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核不拡散条約(NPT)での成果を骨抜きにする国連総会「日本決議」 山口大輔

核兵器禁止に逆行する日本の核政策
核不拡散条約(NPT)での成果を骨抜きにする国連総会「日本決議」 山口大輔

2018年1月31日

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 17年10月27日、第72回国連総会第1委員会(軍縮)で日本ほか46か国を共同提案国とする決議案L.35「核兵器の全面的廃絶に向けた、新たな決意のもとでの結束した行動」いわゆる日本決議が採択された。過去20年以上にわたり毎年、提出されている本決議は、日本の核兵器政策を占う上で重要な指標となるものだが、人道イニシャチブによる核兵器禁止条約(TPNW)が7月7日に締結され、9月20日に署名解放された後に提出される初めての決議案という重要な節目の決議案となることから、今後に向けて重要な意味を有している。まずTPNWに言及していないため、禁止条約に積極的な国は多くが棄権に回るという予測があった。その意味では棄権は予想されたほど多くはなかった。禁止条約に言及しなかったことは大問題だが、過去の核不拡散条約(以下、NPT)合意すら後退させようとする試みが露呈した。ここには今後の日本政府の針路にとって深刻な問題が含まれている

NPT合意を骨抜きにし、米国におもねる
  日本決議案L.35の投票結果は、賛成144、反対4(中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ロシア、シリア)、棄権27であった。昨年の同決議は賛成167、反対4、棄権16で採択されたから、賛成が23減り、棄権が11増えたことになる。注目したい国々の投票行動を表にまとめた。投票は決議全体に対するものの他、問題となる個々の節についても行われたのでそれも掲載した。

 今年、賛成国がなぜ減ったのか、その理由を大きく4つあげる。
 第1は、多くの報道でも指摘されているとおり、核兵器禁止条約への言及が全くないことである。日本政府は核兵器の廃絶という究極の目標に向かうアプローチが禁止条約と異なると説明してきた。それどころか、むしろTPNWは有害であると主張してきた。今回の日本決議案はその考えに基づくものであろう。しかし、否定的な文言を使わずに無視をする方針をとった。 
 第2は、主文2節で、昨年までは決議文にあった、「保有核兵器の全面的廃絶を達成するとした核兵器国による明確な約束」という文言が、「核兵器国はNPTを完全に履行するという明確な約束」に置き換わったことである。この「核兵器国による明確な約束」は国際世論を背景に新アジェンダ連合(NAC)●1がリードして2000年のNPT再検討会議で核兵器国も巻き込んで採択され、NPT体制における最高の到達点である。これを換骨奪胎した文言に変えることはNPTを基礎にした核軍縮努力への重大な挑戦である。棄権した国のみならず日本決議案に賛成した国ですらこの点を指摘した。例えば、全体として日本決議に賛成したスウェーデンとスイスは、投票理由でこの点について懸念を表明した。
 第3は、前文19節と主文8節の「いかなる核兵器の使用による人道上の結末にも深い懸念を表する」から「いかなる」が消え、ある一定の使用には人道上の結末に懸念がないとの解釈を可能にしてしまったことである。「いかなる使用」という文言もまた2010年NPT最終文書における重要な合意事項であり、その意義を減じることは許されない。上記のスウェーデンとスイス、ニュージーランドも投票理由でこの点について懸念を表明した。
 第4は、日本が力を入れてきた包括的核実験禁止条約(以下、CTBT)の発効についてさえ、主文19節と21節においてNPT合意の要求を後退させたことである。NPT合意の2010年行動計画においては、核兵器国が率先して批准することが発効に効果的であると述べて、暗に米国と中国に批准を要求した。そして、昨年までの日本決議は、CTBT第2議定書で規定される発効要件国の中で、未批准の8カ国●2全てに対し、CTBTへの署名批准を求めてきた。ところが、今年の決議ではそのうち朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)に対してのみ名指しの要求をして、それ以外の7か国にCTBT加盟を促すことをやめてしまった。上記の国々の他にニュージーランドやリヒテンシュタインなども投票理由説明でCTBT問題で過去の蓄積を後退させたことを批判した。これは、余りにも評判が悪く、途中で修正され、CTBT未加盟の8か国が署名批准を促されてきたことを「想起し」、という文言が本文21節に付け加えられた。

