イラク情勢Watch vol.14 05年10月15日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)国民投票どころではない?イラク西部での軍事作戦
3)アンバル州での投票率は低くなる〜独立系メディアが伝える現地の声〜
4)元イラク暫定政権閣僚ら、10億ドル横領で訴えられる
5)夜間外出禁止令に悩まされる妊婦と助産婦



1)週間イラク報道Pick up

【05.10.15】米財政赤字は3186億ドル 05年度、23%減少(共同)

【05.10.14】イラク新憲法案修正、あす国民投票 承認の公算高まる(産経)

【05.10.14】米大統領は「失敗者」41% 「成功者」を初逆転 人気低下深刻に(西日本)

【05.10.13】米大統領、前線兵士と対話 リハーサル映像が裏目に(共同)

【05.10.13】3割が英軍の即時撤退望む=「イラク攻撃は誤り」57%に−世論調査(時事)

【05.10.13】サマワで豪部隊に初の銃撃 負傷者なし(共同)

【05.10.13】「イラクに兵送るな」 独首相が「お別れ」演説(共同)




2)国民投票どころではない?イラク西部での軍事作戦

 イラクでは今月15日新憲法の国民投票が行われるが、西部のアンバル州では、「選挙実施のためのテロリスト掃討」を名目に、10月に入ってから3つもの米軍・イラク国家防衛隊の大規模軍事作戦が行われ、投票直前まで継続される模様だ。アンバル州では、今年1月末の国民議会選挙でも、投票直前まで米軍による軍事作戦が行われ、投票率はわずか2%だった。

      
      「ドクターズ・フォー・イラク」の声明を掲載するHealth Now

 アンバル州は、イラクの西部の州で、人口は120万人程。ヨルダンやシリア、サウジアラビアと国境を接し、イスラム・スンニ派が多数を占める。ファルージャやラマディなどがそうであるように、米軍への抵抗が激しいことで知られており、最近はシリア国境に接する街カイムに外国人武装勢力が潜伏している、と米軍は主張している。

 10月に入り米軍とイラク国家防衛隊は、"Mountaineers"、"Iron Fist"、"River Gate"と立て続けにアンバル州での軍事作戦を展開。今月10日付けの『ネイビータイムズ』に掲載されたキャンプ・ファルージャのジョンソン少佐の話によれば、米軍による軍事作戦は終了したとされているが、1万5000人投入されたイラク国家防衛隊の兵士達は作戦を継続するという。また同日の多国籍軍のプレスリリースでは、"River Gate"作戦は継続中だとされている。

 軍事作戦による現地住民の被害状況は明らかになっていないが、現地医療関係者によるNGO「ドクターズ・フォー・イラク」の9日付けの声明によると、"Iron Fist"作戦によりカイムから2500家族の住民が近郊のサダに避難、緊急の人道・医療支援を必要としているという。
  
 新憲法案をめぐっては、連邦制を主張するシーア派やクルド人と、反対するスンニ派や他の少数民族が対立。スンニ派の多いアンバル州やニナワ州では、新憲法案への反対票が伸びることが予想されている。



3)アンバル州での投票率は低くなる〜独立系メディアが伝える現地の声

 独立系ニュースサイトのIWPR(インシュテュート・フォー・ウォー・アンド・ピース・レポーティング)は、5日付けの記事の中で、武装勢力の妨害や米軍等の掃討作戦のためにアンバル州での投票率は低くなるだろう、との地元の声を紹介した。

 記事によると、アンバル州の州都ラマディでは、武装勢力は国民投票に行くなと警告するチラシを配っているのだという。一般住民も、この間の政治プロセスにウンザリしており、街には「国民投票にNO」と書かれた横断幕があちこちに張られている。

 この間、ラマディ周辺では大規模な軍事作戦が行われ、多くの人々が投票のための有権者登録が出来なかった。住民の話によると、米軍は軍事作戦の間ラマディを封鎖、40万人の人々が家に留まることを強いられたという。

 ラマディの学生であるサミル・アルドライミさんはIWPRの記者に対し、「私はラマディで有権者登録をした人がいるとは思いません。私も投票しないし、学友達もそうです。殺されたり、逮捕されたりする危険が常にあるのです」と語った。



4)元イラク暫定政権閣僚ら、10億ドル横領で訴えられる

 11日、イラク当局はハジム前国防大臣を含む23人を、10億ドル以上を横領した疑いで逮捕状を出した。ロンドンに拠点を置く中東系ニュースサイト「ミドル・イースト・オンライン」が報じた。

 先月、アリ・アラウィ財務大臣は、アラウィ前首相下の暫定政権時、「防衛予算から10億ドルが横領された」と英紙インディペンデントに語っていた。粗悪で時代遅れの装備品が購入され、残りの莫大の資金が海外に流出したとされている。

 23人への逮捕状を出した「イラク社会公正委員会」ラジ・ハムザ・アル=ラジ裁判長は「他の省庁の元トップも汚職に関わっている」と発言したが個人名を挙げることは避けた。

 アラウィ財務大臣も「複数の省庁から5〜6億ドルの公金が消えた」と発言した。

 ラジ裁判長は「国際刑事警察機構の協力も得ている」と発言。国外の関係者も追及していく構えだ。



5)夜間外出禁止令に悩まされる妊婦と助産婦

 戦争において、最も苦しむのは、常に最も弱い立場にいるものだが、それはバグダッドにおいても同じことだ。夜間外出禁止令が続く現地での、妊婦や助産婦達の声を、独立系ニュースサイトのIWPRは伝えている。

 出産を間近に控えた妊婦にとって、夜間に病院に向かうことは、非常に大変なことだ。何故なら検問の集中攻撃を受けるからだ。

 助産婦は多くの場合、妊婦の待つ家に向かうことを頼まれる。助産婦にとっても、夜間に外出することは、非常に危険なことだ。午後11時から午前6時までの外出が禁止されている間はどんな車でも疑いを持たれる。  

 豊かな家族は助産婦に夜間外出手当てを支払う。しかし、貧しい人々に対しては助産婦は手当てを請求しないことが多い。
 
 助産婦暦40年のウム・ムハンマドさんは「危険を冒して夜間外出する必要はない」という。彼女は医療設備や宿泊設備を備えた自宅に妊婦を泊めさせている。

 だが、ラヒーブ・アザウィ医師は「自宅で産むことは簡単ではない」と言う。必要な医療設備はとても高価だし、出血など助産婦ではできない、緊急の対応が必要になることもある」。

 爆発があちこちであるバグダッドでは、昼間ですら妊婦が病院にいくことは簡単ではない。救急車のドライバーは、負傷者を運ぶのに精一杯であることもあるし、病室も爆発の犠牲者で埋まっていることもある。

 3人の子どもの母であるイマン・アブドゥル・マジードさんは、現在4人目の子どもを妊娠している。それまでの出産はいずれも大変たったが、「子どもが母親を失わないため」外出禁止時間の前に病院に行き、朝になってから自宅に帰ることにしているという。




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