2023年、平和軍縮時評

2023年03月31日

環境影響をも無視して強行された陸自石垣駐屯地開設 ―住民への説明はミサイルの搬入後に

木元茂夫

環境影響をも無視した石垣駐屯地の開設

 台湾有事を口実とした南西諸島への自衛隊配備が、環境影響をも無視して、強引に強行されている。その一つとして石垣島に配備された陸自石垣駐屯地の最新の動きを報告する。

 駐屯地の工事がはじまったのは2019年3月だった。同年4月に沖縄県環境アセスメント条例が改正施行され、適用事案が50ヘクタール以上から、20ヘクタール以上に引き下げられるのを見て、それを回避するための強引な着工だった。与那国駐屯地も、宮古島駐屯地も環境アセスメントは行われないままに工事が行われ、駐屯地が完成してしまった。環境への影響、住民への影響を、慎重に検討し自然破壊を回避することよりも、駐屯地の早期完成を優先させたのだ。

 防衛省・沖縄防衛局のこのやり方は、沖縄に対するあからさまな差別というしかない。2023年3月5日から陸自車両の搬入が行われ、16日に編成完結式を強行。しかし、小銃射撃場もグラウンドも完成しておらず、4棟を予定していた火薬庫も3棟の完成にとどまっての見切り発車である。残り1棟は23年度に着工するということだ。

 3月16日までに570名の陸自隊員が配備された。これらは、新たに編成された八重山警備隊、北熊本の健軍駐屯地からやって来た第303地対艦ミサイル中隊(地上から海上の艦艇に向けて発射するミサイル「12式地対艦誘導弾」を装備。もともとは射程約120km、改善型が約200km、能力向上型は1000km以上と報道されている)、長崎県大村の竹松駐屯地からやってきた第348高射中隊(地上から航空機やミサイルに向けて発射する「03式中距離地対空誘導弾」を装備、射程距離は約60km)、駐屯地業務隊などで構成される。駐屯地の面積は約47haである。2016年に与那国駐屯地が開設され沿岸警備隊等を配備(約170名)、2019年に奄美駐屯地/瀬戸内分屯地(合計で約610名)と宮古島駐屯地(約700名)が開設され石垣島と同じ地対艦、地対空ミサイル部隊が配備された。隊員の人数は3月22日の住民説明会で沖縄防衛局が配布した資料によるもので、2023年度末のものとしている。

 「12式地対艦誘導弾」は26年度をめどに「能力向上型」が配備され、射程距離が1000km以上となる。各島の「住民説明会」の時点ではそうした説明はなく、防衛省は「配備先は決まっていない」としているが、住民の不安と不満が渦巻いている。

 昨年12月19日、石垣市議会は、内閣総理大臣、内閣官房長官、防衛大臣、沖縄防衛局に宛てた下記の意見書を賛成多数で採択している。

 「16 日には安保関連3文書を閣議決定され、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有の明記がなされた。 これらの装備や法整備が進むことで、他国の領土を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激するおそれがあり、有識者からも慎重な議論を求める声があがり、憲法違反の可能性も指摘されている。 国境の島ともいわれる、石垣島の現場で日々生活するなかで自衛隊の配備にはこれまで賛否 の意見があったが、防衛省主催の住民説明会では、配備される誘導弾(ミサイル)は、他国領土を攻撃するものではなく迎撃用であくまでも専守防衛のための配備という説明であり、それを前提に議論が行われてきた。 ここにきて突然、市民への説明がないまま、他国の領土を直接攻撃するミサイル配備の動きに、市民の間で動揺が広がっており、今まで以上の緊張感を作りだし危機を呼び込むのではないかと心配の声は尽きない。 石垣市議会は、「平和発信の島」、「平和を希求する島」との決意のもと議会活動しており、自ら戦争状態を引き起こすような反撃能力をもつ長射程ミサイルを石垣島に配備することを到底容認することはできない」(注1)

