大飯原発

2021年03月01日

大阪地裁の大飯原発設置許可取り消しから考える

原発に「安全」という言葉は存在しない

フォーラム平和・人権・環境 共同代表 藤本泰成

旧福井県民会館前で行われた大飯原発再稼働反対集会(2012年3月25日)

安全審査には看過しがたい欠落がある

大阪地方裁判所(森健一裁判長)は、2020年12月、関西電力大飯原子力発電所3・4号機が、2012年6月に福島第一原発事故の教訓を踏まえ改正された「実用発電用原子炉に係る新規制基準」に適合するとした原子力規制委員会(以下規制委員会)の判断を誤りであるとし、設置許可を取り消す判決を下しました。判決は、原告の「基準値振動(耐震設計の目安となる揺れ)の算出において、平均値を外れた数値を考慮せず、地震の規模や基準値振動が過小評価されている」とする判断を受け入れ、国の「数値のばらつきを考慮する必要はない」とする主張を退け、規制委員会の審査に「看過しがたい欠落がある」とし「審査すべき点を審査していないので違法」と断言しています。この判決に従い、より安全な算出方法をとるならば、日本に設置されている全ての原発の「基準値振動」は見直さざるを得ません。判決は、世界で一番きびしいと政府が主張する審査基準を否定するもので、規制委員会の安全審査の根本に関わり、きわめて重要な判決と言わざるを得ません。

基準値振動見直しを提言する島崎元規制委員会委員長代理

2016年4月の熊本地震の後、原子力規制委員会の元委員長代理の島崎邦彦(東京大学名誉教授[地震学])が、熊本地震の知見から「大地震の実際の揺れは、現在の基準値振動(原発の重要な施設[原子炉など]に大きな影響を与える恐れのある地震による加速度)を上回る可能性が高い」との見解を発表しました。現在の活断層の長さなどから地震の規模の平均値をとる計算では、震動の「ばらつき」が考慮されず基準値振動の過小評価につながるとし、「あくまでも私の試算」としながら、「ばらつき」を考慮するなら大飯原発では最大加速度が1550ガルになるとしました。現在の大飯原発の基準値振動は856ガル、関電が2011年に示したストレステスト(耐震余裕度テスト)での「クリフエッジ」(安全の限界)でも1260ガルとされていて、島崎さんの試算は、そのどちらも大きく超えるものでした。

熊本地震を詳細に調査した纐纈一起東大地震研究所教授も、「規制委員会の審査方法を熊本地震に適用すると、地震動は過小評価になる」と述べています。島崎さんは、そのような現実を踏まえ、政府・地震調査研究推進本部の「地震調査委員会」が示している計算式の使用を提言していました。

規制委員会、島崎提言を否定

しかし、規制委員会は、「一部の都合のいいデータだけを持ち出した指摘は、素直に受け入れられない」「島崎先生の主張は根拠がない」として、基準値振動の算定の見直しを求める島崎さんの要望を否定しました。脱原発市民グループ「若狭ネット」の長澤啓行大阪府立大学名誉教授は、「島崎提言を認めることが大飯原発の再稼働を困難にし、ひいては全国の原発の再稼働が困難になる可能性が高い。そのことが提言を拒んだ理由ではないか」と指摘しています。

政府・東電は、東日本大震災によって福島第一原発を襲った津波の規模を「想定外」としましたが、産業技術総合研究所や東北大学などの貞観地震(869年)の調査などから、大規模津波の襲来を予想していましたし、東電自身も2008年当時には津波規模の最大予測を15.7mとする独自調査を行っていました。しかし、十分な対策費は行われず福島原発事故を回避することはできませんでした。「基準値振動」への島崎提言の否定は、次の「想定外」を生むことにつながります。

推定できない最大加速度

2016年4月に起きた熊本地震は、マグニチュード(M)7.3(東日本大震災・東北地方太平洋沖地はM9.0)でしたが、深さ12kmという比較的浅い内陸部の活断層が動いたため大きな被害を受けました。この時、震源から7.5kmの熊本市西区春日での地震加速度(地震の揺れの速度が瞬間にどれだけ加速したかという数値)は855ガルでしたが、震源から90.1kmも離れた別府市鶴見では1155ガルを記録しました。地震のエネルギーがどのように伝わるかは、このようにまったく予想できません。地震学は「観察できない」「実験できない」「資料がない」の三重苦と言われます。活断層やプレート境界上で起きるであろう地震の規模を確定するのは、極めて困難なのです。

見直すべき、原発の基準値振動

原発の耐震設計上「どれだけの地震に耐えられ得るか」を表すのが「基準値震動」という数値です。

世界一きびしいとされる新規制基準の下で、それぞれの原発が再稼働を目途に決定している基準値振動は、浜岡原発3号機の2000ガル、柏崎刈羽原発の1209ガルを除くと、すべてが1000ガル以下で、福島原発事故以降いち早く再稼働した九州電力の玄海原発や川内原発は620ガルにとどまっています。

日本でこれまで記録した最大地震加速度(東日本大震災2765ガル、中越沖地震990.8ガル、宮城県沖地震1442ガル、阪神淡路大震災784.8ガルなど、最大は岩手・宮城内陸地震の4022ガル)を考えると、素人目にも620ガルは低すぎると映ります。岩手・宮城内陸地震は、それまで地表に現れていない未知の活断層が動いたもので、そのような活断層が動くことは全国どこでも、原発直下でも可能性のあることなのです。

揺れる判決、しかし事故リスクは否定できない

原発の運転差し止めを求める訴訟では、福島事故以前の勝訴判決は2件しかありませんでしたが、しかし、福島原発事故以降は6件を数えています。原告勝訴の判決は、巨大地震と津波、火山の巨大噴火などの可能性を考慮し、よりきびしい安全対策を求めるものです。一方、敗訴の判決は、原発事故のリスクは多少あるが、そのリスクは社会通念上容認できる範囲にあるというものです。判決は、事故のリスクへの評価の違いであって、そのリスクを否定するものではありません。今回の大阪地裁の勝訴判決は、予想しがたい地震の規模に関しては、想定しうる最大値を以て「安全の基準」とすべきとするもので、島崎提言を受け入れるものとなっています。

それでは原発は動かせない

大阪地裁判決は、島崎提言に従ってよりきびしい基準での審査を、規制委員会に求めました。この考え方は、大飯原発のみならず全国すべての原発に適用されなくてはなりません。結果として、安全対策へのさらなる出費を求め、原発の発電コストを大きくするもので、電力自由化の流れの中では市場での存在意義を失うものです。つまり、安全対策の実効性を高めるほど、原発の存在そのものを否定することにつながります。大阪地裁判決は、そのような意味で原発存在そのものを問うものだと考えます。
(ふじもと やすなり)

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