日米新ガイドライン」には、核兵器国を除く国際社会の大多数が「非人道兵器」と認識する核兵器による「拡大抑止」に依存して、安全保障を確保するという、大きな根本的問題がある。「広島、長崎」から70年目の今年、「唯一の戦争被爆国・日本」が目指すべきは、核兵器依存政策から脱却することを通して、核兵器廃絶の真の先導者へと転じることである。ここでは「安保法案反対」のもう一つの論理を考えたい。                              

   「安保法案」の目的が、4月27日に発表された「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)を実効化するための国内法制整備であることは論をまたない。「指針」は、次の事項を強調しながら日米防衛協力を強化するとしている:

  • 切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応
  • 日米両政府の国家安全保障政策間の相乗効果
  • 政府一体となっての同盟としての取組
  • 地域の及び他のパートナー並びに国際機関との協力
  • 日米同盟のグローバルな性質

   憲法平和主義の諸原則を修正することなしに、これらの目標を達成することは不可能である。法案の国会審議では、「集団的自衛権行使」や「自衛隊の海外活動拡大」の違憲性が、野党はもとより与党が証人として招致した憲法学者、さらにはメディアからも厳しく指摘されている。法案に反対する市民の声は、国会を幾重にも包囲し、その包囲網は日を追うごとに厚みを増している。にもかかわらず、政府は国民の懸念や不安をはぐらかすような言辞を弄しながら、今国会中の成立を目論んでいる。

「新ガイドライン」の核兵器依存

   「新ガイドライン」が目指す安全保障が、憲法平和主義に反するものであるだけでなく。核兵器廃絶を求める国際世論と規範に背を向けるものであることに焦点を当てたい。
   「指針」は冒頭部で次のように言う:

「日本は、『国家安全保障戦略』及び『防衛計画の大綱』に基づき防衛力を保持する。米国は、引き続き、その核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じ、日本に対して拡大抑止を提供する。」(Ⅰ 防衛協力と指針の目的)。

   すなわち、「指針」は、核兵器に依存して安全を確保するという基本政策に立つものだ。
   1968年1月30日、当時の佐藤榮作首相は、日本の核政策は次の四本柱からなることを明らかにした。第1に「非核三原則」の堅持、第2に核軍縮への努力、第3に国際的な核の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存すること、そして第4に核エネルギーの平和利用、である。この連綿と続く基本政策が半世紀を経た今、「新ガイドライン」と「安保法案」という形を得ようとしているのだ。
   広島、長崎の被爆から70年目の夏、私たちは、「唯一の戦争被爆国・日本」が、二つの町を襲った惨禍の恐怖に基づいて安全保障を確保するという道を、これ以上進むことを受け入れることができるであろうか。

「核兵器のない世界」を遠ざける「新ガイドライン」

   安倍首相は「安保法案」国会審議の中で、「抑止力」について次のように述べた。

「まさに抑止力とは、日本に対して攻撃をする、あるいは日本を侵略しようとすれば相当の打撃をこうむらなければならないということを覚悟しなければいけない、となれば、それはやめておこうということになるわけであります。(略)」

   安倍首相の答弁を米国の言葉を借りて言えば次のとおりとなる。オバマ政権が13年6月19日に発表した「合衆国の核使用戦略に関する報告」からの抜粋だ。同報告は同日発表された大統領の「核使用戦略」を説明した文書である。

合衆国は、合衆国、同盟国並びにパートナーを攻撃することの代償として受ける結果が、攻撃することによって得られる利益を著しく上回るであろうことを潜在的敵国に確信させうる、信頼性ある核抑止力を維持するであろう。

   オバマ大統領は、09年4月の「プラハ演説」で、核兵器のない世界を目指すことを約束し、そのために安全保障における核兵器の役割を低下してゆくとした。この「報告書」も「核兵器の役割の低下」を基調としたものであり、「核兵器の基本的役割は引き続き、合衆国、同盟国並びにパートナーに対する核攻撃を抑止することにある」とし「死活的国益を防衛する極限的な状況においてのみ、核兵器の使用を考慮する」という抑制的姿勢が示されている。しかし、2010年の「核態勢見直し(NPR)」で設定した目標である、「核攻撃の抑止を核兵器の『唯一の目的』とする条件はまだ整っていない」とも述べている。
   安倍首相は上記と同日の国会審議で「(抑止力は)持っていることに意味のある、抜かない刀」とも言った。しかし米国にとって、核兵器は「抜く時」に備えて日々磨かれる「刀」なのである。

   核兵器廃絶を願い、行動する世界の心ある非核兵器国と市民社会は、日本のような核抑止依存政策が、核兵器のない世界へ向かう道の障害物であるとみなしている。日本は「核抑止」を受け入れるだけでなく、その「信頼性」を高めることを積極的に要求している。「新ガイドライン」は、そのような誤った認識を基礎とするものである。

核兵器は非人道兵器―「ウィーン会議」の警告

   14年12月8日から9日、オーストリアのウィーンで、158か国の政府代表、国連、赤十字国際委員会(ICRC)、赤十字・赤新月運動、市民社会の諸団体、学術研究者が参加して、「核兵器の人道的影響に関するウィーン会議」7が開催された。この会議での議論を見れば、日本政府の「核抑止依存政策」が、国際的潮流に背を向けた無定見であることは明白である。オーストリア政府がまとめた「会議報告及び討議結果の概要」の要点は次のとおりである。

