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―土砂持ち込みによる外来生物の侵入防止―
湯浅一郎

生物多様性国家戦略に反する辺野古埋立てと土砂持ち込み
―土砂持ち込みによる外来生物の侵入防止―
湯浅一郎

2018年9月30日

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 18年9月30日、沖縄県知事選挙は玉城デニー候補が圧勝した。菅官房長官や二階自民党幹事長など大物を投入し、公明党も全国から大動員をかけた中で、これだけの大差がついたことは、沖縄の人々が、亡くなった翁長知事の遺志に強く共感していた証左であろう。これにより辺野古新基地建設が止まるわけではないが、それでも闘う基盤ができたことは間違いない。この知事選の結果は、辺野古新基地建設に新たな局面を産み出した。その中心的テーマである大浦湾側の軟弱地盤問題を概観したうえで、土砂搬入の問題点を生物多様性という観点から整理する。

(1)辺野古埋立ては、大浦湾の軟弱地盤問題で頓挫する
 7月27日、沖縄県の翁長知事が、米軍普天間基地の移設先とされる名護市辺野古周辺の埋め立て承認を撤回する考えを明らかにした。事業者である沖縄防衛局の聴聞を経て、8月半ばには正式に手続きを終えると予想された。しかし、8月8日、翁長知事は、罹患したすい臓がんのため急死する。表明した公約を遂行途上での悔やんでも悔やみきれない事態であった。それでも、沖縄県民の多くは、翁長知事の意志を引き継ぐとの決意のもと、8.11県民大会には約7万人が集まった。この場で、謝花副知事は、翁長知事の意志に基づいて、埋め立て承認の撤回を進める決意を改めて表明した。そして、8月31日、沖縄防衛局の聴聞を受けて、承認の撤回に踏み切った。
そうした中で、沖縄県知事選挙は文字どうり天王山であった。この結果こそ、新基地建設の行方を左右する。国の方針に沿って対応する知事が生まれれば、辺野古埋立を止めることは非常に苦しくなる。逆に翁長知事の意志を引き継ぐ側が勝てば、計画を頓挫させられる可能性が出てくる。その根拠が以下の軟弱地盤問題である。
 2014-15年度に防衛省により行われた海底ボーリング調査から大浦湾最深部のケーソン護岸の基礎地盤が、「当初想定されていないような」、「非常に緩い、柔らかい」軟弱地盤だということがわかっている。ある地点では、水深30mの海底部が厚さ40mにわたって地盤の支持力を示すN値がほぼゼロであった。N値とは、標準貫入試験による地盤の支持力を示す数字で、ボーリング調査の孔にサンプラーを置き、重りを落としてサンプラーが30cm食い込むための打撃数である。大型構造物の基礎地盤とするには、N値は50以上が必要と言われる。N値がゼロというから、サンプラーと重りをセットしただけでズブズブと沈んでしまう。大浦湾のケーソン護岸の延長1800mにわたってこうした軟弱地盤が拡がっていて、このままでは大型ケーソンが設置できない。このような軟弱地盤では、捨石を投下しただけで、捨石はそのまま40mほど沈んでしまうのだ。厚さ40mもの「マヨネーズ」のような軟弱地盤の上に、大量の捨石を投下し、巨大なケーソン護岸を設置するためには、大規模な地盤改良工事を行わない限り不可能である。仮に改良工事を実施するとしても、莫大な費用と時間、そして周辺にきわめて深刻な環境破壊を与える。そして何よりもケーソン護岸の構造変更、地盤改良には、公有水面埋立法に基づく知事への設計概要変更申請が必要となる。それを知事が承認しなければ、その時点で工事は頓挫する。この事情を考えると知事選の結果は、決定的な意味を持つ。
 この新局面を、さらに強めるべく、埋立てという行為そのものの妥当性は厳密に検証されておくべきである。本稿では、埋立てとそのための土砂採取及び持ち込みが、生物多様性の保持・回復という観点から3つの意味で違法であることを示したい。その上で、土砂持ち込みを止める可能性がある特定外来生物の持ち込みについて検討したい。

