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―2つの首脳合意の履行を監視しよう―
湯浅一郎

北東アジアの平和と非核化への好機を活かそう
―2つの首脳合意の履行を監視しよう―
湯浅一郎

2018年8月31日

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 2017年、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の核・ミサイル開発の飛躍的な技術的進展、軍備拡張を主張する米トランプ政権の登場が相まって、かつてなく軍事的緊張が高まっていた。日本では、北朝鮮が核・ミサイル開発を進める背景が何かという視点が全くないまま、一方的に北朝鮮を悪者扱いする風潮が社会を覆っていた。朝鮮半島が南北に分断されたままであることの意味を理解せず、朝鮮戦争は終わっておらず、停戦協定でしかなく、北朝鮮がいつ攻撃され、一方的につぶされるかもしれないという脅迫感があるという状況は無視されていたのである。
 しかし韓国の文政権の誕生で、ピョンチャン(平昌)五輪への北朝鮮参加を契機にその構図から抜け出す道が動き出した。今、北東アジアの平和と非核化が大きく前進する環境が生まれている。このチャンスを活かせるかどうかは、北東アジアの平和と非核化という地域的な懸案の前進のみならず、グローバルな非核化や平和にとっても大きな意味を有している。
 
1)北東アジアの平和と非核化の基礎となる2つの首脳宣言
 4月27日、板門店において南北首脳会談が行われ、38度線を挟んで両首脳が握手をかわした。65年にもわたり継続した南北分断が、ようやく無くなっていくことを象徴する感動的な場面であった。朝鮮戦争を終わらせることができれば、欧州で1990年頃起きた米ソ冷戦の終結が、ようやく北東アジアにおいても具体化することになる。
 そして、あげられた「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」は、冒頭で「両首脳は、朝鮮半島でこれ以上戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを8000万のわが民族と全世界に厳粛に宣言する」とした。朝鮮半島に生きる南北がこのように宣言したことこそ、今回の南北首脳会談の最大の成果であり、意義である。
 共同宣言には、3つのことが明記された。

  1. 南と北は南北関係の全面的で、画期的な改善と発展を遂げることで、断たれた民族の血脈をつなぎ、共同繁栄と自主統一の未来を前倒ししていく。
  2. 南と北は朝鮮半島で先鋭な軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するため、共同で努力していく。
  3. 南と北は朝鮮半島の恒久的で、強固な平和体制の構築のために積極的に協力していく。朝鮮半島で非正常的な現在の休戦状態を終息させ、しっかりとした平和体制を樹立することは、これ以上先送りできない歴史的課題である。

 合意3は、「南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のため、南北と米国の3者、または南北と米国、中国の4者会談の開催を積極的に推進していく」とした。そして、「完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した」とする。
 南北首脳会談の最大の意義は、当事者である2国が、共に暮らす朝鮮半島を戦場にさせないということ、朝鮮戦争の終結に向け共同で取り組むことに合意し、それを前提として「朝鮮半島の完全な非核化」を共通の目標として確認したことである。
 しかし、そもそも南北だけでできることには限りがある。板門店宣言の特徴の一つは、当事者である2国が、朝鮮戦争の終結や、「完全なる非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現する」等、2国だけではできないことを共同の目標として確認し、その実現へ向け「南北で協力する」としたことであるが、米国の関与がなければ、ほとんど前進しない。
 その意味で、米朝首脳会談の行方が注目され、一旦は中止ということになったが、6月12日、トランプ大統領と金正恩北朝鮮国務委員長は、シンガポールにおいて史上初の米朝首脳会談を行い、共同声明を発出した意義は計り知れない。声明は、両首脳が「新たな米朝関係確立と、朝鮮半島における永続的で強固な平和体制構築に関連する問題をめぐり、包括的で掘り下げた、そして真摯な意見交換」を行い、「トランプ大統領は朝鮮に安全の保証を提供することを誓約し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に取り組む断固とした揺るぎない決意を再確認した」とし、以下の4項目を確認した。