  1. 核兵器爆発の影響は、その原因の如何にかかわらず、国境で制御し得ず、地域的、ひいては地球規模の結末を生じうる。
  2. 核兵器爆発がもたらす人道上の影響の範囲、規模、相互関係は壊滅的なものであり、それは一般的に理解されているものよりも複雑である。
  3. 核兵器の使用や実験は、それらの兵器が短・中・長期的にもたらす破壊的な影響を証明してきた。
  4. 核兵器が存在する限り、核兵器爆発の可能性が消えることはない。たとえ可能性は低いとみられるとしても、核兵器爆発のもたらす壊滅的結末を考えれば、危険性は容認しがたいものである。人的ミスやサイバー攻撃に対する核指揮統制ネットワークの脆弱性、高い警戒態勢に維持されている保有核兵器、前進配備、核兵器の近代化といった現状をもってすれば、事故、間違い、不認可あるいは故意の核兵器爆発の危険性があることは明白である。
  5. 国際的な対立や緊張関係の激化、そして核兵器保有国における現在の安全保障ドクトリンを考えれば、核兵器が使用されうる多くの状況があると考えられる。核抑止は核戦争の準備を必然的に伴うものであり、よって核兵器使用の危険性は現実味を帯びている。(略)核兵器爆発の危険性を回避するための唯一の保証は核兵器の完全廃棄にほかならない。
  6. いかなる国家あるいは国際機関であろうとも、人口密集地域における核兵器爆発がもたらす短期的な人道的緊急事態ないし長期的な結末に対して十分な対処を講じることは不可能であり、そのような能力はおそらく存在し得ない。
  7. さまざまな法的側面から核兵器の問題を見れば、保有、移転、製造、使用を普遍的に禁止する包括的な法的規範が存在しないことは明らかである。
  8. 核兵器爆発が起こった際の壊滅的な結末、そして核兵器の存在そのものに内在する危険性には、法的な議論や解釈のレベルを超えて、倫理面及び道徳面での重大な疑義が呈されている。

   このような認識は、今年4月から5月にかけて開かれた「15年NPT再検討会議」における議論にも大きな影響を与えた。非核兵器国の多くは、ウィーン会議で共有された、核兵器使用による「人道的結末」への認識をベースに、核兵器廃絶のための効果的な法的枠組みの確立を求めた。

   パン・ギムン国連事務総長は、「NPT再検討会議の成果に関する声明」で次のように述べた。「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結末をもたらすとの認識の拡大が、核兵器の禁止と廃絶を導く効果的措置を目指す緊急の行動を強制するものであり続けることを希望する」。「再検討会議」は最終文書の合意にいたらず決裂した。しかし、このような認識は、今後の核軍縮・核廃絶議論の基層を形成するものとなるであろう。

「国民保護」の虚妄を暴いた被爆都市・広島、長崎の「計画」

   ウィーン会議は「核兵器爆発による影響や結末に対処を講じることは、いかなる国家にも国際機関にも不可能である」と警告した。しかし、日本政府にそのような真剣な認識はない。04年に成立した「国民保護法」に基づいて、国はすべての地方公共団体に「国民保護計画」の策定を求めた。この時閣議決定された「国民の保護に関する基本指針」は、武力攻撃事態の1類型として「核兵器攻撃」挙げた。05年3月25日付の「指針」第1版は、「風下に避難する」、「汚染された可能性のある食物や水を摂取しない」など、もっぱら核爆発後の防御策を述べるのみであり、多くの人々が熱戦、爆風や初期放射線によって一瞬のうちに生命を奪われることは顧みられなかった。
   これに対して広島市は、シミュレーションに基づく独自の「核兵器攻撃被害想定」を行い、その結果を踏まえて「核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかない」との結論を述べた「計画」を、07年11月に策定した。 一方、長崎市は、07年1月に策定した「計画」で「核兵器攻撃」の項目の記載を行わず、「計画」の序章などで、「核兵器攻撃」を回避するための外交努力と兵器廃絶の国際世論形成のために主導的役割を果たすよう求めると同時に核兵器廃絶に向けた市としての決意を述べた。長崎市の計画案は、他都市の計画との整合性を求める長崎県との協議が難航し、長い間懸案とされてきたが、14年2月、原案のまま受理された。

   2つの被爆都市による「国民保護計画」は、核兵器攻撃に対処は可能であるという国の認識に対して、「国民を守るためには核兵器の廃絶しかない」という見識を明らかにした。これは「ウィーン会議」の討議を先取りするものとして、高く評価されるべきものである。

核抑止からの脱却と、核兵器廃絶こそが安全を守る

   「新ガイドライン」は、以上述べたように「核抑止依存」という誤った政策と原則を前提とするばかりでなく、核兵器による人道的結末への考察と思慮を欠いたものである。「新ガイドライン」の実効化によって国民の生命と安全を守るという「安保法案」の目的に偽りがないとすれば、今日本に求められているのは、「核抑止依存」から脱却するための具体的な行動の方向性を示すことだ。

   広島・長崎から70年の今年は、核兵器廃絶と軍事力依存の安全保障からの脱却への歩みを進める転換点とされるべきである。北東アジア非核兵器地帯構想のイニシアチブをとることは、その具体的な行動の一歩となりうるだろう。

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