それでも賛成国が多いのは何故か?
 批判された諸点は、日本が単に核兵器禁止条約に否定的であるだけでなく、NPT再検討過程の到達点さえも骨抜きにする意図を窺わせる。日本がNPT重視を強調していることにすら疑念が生まれた。このことが、今回の決議案に米英が共同提案国となっていることと関係があるとすれば、それは由々しい問題である。
 そのような日本決議案になぜ多くの国が賛成するのだろうか?
 第一に掲げたいことは、被爆国日本の広範な世論が核兵器廃絶を求めており、その世論を代表する日本政府への期待が続いているということである。決議案の後退に懸念を表する国々であっても、投票理由の中で長年日本が核廃絶のために示してきた努力を想起したり、来年の決議案では後退した点を改善するように注文を付けていたのが印象的であった。日本政府はこの背景を見誤ってはならないし、国際社会の期待を裏切ってはならない。
 第二に、投票した多くの国々が、NPT再検討過程で積み上げてきた核軍縮合意の重さについて、必ずしも十分な認識を持っている訳ではないであろう。上述したような国々は核軍縮に熱心な国々であり今回の日本決議案に懸念を示さざるを得なかった。しかし、表面的な文言のみによって賛成する国が多数であるという現実も忘れてはならない。それらの国々は経済大国日本との関係に最大の関心があるかも知れない。
 この点に関連しては、TPNWにすでに署名している「先進的」51か国●3のうち、40か国が今回の日本決議に賛成していることにも注目しておきたい。

ピースデポ、外務大臣へ修正を要請
 上記の認識に基づき、11月22日、ピースデポは外務省を訪問し、河野外務大臣宛に「第72回国連総会における日本決議に関わる要請書」を提出した。この中で日本政府が推進する核兵器保有国・依存国と非核兵器国の間に橋をかける役割を支持し、TPNWを推進する立場の国々への理解を求め、TPNWが成立した現実の上に日本の安全保障政策を構築することを提案した。また日本政府が主張するNPT再検討過程を中心とした核軍縮が実現できるよう、NPT合意事項から後退した日本決議の国連総会本会議での修正を求めた。さらに18年NPT準備会議か国連ハイレベル会合で日本独自の核軍縮分野における具体的な達成目標を立てるよう要請した。その一つとして、新START以後の米ロの戦略兵器削減条約の交渉が始まることが極めて重要であろう。今回の日本決議案にも主文第9節において、そのことが一般的に述べられているが、これをさらに具体化して、米ロ間の意見調整を図るハイレベルの有識者による国際調整委員会の設置など国連レベルでの努力を提案することを求めた。対応した川崎審議官は、この提案には、前向きな反応を示した。
 2017年の日本決議は、残念ながら歴史的にも恥ずべきものとなった。2018年2月3日、トランプ政権は、2010年から8年ぶりに、米国の核兵器政策の有り方を規定する核態勢見直し(NPR)を発表した。ここには、局地攻撃を想定した小型核兵器や、艦艇から発射できる新型の巡航ミサイルの開発が盛り込まれ、核兵器の役割を中心にすえて安全保障政策を再構築することが示されている。日本政府はトランプ政権の核兵器政策を配慮し、米国が賛成することを主眼に置いて、それに対応した日本決議案をひねり出した可能性が高い。日本が、このまま、核兵器の廃絶を心より願う唯一の戦争被爆国としてでなく、核抑止力に信を置く核兵器保有国の代弁者、擁護者になってしまうことを強く懸念する。この背景に米国の核の傘に頼る日本の安全保障政策が作用していることは間違いない。TPNWが採択され、発効へ向けた努力が続いている中で、日本の核政策の転換が求められている。その端的な目標が米国の核の傘に依存せず、北東アジア非核兵器地帯設立を検討することである。


●1 ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ
●2 米国、イスラエル、イラン、エジプト、中国、インド、パキスタン、北朝鮮
●3 17年11月初め時点。国連総会で投票権のないバチカンとパレスチナを除く。

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