憲法審査会レポート、2023年

2023年05月12日

憲法審査会レポート No.17

連休中は衆参ともに憲法審査会の開催がありませんでしたので、今週はどちらも2週間ぶりの開催となりました。

【参考記事】

国会の憲法議論の現在地は? 緊急事態条項で自民は「論点煮詰まった」 立民は「創設不可避か検討を」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/247632
“国会では衆参両院の憲法審査会を中心に憲法論議が続き、改憲に前向きな勢力は、緊急事態条項として国会議員の任期延長を可能にする規定の創設を主張している。”
“…改憲勢力は両院とも国会発議に必要な3分の2を超えており、大型連休明けの後半国会で圧力を強める可能性もある。”

2023年5月10日(水)第211回国会(常会)
第4回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7433

【会議録】

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121114183X00420230510

【マスコミ報道から】

緊急事態での対応 憲法に規定するか 参院憲法審査会で各党は…
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230510/k10014063181000.html
“10日の憲法審査会では、緊急事態に、
▽憲法に規定されている参議院の緊急集会で国会の機能が維持できるかのほか、
▽国会議員の任期を延長できるようにすることや、
▽政府が国会の議決なしに、法律と同等の効力を持つ「緊急政令」を定められるようにすることの是非をめぐって、議論が交わされました。”

憲法「参院の緊急集会」を巡り与野党が討議 参院憲法審の発言詳報(5月10日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249128

自民、緊急政令の創設主張 参院憲法審、立民は否定的
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023051000987&g=pol
“自民党は、緊急時に内閣が国会審議を経ずに法律と同程度の効力を持つ「緊急政令」を発出できることを憲法に明記するよう主張。立憲民主党は、憲法に規定される緊急集会で緊急時の対応は可能として否定的な見解を示した。”

進むか参院憲法審 衆院に比べ停滞気味 参院の緊急集会討議
https://www.sankei.com/article/20230510-7P5OQCXOVFI7NCCFAWMIMBKMIM/
“緊急事態条項新設と参院の緊急集会の在り方は同時に協議すべき課題とされている。しかし、週に1回の開催が定着している衆院憲法審に比べると、参院側の議論は停滞気味だ。今後の定例日にあたる17日と24日の開催も立民の意向や国会日程などを理由に決まっておらず、衆院に追いつくのは簡単ではなさそうだ。”

【傍聴者の感想】

きょうは「緊急集会」をめぐっての意見交換ということで、各会派の委員がそれぞれ発言していきました。

自民党の委員は緊急集会のみならず任期延長や緊急事態条項を規定する改憲を主張していましたが、公明党の委員はとくに任期延長には否定的で、民主的正当性を担保するために選挙実施をできるかぎり追求すべきとしていました。

いっぽう維新の会・国民民主党は権力を統制するために(!)むしろ緊急事態条項を規定すべきと主張していました。これは維新・国民・有志の会(衆院会派)共同で発表した改憲条文案に沿ったもののようです。

立憲民主党・共産党・れいわ新選組の委員は否定的な見解を表明。複数の委員が憲法制定時、戦前を反省し国会中心主義をつうじた主権在民実現のため緊急事態条項を盛り込まず、あえて緊急集会を規定したことを指摘していました。

とくに辻元委員は災害にせよ疫病にせよ、緊急事態にはいまある法律で対応可能で、平時にしっかり法整備すべきだと訴えていました。また、自民党は緊急時の権力の空白の危険性を盛んに訴えるものの、東日本大震災直後の2011年6月には内閣不信任案を出していた事実に言及しましたが、たしかに矛盾していると感じました。

ほんらいきょうは参考人質疑が予定されていたのに整わず、意見交換に切り替えて開催したとのことでした。どの世論調査でも改憲の優先度は低く、むりやり毎週開催する必要はないと思います。

【国会議員から】辻元清美さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会委員)

5月10日に開かれた参議院憲法審査会では参議院の緊急集会について討論が行われ、私は以下について発言しました。

緊急事態の際には内閣は次の各号に挙げる事項について必要な措置をとるため政令を制定することができるとあらかじめ書かれており、更に政令対応が必要な事項があるのならば、平時のときにこそ既にあるこの枠組みに追加していくことが現実的であり、憲法改正の必要はないと考えます。

