憲法審査会レポート、2023年

2023年03月31日

憲法審査会レポート No.12

2023年3月30日(木) 第211回国会(常会) 第5回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54481
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【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230330005.htm

【マスコミ報道から】

自民、緊急事態認定に司法関与も 衆院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023033000865&g=pol
“自民党の新藤義孝氏は、緊急事態認定の手続きに関し、「一義的に政治が行うものだが、裁判所の関与を一切否定するものではない」と指摘した。司法の関与について、自民、公明両党はこれまで慎重姿勢を示し、日本維新の会、国民民主党が必要と主張してきた。”

立民、議員の任期延長議論を容認 緊急集会明確化で憲法審
https://nordot.app/1014113337286262784
“立憲民主党は30日の衆院憲法審査会で、緊急事態時の国会議員任期延長について、参院の緊急集会では対応できないと明確になれば議論すべきだと表明した。憲法学者の見解を踏まえた検討が必要だとして、参考人質疑を要求。武力攻撃や大災害時に、内閣に権限を集中させる「緊急事態条項」の概念そのものは、不要とも強調した。”

公正な運営に尽力 中山太郎氏をしのぶ声相次ぐ 衆院憲法審査会
https://mainichi.jp/articles/20230330/k00/00m/010/216000c
“立憲民主党の枝野幸男氏は現状の憲法審について「強引かつ独善的な議論と運営が拡大し、合意形成の機運がますます乏しくなっている」と指摘。「中山氏の懐深い人柄があったから建設的な議論が進んだ。合意形成可能な論点と方向性はどこにあるのか、もう一度考えるべきだ」と述べ、性急な改憲論議をけん制した。”

小西氏サル発言に反発続出 立民「本人に確認し対処」
https://nordot.app/1013994603433754624
“日本維新の会の三木圭恵氏は「衆院憲法審に対する侮辱だ。憲法審として謝罪を求めるべきだ」と非難。国民民主党の玉木雄一郎氏も「与野党合意で真摯な議論を重ねてきた衆院憲法審への冒涜だ。発言の撤回と謝罪を求めたい」とした。幹事会でも「断じて許されない」と抗議の声が出た。対応は森英介会長に一任された。”

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年3月30日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/241171

“緊急事態の任期延長”憲法改正の条文案まとめる 維新、国民など2党1会派
https://news.ntv.co.jp/category/politics/4757e3400b604da5a83324df1e075363
“日本維新の会と国民民主党、野党系無所属議員の会派「有志の会」の2党1会派は、緊急事態における国会議員の任期延長について憲法改正の条文案をまとめました。”
“2党1会派は今回の改正案をたたき台として、憲法審査会で各党が合意できる条文作成につなげたい考えです。”

【傍聴者の感想】

今回初めての傍聴でしたが、いま行われている憲法審査会がどういうものなのか、知ることができてよかったと思います。

複数の委員が逝去された中山太郎・元自民党衆院議員への哀悼の意を表していました。立憲民主党の枝野幸男・衆院議員はとくに2007年の憲法改正国民投票法成立に触れ、中山元議員がそれまで積み重ねてきた合意形成の努力を与党がないがしろにしたことにより強行採決となったことを述べていました。

立憲民主党の小西洋之・参院議員の発言に対して謝罪を求める場面は、悪い意味でとても「愉快」でした。この話になった途端に「おさるさん、おさるさん」と連呼し、委員の間で笑いがおきていましたが、憲法審査会というのは面白おかしく話せば、それでいいのでしょうか? 私は、ここまで早く時間がすぎてくれないかと願ったのは初めてです。

憲法審査会をよく知っている人たちから「今回は一番ひどいかもしれない」と聞きました。真剣さに欠ける方々がいる中での憲法審査会など、何の意味があるのでしょうか? 私は、それが疑問で仕方ありません。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

「真剣さに欠ける」憲法を論じる姿勢

上記の傍聴者の感想では、「憲法審査会というのは面白おかしく話せば、それでいいのでしょうか? 」、「真剣さに欠ける方々がいる中での憲法審査会など、何の意味があるのでしょうか? 私は、それが疑問で仕方ありません。」と記されています。全く同感です。
憲法は国の最高法規であり、その改正は日本の市民の平和や幸福に大きな影響を及ぼします。にもかかわらず、憲法審査会を傍聴した市民からこうした感想を持たれる状況で憲法改正など議論すべきでしょうか?

憲法審査会は約1時間半程度の時間ですが、3月30日の憲法審査会の開催中、喫煙室でタバコを吸っている自民党議員がいました。1時間半の会議を中座して喫煙するのが憲法の議論をする姿勢でしょうか?

この審査会では小西議員の発言が批判されました。確かに「猿」はよくない表現だと思います。

ただ、日本維新の会の小野泰輔議員も「お猿さんに対しても失礼だと思うんですね。お猿さんは、我々人間のように堂々巡りの議論はしません」と発言していました。この発言も、憲法審査会に出席している議員を「猿」以下と発言したに等しい発言です。こうしたレベルの主張がなされる場で憲法改正などを議論すべきでしょうか?

