9月, 2020 | 平和フォーラム - パート 2

2020年09月01日

「朝鮮学校を歩く1100キロ/156万歩」を達成

インタビュー・シリーズ:158
長谷川 和男さんに聞く

はせがわ かかずおさんプロフィール

1947年生まれ。三鷹四小、三鷹三中、都立富士高校、東京学芸大学A類理科卒業。調布市立杉森小学校、調布市立国領小学校、杉並区立堀之内小学校、杉並区立踏掛小学校、杉並区立「さざんか教室」等で勤務。「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会共同代表。阿佐ヶ谷朝鮮学校「サランの会」代表。

─朝鮮高校の無償化制度からの排除に加え、2019年10月から始まった朝鮮幼稚園の「幼児教育・保育の無償化」からの排除など、教育における在日朝鮮人に対する差別・人権侵害が行われています。長谷川さんと朝鮮学園との出会いはどのようなものでしたか?

朝鮮学校との出会いは20代後半、1975年に「日朝教育交流の集い」に参加したのがきっかけです。日教組青年部の活動に参加していたころ、都教組の青年部でも学習交流会が企画されていました。その交流会の中で、ある中学校の教員が「在日朝鮮人のお子さんの指導で迷っている。」という意見が出されました。「それなら朝鮮学校の先生と交流して、話し合うのがいいのではないか。」という意見で、都教組青年部と朝鮮教職員同盟の先生の交流が始まりました。それが「日朝教育交流のつどい」の始まりです。そのうち私は教員の仕事が忙しくなってなかなか出られなかったのですが、40代半ばに東京教組の専従として「日朝教育交流のつどい」の担当になってから、本格的に朝鮮学校との付き合いが始まりました。

─在日朝鮮人差別や人権侵害の歴史についてお話ください。

在日朝鮮人の歴史は、いうまでもなく日本が朝鮮半島を植民地支配した1910年にさかのぼります。日本は朝鮮人の主権を奪い、言葉を奪い、名前まで奪って、皇国臣民になることを強制したのです。日本がアジア侵略を開始する前史として、沖縄の琉球王朝とアイヌ民族を先行的に植民地にしました。そこで展開されたのが沖縄人差別やアイヌ民族差別でした。朝鮮半島でも同じ手法が展開されていったのです。

今、世界では黒人のジョージ・フロイドさんの警察官による差別事件が報道され、人種差別の問題が世界中に広がっています。日本でも「人権」の問題が大きく取り上げられるようになりました。私は、人種差別や人権について考える絶好の機会だと思います。日本で一番人種差別の問題に直面しているのは、在日朝鮮人たちです。「高校無償化」で朝鮮学校が排除され、2019年10月に発足した「幼保無償化」からも朝鮮学校の幼稚園が排除されました。今年は、コロナ対策の学生緊急支援金からも朝鮮大学校の学生が排除されました。こんな不当な人権侵害を許しては、絶対にいけないと思うのです。

また、私は1975年に始まった「日朝教育交流のつどい」に長く携わってきました。この取り組みは、東京にある朝鮮学校をその年の建国記念日(2月11日)に訪問し、授業参観、子どもたちの民族舞踊やチャンゴ演奏、民族の歌の公演を参観し交流する「つどい」です。この取り組みは、46年間1回も休むことなく続けられてきました。忙しい教職員が貴重な休みを返上して参加しようと思うのは、朝鮮学校を訪問すると心が洗われ、「教育の荒廃」に日々苦しんでいる日本の教育の現実と違うことを実感します。教育の原点ともいえる「信頼関係」がそこに展開されているからです。子どもが先生を信頼し、先生が一人一人の子どもたちに寄り添う姿を見ることができたからです。

私は「日本の教員はもちろん、教育行政に携わるすべての人は朝鮮学校を訪問し、そこで展開されている朝鮮学校の教育からもっと学ぶべきだ!」と思っています。朝鮮学校の主体性を重んじる教育の姿は、私たち日本の教育が失ってきたものの大きさをあらためて実感できると思います。

