10月, 2015 | 平和フォーラム

2015年10月30日

平和軍縮時評2015年10月号 国連総会「核軍縮決議案」を通して考える、安倍政権「積極的平和主義」の正体  田巻一彦

   9月30日に公布された「安保関連法案」で、政府・与党が振りかざしたのが「積極的平和主義」だった。もう一度思い返してみよう。昨年7月の「閣議決定」 から。

「特に、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定のために、日米安全保障体制の実効性を一層高め、日米同盟の抑止力を向上させることにより、武力紛争を未然に回避し、我が国に脅威が及ぶことを防止することが必要不可欠である。その上で、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の下、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。」

   要するに、1) 日米同盟の抑止力を向上させることが第1で、「その上で」2)「積極的平和主義」の下で、国際平和と安定に貢献する。3)そのためには安保法制が必要である。という論理だ。2)と3)の間には大いなる飛躍があることはいうまでもない。
   ところで、この「積極的平和主義」、閣議決定の英語版では次のように表現されている。「the policy of "Proactive Contribution to Peace"」、直訳すれば「平和のための積極的貢献」政策。日本語では「主義」という「考え方」、一方英語では「積極的貢献」という「行為」。つまり「安保法」を手にした日本が国際社会に対して「何を発信し、何を行う」ことで世界の平和に貢献してゆくのか、そのことがこれまでになく問われてゆく、市民の視点からはそう読むべきだろう。
   その試金石となるべき季節がやってきた。10月第2週に本格的議論が始まった「国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障)だ。そこに提出された決議案のいくつかを読みながら、日本がやっていること、やるべきなのにやっていないことを、考えたい。

国連第1委員会に提案された注目決議

   最初に、春の「2015NPT再検討会議」が生み出した手掛かりを再確認しておきたい。合意には至らなかったが、同会議の最終文書案には次の勧告が残された(要旨):

「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道上の結末をもたらすとの懸念が、核軍縮分野における諸努力を下支えし続けるべきだ。(154-1.)
「国連総会第70会期で核兵器のない世界の実現と維持に貢献する法的諸条項を含む、効果的措置を検討する公開作業部会を設立する。作業部会は、『全会一致原則』で運営されるのが望ましい。ただし、下部機関の作業方法を決定する専権は国連総会にある」(154-19)

   すなわち、「再検討会議」では核兵器は非人道的であるがゆえに核軍縮のための効果的措置の探求が必要であるとの論理が残され、その議論を行う「公開作業部会」の設立が勧告された。これには米国なども事実上同意した。作業部会は「全会一致」原則が望ましいが、ルールを定めるのは総会の専権事項である、と但し書きされている。
   今回の総会第1委員会には、この「NPT最終文書案」を手掛かりに、核軍縮の前進を目指す決議案が複数提案された。ここで取り上げたいのは「非人道性の認識」と「効果的措置の探求」を直接的に結びつけた、次の3つの決議案である。

  1. アイルランド、メキシコなどによる「多国間核軍縮交渉を前進させる」(A/C.1/70/L.13)
  2. 南アフリカなどによる「核兵器のない世界のための倫理的至上命題」(A/C.1/70/L.40)
  3. 新アジェンダ連合(NAC。ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アの6つの非核兵器国で構成)による「核兵器のない世界へ:核軍縮に関する誓約の履行を加速する」(A/C.1/70/L.41)

   特に注目されるのが「公開作業部会」設立と運営方法を示した1.の決議案である。(以下「メキシコ決議案」と呼ぶ。)

1. 「多国間核軍縮交渉」決議案(メキシコ決議案)

   メキシコ決議案の核心は、「核兵器のない世界の達成と維持のための新たな法的条項や規範について合意に至ることをめざした交渉を行う公開作業部会を開催する」ことである。作業部会は、2016年にジュネーブで、「国連総会の下部機関としてその手続き規則に則り開催」される(同5)。つまりそこでは投票による採決が行われる可能性がある。
   ピースデポは9月に、日本決議案に盛り込むべき内容に関する要請書を提出した。そこで、NPT2015最終文書案の「公開作業部会」を手掛かりに、すべての国と市民社会に開かれた協議の場を設立する決議案を提案するよう求めた。また作業部会は少数が拒否権を行使することを避けるような運営ルールをとるべきであると申し入れた。メキシコ決議案はまさにそれに応えてくれた。日本がそれにどのような態度をとるかに注目したい。
   「一般討論」における演説において、メキシコとともにこの決議案を主導したアイルランドのヘレナ・ノーラン外務貿易省・軍縮不可拡散局長は、次のように述べた:

「2013年の公開作業部会における熟議の成功に続いて、我々は、同作業部会で積み残された課題をとりあげて、核軍縮に必要な効果的な法的措置を議論する2回目の公開作業部会を開くべき時だと感じている。この作業部会は、国連総会の下部機関として、総会の規則及び手続によって運用されるべきであり、コンセンサスに拘束されるべきではないことが妥当である。それでも、我々は成果達成に向けてすべての加盟国が力を合わせることは可能だと確信する。市民社会が積極的に参画し、議論に新鮮な思考と専門性を注入することを歓迎する。そして当然のことながら、我々は核兵器国が、NPTのもとで誠実に追求することが義務付けられている核軍縮プロセスのすべての段階に、他の国々とともに関与することを必要としているし、そのことを重視している。」

   ノーラン局長はさらに、一般討論においてなされた、発展途上諸国やアフリカ・グループからの提起に言及しながら、決議案を動機づける基本認識を強調した。

「私は、すでに脆弱な環境のうえに、いかなる核爆発もが与えるだろう影響に対する彼らの懸念と、8億5千万の人々が未だ飢餓に苦しみ、毎日8千人の子どもたちが栄養失調で死に、そして1日に800人の女性が妊娠と出産に関わる原因で命を失っているこの時に、いくつかの国が保有核兵器の近代化に巨額の富を注いでいることへの彼らの絶望感を共有する。我々はこう自問するべき時だ。核兵器の近代化と維持のために現在注がれている資金を使わないことにすれば、世界でどれだけ有益なことができるだろうか。」

   そして、ノーラン局長は演説を次のように締めくくっている。

「2015再検討会議の失望を受けて、だからこそ、他の国の核兵器開発を防止するだけでなく、核兵器がいかなる状況のもとでも再び使用されないこと、そして、すべての核兵器を永久に使うことができないようにするためのプロセスを開始する努力を倍加しようではないか。」

   どうだろう。この決議案と演説、「積極的平和主義」と呼ぶにふさわしいものではないだろうか。

2. 「倫理的至上命題」決議案

   一方、この決議案は、核兵器爆発がもたらす「壊滅的な人道上の結末およびその危険性を認めるよう」すべての国家に要求した上で、「核兵器のいかなる使用も、その大義名分が何であれ、国際人道法や国際法や道徳律とも、市民的良心の命ずるところ」にも合致せず(主文3h)、核兵器は本質的に不道徳であると宣言する。そしてすべての国家が、「切迫感と確固たる決意をもって行動」し、「核兵器を廃絶し禁止するため必要な、法的拘束力ある効果的な措置をとるべき倫理的責任を共有している」と強調する。また、効果的措置の検討プロセスで、女性が果たすべき役割が大きいことを強調しているのも、この決議案の特徴だ。
   この「宣言的決議案」(具体的・直接的に「何かをする」ことを求めてはいないのでこう呼ぶことにしよう)、これまで核兵器の非人道性に関してファクト・ベースで蓄積されてきた知見を、まず「倫理的義務」の問題として突きつけ、であるがゆえに「効果的措置」を議論することが不可避であるという論理を鮮明にするものだ。唯一の戦争被爆国である日本が提出してしかるべき、決議案だ。
   提案国の南アフリカは、新アジェンダ連合(NAC)を代表して行った一般演説で次のように述べている:

「核軍縮は国際的な法的義務であるのみならず、道徳的・倫理的至上命題である。核兵器の非正統性に対する国際的コンセンサスが拡大しているにもかかわらず、核兵器は、核兵器国と、核兵器国と地域的な同盟を結ぶ国々との安全保障ドクトリンの核心であり続けている。この状況は、国際の平和と安全を強化するものからはほど遠く、それを弱体化させ、国際的緊張と紛争を悪化させ、諸国と諸国民の集団的福祉を脅かしている。さらに、核兵器国が法的義務と誓約に逆らって核兵器を永続的に保有しようという野望を抱いているとの見方を生み出している。」

3. NAC決議案

   NACは昨年を基本的に継承・踏襲しつつ、NPT再検討会議の合意失敗という結果を踏まえた決議案を提案した。決議案は、核軍縮の「効果的措置」に関する選択肢を「特定し、熟議し、交渉する努力を支持する」ことを加盟国に要請(主文19)している。とりわけ、核兵器国と同盟関係にある「すべての国」に、「集団的安全保障ドクトリン上の核兵器の役割を低下させる」よう奨励していることが注目される。「すべての国」が、日本やNATO諸国など、米国の「核の傘」の下にいる国々を指しているのは当然である。この「核依存政策」がいかに非人道的なものであるかについては、本コラム8月30日号で書いたとおりだ。このような現実を打破しようという呼びかけは、本当は日本がなさねばならないことだったはずだ。