そして折に触れて言及しますが、憲法審査会での憲法論議、あまりにも憲法や歴史、他国の政治の動向などの知識が欠けていることには唖然とします。こうした点でも憲法審査会での改憲論議は問題だらけです。

【国会議員から】枝野幸男さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

本院において、初代憲法調査会長を務めて以来、長きにわたって憲法議論の中心を担われた中山太郎先生が御逝去されました。哀悼痛惜の念に堪えません。

私は、中山調査会長、調査特別委員長の下で、会長代理、野党筆頭理事を務めました。熱心に海外調査が行われた時代で、毎年のように一週間を超える海外調査に御一緒するなど、院外も含め、党派を超えて温かい御指導をいただきました。

中山先生が中心を担われていた時代は、意見の違いはあっても、建設的な議論が進められました。調査会の最終報告書は、全会一致にこそならなかったものの、その文言の一つ一つを、議決には反対した会派も含めて、全ての会派で丁寧に協議し、客観的で中立的な報告書として取りまとめることができました。だからこそ、その報告書に基づいて、難しいとされてきた特別委員会の設置と国民投票法制定に向けた議論をスムーズに進めることができたのです。

私はあの当時、このままの議論を進めていけば、十年程度のうちに初めての憲法改正国民投票に至るのではないかと、ある意味で期待していました。

残念ながら、二〇〇七年、国民投票法採決に至る経緯で中山会長が十年近く積み重ねてこられた合意形成の努力が壊され、いわゆる強行採決となりました。中山委員長を先頭とした委員会の現場とは別のところで、当時の官邸を始めとする与野党の政治的駆け引きに巻き込まれてしまったものです。

私は、一日も早く国民投票法採決の傷を癒やし、中山方式とも呼ばれた建設的な議論が回復することを望んできました。しかし、残念ながら、今日に至るまで、むしろ強引かつ独善的な議論と運営が拡大し、合意形成の機運がますます乏しくなっていると言わざるを得ません。
中山方式とは、現状のように、ただ形式的に、あるいは国会対策的に野党を巻き込もうとしたものではありません。そのような考えでは、憲法について、よい方向に変わるなら変えるべきという立場の私はともかく、現行憲法では変えるべきではないという立場が明確な政党を含めて、全ての政党の担当者が中山会長を信頼し、立場を超えて建設的に議論するなどという状況はつくれるはずがありませんでした。
中山先生には憲法と立憲主義に対する謙虚で深い御認識がありました。憲法は与野党などの政治的立場を超えて権力を拘束するものであり、主要政党間の対立点にしてはならないということです。

どの勢力が多数派となろうと、従うべき規範が憲法である以上、違いを強調するのではなく、一致点を探して、その一致点から議論を進めるという認識が共有されていました。

憲法制定権力である主権者国民に対する謙虚な姿勢でも一致していました。衆参両院で三分の二を構成できたとしても、そこに至る経緯で国民を巻き込んだ十分な合意形成がなされていなければ、国民投票で否決されるおそれがある。このことを中山先生は十分過ぎるくらい御理解されていました。そして、特に初めての国民投票で否決される事態とならば、憲法をめぐる議論が更に混乱し、我が国の民主主義に救い難い傷となることを恐れていました。

このような中山先生の御認識と、困難な時期に外務大臣を経験されるなど、幅広い御経験に基づいた懐深いお人柄があったからこそ、建設的な議論が進んだのです。私にとっても、中山先生に御指導、御厚情賜ったことで、党派、意見の違いを超えた得難い貴重なものを幾つも学ばせていただくことができました。御逝去の報に接し、この場をかりて改めて敬意を表しますとともに、心から御礼申し上げます。
昨今の憲法審査会の状況を見るに、中山先生の時代には遠く及ばないにしても、あの当時とは似ても似つかぬ状況で、私個人としては、建設的な合意形成について、悲観的を超えて、絶望しています。真摯に憲法を考えられるなら、中山先生の爪のあかでも煎じて飲まれたらよいのではないでしょうか。

今後の議論に向けて、中山先生に学んで、具体的に一点だけ提起いたします。

各党各会派がそれぞれに改憲案を提起し、主張をぶつけ合うというのは、真に国民を巻き込んだ幅広い合意形成をする上で超え難い障害になるということです。もちろん、民主政治の基本は、各党派間で主張をぶつけ合い、競い合うことにあります。しかし、選挙などで競い合うことが避け得ない中、合意形成が重要なはずの憲法において、そして憲法が重要であればあるほど、一つの政治勢力が自分たちの主張を強く示せば、他の政治勢力との妥協が困難になります。どの党の提案が出発点になり、どの党の主張で修正されたなどという国会対策的なプロセスが注目されれば、真の合意形成に向け、超え難い障害となります。

ですから、どこかの党派の案をベースに議論するのではなく、議論の方向性を一致できそうなテーマは何なのかという点から全ての会派間で真摯に議論し、その合意に基づいて会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化していく。条文案などというものは、このようなプロセスで内容的な合意形成がなされた上で初めて審査会全体で作業をすべきもの、これが憲法調査会から調査特別委員会に至る中で中山会長を中心に考えられていた合意形成プロセスです。

