憲法審査会レポート、2023年

2023年06月09日

憲法審査会レポートNo.21

2023年6月7日(水)第211回国会(常会)
第7回 参議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=7526

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

自民、論点整理を提案 緊急集会と合区で―参院憲法審
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023060701028&g=pol
“参院憲法審査会は7日、参院の緊急集会、参院選の「1票の格差」是正に向けて導入された「合区」について、各会派が意見表明した。自民党は、議論の成果をまとめるため論点整理の作成を提案したが、立憲民主党は慎重な姿勢を示した。”

緊急集会 自民が「衆院任期満了時も」と見解 立民は「70日を超えても開催可」と主張 参院憲法審査会
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255313
“緊急集会は、衆院解散後の緊急時に参院が国会の権能を代行する制度。自民は従来、任期満了時の開催には改憲が必要だと主張していたが、この日は山本順三氏が「一時的な衆院議員の不存在という意味では解散も任期満了も変わりはない」と述べた。”

参院憲法審査会の要旨(2023年6月7日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255314

参院緊急集会の活用 一部の党は衆参で見解違い 参院憲法審査会
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230607/k10014093041000.html
“緊急集会の位置づけをめぐっては衆議院の憲法審査会でも議論が行われていて、立憲民主党、公明党、国民民主党は、衆議院側との見解の違いがみられました。”

【傍聴者の感想】

きょうは参議院の緊急集会や参議院選挙における合区問題に対する各会派の意見表明が行われました。

この間の憲法審査会においても露わになっていましたが、改憲派政党のなかでも見解がかなり相違しています。

たとえば自民党は緊急集会の権能・期間を限定的に捉えたうえで緊急事態時の任期延長の改憲の必要性を主張、合区解消に関しても改憲を行うべきとするのに対し、公明党は現行の緊急集会については緊急事態に対応しうる制度として肯定的で、また合区問題については解消ではなく一票の価値の是正のために「ブロック制導入」を主張していました。

立憲民主党・共産党・れいわ新選組は、会期延長、合区解消の改憲にいずれも否定的で、とくに緊急集会という制度の設置趣旨や歴史経過を捨象しての議論を批判。

さらに杉尾筆頭幹事がこの間政権が恣意的な解散権行使や憲法に基づく臨時国会召集要求を無視してきたことを思えば、任期延長を濫用するおそれが高いと指摘したこと、また山本委員が戦時下のウクライナ、震災下のトルコでも選挙が行われており、改憲派の主張する選挙が実施できない緊急事態とは火星人襲来か何かか?と問うていたことが印象的でした。

空論的な改憲談義の時間をただただ積み重ね改憲発議を狙うことより、現実の諸課題に対し国会議員として真摯に向き合うべきだ、という思いをあらたにしました。

【国会議員から】杉尾秀哉さん(立憲民主党・参議院議員/憲法審査会筆頭幹事)

今国会も、残すところあと1週間を切りました。

本稿が読者の目に触れる頃には、通常国会が閉じているかも知れませんし、あるいは衆議院が解散されているかも知れません。いずれにしても、時の最高権力者である内閣総理大臣が、「選挙に勝てそうだから」という理由だけで衆議院の解散に踏み切るのは明らかな「解散権の濫用」であり、間違いなく「立憲主義にもとる暴挙」です。

しかし、このように政府与党の「好き放題」が出来るのも、数の力があればこそ。自民・公明両党に、日本維新の会や国民民主党という「補完勢力」を加えれば、参議院でも「改憲派」が2/3以上を占める、我々にとって圧倒的に不利な状況に変わりはありません。

そうした中で、参議院憲法審査会の筆頭幹事を突然、拝命した私が最も腐心したのは、「憲法改正のための憲法改正」としか思えない拙速な改憲論を排し、多数派による「数の横暴」に対抗して緻密な憲法論・法律論を展開し、本当に憲法改正が必要か否か立法事実を明らかにすることでした。

