2017年、平和軍縮時評

2017年08月31日

世界の核戦力の現状を知ろう―核兵器禁止条約を活かすために― 湯浅一郎

1)核兵器禁止条約の成立
 17年7月7日、核兵器禁止条約を交渉する国連会議は、投票124か国中、賛成122の賛成多数で条約を採択した。被爆者を初め、世界中の市民の悲願であった、非人道大量破壊兵器である核兵器を違法とし、禁止する条約がようやくできたのである。しかし、条約には、核兵器国、及び安全保障を核兵器に依存する国々(NATOや日本など)は参加していない。唯一の戦争被爆国として、核兵器の非人道性を最もよく知るはずの日本は、核保有国と禁止条約推進国との橋渡しの役割を果たすためとして参加していない。ともあれ、この案は9月20日にニューヨーク国連本部で署名開放され、50か国が署名・批准した後90日で発効する。2018年の早い段階で発効することになるであろう。
 しかし、誤解してはならないことは、残念ながら条約の発効は「核のない世界」へ向けての終わりの始まりに過ぎない。むしろ、これから禁止条約を「核兵器のない世界」実現への手がかりにする意志を持った市民の取組みが必須である。
安全保障を核兵器に依存する政策の保持にこだわる核兵器国は、安全保障に関わる国際環境を考慮すると時期尚早と核兵器禁止条約を全く相手にしようとしていない。それどころか、どの国も核戦力の近代化を続けている。本稿では、世界の核戦力の現状を概観する。 「核のない世界」実現のためには、これらとそれに依存する努力をゼロにせねばならないのである。

2)世界の核戦力の現状;概観
 2010年ころから核弾頭について公的な情報が出はじめたとはいえ、まだまだ公開性は不十分である。2015年NPT再検討会議では、核兵器国が不十分ながら統一様式で核兵器政策の報告書を提出した。しかし、核兵器の定量的データは含まれていない。米国政府は10年5月3日、全備蓄核弾頭数の年ごとの変遷を公表し、その後は、ほぼ毎年、それをアップデートしてきた。また、米国は11年3月1日から半年ごとに戦略兵器削減条約(START)交換データにおける運搬手段の内訳と核弾頭総数をすべて公表しているが、ロシアは条約義務で米国に提供している内訳情報を一般公開しないよう米国に求めている。フランス政府は、08年3月21日に核弾頭の総数を300発以下に減らす予定と発表したが、15年2月9日、オランド大統領(当時)は、300弾頭の現状のほか、空中発射巡航ミサイルの総数(54発)を公表した。英国政府は、10年5月26日、議会に対して備蓄核弾頭は将来225発を超えないと発表していたが、15年1月20日、議会で作戦配備弾頭を120発に削減したと発表した。
 15年4月27日の米国防総省ファクトシートは、弾頭の保管状態を「活性状態」と「不活性状態」に大別している。前者はそのまま使用できる弾頭であり、後者は時間が経過すると劣化するトリチウムや電池などを除いて貯蔵している弾頭である。これらの点を含めて、米国で明らかになっている弾頭の分類方法は以下である。
戦配備の弾頭;部隊に配備・貯蔵されている活性状態の弾頭。(ただし、オーバーホール中の原潜の核弾頭は作戦配備に含めない。)
(2)兵站予備の弾頭;ルーチン整備・検査のために確保されている活性状態にあるスペアである。
(3)予備貯蔵の弾頭;活性、不活性を含め、再使用の可能性を想定して貯蔵しているもの。作戦配備から外した核弾頭の中でも情勢の変化によって復活させることを前提として活性状態で貯蔵する迅速対応戦力もこれに含めた。
(4)退役弾頭 運搬手段から外され解体を前提に保管されている核弾頭。
 この分類が、他の国でどこまで通用するかは、必ずしも明らかではないが、ある程度共通性があると考えられる。世界地図と総表に世界の概況を示したが、以下、各国の核戦力を概観する。