予想される曲折

   今後、メキシコ決議案は、その野心的内容と「作業部会」の運営ルールゆえに少なからぬ抵抗に直面することが予想される。
   例えば米国は、一般演説の中で「NPT最終文書案で想定されたような公開作業部会を支持する用意がある」としつつ、このような作業部会の目的に関する見解は「各国の核軍縮を前進させるための方法に対する考え方によって多岐にわたるであろう」とし、「この相違を今回の第1委員会で決着させることは不可能である」と述べた。米国が「支持する用意のある」作業部会が、「多国間核軍縮交渉」決議案が求めるものと同一ではないことに注意したい。
   一方、国連内で強い力を持つ非同盟運動(NAM、115か国が加盟)は「一般演説」において、昨年NAMが提案し採択された決議「核軍縮に関する2013国連総会ハイレベル協議のフォローアップ」(A69/58)を引用しながら、「ジュネーブ軍縮会議(CD)において、核兵器に関する包括的条約の妥結を目指す交渉を早期に開始することこそが、確実な措置である」と強調した。CDは全会一致で運営される。言いかえれば一国でも「ノー」といえば、何も決めることができない。つまり「拒否権」が許される。そのために、CDでの軍縮交渉は10年近く停滞したまままである。それでもNAMにはCDにこだわる理由があるのだろうが、ここではそれには立ちいらない。
   米国も「公海作業部会」は「全会一致」で運営されるべきだと考えている。
   これらの主張を考慮すれば、「多国間核軍縮交渉」決議案の採択のためには、少なからぬ妥協や調整(修正)が必要となる可能性がある。

そして「日本決議案」は?

   日本決議案がウェブ等で読めるようになったのは10月末も押し迫ってのことだった。首相や外相が「新しい決議案を出す」といっていたので、どんな決議案になるか期待した。条文の並び順等を見ると、それなりに「形」が代わっていることはわかる。だが、メキシコ決議案、倫理的至上命題決議案、そしてNAC決議案と比べると、如何にも内容は弱く、保守的なものに見えた。これでは、核兵器のない世界を「究極の目標」に遠ざけてしまう、これまでの決議と変わらないではないか。ピースデポでは、10月30日にこの決議案に対する感想と、メキシコ決議案等に賛成することを求める「所感と要請」を送った。

   これらの決議案の採決は11月2日から9日にかけて行われる。その結果を受けた報告は次の機会に書く。なお、ここで取り上げた3つの決議案に対して日本は「棄権する」公算が強いと伝えられている。「積極的平和主義」とは、一体何なのか・・・

2015年10月16日

辺野古新基地建設にかかわる行政不服審査申立に抗議する声明

 翁長沖縄県知事による辺野古沖埋め立て承認の取り消しに対する沖縄防衛局の行政不服審査申立に抗議する

20151014

フォーラム平和・人権・環境

事務局長 藤本泰成

 

 沖縄県の翁長雄志県知事は1013日、沖縄防衛局の反論を聴く手続きを終えたうえで、辺野古新基地建設にかかわる公有水面埋め立て承認を取り消すことを指示しました。

 平和フォーラムは、翁長県知事の決断を歓迎し、支持することを表明します。沖縄の民意は、既に選挙で、世論調査で幾度となく示されており、辺野古新基地建設に反対する多くの沖縄県民の意思を慮ることこそが民主主義の根幹であると考えます。

日本政府は、「普天間飛行場の危険性を一刻も早く除去するために、辺野古移設が唯一の解決策」として、「わが国は法治国家であり、行政の継続性という観点から、前知事からの承認に基づいて埋め立て工事を進めている」から、「承認取り消しは違法」であると主張してきました。そして翁長県知事の承認取り消しを受け、政府の出先機関である沖縄防衛局は、承認取り消しに対抗するために、行政不服審査法を援用して審査請求および承認取り消し処分の執行停止の申立てを行いました。

 政府によるこの措置は、沖縄県民の民意に寄り添うという民主主義の信義に伴う道義的な立場に反しているだけではなく、政府が主張する「わが国は法治国家」という観点からも逸脱していると考えざるを得ません。

行政不服審査法の立法趣旨は、行政機関の処分に対して不利益を被った市民(一般私人)の救済が目的となっています。国の出先機関である沖縄防衛局が、一般私人として審査請求することは果たして法の趣旨に適合しているのでしょうか。今年3月、翁長県知事による岩礁破砕にかかわる工事の停止指示の際も、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき、審査請求をしました。その際、申立の資格に関し「固有の資格ではなく、一般私人と同様の立場」として申し立てたとしています。

公有水面埋立法では、埋め立て事業主体が国の場合と一般私人とでは、まったく異なる取り扱いを受けており、その一つの例として、一般私人であれば都道府県知事の埋立ての「免許」が必要なところ、国の場合は「承認」を受けるだけでよい点などがあります。公有水面埋立法からも、沖縄防衛局は一般私人ではないことは明らかであり、申立資格はないといえるでしょう。そもそも米軍基地の建設事業が、果たして一般私人がなしえる事業なのでしょうか。

日本政府は、翁長知事の承認取り消しを尊重し、作業を停止するべきです。そして沖縄県民の「国外・県外移設」との要求に沿った政策の転換を図るべく、米政府との協議を行っていくべきです。

 平和フォーラムは、法治主義を逸脱したともいえる政府の傲慢な姿勢を許さず、翁長知事の判断を支持し、沖縄県民の思いに連帯して、普天間基地即時返還・辺野古新基地建設反対のとりくみに今後も全力を尽くしていきます。

2015年10月06日

TPP交渉の「大筋合意」に対する平和フォーラムの見解

TPP交渉の「大筋合意」に対する見解

フォーラム平和・人権・環境 事務局長 藤本 泰成

 9月30日からアメリカ・アトランタで開かれていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、異例の延長を繰り返した後、10月5日午前(日本時間5日夜)に「大筋合意」に至ったとの発表がなされました。今回の「大筋合意」はもっぱらアメリカの大統領選挙などの政治日程を優先して強引に決められたものであり、国民への事前の説明もなく一方的に合意したことに対し強く抗議します。
 TPP交渉は、当初2013年中に合意する予定でしたが、何度も見送られてきました。それは、アメリカ主導のもとで、多くの分野で急進的な市場開放や経済ルールの統一化を図ろうとすることに、多くの国から反対の声が上がったためです。また、今回の医薬品のデータ保護期間をめぐる交渉にみられるように、TPP交渉が多国籍企業の利益優先のために行われ、多くの人たちの命と暮らし、人権や主権を脅かすことにつながるものであることが明らかになりました。
 日本においては、「TPP交渉参加反対」を公約にして政権交替を勝ち取った安倍政権が、自らの公約を破って2013年に交渉に参加しました。さらに、交渉参加にあたって衆参農林水産委員会で行われた決議で「重要農産品は再生産可能となるよう除外または再協議の対象とする」とされていたにも関わらず、日米協議で譲歩を重ね、コメの輸入枠設定や牛・豚肉の関税大幅引き下げなどを受け入れました。また、食の安全や医療、企業が相手国を訴えることが出来るISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)などでも国会決議を踏みにじることにつながる懸念は払拭されていません。
 このように安倍政権は、自らの公約や国会決議、さらには「説明不十分」という国民世論も無視して秘密交渉を続け、終始、交渉「合意」に前のめりの姿勢を取り続けました。これは、民主主義をも破壊する暴走であり、戦争法案とともに、米国追従、日米同盟の強化を目論んだものと言わざるをえません。
 今回の「原則合意」を受けて、今後、各国では協定の発効に向け、議会の批准などの手続きが行われます。それらにあたって最低限、これまでの交渉の内容を全面的に明らかにするとともに、徹底した国民との意見交換などを行うことが必要です。そして、国会決議に違反する場合は交渉からの離脱も含めて検討するよう求めます。
 私たちはこれまで、全国で多くの人たちと力を合わせて、宣伝や集会、学習会、フォーラムや国際シンポジウムなどを展開してきました。また、世界の人たちとも連帯し、不公正な通商交渉に反対してきました。今後とも、国内外の関係団体とともに、TPP交渉の問題点を追及し、国会決議違反、民意を無視したTPP協定の発効は許さない取り組みを展開します。

以  上

2015年10月01日

アメリカが嫌い!