(2)生物多様性国家戦略
 辺野古埋め立てとそのための土砂搬出問題を考えるにあたっては、2012年9月28日に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」を踏まえることが重要である。同戦略は、生物多様性条約と生物多様性基本法に基づき、「生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国の基本的な方針」を示したもので、国は、この戦略を守り、推進する責務を有している。
 「生物多様性条約」とは、1992年6月、リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」(地球サミット)において、世界規模での環境保全の機運が高まる中、国際的な生物多様性の保全を目的として作られた条約である。会議開催期間中に日本を含む157か国が署名し、1993年5月発効した。2016年12月現在、194か国とEU、パレスチナが締結している(米国は未締結)。
 同条約では、生物多様性を「全ての生物の間に違いがあること」と定義し、生態系、種、遺伝子という三つのレベルでの多様性があるとしている。生態系の多様性とは、干潟、サンゴ礁、森林など色々な型の生態系がそれぞれの地域に形成されていることである。種の多様性とは、いろいろな動物、植物などが生息・生育していることで、世界には、すでに知られているものだけで約175万種、まだ知られていない生物を含めると約3000万種とも言われる種の存在が推定されている。遺伝子の多様性は、同じ種でも、固体や個体群の間に遺伝子レベルでの違いがあることである。これらの違いは、長い進化の歴史において受け継がれ、作り上げられてきたものであり、それが、地球上の「いのち」と私たちの「暮らし」を支えている。
 日本は同条約にもとづき1995年10月、第一次生物多様性国家戦略を策定し、2008年6月、生物多様性基本法を施行する。その前文には、「今日、地球上には多様な生物が存在するとともに、これを取り巻く大気、水、土壌等の環境の自然的構成要素との相互作用によって多様な生態系が形成されている。人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている」と格調高く、基本理念が掲げられている。
 そして、2010年10月、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催された。この会議において,日本は議長国として重要な役割を果たし、2011年以降の新たな世界目標として「生物多様性戦略計画2011-2020」(愛知目標)が採択された。同計画は、2050年までの長期目標(Vision)として「「自然と共生する」世界を実現すること」を掲げた。同時に2020年までの短期目標(Mission)として「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する」ことを掲げた。そして短期目標を達成するため5つの戦略目標と、その下に位置づけられる2015年又は2020年までの20の個別目標を定めている。
 個別目標では、例えば、目標11として「陸域の17%、海域の10%が保護地域などにより保全される」、目標9として「侵略的外来種が制御され、根絶される」などがある。これらを背景として閣議決定されたのが,2012年の第五次の「国家戦略」である。
また、各都道府県は、生物多様性基本法の第13条に基き生物多様性地域戦略を策定するよう奨励されており、既に39都府県が策定している。今回、土砂搬出が予定される沖縄、鹿児島、熊本、長崎、福岡、山口、香川県と土砂搬出予定地の各県すべてで策定済みである。

(3)生物多様性国家戦略に反する辺野古埋立と土砂搬入
 辺野古新基地は、辺野古側のサンゴ礁が続く浅瀬と大浦湾側の深い入り江約152.5㌶と建設工事のための作業ヤードとして辺野古漁港周辺の約4.6㌶の海域、計約160ヘクタールを埋立てて建設される。このために、国は、東京ドーム16.6杯分相当の土砂を、沖縄を含む西日本各地から採取、供給する。防衛省の計画によれば岩ズリ1644万m3、山土360万m3、海砂58万m3の計約2062万m3の土砂購入が計画されている。土砂の7割強は香川県から鹿児島県までの西日本一帯から、山土及び海砂は沖縄島から採取・搬入される。
 全体の8割を占める「岩ズリ」とは、採石の残余として発生する砂、泥、小石の混合物である。商品にはならないということで、多くは採石場に積み上げられている。採石業者にすれば、扱いに困る厄介者である。それを、国が商品として大量に購入するというのである。岩ズリの各採取場所のストック量は表1のとおりで、香川、山口、福岡、長崎、熊本、鹿児島、および沖縄県の9地区15か所が候補地とされる。どこも国立・国定公園、ジオパーク等、長きにわたり付き合っていくべき貴重な場に隣接している。
 辺野古埋立と土砂搬入は、生物多様性国家戦略に照らした時、以下のように三重の意味で戦略に反している。
1)    辺野古・大浦湾の埋め立て自体が、豊かな生物多様性を破壊
 辺野古の海は、ジュゴン、ウミガメの生息地であり、希少なサンゴ類の繁殖地であることが良く知られている。特に大浦湾側は、調査をするたびに、新種が発見される極めて生物多様性の豊かな海である。
 「愛知目標」で、各国は2020年までに少なくとも海域の10%を海洋保護区として保全するとしている。これを受けて環境省は、2016年4月22日、海洋保護区設定の基礎資料となる「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として沿岸域270か所、沖合表層域20か所、沖合海底域31か所を抽出した。沖縄島の沿岸海域は、ほとんどすべてが、この重要度の高い海域である。その中でも辺野古・大浦湾はとりわけ生物多様性の観点から重要度が高いことが知られている。
 この海を埋め立てることが生物多様性の豊庫をつぶす行為であることについては、国際的にも多くの指摘がある。沖縄県知事の第3者委員会が主張した「本件埋立は、「生物多様性国家戦略2012-2020」及び「生物多様性おきなわ戦略」という重要な環境保全計画の達成を妨げる点において公有水面埋立法に違反する瑕疵が有る」との論理は普遍的である。辺野古の海を埋立てる行為が、生物多様性基本法や生物多様性国家戦略に照らして合法と言えるのかという環境問題に関する論争こそ、今、本気で突き詰めるべき課題である。生物多様性国家戦略に照らせば、この海は、埋めてしまうのでなく、ジュゴンやウミガメの生息地として海洋保護区にするのが最も適切な措置である。
2)持ち出し地での山、海の破壊に伴う生物多様性の破壊
 各地の採石場では、すでに岩盤が露出し、山が切り崩されている。例えば奄美市住用町の市(いち)集落では、大雨が降ると、採石場から付近の海に大量の土砂が流出し、かつてトコブシやウニが無数にいた海は、生物の影を見ることがないと言われる。岩ズリ採取地ではどこも程度の差こそあれ、このような環境破壊が起きている。土砂採取自体が、周辺の山、川、海における生物多様性の危機をもたらしているのである。
 岩ズリ搬出地のうち東から小豆島、黒髪島、椛島(かばしま)(五島)、御所浦(天草)、奄美、徳之島、本部、国頭、更に沖縄県の山土の搬出予定地海域が先に見た「生物多様性の観点から重要度の高い海域」に面しており、岩ズリ採取地の約七割は「重要海域」に面している。   
3)特定外来生物の辺野古への持ち込みによる危機
 第三の問題が、外来種の沖縄島への持ち込みに伴う生態系かく乱の懸念である。亜熱帯である辺野古に搬入される岩ズリの多くは、瀬戸内海や九州などの温帯域で採取される。そこには辺野古とは異なる温帯域に特有な生態系が展開されている。また同じ亜熱帯で気候帯は同じでも、例えば沖縄島と奄美大島では、それぞれ島しょとなった歴史や規模などの違いにより独自の生態系が発達している。沖縄島の外から辺野古に大量の岩ズリを持ち込めば、沖縄島の生態系にとって有害な外来種が侵入する可能性がある。候補にあげられている岩ズリ採取地周辺では、アルゼンチンアリ(山口県など瀬戸内海一帯)、ハイイロゴケグモ、ヒアリ(北九州市)やオオキンケイギク(奄美大島)など有害な特定外来種が既に発見されており、岩ズリにもこれらが混入している可能性があり、少なくとも厳しい外来種侵入防除対策が不可欠である。更に生態系の違いにより何が外来生物になるかがわからない面も抱えている。この点を重視すれば、もともと生態系が異なる地域相互の土砂や物資の大量移動は、そもそも行わないことを原則にするべきであろう。

