憲法審査会レポート、2023年

2023年11月10日

憲法審査会レポート No.25

今週は参議院憲法審査会不開催のため、衆議院憲法審査会のみのレポートです。

【参考】

自民改憲本部役員と憲法審幹事が初の合同会議
https://www.sankei.com/article/20231108-Y3H62U6E3FLUXBQKBJ3PXCRHYA/
“自民党憲法改正実現本部の役員と衆参両院の自民の憲法審査会幹事による初の合同会議が8日、党本部で開かれた。国会の憲法審が憲法改正の是非を他党と議論する場となるのに対し、同本部は改憲への理解を国民に広げる役割を担っており、連携を強化する狙いがある。”
“…与野党は同日、国会内で参院憲法審の幹事懇談会を開き、今国会初の憲法審を15日に開催することで合意した。参院選で隣接県を一つの選挙区に統合する「合区」などを議題とする予定だ。”

2023年11月9日(木) 第212回国会(臨時会)
第2回 衆議院憲法審査会

【アーカイブ動画】

https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54753
※「はじめから再生」をクリックしてください

【会議録】

※公開され次第追加します(おおむね2週間後になります)

【マスコミ報道から】

議員任期延長、早急議論を 衆院憲法審会長が視察報告
https://www.47news.jp/10106210.html
“団長を務めた森英介会長(自民党)は、各国が整備している緊急事態条項に触れ「緊急時の国会機能維持は重要だ。議員任期延長など速やかに議論を詰めなければならない」と強調した。”

衆院憲法審 “緊急事態条項 速やかに議論詰める必要”審査会長
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231109/k10014252271000.html
“…森氏は、視察した国の状況も踏まえ「価値観が多様化していることはわが国も同様と思われ、いかに国民を分断することなく合意形成を図るかが憲法改正のポイントだ」と指摘しました。”
“…審査会に先立って開かれた幹事会では、来週16日に審査会を開いて自由討議を行うことで与野党が合意しました”

【傍聴者の感想】

11月9日(木)、今臨時国会における第2回衆議院憲法審査会が開催されました。

今臨時国会冒頭、自民党や一部改憲野党の改憲に向けた岸田首相の決意を問う代表質問に対し、「総裁任期中に憲法改正を実現したいという思いは、いささかの変わりもありません。党内の議論を加速させるなど、憲法改正の課題に責任をもって取り組む決意です。」と答弁し、改めて改憲に対する決意を明らかにしました。

この日の衆議院憲法審査会では、衆議院欧州各国憲法および国民投票制度調査議員団の報告が行われました。視察議員団は、森英介(自民党)、新藤義孝(自民党)、中川正春(立憲民主党)、濵地雅一(公明党)、北神圭朗(有志の会)の5名の議員をもって構成され、訪問した国は、フランス、アイルランド、フィンランドの3国です。団長の森議員、中川議員、北神議員から調査のポイントとして①憲法改正の現状、②緊急事態条項、③国民投票の在り方の3点を中心に報告が行われました。

立憲民主党の中川議員からは、フランスでは緊急事態条項について、大統領がイニシアティブを持って行われる場合が多いことから、議会や国民がそのことによって分断される可能性が高いのではないかという疑念を持ったことなどが報告されました(今号では、立憲民主党の中川正春議員に視察レポートを寄稿いただきました)。

海外視察を決して否定するものではありませんが、最高法規である憲法には、その国の成り立ちや文化、辿ってきた歴史的な経緯が反映されています。日本国憲法は、アジア太平洋地域において日本がもたらした戦禍の反省から生まれた平和を指向する憲法で、決してGHQに押し付けられたものではありません。

ウクライナ戦争は収束の見通しが立たず、一か月が経過したパレスチナ・ガザ地区へのイスラエルによるジェノサイドは、既に1万人を超える罪のない人々を死に追いやり、その4割が子どもたちです。不条理としか言いようのない状況が止まる見通しがありません。

日本国憲法前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と、謳われています。こうした日本国憲法の平和理念を全世界が共有することで、地球規模での恒久平和が実現します。これこそが本当の意味での「積極的平和主義」であることは疑う余地はありません。

立憲主義に基づく政治を進める義務を負う国会議員が改憲を唱えています。改憲という結論ありきで空疎な議論が積み重ねられています。明確な国家観ももたないまま、具体的な条文案作成から改憲発議という暴挙になだれ込むことは断じて許されるものではありません。(S)

【国会議員から】中川正春さん(立憲民主党・衆議院議員/憲法審査会幹事)

フランス、アイルランド、フィンランド各国で、関係者や専門家からの聴き取りをする中で、私なりに、特に印象に残った事柄を報告したいと思います。

【フランス】

フランスでは、憲法改正や法案作成に関連する3つの機関について、その役割が有効に働いていることを感じました。具体的には、コンセイユ・デタ、内閣事務総局、そして憲法院です。

コンセイユ・デタは、行政裁判の最高裁判所としての役割と、政府が法案を作る時の諮問機関、法律顧問としての役割を併せ持つと言います。しかし、政府からは、独立した機関であり、最高行政裁判所の役割を持つところから、日本の内閣法制局とは性質が異なることになります。一方で、政府の機関である内閣事務総局が、首相に対する法律顧問の役割を任っており、日本の内閣法制局に近いかもしれないと説明がありました。