 当初の説明とは異なる長距離攻撃兵器の配備の可能性が高まった中での、石垣駐屯地の開設だった。

石垣駐屯地開設前後の動き

 駐屯地開設前後の石垣島の動きを、日付を追って整理してみる。

3月05日 陸上自衛隊の、12式地対艦ミサイルの発射機搭載車両を含む約150台の車両を石垣駐屯地に搬入。
3月16日 編成完結式。井戸川一友第15旅団長(当時)と井上雄一郎駐屯地司令が市役所に中山市長を訪問。
 市長は「自衛隊の重要な拠点として島に入っていただいた。ぜひ住民の皆さんと融和を図りながらしっかりと部隊運営をしてほしい。行政も連携していきたい」と歓迎の挨拶。また、「石垣島は最後になったが、これで奄美大島以南の南西諸島の防衛の形が整った。自衛隊が任務を果たす上でも、やはり住民との協調、相互理解が必要だと思う。オープンにできるところはオープンにして互いの信頼関係を深めてもらいたい」と語った。
 玉城デニー沖縄県知事は石垣駐屯地の開設について、「本来なら開設前に住民に十分説明するのが筋だ。住民にはいろいろな意見がある。住民の不安を払拭する意味と、説明責任において、政府はさらにていねいな説明をしてほしい」「県が必要な協議を求めた場合、しっかりと応じてほしいということも重ねて要請したい」と出張先の長野県で記者団に向け、こう発言した。(「沖縄タイムス」2023年3月17日付)
3月18日 大型揚陸艦「おおすみ」(呉基地配備)石垣港入港、ミサイル陸揚げ、駐屯地へ搬入。コンテナ18個。
3月22日 石垣駐屯地開設説明会は、石垣市、沖縄防衛局、石垣駐屯地が主催して、こうした一連の動きが終わった22日にようやく開催された。(「毎日新聞」2023年3月12日付)は、
「会場となった約千人収容の石垣市民会館大ホールは、空席が目立った。質疑応答では市民からの質問に沖縄防衛局や駐屯地側の担当者は「具体的に決まっておりません」など歯切れの悪い返答をする場面も。市民からは「これまで丁寧に説明すると言ってきたじゃないか」と厳しい声が上がった。一方「納得できた」と説明会を評価する声もあった」と報じている。
4月2日には、浜田防衛相も出席して、石垣駐屯地開設記念式典が予定されている。 
 こうして経過をたどると、まことにキナ臭い状況の中での、石垣駐屯地の開設であった。井上雄一朗駐屯地司令は「米海兵隊は島嶼をいかに守っていくかについて構想として持っている。われわれのような島嶼の初動をもつ部隊としても、連携は今後検討されていくと思っている」と述べており、この発言は要注意である。米海兵隊は島嶼防衛ではなく、琉球弧の島々を拠点にして中国軍との対決、中国海軍の第1列島線内への封じ込めを検討しているのではないか。こうした米軍の戦略と本気で連携していくことが、自衛隊の中で強固に意志一致されているのだろうか。

 4月10日からフィリピンではじまる「バリカタン23」では、これまでさまざまな演習で繰り返されて来た、退役した艦艇を実際にロケット弾で撃沈する訓練にとどまらず、飛行場奪回訓練まで行われるという。南シナ海のファイアリー・クロス礁を埋め立てて中国軍が建設した飛行場に対する攻撃を想定したものではないかと思われる。米軍の訓練がさらにエスカレートし、中国軍との限定的な衝突が起きた場合、自衛隊はどう対応するのであろうか。しかし、岸田内閣の対応は「防衛力の強化」の一点張りである。

 石垣駐屯地開設の当日、参議院の「政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会」(注2)では、
 石橋通宏議員(立憲民主、社民)が、「いよいよ石垣島の自衛隊のミサイル基地も運用が始まっていくと理解しておりますが、この間、本当にもう現地の皆さんは、沖縄、とりわけ南西諸島がもう軍事要塞化を進められているという本当に強い懸念。どうするんですか、今回の安保三文書も絡めて。何かあったら沖縄が真っ先に攻撃対象になるかもしれない。観光客の皆さんこれからどんどん来てくださいと言っている中で、避難計画もない、国民保護計画の見直しもない。どうやって県民の皆さん、南西諸島の皆さんの命の安心、暮らしの安心守るんですか」と政府の対応を質した。