─ヘイトスピーチなど蔓延する言葉の暴力もありますが

「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり(所謂、ヘイトスピーチ規制)条例」が制定され、罰則規定が設けられて規制されるようになりましたが、残念ながら「日本第一党」などヘイト団体の活動は、いまだに続けられています。今回行われた都知事選でも日本第一党に繋がる候補者が票を伸ばしていることを考えると、「言葉の暴力」との闘いは、今後も続いて行くと思われます。私たち「無償化連絡会」は多くの人権諸団体と連携し、「国連人権勧告の実現を!実行委員会」を作り、学習会や集会を積み重ねてきました。マイノリティの人権を守る闘いを積み重ねて、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムの根絶に向けて、闘いを継続していく必要があると思います。

在日朝鮮人の方々との交流を長く続けてきた私は、在日朝鮮人の親友がたくさんいます。「日朝教育交流のつどい」で知り合った朝鮮学校の先生たちでした。2010年3月、民主党政権が「高校無償化」制度を発足させる直前に、朝鮮学校が外されようとしました。そもそも私が無償化連絡会の運動にかかわりようになったきっかけは「朝鮮学校の友だちが苦しんでいるのを放っては置けない!」という気持ちになったからです。

─「高校無償化からの朝鮮高校排除に反対する連絡会」で活躍されていますがその活動等をご紹介ください。

『「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会』は2010年4月に発足しました。それに先立って行われた代々木公園での緊急集会とデモでは、わずか1週間の準備期間で70団体の賛同と1000人超の参加者がありました。「高校無償化」から朝鮮学校だけが排除されるということで、日本社会に朝鮮学校差別があることを明確に示した結果だと思います。その後の取り組みで集会やデモを積み重ねる中で、賛同団体340まで広がりました。平和フォーラムをはじめ名だたる人権団体、各方面の市民団体や労働組合が参加してくれました。この運動は、韓国の「モンダンヨンピル(ちびた鉛筆)」や「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」など韓国国内にも大きな広がりを見せることになりました。

無償化連絡会は集会やデモの開催、文部科学省に対する署名の提出、要請行動、講演会や学習会の開催などに取り組んできました。2013年2月20日に強行された省令規則の規定(ハ)の削除によって朝鮮学校の「高校無償化」適用の道が閉ざされ、大阪、愛知、広島、福岡に続いて東京も裁判闘争に踏み切りました。高校生が原告になって国を訴える国家賠償請求訴訟が起こされ、無償化連絡会は2014年2月18日「東京朝鮮高校生裁判を支援する会」の結成総会を開催し、裁判闘争に全力で取り組みました。

東京と大阪の「無償化裁判」では、2019年8月28日に最高裁は上告棄却の不当判決を下しました。私たちは不当判決が下されても決して諦めていません。朝大生が始めた文科省前「金曜行動」は現在も続いています。朝鮮大学校の学生が「金曜行動」で何度も訴えていることは「私たちは決して諦めません。諦めなければ最後は勝つのです。在日朝鮮人の権利はすべて諦めずに闘い続けたから勝ち取られたものなのです。」というものであり、私たちも諦めず闘い続けるつもりです。

2019年10月から始まった「幼保無償化」においても再び朝鮮幼稚園が排除されました。そしてコロナ対策に一環として学生緊急給付金からも朝鮮大学校の学生が除外されました。この国はどこまで差別し続けるのでしょうか‼2020年2月23日、私たちは「東京朝鮮高校生裁判を支援する会」の総会を開きました。そこで裁判支援の会の終了と『「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会』の名称を変更し、「朝鮮学校無償化排除に反対する連絡会」として活動を継続していくことを決めました。

─連絡会としてニュースペーパーの読者の方々に訴えたいことはありますか?

