憲法審査会レポート、2023年

2023年03月10日

憲法審査会レポート No.9

2023年3月9日(木) 第211回国会(常会) 第2回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54393
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230309002.htm

【マスコミ報道から】

衆院憲法審査会 緊急事態の認定の在り方などについて各党主張
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230309/k10014003061000.html
“9日開かれた衆議院憲法審査会では、大規模災害や戦争など緊急事態での対応を憲法に規定するかどうかを中心に議論が行われ、緊急事態の認定の在り方や、国会を召集できない場合の政府の権限強化などについて、各党が主張を展開しました。”

緊急事態条項めぐり議論 「条文案作成」に維新・国民民主など着手 衆院憲法審【詳報あり】
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235609
“自民党は論点整理の議論の加速を訴え、改憲を目指す3会派は条文案作成を主張。”
“自民党の新藤義孝氏は緊急事態時の任期延長について「上限を1年とし、再延長も可能とするのが合理的だ」と提案。内閣に国会が議決していない予算の執行と法律の制定を認めることなど八つの論点の資料を配布し、議論するよう各党に促した。”

「緊急事態条項」巡り討議 衆院 憲法審査会
https://www.fnn.jp/articles/-/497566
“「緊急事態条項」の創設をめぐり、9日の審査会では、議員任期の延長について、自民党の新藤議員が原則「上限1年」との提案をし、公明党の浜地議員は、新型コロナウイルスの感染拡大もふまえ「任期延長問題の結論を出すのは今だ」などと述べた。”

【傍聴者の感想】

はじめに与党筆頭幹事の新藤議員から、「緊急事態条項」の論点整理と残された論点に関する今後の議論の方向性、とする別紙資料が配られ、ここまでの衆議院憲法審査会の議論をまとめる形で提起がありました。しかし、立憲民主党の奥野議員がすぐに発言したように、あくまでもこの論点整理は個人的であり、審査会全体として合意して作成したものではありません。「5会派」(自民・公明・維新・国民・有志)でほぼ共通認識がある論点については、あたかも整理が終わったかのように議論を進めようとする姿勢を看過することはできません。

今回の審査会で立憲民主が主張した点は、①「参議院の緊急集会」の位置づけについては参議院と一緒に議論すべき、②国民投票法の整理については未だ課題が多く残っている、③拙速な議論を進めることはよくない、④「専守防衛」の中身が変わってしまった→「新たな論理」について議論すべき、といった内容でした。維新・国民・有志は緊急事態条項について具体的提案を検討する実務者会議を立ち上げ、議論を進めていることも明らかにし、自民からはその内容に期待している旨の発言がありました。

憲法を変えることを目的とした議論に終始しているため、どこをどう変えるのかという各論がすでに始まっているようですが、本論である現行憲法のどこに問題があるかについての議論が十分ではないように感じます。憲法を変えることが目的になってはいけません。憲法改正発議が3分の2という特別数になっている意味を確認したうえで、「お試し改憲」のようなやり方を許さない市民の運動を強めていく必要があることを再認識しました。

【国会議員から】吉田晴美さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

憲法審査会では、緊急時の国会機能の維持と改憲の議論に終始している。

たしかに、緊急時における国会機能の維持は重要課題であり、地震大国である日本においては、早急に対策を講じるべき課題である。

しかし、そもそも、平時における国会は機能しているのだろうか。

憲法とは、権力の濫用や暴走に歯止めをかけるためのものである。それにもかかわらず、今、国会では、憲法53条に基づく臨時会召集要求を内閣が放置するという憲法違反が常態化し、また、時の政権与党が自分たちに都合よく恣意的に衆議院解散権を行使しているのが実情である。これでは、平時においても国会が機能しているとは到底いえない。

また、国会の機能維持のためには、本当に改憲が必要なのだろうか。

関東大震災から100年。大規模災害は、明日にも起きるかもしれない。だからこそ、早急な対策を講じる必要があり、憲法改正ありきではなく、実質的に、何を変える必要があるか、それは法律で対応できるのか、改憲が必要なのか。冷静に議論すべきである。

今後、憲法審査会において、真に充実した議論がなされるよう、私も引き続き尽力する。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)「参議院の緊急集会に関する衆議院憲法審査会での発言に関連して」

【1】緊急集会の権能についての憲法審査会での発言

2023年3月2日、衆議院憲法審査会で有志の会の北神圭朗議員は「憲法学の学説上、通説は、緊急集会においては、内閣が請求で示した案件の審議以外の権能を行使することは限定的にのみ認められているとされています。国会法もこの限定説に立っていて、緊急集会ではそもそも行使できない国会の権限があるという解釈の上に成り立っています」と発言しています。