既に、物資の供給制限、物価統制まで入っています。金融債務のモラトリアム、支払猶予も入っています。更に必要な事項があれば、緊急時が発生してからばたばたと対応を考えるのではなく、あらかじめ平時から必要な対応を検討し、必要事項があれば追加し、法律改正しておくことこそが立法府の責務だと考えます。

山谷災害担当大臣時代にとりまとめられた政府審議会でも、参議院の緊急集会すら開けない事態で緊急政令に加えるべき事項は?というとゼロでした。山谷元大臣、改憲が必要ならなぜこのとき追加しなかったのでしょうか。私は改憲による緊急政令の対象分野や立法事実の提出を自民・維新に求めてきたが、未だにご提示頂けません。

東日本大震災のとき、緊急事態の政令が必要だと改憲を主張した人たちがいたが、現場の自治体の長が反対の声をあげました。福島でも宮城でも岩手でも災害対応は異なるのであり、むしろ知事権限の強化を求める声が大きかったのです。

緊急時には選挙ができないので衆院を任期延長し、その場合の内閣不信任案の議決や解散を禁止――という改憲を主張しながら、東日本大震災から3ヶ月という危機の最中に内閣不信任案を提出したのは自民党です。言ってることとやってることが違う。これでは衆院議員の任期延長も改憲の口実にすぎないのではないか、と指摘してこの日の発言を終えました。引き続きこの問題の矛盾を問うていきます。

2023年5月11日(木) 第211回国会(常会)
第10回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54602
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025021120230511010.htm

【マスコミ報道から】

自民、緊急集会最大70日間 立民「有識者から見解を」
https://nordot.app/1029235938046705833
“与野党は11日午前の衆院憲法審査会で、国会議員の任期延長を含む緊急事態条項の新設を巡り、憲法で定める「参院の緊急集会」の位置付けを議論した。自民党は集会の開催期間は最大70日間程度だとし、緊急事態時の議員任期の延長規定が必要と主張。立憲民主党は任期延長の議論の前に、有識者の見解を十分に聞くべきだと訴えた。”

衆院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月11日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249373

衆院憲法審査会 参院の緊急集会めぐり議論
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230511/k10014063971000.html
“衆議院解散後の参議院の緊急集会をめぐって11日、衆議院憲法審査会で議論が行われ大規模災害など緊急事態が長期化する場合には、緊急集会だけで国会の機能を維持するのは困難だとの指摘が相次ぎました。”

憲法審 立民と公明、「参院の緊急集会」衆参で濃淡
https://www.sankei.com/article/20230511-6VDZCCKAUFIKZCPIDEFLDPMA54/
“立民と公明の共通項として指摘されているのは、参院側の方が衆院側よりも改憲に慎重なメンバーが目立つということだ。特に公明は参院議員である山口那津男代表の影響が大きいとされ、「参院憲法審の議論が進まない原因の一つではないか」(自民関係者)との見方もある。”

【傍聴者の感想】

きょうの衆議院憲法審査会は定刻に開会しました。衆議院解散後に緊急の問題が発生した際、参議院が国会の機能を代行する「参議院の緊急集会」について議論がされました。配布資料は、衆議院憲法審査会事務局の作成の「参議院の緊急集会」に関する資料(A4判51ページ)と自民党新藤議員が作成したA4判1枚。

審査会は、新藤議員の資料に記載があった「有事における『二院制国会の機能維持』のため、議員任期延長など、憲法に新たな規定を設け、万全の措置を講ずるべき」に沿った議論に終始しました。公明党に加え、日本維新の会と国民民主党、有志の会も議員任期延長を訴えていました。

国民民主党、日本維新の会、有志の会の任期延長のための「改憲」を急ぐ姿勢は、危険だと言わざるを得ません。とりわけ維新議員からの立憲民主党に対しての、党内の意志疎通を図った上で審査会に臨んでほしい、衆参合同の憲法審査会の開催をすべき、自民党に対しての岸田自民党総裁中の改憲発議のためにも議論を急ぐべき、との発言は「党利党略」からのものとしか思えませんでした。巨大与党にすり寄り、存在感のみを主張する「名ばかり野党」に負けない姿勢を立憲野党として示してほしいと思います。

今、岸田政権が真っ先に取り組まなければならない課題は、「改憲議論」でなく、国民生活に直接影響が出ている物価高対策などであることは明白です。市民をまきこんだ世論喚起をすすめ、改憲の流れを止めましょう。