3)国ごとの核戦力
1.米国
 米国の核戦力はもっとも透明性が高い。2010年5月、保有核兵器に関するファクトシートを発表し、2009年9月現在、備蓄核弾頭は5,113発であるとし、その後、2014年からはほぼ毎年、アップデートしている。最新は2017年1月のもので、2016年9月30日現在、4,018発である。7年間で1,095発が削減されたことになる。備蓄核弾頭のうち作戦配備は1,800発で、戦略核弾頭1,650発と非戦略核150発の合計である。この内、非戦略核150発は、欧州のベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコに配備されている。戦略核弾頭は、大陸間弾道ミサイル(ICBM),潜水艦発射弾道ミサイル( SLBM),及び航空基地に配備されている。残りの約2200発が作戦外貯蔵である。備蓄核弾頭は、2016年9月より更に削減が進んで4,000発と見込み、これに退役・解体待ち2,800発を加えた6,800発が米国の核弾頭総数である。
 現在、米国は核兵器体系の一大近代化計画を進めている。保有する7種類の巡航ミサイル弾頭・核爆弾を各1種類に、また2種類のICBM弾頭と3種類のSLBM弾頭を3種類の共用弾頭に作りかえて予備弾頭を大幅に減らす計画である。これらに加えて戦略原潜や戦略爆撃機のリプレイスなどが行われ、2017年から26年会計年度の間に4000億ドルが投入される見込みであり、今後30年間の費用は1兆ドルと見積もられている。
 また米国が昨年実施した弾道ミサイル発射テストは ICBMミニットマンⅢが計3回、SLBMトライデントⅡが計4回である。

2.ロシア
 ロシアの核戦力は米国,フランス,イギリスと異なり,かなり不透明である。さらに米ロ間の新 START条約に基づくデータについてもロシアは米国と異なり,配備/非配備の発射台数の内訳を公表していない。2017年3月1日現在で公表されているロシアの戦略核の配備発射台及び配備弾頭数は、それぞれ523基、1,765発である。また15分以内で発射可能となる警戒態勢(ハイアラート)にあるロシアの弾道ミサイルは約160基,搭載弾頭約900発で,その多くが ICBM と推定される。
 ロシアは旧ソ連時代に配備され旧式となったSS-19,SS-25 の ICBM を新型のSS-27M2で順次置き換えて2020年までに完了させる計画である。戦略原潜及び SLBM も,最新のボレイ型原潜及び新型SLBMブラバですべて置き換える計画である。爆撃機及び巡航ミサイル、さらには非戦略核兵器とその運搬手段についても近代化が進められている。16年にロシアが実施した弾道ミサイルの発射テストは、ICBMが5回、SLBMが4回である。

3.英国
 英国はNPT加盟核兵器国のなかで最も核保有量が少ない。2010年5月26日、英政府は唯一の保有核兵器であるトライデント用備蓄弾頭数は将来225発を超えず、また、作戦に供する核弾頭数は160発以下であると議会に対して発表。2010年10月19日、英国「戦略的防衛及び安全保障の見直し(SDSR)」は225発という上限を再確認するとともに、2020年代中頃までに弾頭数は180以下に削減すると述べた。2015年、議会で作戦に供される核弾頭は120発に削減した(2015年1月20日)と明らかにされた。英国は唯一の保有核兵器を次世代版へと更新する計画を実行中である。次世代戦略ミサイル原潜「ドレッドノート」は2011年に設計段階に入り2030年代に1隻目が就役予定。搭載弾頭の生産を2019年に決定する予定。現在のトライデント運用費用は年間約20億ポンド(約2900億円)、代替原潜の建造費用は310億ポンド(約4.5兆円)と見積もられる。

4.フランス
 大枠となる弾頭数について公的情報がある。2008年3月21日、サルコジ大統領(当時)が「300弾頭以下に削減する」と発表したのに続いて、2015年2月19日にはオランド大統領(当時)がその完了を含め現状を確認した。2015年NPT再検討会議に提出した報告書で、弾頭数が300以下であること、潜水艦発射弾道ミサイル数が1隻あたり16基で3隻分あること、空中発射核巡航ミサイル数が54発であることなどを再確認した。フランスは新世代の戦略原子力潜水艦(SSBN)、それに搭載するSLBM、航空機に搭載する新世代巡航ミサイルと、すべての核兵器の近代化を行っている。政府は毎年の核兵器予算は約46億ドルとしている。

5.中国
 中国は、NPT加盟核兵器国の中で唯一、弾頭数を増やしている。しかし、増加の速度は緩やかで、従来の核戦略の延長上にある変化と考えられる。地上配備弾道ミサイルの一部の多弾頭化に起因するところが大きい。多弾頭化はミサイル防衛に対抗する手段とされる。中国は一貫して核兵器の先行不使用政策を取っており、そのために報復核戦力の生き残り可能性を強める兵器近代化に取り組んでいる。量ではない部分で、多弾頭化の進行や戦略原子力潜水艦の抑止パトロールの開始に伴う今後の動向に注目する必要がある。また中国の核兵器に関する透明性の向上が求められる。米本土に届く長距離弾道ミサイルは、約75発である(DF-5A、DF-5B、DF-31A)。

