声明・申し入れ、2008年

2008年10月16日

自衛隊員の暴行死に対する事務局長声明

フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫

 海上自衛隊第1術科学校において、1人で15人に相対する格闘訓練中に頭部を強打した3等海曹が約2週間後に死亡していたことが明らかになりました。死亡した3曹は、特殊部隊特別警備隊養成課程に在籍していましたが、訓練の翌々日には異動することが決まっていました。訓練に参加した隊員は、「いじめやしごきとの認識はなく、異動する3曹へのはなむけだった」と主張しています。赤星海上幕僚長は「通常訓練中の事故」との認識を示していますが、1人で15人を相手にする格闘訓練が一般的なのか、そして、それが異動時期と重なっている事への疑問は解けません。平和フォーラムは「訓練目的」との主張には同意できず、「はなむけ」と言う言葉が実は日常的な「いじめやしごき」であると考えます。遺族が「私刑」ではないかと反発しているのも当然です。

 この事件は、海上自衛隊呉地方総監部内の事故調査委員会が調査していますが、外部機関の調査にゆだねるべきです。当初、1対1の格闘訓練中の事故と発表され、その後の調査で15人対1人の対戦であった事が判明しても、海上自衛隊自らは公表することなく、質問されてから応えるという姿勢に終始しました。都合の悪いことはなるべく隠そうとする隠蔽体質の現れと言えます。このことは、護衛艦「あたご」と漁船の衝突事件の際にも指摘されています。

 また、この事件の2か月前にも同様に異動直前の隊員に対する16対1の格闘訓練なるものが行われ、歯を折るなど負傷していた事実が明るみになっています。日常的に、教官ぐるみで暴力的な行為を許す体質があったのではないかとの疑いが濃厚です。このようなことが許されている以上、旧日本軍と組織の体質において何ら変わりないとの批判を受けることは必定です。平和主義、民主主義と基本的人権を基本とした日本国憲法下において、このような組織の体質は許されるものではありません。

 1999年11月に自殺した護衛艦「さわぎり」所属の3等海曹の遺族が、自殺はいじめが原因として国家賠償を求めた福岡高裁の控訴審判決において、今年8月、自殺と上官の言動には因果関係があったとして、遺族に賠償を命じる判決がありました。また、同様に護衛艦「たちかぜ」 所属の一等海士が自殺した事件でも、いじめが原因として遺族が国家賠償を求めて横浜地裁で係争中です。自衛隊員の自殺者は、ほとんどの動機が不明となっていますが、その数は10万人あたりで国家公務員一般職の約2倍となっています。その数が示す意味が何なのか、「いじめ」が理由ではないのか。平和フォーラムは、自衛隊内に「いじめ・しごき・私刑」といったものを許す体質がないのか、このことをきちんと洗い出すためにも、今回の事件について、第三者機関による徹底した調査を要求します。

 この間、防衛省・自衛隊の不祥事が相次いでいます。事務次官や防衛医大教授の汚職、情報漏洩、放火、護衛艦と漁船の衝突事件など、米軍再編、日米の軍事一体化が押しすすめられる政治情勢の中にあって、慢心する組織の問題が浮かんできます。

 平和フォーラムは、このような無責任な、暴力で人権を侵害する組織が、現在の憲法の下で存在することを許すことはできません。 

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