  1.    双方の国民の平和と繁栄を希求する意思に基づき、新しい米朝関係を構築することを約束する。
  2.  米朝両国は、朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築に共同で努力する。
  3.   「板門店(パンムンジョム)宣言」を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け努力することを約束する。
  4.   既に身元が確認された人を含め、戦争捕虜や行方不明塀の遺骨回収に努める。
    北朝鮮の建国から70年、銃口を向けあい、共に対立してきた米朝の首脳が歴史上初めて会談し、包括的な目標に合意した意義は歴史的である。


 その後の米朝協議は、朝鮮戦争の終戦宣言をめぐって意見が合わないなど必ずしもスムーズではない。しかし、停戦協定締結65年周年の7月27日、朝鮮戦争時の米兵の遺骨55柱を載せた米輸送機が北朝鮮から在韓米軍烏山(オサン)空軍基地に到着した●4。他に150柱が保管されているが、5000柱以上が見つかっていない。米朝共同声明の合意の一つの履行が具体的に始まったことになり、米ホワイトハウスのサンダース報道官は、「金正恩委員長は、大統領との約束の一部を果たした」と評価した。これらの経過からは、6.12共同声明の下で米朝協議を進めていくこと自体に赤信号がともったわけではない。

2)韓国民衆の闘いが流れを変えた
 ここに至る経緯を振り返っておこう。2017年5月10日、韓国に市民が選んだ文政権が登場した。直後の7月、文大統領はベルリンで演説し、包括的な「新朝鮮半島平和ビジョン」を提案する。
9月、国連総会演説で文大統領は、以下のように話した。
 「その戦争(朝鮮戦争)は未だに終結していません。世界的な冷戦構造の産物であったその戦争は、冷戦が解体された後も、また停戦協定が締結されてから64年も過ぎた現在も、不安定な停戦体制と北東アジアの最後の冷戦秩序として残っています。」
 「戦争を経験した世界唯一の分断国家の大統領の私にとって平和は人生の使命であり、歴史的な責務です。私は、ロウソク革命を通して戦争と紛争の絶えない世の中に平和のメッセージを送ったわが国民を代表しています。」
 その上で、北朝鮮の核問題の根本的解決には、「多国間主義に基づいた対話を通じて世界平和を実現しようとする国連の精神が最も切実に求められている」とし、演説の最後で「北朝鮮の平昌(ピョンチャン)オリンピックへの参加を心から歓迎」すると呼びかけた。
 この時、6回目の核実験や弾道ミサイル発射が繰り返されることを念頭に、演説の中で、トランプ大統領は、金正恩を「ロケットマン」と揶揄し、「米国とその同盟国を守らなければならないときは、北朝鮮を完全に破壊する選択しかない」と述べ、安倍首相は「対話とは、北朝鮮にとって、我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」、北朝鮮の非核化のために「必要なのは、対話ではない。圧力なの」だと述べている。こうした中で、文大統領の演説は、最も本質を突き、建設的な提案であった。
 そして18年1月1日、金正恩DPRK国務委員長が、年頭演説で平昌オリンピックへの参加の意思を表明し、南北間の軍事的緊張を緩和し、朝鮮半島の平和な環境を整えようと提案する。その後、首脳特使の相互派遣を通じて、3月6日には、板門店での南北首脳会談の開催、首脳間のホットライン設置などに合意する。金正恩の米朝首脳会談の提案は、訪米した韓国特使を通じてトランプ大統領に伝えられ、トランプ大統領は3月8日受託を即答した。こうして、4月27日の南北首脳会談、5月7-8日、中朝首脳会談、5月9日、日中韓首脳会談などを経て6月12日の史上初の米朝首脳会談と首脳会談が続いたのである。
 こう見てみると、緊張と対立の局面を対話と和解へと転換させたのは、文政権であることが分かる。そして、17年9月の国連総会演説で、文大統領が、「戦争を経験した世界唯一の分断国家の大統領の私にとって平和は人生の使命であり歴史的な責務です。私はロウソク革命を通して戦争と紛争の絶えない世の中に平和のメッセージを送ったわが国民を代表しています」と述べたように、文政権は、韓国民衆の闘いが産み出したものである。とすれば、流れを変えた原動力は、韓国民衆の闘いにあるといっていい。これは、民衆の声が状況を動かしていくことを実証する画期的な経験である。