議論を進めることについて一致できそうなテーマは何か、そして方向性について合意できそうなテーマは何か、このことは既に示されています。

それは中山調査会の調査報告書です。あらゆる論点について、思いつきのような議論ではなく、幅広い各国の状況や歴史的経緯なども含めて調査し、議論した上でまとめられました。充実した内容である上に、その時点における合意形成の見通しについても示されています。繰り返しますが、この報告書は、議決に賛成した会派にとどまらず、議決には反対した会派の代表も含めて文言を整理しており、その記載事項については全会派が事実上一致していたと言えます。

報告書から二十年近くが経過して、本院を構成する党派にも変化があり、議員の構成も変わりました。憲法についての新たな議論もあります。そのままで全て通用すると言うつもりはありません。

しかし、幅広い、真の合意形成に向けて建設的な議論を進めるのであれば、少なくとも、そのスタートラインはここにあることは間違いありません。

この機会に、中山先生の最大の御業績の一つとも言える衆議院憲法調査会の報告書を全ての皆さんに再度、まさか、二度や三度は読んでおられると思いますが、再度御熟読いただき、ここをスタートラインに、合意形成可能な論点と方向性はどこにあるのか、もう一度考えていただくことを強く望んで、発言といたします。

(憲法審査会での発言から)

【国会議員から】奥野総一郎さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会筆頭幹事)

立憲民主党憲法調査会事務局長の奥野総一郎です。3月30日の憲法審査会発言の概要ですが、「論憲」の立場から幅広く議論をすることを呼びかけました。

憲法は、「徹底した国会中心主義」を採用し、いわゆる「緊急事態条項」を設けていません。つまり、いかなる場合でも立法機能・行政監視機能等国会機能の維持を大前提としています。緊急時には迅速な臨時会召集、衆議院が解散中の場合「参議院緊急集会」による対応を想定しています。また、武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症それぞれにつき基本法制があり、濫用の恐れなく緊急事態等の認定が行われる仕組みができています。「緊急事態条項」概念を憲法に持ち込む必要はありません。

したがって緊急政令・緊急財産処分を憲法に規定する必要もありません。ただいま公明党の吉田委員も同趣旨のご発言をされたと理解しております。

我々は、いわゆる「緊急事態条項」は不要と考えますが、これまでも申し上げてきた通り「選挙困難事態」への対応については議論が必要と考えています。有事の際など日本全土で選挙が長期間にわたって行えないような「選挙困難事態」が起きた場合どう対処するか、について憲法に明示されていないからです。

緊急集会についての論点は、
任期満了時に招集可能かどうか。
あくまで暫定的・一時的な制度ではないか

これに関連して臨時会などと同様のフルサイズの機能を有さないのではないか。玉木委員が指摘されているように本予算審議が可能かどうか。これらの点について、参考人質疑を求めます。森会長にお取り計らいを願います。合わせて先日提案したように、参議院と合同での議論も必要です。

解釈や国会法等の改正で対応できないということが明確になれば、我々も「議員任期の延長」を議論すべきと考えます。
「議員任期の延長」を考える場合、その要件として「選挙困難事態」を定義する必要があります。どのような場合が該当するか、慎重な議論が必要です。

客観的な要件を定めるとともに、認定には憲法裁判所等司法の関与が必要であると考えます。「選挙困難事態」の認定が議員任期延長の要件とすると、これを全て内閣に委ねることは濫用の虞があり、国会に全て委ねるとお手盛りになる恐れがあるためです。
先週北側幹事は「憲法裁判所については、大きな憲法上の課題で多くの論点がある」とおっしゃられましたが、大きな憲法上の課題であるからこそ、この場での議論にふさわしいと考えます。

私はより広く憲法判断ができる欧州型の「憲法裁判所」を創設することが三権分立の観点からも「立憲主義」にかなうと考えます。
憲法裁判所について憲法審査会での集中討議を求めます。

参議院憲法審査会をめぐる動向について

【マスコミ報道から】

参院憲法審、来月5日初開催
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023032901064&g=pol
“参院憲法審査会は29日の幹事懇談会で、今国会初の審査会を4月5日に開くことで合意した。”

参院憲法審査会4月5日に開催 今国会初
https://www.sankei.com/article/20230329-SKLKZLEX2NK4ZDO3LNM6KE4U2M/
“テーマは、衆院解散中に緊急の必要がある場合に内閣が求めることができる「参院の緊急集会」とし、内閣法制局から論点説明を受け、意見交換などを行う。”
“幹事懇では今後、隣接県を一つの選挙区にする「合区」についても議論していくことも確認した。”

参院憲法審査会 小西筆頭幹事を更迭へ 立民 泉代表
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230331/k10014025411000.html
“立憲民主党で参議院憲法審査会の筆頭幹事の小西洋之議員が「審査会の毎週開催はサルがやることで、蛮族の行為だ」と発言したことについて、泉代表は党として謝罪し、筆頭幹事を更迭すると明らかにしました。”

 

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