【国会議員から】新垣邦男さん(社会民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

今年の憲法記念日も、地元沖縄で「平和憲法を守ろう」と大きな声で訴えてまいりました。本日も護憲の立場から発言します。

4月以降、憲法9条の2を新設する、いわゆる自民党の「条文イメージ(たたき台素案)」を文字通りたたき台にした議論が交わされております。

これについては、公明党や日本維新の会が指摘するように「必要な自衛の措置をとることを『妨げず』」との文言では、9条1項2項の例外規定と読める余地が残される、との意見に賛同します。

というのも、自民党案では「必要な自衛の措置」の内容が限定されておらず、「自衛の範囲」が不明確なため、9条1項2項を空文化させる可能性が排除されません。

自民党は「必要な自衛の措置とは、必要最小限度、専守防衛のことである」と主張しますが、「個別的自衛権」や「限定的な集団的自衛権」といった表現でない以上、フルスペックの制約なき集団的自衛権を認め、自衛隊が保有する装備も無制限に拡大する危険性は残ります。多くの憲法学者や弁護士会の声明も、同様の懸念を示しています。

また、自民党の新藤委員は、前回4月28日の審査会で、「必要最小限度や専守防衛の解釈を明文で規定したとしても、脅威の内容や程度によって相対的に判断しなければならず、その時点での解釈に委ねるのが適当との意見が多数派である」との論点整理をされました。

昨今の国政を見ておりますと、私は、時の政権の解釈に判断を委ねることほど危険なものはない、と大変に心配しております。

憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認し、「殺傷能力」のある武器輸出解禁の是非に焦点を当て、防衛装備移転三原則の運用指針見直し協議を始めた政党が、現に政権を掌握する中、憲法審査会の場で自民党委員がこぞって「憲法9条1項2項は堅持する」と繰り返し発言されたところで、にわかに信じることはできません。

同時に、「自民党の改憲案では、自衛隊ができることは変わらない」と主張されるのであれば、そもそも自民党の9条改憲案は必要ないのではないか、と思うのです。

自民党は「国防規定や自衛隊の明記によって現憲法の欠落部分を補い、憲法を頂点とする我が国の法体系を完成させる」と繰り返し主張しますが、前回審査会で、共産党の赤嶺委員が述べていたとおり、「憲法の上に日米安保があり、国会の上に日米地位協定がある」以上、憲法法体系を侵食する安保法体系を是正しない限り、少なくとも日米地位協定の全面改正なくして、我が国の法体系の完成と主権の確立はあり得ない、と強く指摘しておきたいと思います。

ここのところ「台湾有事は日本有事」「台湾有事は沖縄有事」であるといった発言が、自民党国会議員から公然となされております。

「敵基地攻撃能力の保有が抑止力になる」との説明を、岸田総理や外務・防衛両大臣は繰り返しますが、安保3文書の改定によって、中国、ロシア、北朝鮮は日本政府を批判し、対抗措置を取ると明言しています。むしろ、安保3文書が、東アジアを不安定にさせる原因になっている事実を、政権与党の国会議員の皆さんには直視していただきたいと思います。

戦争になれば、軍隊のある場所が標的になるというのが沖縄戦の教訓です。現に、太平洋戦争の際には、米軍の軍事拠点になるとの理由で、日本軍はオーストラリアのダーウィンを60回以上にわたって空襲しました。

住民らの避難手順を示す国民保護計画の実現性にすら疑問符が付く中、陸上自衛隊のミサイル部隊を沖縄の先島地域に配置して標的化させ、その標的を守るために迎撃用ミサイルを配備するのでは本末転倒です。

日本は憲法に基づく平和主義のもと、日本の武器によって「国際紛争を助長しない」との方針を継承してきました。殺傷能力のある武器輸出を認めれば、平和国家としての理念と築き上げてきた国際社会からの信頼が、大きく揺らぐことを自覚すべきです。

沖縄に暮らしておりますと、憲法9条を含む改憲論議そのものが、東アジアをはじめとする諸外国に9条破棄を想起させ、疑念を抱かせるのではいないか、と思う場面が多々あります。

国家安全保障戦略においても「わが国の安全保障の第一の柱は外交力である」ことを掲げている以上、周辺諸国を無用に刺激し、平和外交の支障となり得る要素を極力排除することに、政治は力を尽くすべきです。そのことを最後に強く申し上げ、発言を終わります。

(憲法審査会での発言から)

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