3)今こそ北東アジア非核兵器地帯の設立を求める世論を
 朝鮮半島の非核化を含む北東アジアにおける平和と安全保障環境が大きく変わろうとしている新たな画期的状況において、市民社会に求められることは何か。
 まず米朝共同声明と南北板門店宣言という2つの合意の到達点を確認することが肝要である。板門店宣言は「南と北は、停戦協定締結65年になる今年、終戦を宣言し、停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で堅固な平和体制構築に向けた南北米3者または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していく」とする。そして「完全なる非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現する」という共同の目標を確認した。これは、「北朝鮮の非核化ではない」。これによって、朝鮮半島の完全な非核化への努力が始まっているが、これは必然的に北東アジア非核兵器地帯の設立への新たな局面を産み出している。
 「朝鮮半島の完全な非核化」には2つの要素がある。第1は、北朝鮮の「完全、かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」である。北朝鮮の核の放棄に対しては、米国が消極的安全保証を約束する。第2は、米国の「核の傘」に安全保障を依存する韓国の政策も同じようにCVIDが実現された状態にすることである。韓国の「核の傘」は北朝鮮に対してのみならず、中国とロシアに対しても必要とされていた。したがって、韓国は北の核からの安全のみならず、中国とロシアの核からの安全の保証を必要とする。これを国際条約として実現するためには、朝鮮半島の南北2か国が非核兵器地帯となり、米中ロが消極的安全保証を約束して、5か国で「朝鮮半島非核兵器地帯(KP-NWFZ)条約」をつくるということになる。2つの宣言で合意したことを履行すれば、このような目標に向かって協議が進むことになる。
 ところが、北朝鮮に対する米国による安全の保証と在韓米軍の非核化の検証は、在日米軍を含めての安全の保証と非核化の検証に発展せざるをえない。従って5か国での「朝鮮半島非核兵器地帯」を設立する取り組みは、在日米軍の存在によって、それだけで閉じることのできない問題に直面する。現状のままであれば、北朝鮮にとって在日米軍による核の脅威から自由になることはできない。つまり、日本を抜きにした5か国による朝鮮半島非核兵器地帯は不十分であり不安定であり続ける。その意味で、日本政府が積極的に名乗り出て、日本を含む6か国の北東アジア非核兵器地帯の形成を提唱することが、大きな意味を持つことになる。それは、日本の核武装への懸念を払しょくすることにもなる。
 日本政府を動かすためには、北東アジア非核兵器地帯の設立を訴える日本の世論を強めるという王道以外にはないであろう。これまで、ピースデポは、20年以上にわたり北東アジア非核兵器地帯について、スリー・プラス・スリー構想を提案し続け、日韓の市民団体の協力、日韓国会議員との連携、日本の自治体首長への働きかけ、日本の宗教指導者への働きかけなどの取りくみを進めてきた。今こそ、その蓄積を基礎に、より大きな世論形成を進めてゆきたい。
 さらに言えば、日本政府は、この機会を新しいアジア外交の起点と位置付け積極的に取り組むべきである。その際、日朝関係改善の基礎として依拠すべき第1は「日朝平壌宣言」(2002年9月17日)である。第2は「北朝鮮及び日本国は、平壌宣言に従って、不幸な過去および懸案事項を解決することを基礎として、関係を正常化するための措置を取る」と合意した6か国協議の9・19声明である。政府に求められることは、現在の機会は、日本が必ず解決せねばならない北朝鮮との「戦後処理」、「従軍慰安婦」問題を初め、関係正常化への好機ととらえ、これらに真摯に対処する姿勢を示さねばならない。1910年の韓国併合から始まった植民地政策に伴う加害の歴史に関し、韓国や中国には一定の清算をしているが、北朝鮮に対しても責任の有る対処をすべきであり、その上で国交正常化をめざしてほしい。拉致問題の解決も重要な懸案の一つであるが、政府は、核・ミサイル、拉致問題に限定するのでなく、より根本的、包括的な取り組みへの強い姿勢を求めたい。

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