(4)おわりに
 約45.5億年前、地球が誕生した時、生命は存在しなかった。太陽と地球の距離、地球の大きさなどの物理的条件に恵まれ大気・海洋が形成される中で、約40億年前になり、浅い海を舞台に生命が誕生する。悠久の時間をかけ、現在、地球上には未発見のものまで含めれば3000万種ともいう種が存在し、人類もその一員として多様な生命体が共存している。これらは、宇宙が作り上げた、かけがえのない、ある種の芸術品である。1000億の太陽系がある銀河系の中で、数千万種という多様な生命で構成される生命圏を有する星を持つ太陽系は極めてわずかであろう。地球は宇宙のオアシス中のオアシスなのである。
 ところが、地球上に最後に登場した人類が、約2万年前から文明を産み出し、とりわけ約250年前から始まった産業革命を契機に科学技術が発展し、それに伴い人類活動は地球表面を大きく壊変する規模にまで拡大し、生物多様性の急激で深刻な損失をもたらしてきた。20世紀末、人類は、このまま生物多様性を破壊して行くことは、自らも含めて破滅への道であることを自覚し始める。1992年の地球サミットで生物多様性条約に合意したことは、その一つの現れである。日本もこれに賛同し、生物多様性基本法の制定(2008年)を経て、五次の生物多様性国家戦略の閣議決定(2012年)へと至る。
 しかし、国策は、資本主義社会の原則のもとで国益と言う大義名分に沿って、経済的利益を最優先にしたままである。自国の、そして眼先の利得に即した利己主義、刹那主義を貫く政策しか打ち出せない。その結果、安保・防衛、経済・エネルギー政策等と、生物多様性国家戦略は矛盾したまま併存し、前者を優先させれば、後者は無視せざるを得ないことになっている。国の政策は、領域相互の矛盾を抱えたまま、短期的な利得に即して暴走している。辺野古新基地建設や原発再稼働は、その象徴である。
 この構図を逆転させねばならない。生物多様性の回復こそが、人類を含め、地球上の生きとし生けるものの持続可能な生存にとって不可欠であることを政策の基本に置くべきである。辺野古新基地建設のための辺野古の海の埋め立て、そして埋立て用土砂採取・搬出の問題は、生物多様性国家戦略の視点からチェック、検証される限りにおいて、中止へと向かわざるを得ないのである。

表1 供給業者の採取場所別、岩ズリストック量(単位:千立方メートル)

地区名 ストック量 備考
本部地区

6,200

沖縄県
国頭地区

500

沖縄県
徳之島地区

100

鹿児島県
奄美大島地区

5,300

3か所(鹿児島県)
佐多岬地区

700

南大隅町(鹿児島県)
天草地区

3,000

御所浦(熊本県天草市)
五島地区

1,500

椛島(長崎県五島市)
門司地区

7,400

北九州市門司3か所(福岡県)、黒髪島(周防市、山口県)、向島(防府市、山口県)
瀬戸内地区

300

小豆島(香川県)
合計

25,000

※使用量  16,440

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