2011年、平和軍縮時評

2011年12月30日

平和軍縮時評12月号 政府、「環境アセス書」を夜陰に乗じて搬入―普天間移転先は県外・国外以外にない―オスプレイ配備は論外、白紙撤回を 田巻一彦

大義も合理性もない愚行
   12月29日未明、沖縄防衛極の真部朗局長らは、名護市辺野古への普天間代替施設の建設に関する「環境アセスメント」書類一式(約7000ページ)を、沖縄県庁守衛室に運び込んだ。評価書の年内提出という「対米公約」実行の体面を保つために、提出阻止を訴えて県庁前に結集していた県民、住民の行動を避けてとられた愚行であった。沖縄県は1月4日以降に書類箱を開封し受理手続きをとるとしている。
   日本政府のこのなりふり構わぬ行動と時を同じくして、米国議会では、辺野古への代替施設建設と「パッケージ」であると日米政府が主張してきた海兵隊グアム移転を、事実上白紙撤回される決定がなされた。
   12月31日、沖縄海兵隊の移転に伴うグアムにおける軍事施設・民生施設の建設予算を「ゼロ査定」とする「2012会計年国防認可法(歳出権限法)」が発効した。7月30日の本コラムで述べたように、「ゼロ査定」は、沖縄、グアムはもとよりアジア太平洋全域における米軍の配備に関する包括的で抜本的な見直しを求める米議会の強い要求を反映したものである。この考えを明白に打ち出したのは6月22日の上院軍事委員会の決定であり、その時点では下院との調整によって予算が一部復活される余地は皆無ではなかった。しかし、8月2日に成立・発効した「予算管理法(BCA)」が国防予算関係費の更なる大幅削減を要求するものであったため、部分的予算復活の道は完全に閉ざされた。いいかえれば、「海兵隊のグアム移転を条件として普天間を辺野古に建設する代替施設に移す」という「ロードマップ合意」は米国議会の意思によって、根拠を失ったのである。
                     ※ http://www.peace-forum.com/p-da/110730.html
   このような中で強行された「環境アセス評価書」の提出にはいっぺんの大義も合理性も見出すことはできない。その代わりに政府多示したのは「普天間は県外、国外に移設せよ」という沖縄の声をしりぞける冷酷きわまりない意志である。どこまで沖縄県民を愚弄すれば気が済むのか。
   7月のコラムでも述べたように、「グアム移転予算ゼロ査定」によって米軍当局が失うものは無い。グアム移転ができなくても、辺野古に代替施設ができればよい。さらに言えば、辺野古代替施設建設がいかように難航し、実現不可能となったとしても、普天間飛行場という既得権が守られさえすればよい。米軍当局はそう考えているに違いない。
   この既得権をさらに温存、拡大するのが12年秋ともいわれる「オスプレイ配備」である。

許しがたいオスプレイ配備
   8月29日、北沢俊美防衛大臣(当時。9月2日の内閣改造で一川保夫大臣に交代)は、6月24日に仲井真弘多沖縄県知事と安里猛宜野湾市長が連名で提出した、宜野湾飛行場へのMV-22オスプレイ配備に関する29項目にわたる質問状に対する回答を行った。
                     ※ http://www3.pref.okinawa.jp/site/contents/attach/24712/osupurei.pdf
   回答の全文は宜野湾市及び沖縄県HPに掲載されている。
                     ※ http://www.city.ginowan.okinawa.jp/DAT/LIB/WEB/1/osupureikaitou0.pdf
   「回答」の中で、防衛大臣は同機の配備は「老朽化した航空機を同種の新しい機種に変更するもの」であり、「政府としては、米国政府に配備計画の修正を申し入れる立場にない」との姿勢をあらためて示すとともに、安全性や騒音にも問題はないとの見解を示した。またオスプレイ配備を対象とした「環境影響評価(アセス)」は不要であるとしている。ただし、12月29日に防衛極が運び込んだ評価書は、オスプレイ配備が前提に含まれている。

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オスプレイ

◆オスプレイ・ファクトデータ
   米国が1980代から開発し、2007年にイラク(その後アフガン)に実戦配備を開始した双発のティルトローター垂直離着陸機「オスプレイ」、鳥の「ミサゴ」を意味する名称を持つこの航空機は。離着陸時はヘリコプターと同じように回転翼(ローター)を水平にして垂直に移動、一定高度に達した後はローターの向きを進行方向に変える(ティルト)ことによって固定翼機として飛行する。開発段階から多くの重大事故を起こしてきたことで知られる。
   海兵隊向のMV-22と陸空軍向きのCV-22がある。米国防総省は2012会計年までにMV-22を248機、CV-22を35機調達・配備する計画である。写真は米国防総省HPから。