今国会の参院憲法審では、参議院の「緊急集会」と「合区問題」の二つのテーマに絞って計7回の会議が開かれました。このうち、緊急集会では参考人質疑と議員間の意見交換を4回。また、合区問題では同じく参考人質疑と議員間討議を2回実施し、事実上最後の審査会となった6月7日には、緊急集会と合区問題を合わせた各会派の意見表明を行っています。

この中で、私が長谷部早大教授、土井京大教授の両参考人への質疑を踏まえ、緊急集会と議員任期のための改憲を中心に述べた会派見解の要旨は以下の通りです。

「緊急集会は1日も早い総選挙の実施を必須としつつ、緊急性を要する立法等を行う必要がある場合に限り、70日を超えても開催できると解すべきだ。緊急集会の根本趣旨に言及もないまま、70日間限定説を繰り返すのは、緊急集会を恣意的に曲解するものであり、(権力の)乱用排除の制度を破壊し、乱用可能な憲法改正を行おうとするもので許されない。わが会派は絶対に容認できず、任期延長改憲には明確に反対する」(東京新聞6月8日付朝刊より)

こうした我が会派の考え方に近いのが公明党で、また国民民主党の幹事も緊急集会の広範囲な権限を認める旨の陳述を行っています。

一方の合区問題では、憲法改正による合区解消を掲げる自民党の筆頭幹事が、改憲の前にまず法改正による合区解消の議論を先行させる事を容認する発言を行い注目されました。

このように、ひと口に「改憲派」と言っても決して一枚岩ではなく、また同じ党内でも衆参を含めて様々な議論の相違があることや、そもそも憲法改正によってしか解決できない課題が必ずしも明らかでない事が、本審査会での議論を通じて白日の下に晒されたと言えるではないでしょうか。

私の参院憲法審・野党筆頭幹事としての役目は一区切りを迎えることとなりますが、今回の経験を糧に市民の皆さんと引き続き緊密に連帯して、現行憲法の三大原則の順守と、最大限の実現。そして「政治権力の専制化や政治の恣意的支配を制限する」立憲主義の立場に立って政治活動を続ける決意です。

2023年6月8日(木) 第211回国会(常会)
第14回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54662
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

15日にも緊急事態条項の論点整理へ 衆議院・憲法審査会
https://mainichi.jp/articles/20230608/k00/00m/010/215000c
“自民党は8日の衆院憲法審査会で、衆院議員の任期延長など緊急事態条項について「総括的な論点整理」を行うよう提案し、立憲民主党は容認する意向を示した。次回の15日の審査会は、論点整理に基づき討論が実施される見通しだ。”

国民投票、資金規制巡り討議 自民否定、立民は必要
https://www.47news.jp/politics/9430536.html
“改憲案賛否のテレビCMなどを流すための資金量の規制に関し、自民党は投票運動を行う団体の支出実態を把握するのは困難だとして、否定的な考えを示した。立憲民主党は公平公正な国民投票の実現には、国民投票法を改正して資金規制を盛り込む必要があると訴えた。”

立憲民主、参院の緊急集会で「権限拡大の改憲」に言及 衆院憲法審 自民は議員任期延長の議論求める
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255535
“立民の奥野総一郎氏は、長期にわたって国政選挙の実施が困難な事態への備えとして、改憲によって緊急集会の権限を拡大することも選択肢になると指摘。「純粋に制度論として論じ、結論を得る必要がある」として、現時点で改憲が必要と判断しているわけではないと強調した。”

衆院憲法審査会 発言の要旨(2023年6月8日) 自民「論点まとめたい」 立民「公平に整理を」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/255541

【傍聴者の感想】

本稿執筆時点で会期末延長の話は伝わっていないので、今通常国会における衆院憲法審査会は、次週6月15日に予定されている一回を残すのみとなります。

これまでの衆院審査会では、緊急事態に備えた緊急事態条項を憲法に創設することの是非などについて議論されてきました。自民党が憲法に創設すべきと主張する緊急事態条項は、衆議院の解散権を制限し、両議院の任期および選挙期日に特例を設けることを認めるものです。