3月9日、公明党の濵地雅一議員も「これまでの経緯又は学説の多数からよりますと、や はり、参議院の緊急集会にいわゆるフルサイズの国会の権能を与えることは、憲法54条2項は許容していない」と発言しています。

彼らは参議院の緊急集会に関する憲法学説を正確に把握していません。不正確な認識のもと憲法審査会で発言しています。

【2】議案の発議権について

国会法99条1項では「内閣が参議院の緊急集会を求めるには、内閣総理大臣から、集会の期日を定め、案件を示して、参議院議長にこれを請求しなければならない」と定められています。国会法101条では「参議院の緊急集会においては、議員は、第九十九条第一項の規定により示された案件に関連のあるものに限り、議案を発議することができる」と定められています。議案の発議権について、たとえば京都大学の土井真一教授は「緊急集会は内閣提出の議案・審議のみを行うと解することも狭きに失する」と述べています。

佐藤功教授や奥野健一教授の見解を引用しながら、土井教授は「内閣の求める案件とは、そもそも内閣の提出する議案に限られるものではなく」、「参議院議員は、内閣提出の議案について修正案及び対案を提出しうると解すべきであるし、また、内閣提出の予算案に関連する法律案等の提出も認められると解される」と述べています(長谷部恭男編『注釈日本国憲法(3)』(有斐閣、2020年)697ページ)。

【3】緊急集会の権限

「緊急の必要性」がないもの、たとえば「憲法改正の発議」(96条)は参議院の緊急集会の権能としては認められませんが、参議院の緊急集会は「国会の権能を代行する」ものであるため、その権能は広く認められるという学説が有力です。

たとえば法学協会『註解日本国憲法〔下巻〕』(有斐閣、1964年)841ページでは、「緊急集会の召集は内閣によってなされるから、そこでとられる措置とは、内閣の求める案件に基づくものに限られるのではないかという疑があるが、しかし一度び召集された以上、議院自身は自由に活動し得なければならないから、議院の発議にかかる事項についても、同様の措置がとられ得ると解すべきである」とされています。

伊藤正己『憲法入門』(有斐閣、2008年)200ページでも、「性質上参議院の単独の議決のみによりえないもの、たとえば憲法改正の発議は、そこでは許されない」が、「緊急集会は国会の権能を代行するものであるから、法律、予算など国会の権能に属するすべての事項を議することができる」とされています。

野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第5版』(有斐閣、2019年)121ページでも「〔参議院の〕集会は、国会の権能を代行するものであるから、法律、予算など国会の権能に属する事項のすべてを議することか可能である」とされています。

樋口陽一『憲法Ⅰ』(青林書院、1998年)234-235ページでも、憲法改正の発議などを除き、「緊急集会は、国会にかかるものであり、その権能は、国会の権能の全部に及ぶ」と指摘されています。

有志の会の北神議員は3月2日の憲法審査会で「国会法上、緊急集会を請求するときは総理から案件というものを示さなければいけないわけです。原則的には、このいわゆる案件に限ってのみ、緊急集会は審議・議決ができるのです」と発言しています。国会法101条は「示された案件に関連のあるもの」(太字強調は筆者による)との規定になっている以上、「案件に限ってのみ」という北神議員の発言は国会法の読み方としても正確ではありません。

さらに国会法を根拠に憲法で明記された参議院の緊急集会の権能を論じるのは極めて不適切です。

「参議院の緊急集会にいわゆるフルサイズの国会の権能」を認めないのはその通りだとしても、国会の権能を代行するため、参議院の緊急集会の権能は広く認められるべきと学説では考えられています。公明党の濵地雅一議員の発言も適切ではありません。

参議院憲法審査会をめぐる動向について

【マスコミ報道から】

参院憲法審開催折り合わず 与野党、引き続き協議
https://www.sankei.com/article/20230308-3UCBSFFGMJOGNIP4IL6SCLEATU/
“与野党は8日、参院憲法審査会幹事懇談会を国会内で開き、参院では今国会初となる憲法審の開催日について協議した。自民党は3月中の実施を提案したが、立憲民主党は参院予算委員会で令和5年度予算案を審議している間は反対だと主張し、折り合わなかった。”

参院憲法審、開催日程で折り合わず 今国会初の幹事懇談会
https://mainichi.jp/articles/20230308/k00/00m/010/178000c
“”幹事懇では、立憲の小西洋之・野党筆頭幹事が放送法の「政治的公平」を巡る解釈変更疑惑について審査会でも議論するよう求めた。自民の山本順三・与党筆頭幹事は記者団に「議論が拡散してしまう」と否定的な見方を示した。
“与野党は、参院選「合区」の解消、参院の緊急集会について討議することでは合意した。”

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