「アメリカが嫌いだ」と、あちこちで話してきた。決して「アメリカ人が嫌いだ」と言っているつもりはない。高校に入学し、一人暮らしをして以来、毎日のようにコカ・コーラかペプシ・コーラを飲み続けている。16歳から45年間、その本数16,425本(1日1本)以上、そして、高校時代にJAZZ喫茶に通い出して、これまで聞いたアルバムはどのくらいだろうか。数える術はない。友人たちはよく言ってくれる。「それで『アメリカ嫌いだ』もないもんだ」と。 WEINSIST!の中でも何回かアメリカとの関係について書いてきた。敗戦後の駐留軍の存在、僕は「戦争を知らない子どもたち」だけれども「ギブ・ミー・チューインガム」と言う言葉は、何となく耳にし、その状況と意味するところも知っている。その屈辱と憧憬を何となく知っている。

小学校に入ると、家にテレビが来た。稲穂の農協マークの付いたゼネラルテレビ、その画面から出てくるのは「奥様は魔女」「じゃじゃ馬億万長者」「ローハイド」「ルート66」。アメリカへの憧れはいやが上にも強まる。しかし、その傍らで力道山がシャープ兄弟やルー・テーズ、カール・ゴッチを破る姿に歓声を上げる。この時から、日本はアメリカにゆがんだ感情を抱いてきたのではないだろうか。

自らの国益を自由と民主主義を守ることに置き換える、アメリカの傲慢な姿勢がどうしても許せない。社会のあり方が、極端な自由主義、自己責任・格差社会であることに我慢がならない。そして、私がJAZZを聞き、つれあいがBLUEGRASSを好むことで、「そんな二人がうまくいくはずがない」というアメリカの差別意識がかんに障る。OECD加盟国内の子どもの相対的貧困率は、GDP世界1位のアメリカが下から3番目、第3位の日本は4番目、いかに格差が大きい社会かが分かるというものだ。

日本の自衛隊の集団的自衛権行使も、アメリカの世界覇権を補填するもの以外の何ものでもない。さあ、日本もアメリカを応援して金も出せ、血も流せと言うことだ。だから、私はアメリカが嫌いだ。そしてアメリカと同じになろうとする安倍政権が嫌いだ。
(藤本泰成)

2015年10月01日

ニュースペーパー2015年10月



戦争法案の強行採決に対する抗議声明
 安倍政権は戦争法案を、9月17日に参議院特別委員会で強行採決し、そして19日未明、参議院本会議で採択した。戦後70年、日本の市民社会の平和への営みを反故にし、侵略戦争と植民地支配の反省からつくりだされた日本国憲法の平和主義を空洞化する安倍政権を、私たち平和フォーラムは絶対に許さない。
 世論調査では常に反対が多数であり、「説明不足」「今国会での成立は必要ない」とする声が圧倒的となっている。国会周辺は、反対する市民で埋め尽くされ、学生が、母親たちが、高校生さえ反対の声をあげてきた。しかし安倍政権は、これらの声に、一切耳を傾けなかった。民意を無視し法案成立を強行するやり方は、民主主義と言えるものではない。安倍首相の「成立した暁には間違いなく理解が広がっていく」との発言は、民主主義を否定し、主権者を軽視する傲慢な姿勢を象徴したもので、決して許されない。
 この戦争法案によって、日本の安全保障の抑止力は一段と高まるとする安倍首相の主張は、詭弁以外の何ものでもない。アメリカと一体化する自衛隊の軍事的活動は、多くの敵対国をつくり、日本人への憎悪さえ生み出すこととなる。日本国内でのテロ行為を誘発する可能性も高まる。安倍首相の言う「積極的平和主義」は、私たちの命を積極的に脅威へと誘うものでしかない。平和フォーラムは、誰も戦地に送ることなく、人を殺すことなく、殺されることのない日本を守り抜く。そのために、平和を愛し民主主義を尊ぶ多くの市民とともに、闘い続けることを決意する。(9月19日付け平和フォーラム声明より)(写真は8月30日の国会包囲行動/撮影・今井明)

インタビュー・シリーズ: 105
日本国憲法というのはアジアの民衆との約束でもあります
韓国 参与連帯・平和軍縮センター所長 イ・キョンジュさんに聞く

イ・キョンジュさん

李京柱(イ・キョンジュ)さんのプロフィール
1965年生まれ。1989年に高麗大学法学部を卒業し、日本に留学。1997年には一橋大学法学研究科(憲法)の博士号を取得。現在は仁荷大学大学院で教鞭をとりながら、韓国の有力な平和運動団体である参与連帯の平和軍縮センター所長も務める。

 日本の平和を実現することは、アジアそして世界の平和を実現することにつながります。今年の原水禁世界大会に海外ゲストとして来日されたイ・キョンジュさんに、日本の動きをどう見ているか、平和運動に求められているものは何かを伺いました。(8月8日インタビュー)

─李さんは日本に留学されてどのような研究をされていたのでしょうか。
 日韓両国の比較憲法です。日韓ともに同じマッカーサー司令部で憲法が制定され、侵略戦争を拒否する平和主義という文言を入れました。しかし日本は軍事力によらない平和主義をうたう一方で、韓国は軍事力による「専守防衛」の平和主義となりました。どうしてこのような違いが生まれたのだろうか、というのがそもそもの出発点でした。研究を進めていくうちに、安保条約の違いに気がつきました。韓国の場合は双務的な集団的自衛権ですが、日本は片務的です。日本の場合は非武装平和主義を定めた憲法9条があるので、集団的自衛権行使が容認されないのです。
 憲法と安保条約、この二つの柱で法体系が動いているということに注目しないと、憲法をうまく分析できないのではないかと考えることにもなりました。単に憲法制定過程のみを比較するのではなく、安保条約の制定までも憲法とのかかわりで分析することが必要であると思いまして、その延長線でいまは日韓の安保関係法制についても研究の目を通しています。

─いま日本では安保法制をめぐって論議が展開されています。韓国ではそのことについてどう受け止められているのでしょうか。
 大きく報道されています。大学生や高校生の抗議行動、ママたちの集会なども取り扱われています。ただし、日本国憲法と歴史のつながりについては詳しく議論されていません。ですので、市民の方々に向けて安保関連法制と歴史問題とがつながっているのだというメッセージを発信しなければいけないと思っています。なぜかというと、日本国憲法というのは日本の民衆のみならずアジアの民衆との約束でもあるからです。その約束の一番の核心は、集団的な自衛権を行使しない、もう戦争はしないというところにあります。いまの安保関連法制というのは、後方支援などと言っているけど、結局戦争に巻き込まれる可能性が高くなる。このように憲法9条と戦争の関連性についての認識を広めたいと思っています。

─日本は集団的自衛権行使を憲法9条が否定しているということで、ベトナム戦争にも直接参加しませんでした。一方、韓国はベトナム戦争に参加し、多くの人が傷つきました。そのことについて韓国の平和運動はどういう捉え方をしていますか。
 ベトナム戦争当時は、米国の侵略戦争に手を貸すということについてそれほど反発はありませんでした。なぜなら軍事独裁政権だったからです。しかし、ここ10年間で「侵略戦争に手を貸した」「集団的自衛権とはそんなもんだ」という議論が出てきました。例えば、平和博物館という市民団体があります。この団体は10年前に「ベトナム戦争を反省しよう」「ベトナム戦争とはなんだったのか」という企画を立て、軍人の証言や研究者の話を聞いたりしました。反響は大きかったのです。もちろん、激しい反発もありました。
 もともと80年代後半まで、韓国では「平和」という言葉を口にするのにリスクが伴いました。平和について議論しようとすると、米軍の問題や軍縮の問題、さらには軍人の人権について言及しなければならないのですが、これは北朝鮮の主張と同じだということで国家保安法で捕まってしまいます。そんな韓国において、20年ほど前から「米軍に協力して侵略戦争に手を貸すことは憲法の原理原則に反する」という議論が出てきたということは、非常に大きな意味を持っていると思います。

―沖縄では米軍基地はいらないということが県民の一致した意見になっています。南北分断という状態にある韓国において、米軍基地はどのように捉えられているのでしょうか。
 韓国では日本以上に米軍の事故・犯罪が起こり、米軍基地に対する人々の反感を広げていきました。そうした反感の広がりが結果的に「私たちは米国の軍事支配のもとにあるのではないか」という議論に結びつきます。実は韓国軍の作戦指揮権は究極的には米国にあって、これを取り戻そうという運動が起こりました。その成果として1994年には平時作戦権を取り戻すことになります。このように具体的な事件・事故を通じてアメリカの軍事支配についてより広く議論されるようになったという事は確かです。

─安倍政権も米国の要求に基づいて動いているわけですが、一方で右翼団体の「日本会議」のメンバーとして東京裁判を否定しています。このように米国に付き従いながら、その裏で米国による戦後を否定していく動きは、韓国からはどのように見えるのでしょうか。
 日本が軍事・外交的に米国に従属させられているということは、韓国でもよく知られています。一方で今後アメリカの軍事戦略の中で力をつけていきながら、ある瞬間で米国との間に摩擦が生じるのではないかという予測もあります。確かに現在の「日本会議」の主張は米国と矛盾するけれども、しばらくは封印された形でこのまま進んでいくのではないでしょうか。米国も「日本会議」の主張をわかっていながら、財政赤字や軍事的な覇権の低下などの問題があるので、日本や韓国の支援を広げないといけません。日米ともに互いの戦術的な地点で一致したところで政治を行っているのではないでしょうか。