参考人として審査会に出席した長谷部恭男・早稲田大学教授が、「現在の民意を反映しない従前の政府がそのまま政権に居座り続けることのないよう」という指摘に対し、公明党の北側議員は「それほど日本の民主主義の熟度がないのか」と批判していますが、前号の『憲法審査会レポート』で飯島滋明・名古屋学院大学教授が指摘するように、野党が森友・加計学園問題の真相解明やコロナ感染や集中豪雨対応のための臨時国会の召集を求めても、まったく応じてこなかったのが自民党政権です。解散後も何かと理由を構えていつまでも総選挙を実施しない、あるいは総選挙の後もいつまでも国会を召集しないことに根拠がないとは言えません。

この日の審査会では、自民党の新藤議員から「論点や各会派の意見をまとめ、次回の審査会で議論を進めるよう」提案があり、日本維新の会の小野議員からは「論点は出尽くしている。憲法改正国民投票法の実施を見据えた行程表を示していただきたい」などと、終着点を決めた議論を求める意見が出されました。こうした結論ありきで進めようとする与党や一部野党の主張に危うさを感じます。

憲法改正の必要性を認める世論が改正の必要性を認めない世論を上回っているという世論調査の結果が出ています。NHKが4月に実施した世論調査では、憲法改正に、「あまり関心がない」「まったく関心がない」「わからない、無回答」とする回答が合わせて33.6%を占めています。改憲議論に国民の関心が高まっているとは言えない状態にあります。

立憲民主党の吉田晴美議員も「審査会の議論を国民に広く開き、伝える必要がある。そうした努力なしに議論は深まっていかない。テレビ中継も検討すべきではないか」という意見が出され、立憲民主党の奥野議員からは、現時点で改憲が必要だとは判断しないと強調しつつ、「要件を厳格にした上で、議員任期延長や緊急集会の権限を広げるような憲法改正も選択肢とはなるだろう。純粋な制度論として、公平に論点を整理すべき」といった意見が出されました。

精緻な憲法・法律論を展開すれば、危険な結論ありきの拙速な議論に歯止めをかけることができるはずです。審査会の議論の推移を広く発信することで、護憲世論の形成につなげなければなりません。さらなる取り組みの強化を痛感しました。

【憲法学者から】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

「憲法」を論じる態度か?

2023年6月8日の衆院憲法審査会。

自民党の新藤義孝与党筆頭幹事は途中で退出し、有志の会の北神圭朗議員と自民党の小林鷹之議員が発言している時には憲法審査会の場にいませんでした。

新藤議員は今までのとりまとめを求めていましたが、2人の議員の発言も聞かずにとりまとめを求めるのは、一般人の常識としてどうでしょうか?

新藤氏だけでなく、自民党の委員は少なくとも5人、憲法審査会を欠席していました。

かつて憲法審査会を抜けて喫煙室でタバコを吸っている自民党委員がいたことも報告したと思いますが、これが「憲法」の議論をする態度でしょうか? 自民党にとって「憲法改正」はそれほど軽い問題なのでしょうか?

【国会議員から】城井崇さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

6月8日に開催された衆議院憲法審査会において、国民投票におけるインターネット広告規制について、諸外国の実例を紹介しつつ、我が国の国民投票法においても導入する必要があることを申し述べました。

諸外国のネット広告規制の内容を概観すると、規制の内容は、国によって幅がありますが、透明性表示、アーカイブ設置、支出規制、外国人等規制、偽情報等拡散規制、ターゲティング等規制、商業広告禁止といったものがあります。未施行、審議中のものも含まれていますが、十分参考になる内容です。
なお、各国では国民投票と選挙で一体の規制となっていることには留意が必要です。 今回は、代表的なものとして、表示義務、支出規制、偽情報、誤情報などの拡散規制、商業広告禁止を取り上げました。