日本に厳然と存在する差別、人権侵害をなくすために「些細なことからでも、一歩踏み出す!」ことが必要でしょう。まずお願いしたいのは「朝鮮学校を訪問し、授業の様子や子どもたちの姿を見ていただきたい。」ということです。朝鮮学校はある意味では日本の学校よりも地域に開かれています。年に何回か、学校公開を行っているところがほとんどです。実際に学校を見てもらえば、朝鮮学校に対するイメージが変わると思います。悪意に満ちたヘイト集団の誹謗中傷が、いかに的外れであるかお分かりいただけると思います。

─2019年「朝鮮学校を歩く1100キロ/156万歩」を発行されました。

「金曜行動」での朝大生や朝高生の演説に耳を傾け、感動したことが出発点でした。この運動に長く携わってきたものにとって、全国にあるすべての朝鮮学校を訪問したいと、強く思うようになりました。裁判闘争が結審を迎えた時、判決まで私にできることは何かを真剣に考え導き出した答えが、「全国の朝鮮学校を訪問し、子どもたちや先生方、オモニやアボジを直接励ましたい!」ということでした。

─旅を終えられて感じたことなどをお聞かせください。

私が九州訪問を皮切りに「全国行脚」に踏み出したのは、2017年の6月20日でした。その年の6~7月は記録的な猛暑でした。九州の朝鮮学校訪問は、以前から親交のあった日朝学術教育交流協会の中村元気さんにお願いし、学校を上げての熱烈な歓迎を受けました。九州地域の朝鮮学校支援者からも、心温まる歓迎を受けました。「朝鮮学校にも高校無償化を!」という旗を立てて、20キロも超える荷物を担ぎ、炎天下の歩いていると、多くの方から声をかけられました。そのほとんどが励ましの言葉でした。

全国の朝鮮学校を訪問することができたのは、快く向かい入れてくださった朝鮮学校の先生方、歓迎してくれた子どもたち、オモニやアボジの皆さん、地域で学校を支えるために頑張っておられる日本人の皆さんの協力があったからです。フェイスブックでつたない文で毎日発信したおかげで、それを読んだオモニの方が、車で駆けつけてくれたことも有りました。たくさんの人に支えられ、12月22日朝鮮大学校の訪問で締めくくることができました。

朝鮮学校がその地域に作られたのは、その地域特有の歴史があり、その地域で生きてきた在日一世、二世の暮らしがあり、その地域でウリハッキョ(私たちの学校)を守ってきた長い歴史が刻まれているのだということを知りました。朝鮮のことばを学び、朝鮮の歴史・文化を学ぶ素直な子どもたち、その子どもたちが全幅の信頼を寄せる先生方がと素敵な教育的関係を築いていることを実感しました。

2020年09月01日

ニュースペーパーNews Paper 2020. 9


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9月号もくじ

  • 「朝鮮学校を歩く1100キロ/156万歩」を達成
    長谷川 和男さんに聞く
  • 「朝鮮学校排除」という差別に見る日本社会
  • 朝鮮幼稚園にも幼保無償化の適用を!
  • 新型コロナウイルスが露わにした移民政策の歪み 問われる人権意識
  • 組合活動禁止の保釈条件をいますぐ取り消せ
  • ポストコロナ社会は「命に寄り添う社会」─分断を許さず!

「反核9の日座り込み &ミニ集会」2020.8.9

誰も逃れられない状況で声をあげる

新型コロナウィルス禍ほど世界に拡がる危機状況と個々の人それぞれの責任を身近に感じさせたものは無いかもしれません。一国にとどまらない、世界が一つに繋がる、逃げ場のない状況は、気候変動でも核拡散でも同じです。安い石炭火力をすすめるという国の排出するCO₂の影響は全世界に及びます。自分は重症化しないだろうからマスクもつけないし大勢で集まる、などという人の無責任は流行を招いてしまうように、「我が国は平和を希求する、唯一の被爆国」だから核兵器の材料になるプルトニウムでも原発で使うことになっているので、核兵器何千発もの備蓄があっても、さらに分離・生産しても大丈夫などという勝手な言い訳は、世界に核拡散を招くだけで、理解されるわけがありません。世界中の人々のみならず、地上の生命に対する責任には、この状況に対して声をあげる権利も伴っているはずです。

今年の「被爆75周年原水爆禁止世界大会」はオンラインでの開催がメインで、例年のように大勢が集まる大集会は開催せず、広島・長崎・福島での現地集会も小規模になりました(写真は8月9日、長崎爆心地公園での「反核9の日座り込み &ミニ集会」)。世界各国からのメッセージ含めた、この状況に対しての真摯な発言が動画になってネット上に残されています。(「被爆75周年原水爆禁止世界大会」公式チャンネル掲載動画一覧)ぜひご覧ください。

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