─今後、韓国や中国などアジアとの関係が重要になってくると思うのですが。
 今回安全保障法案が衆議院を通過する様子を見ながら、わたしはこれを解決する道の一つとして南北関係の改善があると思いました。法案審議の中で具体的に北朝鮮や中国の名前を脅威に挙げ、米軍の後方支援として集団的自衛権を行使せざるを得ないと説明しているわけです。そう考えると、南北関係がうまくいくと大義名分がなくなるわけですから、やはり大事な問題です。また南北関係というのは米国、中国、日本、ロシアをも含めて成立するのであって、韓国と北朝鮮だけの問題ではありません。そういう意味では東アジアの未来像を提示しないといけない。単に「今の憲法を空洞化させてはいけない」と主張するだけではなく、東アジアでの平和・安保共同体は可能であり、そうしたビジョンを実現するためにもやはり「日本国憲法が大事」「朝鮮半島は平和統一すべき」という議論が必要になってきます。
 東アジアの共同体構想については既に国際的な合意があるわけです。例えば2005年9月19日の6者会談で出された「9.19共同声明」こそ共同体構想のはじまりです。具体的には、北朝鮮は核不拡散条約(NPT)に復帰して国際原子力機関(IAEA)の査察を受ける、米国は北朝鮮を侵略しないことを約束し、韓国も北朝鮮にエネルギーを支援する。そして究極的には非核化するという内容です。同時に東アジアで平和体制を作るのですが、その前提として日朝・米朝の国交正常化交渉を始めることを明記しているわけです。既に一度合意したものなので難しくないはずです。
 このように未来志向のビジョンを提示しながら平和運動を進めるべきだと思います。米国も全く北朝鮮と国交正常化をするつもりがないわけではありません。例えば2006年にはすごく具体的に国交正常化の話があったわけですから、全く不可能なことではないと思いますね。

─戦後70年に際して発表される安倍談話についてはどのようにお考えですか。(※インタビューは安倍談話の発 表される前に行った)
 安倍談話については、韓国人の多くが期待していません。村山談話から後退することは既に予言されているわけですから。反面、安倍さんは非常に狡賢いと思っています。談話というものは、過去の侵略・植民地支配をどのように記憶し、どのように責任をとり、同じ過ちを繰り返さないためにはどうすべきかということについて述べなければならないのですが、このような議論はもうどこにもありません。どの言葉を入れるか、入れないか、議論をそのような狭い枠に閉じ込めてしまったという点で、安倍首相は狡賢いと思います。アジアの善隣友好を大きく損なった政治家として歴史は記録するのではないでしょうか。

─最後に貧困の問題について。日本の子どもの相対的貧 困率が過去最高を記録し、特にシングルマザーの経済状況は深刻です。韓国はどうでしょうか。
 97年の国際通貨基金(IMF)危機以後、韓国では新自由主義的な流れの中で99%の貧乏と1%の金持ちという両極化が進みました。そして非正規労働者が多くなる中で労働組合も二分化されました。正規職の組合は経済的な格差には目を向けない。非正規職の場合は組合をつくる事自体がなかなか難しい。問題は深刻になっているけれど、対抗する主体がなかなか形成されていません。
 「教育監」選挙において無償給食が争点になったことがあります。これはやっぱり貧困の問題へのある種の対応です。経済的な格差が大きくなることは保守的な政権に利用されやすいので、非常に心配です。

インタビューを終えて
 「日本国憲法は、アジアへの約束」もう戦争はしないという重たい約束。私たちはそのことを絶対に守り抜かなくてはならない。「私たちは米国の軍事支配の下にある」日韓の市民社会の感情。イ・キョンジュさんの言葉の重さを、隣国同士ならばこそ考えていかなくてはならない。
(藤本泰成)

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戦後は敗北から始まった
日本社会の立ち位置を考える
フォーラム平和・人権・環境 事務局長 藤本 泰成 

相次ぐ安倍政権からの歴史修正発言
 安倍晋三首相が「戦後70年にあたって未来志向の新たな談話を発表する」としたことから、いろいろな人々に波紋を呼びました。波紋を呼んだのは、これまでの彼の来し方にあります。1995年、戦後50年にあたっての「村山首相談話」に猛烈に反対したのは、当時40歳、政治家としては若手の安倍晋三衆議院議員その人でした。彼は、1997年に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」を設立し事務局長を務めました。その中で、歴史教科書の史実に基づいた記述を自虐的と批判し、慰安婦問題では強制性はないとし、南京事件を否定する主張を展開してきました。また、1997年に「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」とが統合して生まれた右派団体「日本会議」のメンバーとして活動してきました。
 第1次安倍内閣では、日本軍「慰安婦」について「狭義の強制性の証拠はなかった」と閣議決定しました。このことは、ワシントンポストへの「TheFacts」という意見広告とともに、米国下院での「慰安婦問題での日本への謝罪要求決議」につながっています。野党であった2012年11月にも、米ニュージャージー州の地元紙「スターレッジャー」に掲載された、「日本軍『慰安婦』は、日本政府に責任はなく『強制性はなかった』」「『性的奴隷』ではなく、公娼制度の下で民間業者に雇われていた」などと主張する意見広告に、名を連ねています。また、今年4月23日の衆議院予算委員会においてはアジア・太平洋戦争に関連して「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」と主張しています。
 安倍政権内部からも、戦後に挑戦する発言が相次いでいます。高市早苗自民党政調会長(当時)は、2013年の9月に出演したNHKの番組で「村山談話に違和感を覚える」と発言しました。また、稲田朋美政調会長は今年2月26日のBS朝日の番組収録で、東京裁判(極東国際軍事裁判)について「指導者の個人的な責任は事後法だ。法律的に問題がある」との認識を示しています。加えて稲田政調会長は、今年8月15日には「東京裁判判決の主文は受け入れている」としながら、「判決文に書かれている事実をすべて争えないとすれば、反省できない。南京事件などは事実の検証が必要だ」と述べて、戦後70年を機会に、東京裁判を検証する組織を自民党に設置する意向を示しています。


千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に献花する安倍首相(8月15日)

日本社会をゆがめる「日本会議」の主張
 安倍政権はその中枢を全て自らと考え方を共有する者で占有しています。安倍内閣の首相補佐官まで含めた閣僚24人中、上川陽子法務大臣、宮沢洋一経済産業大臣(二人とも日韓議連)、公明党の太田昭宏国土交通大臣を除く21人が、右派団体「日本会議」のメンバーです。
 日本会議は「神社本庁」を中心とした宗教団体や宗教系財団法人などが多数参加し、これまで、元号法制化や国旗・国歌法制定、教育基本法改悪などを求めて運動を展開してきました。連携する国会議員の組織に「日本会議国会議員懇談会」、地方議員の組織として「日本会議地方議員連盟」があり、「国会議員懇談会」には国会議員が約289名、自民党以外にも民主党、日本維新の党、無所属の議員など超党派の議員が参加しています。
 日本会議の歴史認識に対する主張はこのようなものです。(日本会議の終戦70年にあたっての見解から)
(1)国民が享受する今日の平和と繁栄は、先の大戦において祖国と同胞のために一命を捧げられたあまた英霊の尊い犠牲の上に築かれたことを忘れてはならない。この英霊への感謝の念こそ、この節目の年を迎えた日本国民が共有すべき歴史認識の第一であるべきである。
(2)わが国の行為のみが一方的に断罪されるいわれはない。外交は常に相手国があってのものである。ましてや大東亜戦争は、米英等による経済封鎖に抗する自衛戦争としてわが国は戦ったのであり、後にマッカーサー連合国軍最高司令官自身もそのことを認めている。
(3)過去の歴史に対して事実関係を無視したいわれなき非難を日本政府および日本軍に向ける風潮が横行してきた。いわゆる「従軍慰安婦強制連行」問題もその一つである。幸いにも終戦七十年を迎えて、わが国にようやくかかる風潮と決別し、事実に基く歴史認識を世界に示そうとする動きが生まれてきた。安倍首相の一連の言動にもその顕れは観取できる。何よりも歴史的事実に基づかない謝罪は、英霊の名誉を傷つけるものであるからだ。
(4)終戦70年を迎えるにあたり、我々日本会議は、こうした喫緊の事態に迅速・適切に対処するとともに、憲法改正の実現を中心とする国民運動の諸課題に取り組み、誇りある国づくりを目指す決意を新たにするものである。
 日本会議の主張には、アジア・太平洋戦争についての反省の姿勢はありません。アジア・太平洋戦争は、自存・自衛の戦争でありアジア解放の戦争であったとし、敗戦を受け入れず、日本軍「慰安婦」の問題など都合の悪い事実は根拠を示すことなく否定しています。この主張は、米国や英・仏、旧ソ連・中国などの戦勝国を中心に形成される「国際連合」を基本にした戦後の世界秩序を否定することにつながっています。
 「日本会議」の主張と同様に、アジア・太平洋戦争の史実に沿った「慰安婦」や「南京事件」など加害の責任に関する記述を自虐的として、「新しい歴史教科書をつくる会」と、そこから派生した「教科書改善の会」など、安倍首相の下に「アジア・太平洋戦争の肯定」「家父長制を基本にした家族制度の肯定」「道徳教育や愛国心教育の肯定」などを主張する組織の活動が、1990年代後半から活発になりました。
 そのような風潮は、安倍内閣の女性閣僚からも女性蔑視ともとれる発言を引き出しています。稲田政調会長は、男女共同参画社会基本法に対し「おいおい気は確かなの?と問いたくなる」と発言。高市早苗総務大臣は、婚外子の遺産相続分差別を違憲とした判決に、「ものすごく悔しい」と発言しています。山谷えり子国家公安委員長は、夫婦別姓法案に反対し「『家族解体法案』であり夫婦、親子をばらばらにしてしまう」と発言しました。女性の地位向上は、世界レベルでの目標です。このような、女性閣僚からの女性蔑視の発言は、世界からも大きな批判を呼ぶに違いありません。