表示義務は、透明性の確保を目的とする規制であり、英国やニュージーランドでは広告者等に対して名前及び住所の表示義務を課しています。また、アイルランド、米国カリフォルニア州、EUの規制案でも同趣旨の規制が設けられています。このように、表示義務はネット広告規制の手段として一般的なものと言えます。ネット広告の適正利用を確保するために非常に効果的な規制手段であり、我が国においても導入すべきです。

支出規制は、公平性の確保を目的とする規制です。英国やニュージーランドに限られているようですが、この両国では支出額の上限を設けています。具体的な上限額等の制度の詳細は国によって異なりますが、資金力の大小によって広告量に格差が生じることを防ぎ、公平性を確保するために、支出金額の上限を設定し、報告等の義務を課すという手法は合理的なものと評価されています。我が国においても、国民投票法に支出規制を盛り込むべきです。

偽情報、誤情報などの拡散規制とは、いわゆるフェイクニュース対策です。 フランスでは、不正確あるいは誤解させる主張や批判については、急速審理裁判官が配信を中止させるための措置を命ずることができます。また、アイルランドでは、選挙委員会が偽情報、誤情報の監視、調査を行い、オンラインプラットフォーム等に対し削除通知等を発することができます。 もちろん、この問題は言論の自由と密接に関わるものであり、公権力による直接的な内容規制には極めて注意が必要です。

商業広告とは、すなわちネット広告の規制です。フランスでは、国民投票が行われる月の初日前6か月間及び投票日までの期間、インターネットを用いた商業広告を、国民投票に関する宣伝を目的として利用することが禁止されています。

このような外国の例を踏まえると、政党等によるネット有料広告を禁止するという立憲民主党からの提案は、ネット広告規制の手法として合理的だと考えられる一方、政党等以外によるネット有料広告の禁止については、更なる検討が必要だというふうに考えます。
以上の諸外国の実例を踏まえ、ネット環境の変化に対応した実効的な規制は可能かつ必要であることを訴えました。

【国会議員から】吉田はるみさん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会委員)

国会法第六十八条の三には「前条の憲法改正原案の発議に当っては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。」と規定されている。つまり、憲法改正案の関連事項毎に国会で採決をし、その各事項がそのままそれぞれ国民投票に付されることになるのである。

一度に複数の憲法改正案が国民投票に付された場合、懸念事項が二つある。
一つ目は、論点が多くなりすぎると、国民が混乱する可能性があること。
二つ目は、たとえば憲法9条など注目度の高い条文の改正案が国民投票に付された場合、それに関して集中して広告が展開され、その他の項目に目が向けられなくなり、結果、他の条項でも考慮すべきことが隠れてしまう可能性があること。
このような方法で行われた国民投票の結果は、国民の意思を正確に反映されたとは言えない。一度の国民投票で付すことのできる事項の数の制限をすべきである。

また、同条の「内容において関連する事項」の範囲も問題である。
たとえば、緊急事態条項に関する憲法改正案が議員任期延長や緊急政令、自由権の制限など、改正事項が多く盛り込まれた改正案の場合でも、全体への賛否しか問えず、変更または新設されるそれぞれの賛否は問えない。
そうすると、改正案に国民の意思が十分に反映されず、極めて問題である。このような重要論点が多数盛り込まれた案全体に対する賛否を一度に問うような、十把ひとからげのやり方は絶対してはならなない。

このように、憲法審査会では重要な議論がなされているにもかかわらず、現在の憲法審査会の運営では国民に伝わっているとはいえず、国民は不在の状況である。この憲法審査会の議論を国民に広く開き、伝える必要があり、それが国民から信託を受けた国会議員の責務であると考える。

憲法審査会NHKテレビ中継の導入は、私が今国会で複数回提言していることであり、早急に議論・検討を進めていきたい。国会が最大限の努力をして国民に伝える行動なく議論が継続されるのであれば、それは国民に伝える熱意のない、責任感のない、伝わらないことをむしろ好都合と考える権力者や改憲派が恣意的に憲法改正を目論んでいると理解されても仕方がないということを厳しく指摘する。

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