さらに、憲法院があります。憲法院は、成立後、公布前の法律の合憲性審査を行うと同時に、事後審査制であるQPCでは、法律が国民の諸権利を侵害していると見なされる場合に、当該の法律を違憲・無効とする二つの権限を併せ持つ機関です。憲法と法律、また人権擁護に関連してこれだけのチェック機能を駆使しながら憲法を運用する体制に、深く感銘を受けました。

翻って、日本の実情に強い懸念を持ちます。憲法判断を避ける裁判所や政府の方針に沿った理論武装を担うことを使命とするような内閣法制局だけで、本当に適切な憲法や法律の運用が出来ているのか、自問しなければならないところだと思います。

次に、緊急事態条項です。

フランスでは、憲法の緊急事態条項は、実際上はさほど重要視されていないというブドン パリ=サクレ―大学教授の言葉がありました。憲法上の緊急事態条項よりも、緊急状態法などの一連の法律が議会や司法のコントロールの下で運用されているということが言及されました。緊急時に発動される例外的な政府の権力であっても、それを縛ることが必要だとすれば、憲法よりも法律で規定する方が実情に合った柔軟な対応が可能になるということです。
一方で、憲法改正の提起や起案は、どこからなされるのかという問題です。

フランスでは、大統領のイニシアティブで行われる場合が多いことなどが、報告されましたが、私は、議会や国民がこれによって分断される可能性が高いのではないかという疑念を持ちました。

【アイルランド】

アイルランドでは、市民議会が話題となりました。

市民議会は、ランダムに選出された99人の市民と1人の議長からなり、国民投票が想定されるような課題について、専門家や市民運動家、また、課題の当事者などから幅広く意見聴取しながら議論を重ねる中で、マスコミ報道などを通じて、国民の理解を得ながら提言を纏めることが想定されています。

ともすると、政策がポピュリズムに流され、政争の具に使われることなども懸念される現代政治において、政治闘争とは一線を画した市民議会が、アイルランドでは、うまく機能しているように思われます。私たち日本の民主主義にとっても、工夫の余地があるように思われました。

憲法の緊急事態条項については、さらにはっきりした見解が述べられました。

ケニー トリニティ・カレッジ准教授の言を借りれば、憲法の国家緊急事態に関する条項を適用するより、「期間を限定した上でその緊急事態に応じた法律を制定すること
によって措置を行うというプロセスがとられている」とのことです。また、「仮に憲法に規定がなくとも、国家緊急権は、行政府に内在していると、アイルランドの裁判所は判断すると思う」、との見解も出てきました。

安全保障分野では、アイルランドは、中立国としての立場をとっており、NATOへの参加はしないという姿勢です。EU関連条約批准のための憲法改正が、「アイルランドがEUの共同防衛に参加する義務を負う」と誤解されたために、国民投票で否決された経緯があります。そのため、EU関連条約を批准しても、憲法29条でEU共同防衛への不参加を規定することとして、EUに加盟しても共同防衛への義務を負うものではないということを、改めて、国民に説明したことから、2回目の投票では可決されたと言います。市民議会もなかった時代。憲法改正や国民投票では、その内容について、国民的な議論が広く行われ、内容が十分に理解されなければならないということです。

【フィンランド】

フィンランドは、1995年にEUに加盟し、1999年には憲法にあたる基本法を制定しました。EU加盟では、国民の間で意見が割れたため、国民投票によって結論を得ましたが、NATO加盟では、国民の70%以上が加盟への支持を表明していたから国民投票は行われなかったとのことです。

また、フィンランドのNATO加盟で、専守防衛という基本理念がどうなったかという問いに、クーセラ国防省防衛政策局長からは、「防衛軍は国や国民を守るための組織であり、他国に対して兵力を駆使して侵略や攻撃などを計画したり実行したりはしない。それを専守防衛と言っている。NATOも同じ政策を採っているのでそれと協調したものになっている。」と説明があり、防衛費が増大していくことに、国民の理解を得ていくとしています。ロシアのウクライナ侵攻を自分ごとに捉えるフィンランドがNATOに加盟
した背景は、切羽詰まったものです。アイルランドのNATO非加盟、中立政策維持や専守防衛政策に対するこだわりと対照的な対応になっています。

フィンランドでは、ヘルシンキの街の中心部に設置されたシェルターも視察しました。集合住宅には、シェルターの設置が義務付けられ、公共の物とあわせるとヘルシンキでは、住民の数、60万人を超えて、通勤者や旅行者の数も入れた90万人を収容できるとしています。普段は子供向けのスペースや球技場として使われているシェルターも、有事の際の空調、二重扉、水、発電設備、簡易トイレやベッドが整備され、2週間を耐える前提となっています。有事の際には、まず国民の命を守る。ここから出発するフィンランドの安全保障の本気度を見た気がします。

今回の視察を通じて、それぞれの国の憲法は、各国の歴史と環境が深くかかわって明文化され、時代の変遷の中で試行錯誤を重ねながらその時々の運用がなされてきていることが実感できました。

私たちも、日本の歩んできた歴史を振り返り、未来に対してより発展した世界観を示すことのできる憲法議論を目指していくことを改めて確認し、報告にしたいと思います。

(憲法審査会での発言から)

TOPに戻る