戦争法案廃案・安倍政権退陣!8.30国会行動

第2次世界大戦後の秩序との対立
 日本は、ポツダム宣言を受諾し終戦を迎えました。ポツダム宣言は、日本の侵略戦争を「日本国国民を欺瞞(ぎまん)し之(これ)をして世界征服の挙に出づるの過誤」と表現をしています。また、国連憲章は、第53条1項において「この敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは」とし、その2項で「本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であつた国に適用される」として、日本を敵国と表現し、その行為を侵略政策と表現しています。
 国連は1974年12月の総会において「侵略の定義に関する決議(総会決議3314)」を採択し、「侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若(も)しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使」であると明確に規定しました。そもそも、日本が国際社会に復帰した、安倍首相本人が主権回復の日の根拠とした「サンフランシスコ講和条約」には、その第11条において「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し」と記載されています。安倍首相や「日本会議」の主張は、全くその根拠を持ち得ません。
 今年6月1日の衆議院の安全保障特別委員会において、安倍首相は「(ポツダム宣言は)6項の世界征服を含めて、当時の連合国側の政治的意図を表明した文書だ。政府としては同項を含め、ポツダム宣言を受諾し、降伏したことに尽きる」と答弁。サンフランシスコ講和条約に言及し「(日本は)極東国際軍事裁判所の判決を受諾しており、それに異議を唱える立場にはそもそもない」とも述べざるをえませんでした。
 戦後の世界秩序において、安倍首相や「日本会議」の所属する政治家の主張が成立するわけはありません。成立させるとするならば、松岡洋右外相が「わが代表堂々退場す」と表された1933年の国際連盟脱退、世界からの孤立の道しか残されていないのです。

「ファシズム国家」戻る道はない
 戦前の「ファシズム国家」と歴史的に評価される明治憲法下の日本の社会体制、そこに戻る選択肢はあり得ません。ドイツ・日本・イタリアの軍事同盟と戦った米国を中心とした連合国は、第2次世界大戦をファシズムとの戦い、自由と民主主義を守る戦いと位置づけています。日本が国際社会に復帰する以前に成立した国際連合は、だからこそその憲章に「敵国における侵略政策の再現に備える」と記載されているのです。
 日本社会は、その事実をきちんと受け入れて、国際社会の中での自らの立ち位置を考えなくてはなりません。
 「日本国憲法は戦後の日本社会の世界への約束である」そのように考えるべきです。安倍首相が、不戦と民主主義の日本国憲法を基本にした「戦後レジーム」からの脱却を主張しながら、しかし、「戦後70年談話」で、結局はその戦後レジームを追認せざるえなかった事実が大切です。中国や韓国の批判、米国の圧力、そして日本社会の意志、それらがない交ぜになって安倍首相を押し込めたと言わざるえません。
 集団的自衛権を行使して米国に媚びを売り、一方で戦後世界の秩序に挑戦する姿勢は、必ずや日本の将来を誤る元凶となるでしょう。戦後70年、私たちはもう一度原点に返って、日本社会のあるべき姿、立ち位置を考えなくてはなりません。
(ふじもとやすなり)

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オスプレイの危険性を改めて考える
オスプレイと飛行訓練に反対する東日本連絡会・作業委員 星野 潔

CV-22が10機、東京・横田基地配備へ
 今年5月12日、中谷元防衛大臣は、米空軍が横田基地にCV-22オスプレイを配備する方針であることを発表した。2017年後半に最初の3機を配備し、2021年までに計10機を配備する予定だという。
 米軍のV-22オスプレイは、回転翼の角度を垂直から水平に変えて飛行するティルトローターの垂直離着陸機である。海兵隊と空軍とでは用途や装備が多少異なり、海兵隊仕様のものはMV-22、空軍仕様のものはCV-22と呼ばれる。MV-22は輸送機であり、CV-22は特殊作戦部隊の輸送が任務の特殊作戦機だ。2012年に普天間基地に配備が強行されたのは、MV-22だ。
 オスプレイは、アポロ月探査計画の2倍以上の年月をかけた開発段階で30人もの死者を出した。部隊に配備されてからも死亡事故を含む多くの重大事故を引き起こしている。当初開発に加わっていた米陸軍は、膨大な開発調達費用や、この機種で予定した作戦のほとんどを他の機種でこなせることなどを理由に脱退した(青木謙知『徹底検証!V-22オスプレイ』92頁)。

事故が多発するオスプレイ
 米軍は航空機事故を損害規模によりA、B、Cの3つのクラスに分類する。クラスAは被害総額200万ドル以上、死亡又は全身不随に至る損傷、クラスBは被害総額50万~100万ドル、負傷又は恒久的な障害又は3名以上の入院、クラスCは被害総額5万~50万ドル、1日以上の欠勤をもたらす負傷又は病気を、それぞれもたらす事故である。そして10万飛行時間あたりの事故の件数を事故率と呼ぶ。
 公表されている統計によると、CV-22は米軍機のなかでも事故率が高い。米空軍安全センターHPによると、今年1月8日現在のクラスA事故率は7.21、クラスB事故率は28.83である。だから防衛省は、MV-22を沖縄に配備する時、MV-22とCV-22は「別機種」であり、「機体構造は相似するが、任務の違いに伴い、訓練活動を含むその通常運用は大きく相違」すると主張したのだ(防衛省「MV-22事故率について」2012年9月19日)。
 他方、防衛省は、MV-22のクラスA事故率は米軍運用航空機の中で平均以下であり、海兵隊回転翼機の中で最小だと主張している(「MV-22事故率について」)。だから、CV-22の横田配備を公表すると一転して、「CV-22とMV-22は機体構造及び基本性能が同一であり、安全性についても同等」と、両機種の同一性を強調するようになったのだ(「CV-22オスプレイについて」2015年5月)。だが、MV-22のクラスA事故率算出に際しては、開発段階の事故が除外されている。開発中に30人もの死者を出したオスプレイの問題点が見えなくされてしまっているのだ。
 また、MV-22は他機種に比べてクラスB、C事故率が高いのだが、防衛省はクラスB、C事故率は「機体の安全性を示す指標として不適切」だと主張する。「MV-22は古い機種と比較して機体価格が高いことから損害額も高くなり、他機種で計上されないような事故まで計上される傾向がある」とか、「地上運用事故を含めると、(中略)機体の安全性に関係のない事故も含まれる」というのがその理由だ。
 しかし、MV-22のクラスC事故リストには、エンジンの故障や出火事故などが多く含まれている。これらの事故は機体の安全性に関係があるはずだ(詳しくは非核市民宣言運動・ヨコスカ/ヨコスカ平和船団編『オスプレイに災害救援ができるのか?』を参照)。さらに、米軍が全ての事故を公表し事故率データに反映させているとは限らないし(琉球新報HP2013年10月12日)、2009年にクラスA事故の評価基準がかさ上げされ、以前であればクラスAに分類される規模の事故がそこに含まれなくなった(琉球新報HP2012年8月3日)という問題もある。
 防衛省は、「一般に航空機の事故率は飛行時間の増加に伴い低減する」のだから、CV-22の事故率も今後「低減していく見込み」だという推測を示している(「CV-22オスプレイについて」)。だが、問題はV-22の安全性であり、航空機一般の話ではない。基地監視団体「リムピース」は、時間の経過とともに減少するはずのクラスA事故率が、MV-22の場合は近年ではむしろ増加傾向が見られるとHPで指摘している。