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 現在普天間に配備されている中型輸送ヘリCH-46に替えて同数のMV-22オスプレイを、2012年後半から配備する計画が、防衛省から地元自治体に通知されたのは6月6日であった。防衛省は、同機はCH-46より安全で、より静かで、相当に能力が高いと強調した。同配備計画は、2010年秋にも米国防総省筋によって示唆されたが、日本政府によって正式に示されたのはこれが最初である。
   地元自治体は一斉に反発した。6月21日には県議会と那覇市議会、22日には宜野湾市、北谷町両議会が全会一致で反対を決議した。名護市(6月27日、賛成多数)、うるま市(7月7日、全会一致)、読谷村(8月16日、同)議会もこれにつづいた。金武町議会は2010年10月1日、全会一致で決議をあげている。6月9、10日に「琉球新報」が行った調査によれば、県内38の自治体首長が配備に反対している。
   宜野湾市議会決議は、「このような(安全性に問題がある)新機種投入による基地機能の強化は普天間飛行場の固定化につながるものであり、断固として容認できない」と非難した。また決議は、この配備が、普天間飛行場を巡る日米両政府による公約に反するものであり、市と市民の反対は妥協の余地のないものであると次のように強調した。「本来、米軍基地普天間飛行場を移設するという日米両政府の合意は、同基地の危険性の除去が原点であり、混迷を深める同飛行場の移設問題により、15年もその危険性が放置され続けてきた宜野湾市民にとって、さらなる基地機能の強化及び固定化につながるMV-22の配備は、いかなる方策を講じようとも、断じて受け入れられるものではない」。
                     ※ http://www.city.ginowan.okinawa.jp/DAT/LIB/WEB/1/osupureiketu.pdf

安全性と環境影響の検証が必要
   最大の問題が、宜野湾市議会決議が指摘するように、「普天間の危険除去」という公約に実現の見通しが全く立たない中での新たな基地機能強化にあることは言うまでもない。
   加えて、8月29日の「防衛省回答」が示した安全性、騒音、環境影響に関する評価はいずれも米政府の提供データに無批判に転載したものであり、検証が必要である。事実、同機の独特の構造や飛行方式に伴う議論は米国内でも未決着の部分が多い。騒音の増加に加えて、普天間配備にあたっては少なくとも以下の問題が専門家によって厳密に検証されなければならないであろう。

★オートローテーション機能の欠如(または不足):ローターが故障・停止(動力喪失)すれば、機体は当然墜落する。「オートローテーション」とは、急激な高度低下時に機体がうける相対的な上昇気流によって、ローターが回転、落下速度を抑制して墜落を回避する機能である。民生用ヘリでは、構造的にこの機能を持つことが認可条件となる。オスプレイでは、動力喪失から600メートル以上落下しなければ、この「オートローテーション」機能が作動しないことを米国の専門家たちが指摘している。このことは普天間のような人口密集地では、ローター動力の喪失が即、墜落事故につながる可能性が極めて高いことを示している。
★高温排気による火災誘発の可能性:離着陸時にはエンジンの高温の排気が地上に向かって吹きだされる。周囲に樹木があれば山林火災につながる可能性がある。これは、北部訓練場の高江地区に計画されているヘリパッドで同機の離着陸訓練が行われるときに重大な問題となるであろう。火災に至らずとも周辺の生態系に対して大きな影響を与える可能性がある。

 先に述べた「(普天間配備に)環境影響評価は不要」とする政府の主張は、このような機体の特殊な性質が普天間や高江の立地条件の中で持ちうる問題点を意図的に隠蔽する議論である。政府は、騒音を含めた環境影響について、ミラマー海軍基地(米カリフォルニア州サンディエゴ)への配備に関して米海軍が作成した環境影響最終評価書(FEIS)を引用して「オスプレイは安全」と強調する。しかし、広大な緩衝区域を有するとともに、飛行コースが国内法によって厳しく規制されたミラマーと、人口密集地に近い普天間や森林近の高江ヘリパッドの条件を直接比較することはできない。そもそも、「環境影響評価は不要」ということ自体が、米国において現に環境影響評価が行われていることと矛盾する。また、オスプレイが辺野古に関する評価書では取り上げられ、まず配備される普天間では不問に付されるという論理は、余りにも粗雑なものだ。
                     ※ 「MV22の西海岸配備に関する環境影響評価」。http://www.mv22eiswest.net/

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 米議会の<グアム移転ゼロ査定>は、流動するアジア太平洋の戦略状況と、何よりも決定的には財政赤字解消という至上命題の前で、この地域の軍、とりわけ海兵隊配備の在り方を原点から見直そうという動機に基づくものである。日本市民と政府はこれを好機としてとらえ、「沖縄の負担と普天間の危険の除去」という原点にたって、根本から沖縄米軍問題を再考するべきときである。オスプレイ配備によって新たな既成事実が作られることを、断じて許してはならない。

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