6.インド
 2017年9月現在、インドの保有核弾頭総数は120-130と推定される。インドの核兵器はプルトニウム型と見られ、2014年末現在、兵器級プルトニウムを約590kg保有している。核爆弾1発の製造には(技術レベルなどにも影響されるが)4-6kgのプルトニウムが必要であることから、これは核弾頭およそ95-142発分に相当する。しかし技術力が高ければ、2-4kgのプルトニウムで核爆弾1発の製造が可能とされており、その場合、約590kgの兵器級プルトニウムは核弾頭およそ147-295発に相当する量となる。弾頭は配備されておらず、中央貯蔵施設に置かれていると見られる。

7.パキスタン
 2017年9月現在、パキスタンの保有核弾頭総数は約140と推定される。2014年末現在、パキスタンは約190 kgの兵器級プルトニウムと約3,000 kgの高濃縮ウラン(HEU)を保有している。核爆弾1発の製造には12-18kgのHEUあるいは4-6kgのプルトニウムが必要であることから、パキスタンは204-305発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる。しかし技術力が高ければ、2-4kgのプルトニウムで核爆弾1発の製造が可能とされており、その場合、パキスタンが保有する核分裂性物質は、核弾頭およそ220-353発に相当する量となる。弾頭は配備されておらず、中央貯蔵施設に置かれているとみられる。

8.イスラエル
 2017年9月現在、イスラエルの保有核弾頭総数は80と推定される。2014年末現在、イスラエルは約300kgの高濃縮ウラン(HEU)と約860 kgの兵器級プルトニウムを保有している。核爆弾一発の製造には控えめに見ても12-18kgのHEUあるいは4-6kgのプルトニウムが必要であることから、イスラエルは159-240発の核爆弾に相当する核分裂性物質を保有していることになる。
 イスラエルは核兵器に関して「曖昧政策」、すなわち核兵器保有について否定も肯定もしない公式政策をとり続けている。1979年9月22日、南アフリカ近海の南インド洋はるか上空で、秘密裡に核実験が行われたとの説がある。イスラエルも核弾頭と地上発射ミサイルを分離して保管していると見られるが、国外に展開する潜水艦においては核弾頭を搭載している可能性がある。

9 北朝鮮(DPRK)
 北朝鮮は積極的な核兵器開発を継続しているが、具体的な保有核弾頭総数についてはさまざまな見方がある。北朝鮮は、2006年10月、2009年5月、2013年2月、2016年1月及び9月、更に2017年9月と、これまでに6回の核実験を実施したが、北朝鮮が核弾頭を作戦配備していることを示す公開情報は存在しない。一方、多くの非政府機関の分析が、北朝鮮は弾頭小型化などの技術段階に達しているとの見方をしている。6度の核実験を行い、弾頭の爆発力の増大や小型化、ミサイルの射程距離の拡大、再突入テストの成功などを宣伝し、核保有国であると主張している。これらの第三者による検証は困難であるが、16年以降、核・ミサイル技術の飛躍的向上が見られ、核搭載をめざしたミサイル技術の向上は共通の認識になってきている。兵器化に関しては情報がない中、核弾頭数は20発以下とした。

4)おわりに
 以上、NPT非加盟の核兵器保有国であるインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を含めると、地球上には今なお14,930発を超える核弾頭があり、オーバーキル状態は変わらない。米ロの合計13,800発は、全体の約93%を占める。NPT上の5核兵器国とNPT外の4か国で、それぞれ事情は異なっているとはいえ、「核兵器のない世界」をつくっていくためには、深刻で複雑な状況が続いている。CTBT(包括的核実験禁止条約)の発効、FMCT兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉開始すらめどが立っていない。こうした状況を動かしていくためにも、核兵器禁止条約をつくった国際的世論の力で、核保有国を包囲していくような構図をいかに強めていくかが問われている。その際、「唯一の戦争被爆国」としての日本の姿勢は極めて重要な位置を占めていることを肝に銘じねばならない。

*出典は詳細には書かなかったが、「ニュークリア・ノートブック」(『ブレチン・オブ・ジ・アトミック・サイエンチスツ』に連載)を基本にした。より詳細は、『核兵器・核実験モニター』526-7号(2017年9月1日)参照。

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