米軍機の地位協定違反を許すな!
 横田基地に配備するCV-22は、通常の飛行訓練に加えて低空飛行訓練や夜間飛行訓練を実施し、沖縄の特殊作戦部隊と共同訓練を行うことを、中谷元防衛相は5月の記者会見で明言した。この日本のどこで、そのような訓練を行うというのか。
 1980年代頃から米軍機の低空飛行訓練の危険性が問題となっているが、そうした訓練は、日米地位協定の規定に基づいて提供された施設・区域以外の地域で行われている。1975年3月3日の衆院予算委員会で三木武夫首相(当時)は、地位協定の手続きによって提供された区域以外で米軍が演習することは安保条約違反だと述べている。地位協定すら守らず私たちの生命を危険に曝すオスプレイ配備は許されない。
(ほしのきよし)

オスプレイの横田基地配備に反対する東京集会
日時:10月25日(日)13:30~14:30(終了後デモ)
場所:東京都福生市「多摩川中央公園」
主催:東京平和運動センター・三多摩平和運動センター

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TPPまた合意できず 交渉も限界か
手の内をさらした日本外交の失敗

 7月末にハワイで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は「大筋合意」もあると言われ、日本は、政府関係者はもとより、業界団体も大挙現地入りし、自民党や民主党の議員も参加しました。メディアも圧倒的に日本が多く、中には合意後に特別番組の放送を予定していたテレビ局もあったと言われています。
 交渉参加主要国は最後の閣僚会合とする位置付けで、大筋合意をめざしましたが、またもや先送りされました。当初、2013年中には合意をするというスケジュールで進められてきたものが、ここまでズルズルと延びてきた背景には、単なる各国の利害の対立という側面だけでなく、グロ-バル企業の利益・機能の最大化を追い求める交渉そのものが限界に来ていると言わざるをえません。

最大のネックは自動車部品の原産地規制
 今回の閣僚会合がまとまらなかった原因としては、日本ではニュージーランドが乳製品での大幅な市場開放を要求したからだと言われてきました。しかし、実際はメキシコによる自動車部品の原産地規制の要求が最大のネックになりました。実はメキシコは世界でも指折りの自動車生産国です。アメリカなどとの北米自由貿易協定(NAFTA)を1994年に結んでから、アメリカとの国境に近い場所に、「マキラド-ラ」と呼ばれる税金等の優遇措置の経済特区を設けました。そこにアメリカ等の自動車メーカーが進出し、自動車生産大国となったわけです。
 日本を含め、いまや自動車は世界中で部品が作られ、メーカーは最終的な組み立てをするだけの場になっています。そのため、どの国で部品をどのくらい作っているかによって、完成車の扱いを変えようということが提案されてきました。メキシコはTPP参加国からの部品の供給割合を65%以上にすべきと主張しました。しかし、中国やタイなどTPPに参加していない国での生産割合が高い日本は40%を主張。間をとって55%でアメリカはまとめようとしましたが、原産地規則問題の重要なメキシコとの調整が出来ませんでした。
 一方、医薬品の特許権の期間も大きな問題となっています。製薬メーカーの圧力を受けて、アメリカは特にバイオ製剤新薬の治験データ保護期間を12年にすることを強く主張しました。これまでアメリカは一般的な合成新薬については5年程度のデータ保護期間を設定していたので、バイオ製剤新薬だけいきなり12年にすることは、マレーシアなど新興国にとっては大きな負担になります。同一成分で安く出来る後発医薬品(ジェネリック薬)を作ることが困難になるからです。しかし、アメリカの薬品メーカーは開発コストがかかることを理由に、12年を譲ろうとしていません。


TPP閣僚会合会場前の抗議行動。中央に山田正彦元農相
(7月30日、ハワイ・マウイ島)

重要農産物の市場開放を約束した日本
 このように、TPP交渉はまさに各国の利害だけでなく、その裏では巨大な多国籍企業が利益を最優先する異常な貿易・投資ルールを作るための交渉であることが明らかになっています。その中で、日本は大筋合意を急ぐ余り、米国との2国間協議で重要農産物の市場開放を約束しました。内容は正式には明らかにされていませんが、コメはアメリカから新たに10万トン程度の輸入を増やす(現在も毎年36万トンを輸入)ことや、豚肉は482円の差額関税を50円にし、牛肉は現在の38.5%の関税を9%に下げることで合意していると言われています。
 政府は「TPPの合意が無ければ日米間の約束も履行されない」(農水省)などとしていますが、アメリカからさらに圧力がかかってくるのは、これまでの事例を見れば明らかです。ハワイでの交渉を現地で見守ってきた山田正彦元農相は「今回は日本外交の失敗だと思う。日本以外どこも最後までカードを切ることはなかった。アメリカもカナダも農産物の関税に対して何の数字も出していない」と、手の内をさらした政府を批判しています。
 今後の交渉のゆくえははっきりしていませんが、日本が求めてきた早期に合意する機運は徐々に無くなってきています。9月末に閣僚会合も予定されていますが、そこでまとまるかどうかは予断を許しません(9月25日現在)。アメリカは来年の大統領選挙に向けて秋以降は事実上の選挙戦に入り、カナダでは10月に総選挙が予定される中で、年内に合意し署名をすることは困難になっています。「各国との溝が余りに深いことから、TPP交渉は頓挫する可能性が見えてきた」(山田正彦さん)と言われています。
 山田元農相などは、TPP交渉の差し止めと違憲確認を求める訴訟を起こしました。こうした裁判などを通じて、TPPの欺瞞性を明らかにする必要があります。
(市村忠文)

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在外被爆者医療費訴訟、最高裁で勝訴判決
『被爆者援護法は在外被爆者にも適用される』 在外被爆者支援連絡会
共同代表 平野 伸人


在外被爆者支援を訴える(2013年・福岡高裁前)

高齢被爆者にとって「医療給付」は重要
 9月8日、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は、在外被爆者医療費訴訟において大阪府の上告を棄却するという原告勝訴の判決を下した。在外被爆者は海外に住んでいるというだけで被爆者援護法の適用を阻まれ不当に差別されてきた。「被爆者はどこにいても被爆者」と言われながら、多くの不平等な扱いを受けてきた。高齢化している被爆者にとって「医療給付」は最も重要な援護の一つである。
 最高裁判決では「被爆者援護法は被爆者を救済するという目的から、被爆者の援護について定めたものであって、日本国内に居住地又は現在地を有する者であるか否かによって区別することなく援護の対象としている。そのため日本国内に居住地及び現在地を有していない者であっても、被爆者健康手帳を受けることによって被爆者に該当するものとなるところ、一般疾病医療費の支給について、被爆者が日本国内に居住地若しくは現在地を有すること又は日本国内で医療を受けたことをその支給の要件として定めていない」としている。実に明快な被爆者援護法の解釈である。
 今回の最高裁判決は、2013年10月24日の大阪地裁判決、14年6月20日の大阪高裁判決を完全に支持し、「被爆者はどこに居ても被爆者で、全ての被爆者が被爆者援護法の適用を受けることができる」といった在外被爆者の願いを判示している。
 今回の最高裁判決によって、これまでの国の主張は全く覆された。被爆者援護法の在外被爆者への適用は当然のことであることが確定した。これまでの、国が在外被爆者を被爆者援護法の適用から除外する解釈を前提に同法を運用してきたことが厳しく断罪された。この最高裁判決をみると、これまでの国の対応が、孫振斗の最高裁判決以降の多くの在外被爆者訴訟の歴史を踏みにじってきたことがわかる。
 在外被爆者の最後の闘いとも考えられる重要な判決がなされたことを遅まきながら喜びたい。しかし、この間、同種裁判の長崎訴訟の3人の原告は全て亡くなっている。大阪裁判も、現在生存している被爆者は1人に過ぎない。被爆者には時間がない。一刻も早く被爆者援護法の在外被爆者への完全適用がなされることを願いたい。

厚労大臣は明確な謝罪をしていない
 この件について9月10日の参議院厚生労働委員会において、塩崎恭久厚労大臣は「最高裁において、韓国在住の被爆者の方が受けた医療費に関し、被爆者援護法を適用し、大阪府に対して、医療費の支給を行うべきとの判決が言い渡されたことは、重く受け止めております。現在、判決の趣旨に従って、大阪府において、原告の方々に対し、法の規定に基づき、医療費の審査・支払手続を進めており、また、現在係争中の同種の事案である福岡高裁・広島高裁の2事案についても、原処分の取消し、医療費の審査・支払いに向けて、長崎県・広島県において対応を始めていると承知しております。さらに、訴訟外の在外被爆者の方々に対しても、法に基づいて円滑に医療費を支給できるよう、厚生労働省において、年内を目処に、必要な法令改正等を行ってまいります」と述べた。しかし、40年に渡り在外被爆者に被曝者援護法を適用することを拒み続けたことへの謝罪の言葉はない。
 9月11日に、支援団体である「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」「在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会」「在韓被爆者問題市民会議」の3団体と「在外被爆者に援護法を適用させる議員懇談会」は、厚労省に対し「9月8日の最高裁判決を受けて被爆者援護法の平等適用に関する要望書」を渡した。
 要望事項は、(1)孫振斗最高裁判決から9月8日の最高裁判決に至るまで、40年近くに及び、日本国外移住被爆者を被爆者援護のための法律から違法に排除し続けてきたことへの謝罪を求める。(2)国外居住被爆者に対する被爆者援護法第17条(医療費の支給)・第18条(一般疾病医療費の支給)の実施にあたり、簡便迅速な方法を早急に構築し、一日も早く実施することを求める。(3)被爆者援護法第7条(健康診断)、第31条(介護手当の支給)についても、国外被爆者に対して早急に実施することを求める、の3点であった。
 これに対し、厚労省の健康局総務課長は「裁判が長くかかり、多くの人にご迷惑をかけたことや訴訟の経過を考えると大変申し訳なく思っている」と述べた。しかし、厚労大臣の謝罪については明確な返事を得られなかった。ただし、被爆者援護法の平等適用に向けて、様々な条件整備がおこなわれていることも明らかにされたので、今後の展開を注視したい。
(ひらののぶと)