 しかし、木村次郎防衛大臣政務官は、「戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、自衛隊の部隊の増強等により南西地域の防衛体制を強化する必要があります。防衛省は、これまで与那国島に沿岸監視部隊を、奄美大島及び宮古島に警備部隊、地対空誘導弾部隊及び地対艦誘導弾部隊の配備を行ってきましたが、本日16日の石垣駐屯地の開設により、南西地域の陸自部隊の空白を埋めるために計画していた部隊配備が完了することになります。このような部隊配備等は力による現状変更を許容しないとの我が国の意思を示し、島嶼部を含む南西地域への攻撃に対する抑止力、対処力を高めることで我が国への攻撃の可能性を低下させるものであり、沖縄県民を含む我が国国民の安全につながるものであります。防衛省としては、引き続き国民の生命と財産を守り、我が国を防衛するため、島嶼防衛のための取組に万全を期してまいります」と、石橋議員の質問には何ら答えない一般論に終始した。

 石垣島以外でも自衛隊の増強が計画されている。少しさかのぼるが3月9日の衆議院安全保障委員会(注3)では、石垣駐屯地以外の基地強化が問題になった。新垣邦男議員(立憲民主・社民)が、「沖縄訓練場への補給拠点設置や嘉手納弾薬庫内で共同使用が認められた火薬庫3棟は、何か建設されるということを聞いているんですが、どの辺りに位置するのか、そして、地域住民との位置関係を踏まえた説明をお願いしたい。要するに、もしやるのであったら説明会も開催してほしいという要望なんですね。これについて」と質した。

 これに対し、川島貴樹防衛省整備計画局長は、「南西地域の防衛体制の強化は喫緊の課題でございます。したがいまして、事態が発生したときにおきまして、平素から南西地域に配備されている部隊及び南西地域に展開した部隊の活動を迅速かつ継続的に支援するため、沖縄訓練場の敷地の中に補給処支処を新編することを計画をしてございます。また、平成15年から共同使用を行っております嘉手納弾薬庫地区におきまして、既存の火薬庫を追加的に自衛隊が共同使用することを本年1月の日米2プラス2の共同発表において公表されました。今後のことにつきましては日米間で詳細に調整がなされていくというふうに承知しておりますけれども、防衛省としては、引き続き、お伝えできる情報につきましては御地元の自治体等に適切に説明させていただきながら、本件を進めてまいりたいというふうに考えてございます」と答弁した。

 「適切に説明」とは、防衛省にとって適切という意味だろうか。宮古島では住民説明会で、火薬庫を「貯蔵庫」と虚偽の説明をしたことが暴露され、2019年3月に搬入した弾薬を撤去せざるを得なくなった。ミサイル搬入は保良地域に火薬庫を造成した後、2021年11月までずれ込んだ。石垣島ではミサイルを搬入してからの説明会開催であった。防衛省・沖縄防衛局の対応はあまりにもひどい。

 3月16日には石垣市でも市議会が開催されていたので傍聴に行った。花谷史郎議員が「12式地対艦ミサイルが長射程になった場合、必ずしも容認ではないと言うことですか」と市長に迫った。中山義隆市長は「現在のところ話が来ておらず、具体的な話が来た時点で検討したい」と答弁した。しかし、この日、中山市長は沖縄に駐屯する陸自15旅団長や石垣駐屯地司令と面談し、歓迎の意向を表明した。また、面談の内容は冒頭のみの公開で、全体は明らかにされていない。自衛隊は今後どう動いていくのか、中山市長の対応も要注意である。

 沖縄県内での自衛隊の増強は、陸自第15旅団を師団に増強するのをはじめとして、まだまだ続いて行きそうだ。

注:
1.石垣市HP 意見書2022年
https://www.city.ishigaki.okinawa.jp/material/files/group/33/ikensyo-12-19-28.pdf
2.第211回国会 参議院「政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会」会議録、2023年3月16日。
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121115359X00320230316
3.第211回国会 衆議院「安全保障委員会」会議録、2023年3月9日。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001521120230309002.htm

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