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元米政府高官ら日本再処理反対
米エネルギー省長官への書簡で

 9月8日、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補を含む14人の元米政府エネルギー・国家安全保障関係高官及び専門家らが、米エネルギー省のモニーツ長官に対し、軍事用余剰プルトニウムを発電用原子炉のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料にして処分する計画を中止して別の処分方法を導入するよう要請する書簡を送りました。書簡は、それによって、核拡散防止のために六ヶ所再処理工場の運転開始計画を延期するよう日本を説得する上で有利な立場に立てると述べています。
 2000年にロシアとの協定で約束した余剰兵器級プルトニウム34トンの処分のために米国が2007年にサウスカロライナ州サバンナリバー核施設で建設を開始したMOX燃料製造工場は建設遅延と費用高騰問題を抱えています。エネルギー省長官の依頼で作成された同省評価グループの8月10日付け報告書は、プルトニウムを他の物質で希釈してニューメキシコ州の岩塩層に設けられた「廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP)」で処分する方がコストもリスクも低くなるとし、これを推奨しています。WIPPでは不純物の混ざったプルトニウムがすでに4トン処分されています。この未公表のレッドチーム報告書を「憂慮する科学者同盟(UCS)」が8月20日に公開しました。
(田窪雅文:「核情報」主宰)

エネルギー省モニーツ長官宛て書簡
 エネルギー省長官モニーツ様私たちがこの書簡をお送りするのは、核兵器用余剰プルニウムを希釈化して廃棄物として処分する方が、「混合酸化物(MOX)」燃料にする方針を続けるよりも、コストとリスクを大幅に低減できるとのエネルギー省「レッド・チーム」の結論についてお話しするためです。私たちの多くは、過去に同じような結論に達していました。
 核不拡散問題に関わっている外部の専門家として、また、元政府担当者として、私たちは、この問題について詳細に検討してきました。エネルギー省は、MOX計画を実施しなくとも、この物質を安全に処分する義務を果たすことができます。さらに重要なのは、現在のMOX計画を中止すれば、資金が節約できるだけでなく、この国の国家安全保障に役立つということです。
 MOX計画とプルトニウム・リサイクリングの作業を続けることは、日本や中国、韓国その他の国々のプルトニウム・リサイクリング提唱者らがプルトニウムの分離とリサイクルは責任感のある非核兵器国が実施する活動だとの幻想を維持するのに手を貸すことになります。米国は、40年間にわたってこのような活動の拡散に一貫して反対し続けてきました。核兵器の爆発を起こす材料を商業経路に入れることが核拡散面で持つ明らかな危険性のためです。
 今MOXプログラムを中止することは米国の核不拡散目的にとって特に有益です。日本は六ヶ所の大型再処理工場の運転をまさに始めようとしています。米国のMOXプログラムを中止し、それにより、プルトニウムには経済的価値がないと明確に示すことは、運転開始の決定を延期するように日本を説得する上で、米国をずっと有利な立場に置くことになります。
 もっと広く言うと、日本だけでなく、韓国や中国にも、プルトニウムを使った燃料の商業的活動(商業的「実証」規模のプロジェクトも含め)を延期する決定に参加するよう呼びかける機会がここにあります。これらの活動はどれも経済的意味をなしません。
 このような決定が同時発表できれば、それは、これらの国々の政府にとって、プルトニウム・リサイクリングに関連した国内の利益集団に対処する上で力になります。来年春に開かれる次回の核セキュリティー・サミットでこのような発表をすれば、核不拡散体制を強化する上でまさに歴史的一歩となると私たちは考えます。敬具

ピーター・ブラッドフォードバーモント法科大学元米原子力規制委員会委員
ジョセフ・シリンシオーネプラウシェア財団会長元下院軍事委員会専門スタッフ
ロバート・アインホーンブルッキングズ研究所元国務次官補(核不拡散担当)
デイビッド・フリーマン元テネシー川流域開発公社(TVA)理事会議長
ロバート・ガルーチジョージタウン大学元国務次官補(政治・軍事問題担当)
リチャード・ガーウィンIBMトーマス・J・ワトソン研究センター名誉フェロー(*注:最初の水爆の開発者)
ビクター・ギリンスキーエネルギー・コンサルタント元原子力規制委員会委員
ジェシカ・マシューズカーネギー国際平和財団名誉フェロー元国家安全保障会議国際問題局長
ジョセフ・ナイハーバード大学ジョン・F・ケネディー行政大学院元国家情報会議議長
トーマス・ピッカリングブルッキングズ研究所名誉フェロー元米国連大使
ヘンリー・S・ローウェンスタンフォード大学アジア・太平洋研究センター名誉教授元国家情報会議議長
ゲイリー・セイモアハーバード大学ベルファー・センター研究所長元ホワイトハウス軍備管理・大量破壊兵器調整官
ヘンリー・ソコルスキー不拡散政策・教育センター所長元国防長官府不拡散政策担当次長
フランク・フォンヒッペルプリンストン大学公共政策・国際問題名誉教授、上級研究物理学者元ホワイトハウス科学技術政策局国家安全保障担当次官

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《投稿コーナー》
辺野古カヌー隊として闘って


左が弘田さん、右が日向さん

 9月14日、翁長雄志沖縄県知事が沖縄県名護市の辺野古新基地建設の埋め立て承認取り消しを表明しました。知事の決断の背景には、粘り強く闘い続けている現地の運動があります。辺野古でカヌー隊として闘ってきた全日本建設運輸連帯労働組合(全日建)の組合員二人に、現地での闘いの様子や運動にかける思いを寄稿していただきました。

「安全確保」という名の海保の暴力
全日建全国青年部長日向孝明

 私は食品配送のトラックを運転する仕事をしています。昨年9月から所属する組合の青年部長として辺野古の米軍新基地建設に反対する闘いに参加し、主にカヌー隊員として、大浦湾に出て、防衛局のボーリング調査に抗議する行動の最前線にいました。
 海上では抗議活動を暴力的に邪魔する人間がいます。海上保安官(海保)の存在です。海保は、ゴムボートでカヌー隊に「ここは危険ですから」と言って近づいてきます。ゴムボートとは言っても、エンジンが2基も搭載されており、とても早く走ることのできる動力船です。そんなゴムボートで、私たちが抗議するために作業現場に近づいたら、「安全確保」と言う名目で拘束します。彼らの拘束の仕方はとてもひどく、漕いでいるカヌーの後ろに飛び乗り、わざと転覆させ、乗っている人を海中に放り出します。海中で何度も海水を飲まされ、ゴムボートに乗せられます。拘束されてからも、船の上で抗議をすれば3、4人の海保に力ずくで押さえつけらます。私の仲間は、拘束された際に海保に必要以上に胸を押さえつけられ、肋骨を骨折しました。海保は「危ない、危ない」と言って近づいてきますが、彼らがいるから、怪我人や長時間の拘束で低体温症になり、救急車などで搬送される人が出るのです。
 カヌー隊は、毎朝のミーティングで海の状態を確認し、海に出るか必ず確認します。仲間の命が関わってくるので決して無理はしません。当然ですが、人を傷つける行動もしません。カヌーの操作や転覆した時の対応練習しかしていません。ですので、海保の暴力は許せるものではありません。
 安倍政権は戦後70年間、みんなが守り続けてきた憲法を変えて、日本を戦争する国にしようとしています。私は戦争に行きたくないし、私の周りの人たちを戦争に行かせたくありません。武力で平和は築けません。だから辺野古に基地はいらない、もう二度と戦争を起こさせないように、1人ひとりの力を団結させ、オール沖縄と一丸となって、安倍政権に打ち勝ちましょう。

非暴力抵抗運動を続ける
全日建関西地区生コン支部 弘田孝明

 私は建設現場に生コンクリートを運ぶトラックを運転する仕事をしています。昨年8月からカヌーチームに参加し、基地建設の海上作業を阻止する行動に参加しています。これまで全国からたくさんの仲間が辺野古に集まっています。けれども、多くのメンバーはカヌー未経験者です。海上は天候も変わりやすく常に危険が伴うことから毎日の安全確認や体力作りは欠かせません。丸一日ひたすら漕ぐ練習をする日もあります。仲間の安全と命を守るために毎日ミーティングもします。
 海上では多いときに海上保安庁の巡視艇が10隻以上、キャンプシュワブの桟橋には小型船が30艇以上、約200人が停泊しています。それに対しカヌーチームには平均15~20人程です。海保は私たちがフロートやオイルフェンスに近づくと「安全確保」と言って拘束したり、カヌーめがけて飛び込んでわざと転覆させたり、救助するふりして大量の海水を飲ませるなどの暴力を振るって抗議する気力を削ごうとします。また、抗議船に海保が乗り込み、その弾みで船が転覆し、乗っていたメンバーの意識がなくなり救急車で運ばれる事故もありました。
 海上保安庁のホームページには「愛します、守ります、日本の海」と書かれています。どこが日本の海を愛してるのか。辺野古や大浦湾はジュゴンのエサ場であり、貴重な生物や珊瑚がたくさん生殖しています。この基地が作られれば戦争が始まり、世界中の人たちが犠牲になるのに何を守るというのでしょうか。カヌー隊メンバーは海保の暴力にも屈せず、彼らに暴力を振るうことなく対話で理解を求めています。しかし、暴力を振るわれた時は全員で抗議をして責任を追及します。私たちは今後も、非暴力で新基地建設が阻止されるまで闘い続けます。
 海上ボーリング調査は、本来であれば3月末の終了予定が、現時点でまだ終わっていません。これは現場の闘いがあるからこそ工事を遅らせる事が出来たのです。陸上でも毎日建設作業員を入れさせない座り込みが続いています。この命がけの闘いと想いが沖縄県民を立ち上がらせ、オール沖縄となって全国的な運動に広がったのだと思います。
 沖縄に来られない人も地域でともに闘えば、新基地建設阻止が必ずできます。今後は、カヌーだけではなく、ウィンドサーフィンやスタンドアップパドルボード(SUP)など、海を愛する人たちが全国から集まり阻止運動を広げることができるよう取り組んでいきます。
(ひゅうがたかあき、ひろたたかあき)

各地からのメッセージ
辺野古阻止で安倍政治を止める
沖縄平和運動センター 事務局長 大城 悟


沖縄 瀬嵩の浜集会(2015年3月21日)

 9月7日、辺野古新基地建設に関する沖縄県と政府との協議が決裂した。8月10日から1カ月間すべての作業を停止しての集中した協議と表向きはなっていた。しかし、この協議は、国の時間稼ぎの茶番に過ぎない。最初から想定される通りの内容だった。計5回の協議すべてにおいて政府はこれまでの「辺野古が唯一の解決策だ」という方針を繰り返し、当然、翁長雄志知事は真っ向から否定し新基地建設阻止を貫いた。9月7日の最終協議が終了し、会見に臨んだ翁長知事は、安倍政権は「沖縄の声に耳を傾けることは一切なく、最初から進展する話はなかった」と政府の対応を痛烈に批判した。そして「全力を挙げて阻止させていただきます」と締めくくった。
 7月16日、前知事が承認した辺野古埋立ての許可について、県が諮問した第3者検証委員会が4つの瑕疵があるという報告書を県に提出した。翁長知事はその報告書を最大限尊重すると明言していた。政府は知事の判断を遅らせるために集中協議を設定した。政府の焦りが出た格好だが県も協議に応じた。知事の慎重な姿勢もあるが、知事が埋立て承認を取り消した場合、国はあらゆる権力を振りかざし阻止に掛かるだろう。そして、最終的には法廷の場で争うことになる。
 安倍政権の安保法制の強行採決や川内原発再稼働、そして辺野古問題等により国民の反発が増大し、内閣支持率が低下するなか、国民の反発をかわすための協議でもあった。最終協議が終わらないうちに安倍総理はテレビ番組で「辺野古が唯一の解決策だ」と言うあたり、本気で沖縄に向き合う気持ちがないことを自ら証明している。立憲主義を否定し、民主主義をぶち壊す安倍政治を許してはならない。再びこの国が戦争へと突き進む独善的政治を止めなくてはならない。
 辺野古では海上作業の停止期間後の9月12日に海上作業を再開させる暴挙に出た。今後、辺野古の新基地建設に関して政府との協議は当分ないであろう。そして、これまで以上に国は、県民の分断と弾圧を繰り返し、基地建設を推し進めて来る。私たちは、如何なる圧力に決して屈することなく、粘り強く行動をとっていく覚悟だ。14日に翁長知事が埋め立て承認取り消しの手続きを始める会見を開いた。政府との本当の闘いが始まった。
(おおしろさとる)

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〔映画の紹介〕
戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)
三上智恵監督(2015年/日)

 辺野古新基地反対の意思表示を毎週続け、ローソクに火をともしながら、両親と一緒に道行く車に笑顔で手を振り続ける小学生の姉妹。反対運動の渦中に生まれ、父親とともに運動の先頭に立つ高校生。反対の立場の人だけではなく、埋め立て工事にかかわる仕事についている人々。反対する人々と対峙する「うみんちゅ」の男性。三上監督は、それぞれに声をかけ、やさしいカメラワークで辺野古に生きる人々の姿を描いていきます。
 印象に残る場面のひとつに、反対の立場にありながら「補償金をもらったから反対とは言えない、もうカメラは向けないで欲しい」と涙ぐむおばぁへのカメラワークがあります。ありきたりにカメラを引くこともなく、おばぁに迫ることもなく、普通に会話をする目線でとらえるなど、映画全編から、辺野古の人びとに寄り添い、愛とやさしさがあふれる姿勢があらわれています。辺野古の人びとの群像が、けっしてこぶしを振り上げ、闘いを鼓舞するものではないにもかかわらず、後から突き上げてくるような力強さを感じるのです。
 琉球朝日放送のキャスターであった三上監督が前作の「標的の村」を映画にしたきっかけについてある講演の中で語っていました。「高江の住民によるヘリパッド建設反対運動、そしてその住民運動に仕掛けられた政府によるスラップ裁判の問題が、放送法の縛りから、本土では全く報道されなかったことで、民放に身を置いて伝える立場の限界を感じた」と。フリーとなった監督は、2作目となる「戦ばぬ止み」でも、沖縄の闘いの日常を記録し、映像を通して、「高江」は「高江」の問題ではない、「辺野古」は「辺野古」の問題ではないことを訴える、人々に気づきを期待する作品になっています。
 安倍首相は幾度となく「沖縄の方々に寄り添い、丁寧に説明する」と発言し、その一方で強引に工事を進めてきています。このあまりにも倒錯した沖縄県民に対する姿勢と「安全保障法制は国民の安全を守るため」として戦争法制を押し進める姿勢は、全く同様のものです。私たちの気づきが拡がり、今ある民主主義の危機を乗り越え、辺野古の人びとの本当の笑顔とつながることが描かれる三上監督の次回作を期待したいところです。現在全国で上映中。詳細は、公式ホームページwww.ikusaba.comで。
(近藤賢)

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核のキーワード図鑑


核の傘 さして安心 抑止力

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勝島一博

副事務局長に就任して
 9月から、退任された道田さんの後任として副事務局長に承認いただきました勝島です。出身は東京多摩地域にある自治労武蔵野市職労です。生まれは石川県で「能登はやさしや土までも」と言われた輪島市です。
 さて、私が組合役員として活動してきた多摩地域は、米軍横田基地が5市1町にまたがり、夜間飛行訓練に反対する取り組みや、1990年10月21日には横田基地撤去を求めて基地の包囲行動なども行われた地域で、また、古くは、在日米軍立川飛行場(立川基地)の拡張に反対して1955年から60年代にかけて「土地に杭は打たれても心に杭は打たれない」とした砂川闘争が闘われた地域でもあります。
 また、この三多摩地域では、現在でも広島と長崎に原爆が投下された「6」と「9」の日には毎月駅などを利用して核廃絶に向けた座り込み行動を継続(今年の9月で438回目を迎えています)するとともに、毎年広島の原水禁大会には「子ども派遣団」の取り組みも行い今年で34回を数えています。
 私は8年前まで三多摩平和運動センターの議長もつとめさせていただき多摩地域の中で反戦・平和、反核、反基地のたたかいを学ぶこととなりましたが、風化しつつある8年前の記憶や経験を呼び起こし、改めて今後の平和フォーラムの活動を進めていきたいと思います。時あたかも、安倍政権のもと、平和憲法の危機が叫ばれ、原発再稼働、辺野古新基地建設の強行など大きく国の骨格を変える動きが強まり、やさしい能登生まれの私でも激しい怒りがわき上がってきています。
 この怒りを糧に反戦・平和、反核、反基地の取り組みを強化していく所存であり、全国の仲間の皆さんのご支援とご協力を心からお願いします。

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