平和軍縮時評

2016年12月30日

平和軍縮時評2016年12月号 日米地位協定の抜本的改定を―国内法の適用の拡大を!  湯浅一郎

 

16年12月13日夜、沖縄県名護市安部(あぶ)沖の浅瀬でオスプレイが着水し、大破する事故が発生した。オスプレイ普天間配備から4年強が経ち、遂に懸念していたことが起きてしまった。この事故をめぐって日本側は、事故機の調査に関して全く閉ざされたままである。14日、海上保安庁は航空危険行為処罰法違反容疑での捜査を始め、米軍に対し乗員の尋問を要請したが、今に至るも米軍からの回答はない。2004年8月、沖縄国際大学にCH46ヘリが墜落した事故での米軍の行動を機に、「施設・区域外での合衆国運用航空機事故の関するガイドライン」が作成されたが、これは事故による災害救助などに関わるもので、事故原因を究明する調査を共同で実施するなどに関しては何も盛り込まれていない。地位協定17条により基地外の事故現場の統制が米軍側にゆだねられている状況は依然として変わっていない。
また16年5月19日に沖縄県で起きた米軍属による女性死体遺棄事件は、軍隊・基地が持つ本質的な非人間性を象徴する痛ましい出来事であったが、政府は、再発防止策と運用の改善を求めるだけで、何ら本質的な対処をしようとはしなかった。
これらの問題は、日米安保条約や、その実体としての地位協定には、市民の生活権よりも米軍や米兵の都合を優先させる思想が貫かれていることから発生している。日本国憲法の重要な特徴の一つは国民主権であるが、こと安保や地位協定では、初めから国民主権はどこかに置き去りにされたままである。
地位協定は28条からなり、その正式名称は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(1960年1月19日)で、「施設・区域の使用の在り方や我が国における米軍の地位について定めた国会承認条約」である※1。地位協定の実施に関する協議機関として日米合同委員会があり、2週間に1回の会合を持ち、国内法との調整等が行われてきている。しかし、ここでの議論は、ほとんど非公開である。そこで、地位協定における国内法の適用を拡大させ、抜本的に改定することをめざし、とりあえず地位協定をめぐる問題をおさらいしてみたい。

1.   アメリカの地位協定と学ぶことが多いドイツ協定

米議会調査局報告書※2によると、アメリカが各国と結んでいる駐留軍隊の地位に関する協定は、NATO加盟国、地位協定に関する当局の基本的典拠としての条約(日本、韓国など)など多岐にわたり、以下のように115以上はある。

  1. 北大西洋条約機構:地位協定;25か国(NATO加盟国)。
  2. 北大西洋条約機構:平和計画のための協力;24か国(オーストリア、スイス、アイルランド、フィンランド、ロシア、ウクライナなど)。
  3. 地位協定に関する当局の基本的典拠としての条約;9か国(日本、韓国、アフガニスタン、オーストラリア、フィリピン、イラク、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス)。
  4. 地位協定に関する当局の基本的典拠としての議会決議;3か国(マーシャル諸島、ミクロネシア、パラウ)。
  5. 地位協定を含む基地貸与協定(英国との協定);6か国?(バハマ、バミューダ、デイエゴガルシァなど)。
  6. 特定活動・演習の支援における地位協定;12か国(エチオピア、ガボン、ネパール、ペルーなど)。
  7. 基本となる条約や議会行動に基づかない特定活動・演習の支援における地位協定;48か国(アフガニスタン、バーレーン、ジブチ、イスラエル、ケニア、ソマリア、スーダンなど)。

上記のなかで、市民の人権と生活権を守るという視点から最も優れているのが「ドイツ駐留NATO軍地位補足協定」(1959年8月、1993年3月改定)※3である。同協定は、緻密性、体系性に優れ、国内法適用原則を項目ごとに具体的に定めており、それにより住民への配慮を確保しようとしている。例えば、

  1. ドイツの主権およびドイツ常駐同盟国軍によるドイツ法の遵守を強化すること。
  2. 同軍の行動条件をドイツ国防軍に適用される条件に組み替えること。
  3. 軍事演習場以外での演習はドイツの有権的当局の許可を要すること。
  4. ドイツの環境法は、軍事基地の使用についても適用されるべきものとすること。
  5. 陸路、水路または空路による軍事的移動、とりわけ危険な貨物輸送には、ドイツの交通法規が厳格に適用されること。

冷戦終結という事態の流れの中で、大幅な改定が実現したものと推定されるが、これが作られた経緯に学ぶべきであろう。関係自治体の機関による駐留外国軍隊の施設区域への立ち入り権も認められている。ただし、ドイツでも、刑事裁判権の拡大に関しては、見るべき前進はなかった。米国の抵抗の大きさが伺える。いずれにせよ国内法の適用を拡大させていく流れをいかに作っていくのかが問われている。

 

2.   自治体の努力とそれとの連携強化を

地位協定の改定については、関係する自治体が独自に政府への要請を継続している。在日米軍基地のある都道府県で構成する渉外関係主要都道府県知事連絡協議会は、継続的に包括的な「基地対策に関する要望書」(別冊)※4を出し、そこには「地位協定の改定に関する15項目の要求」が盛り込まれている。長いが参考になるので紹介する。

  1. 2条、施設・区域の提供など。
  2. 第3条、基地内への立ち入りへの速やかな対応。
  3. 環境条項の新設。-平常時の環境調査。
  4. 基地に起因する事故時における情報提供。
  5. 第4条、基地の返還に伴う原状回復義務の明記。
  6. 第5条、米艦船、航空機の使用時の国内法適用。
  7. 第9条、検疫や保健衛生の規定がない。
  8. 第17条、日本が要求するすべての場合に、被疑者の起訴前の拘禁移転が行えるようにする。
  9. 第17条、基地外における米軍財産につき、日本国当局が捜索、差し押さえなどの権利を行使できる。
  10. 17条、基地外の事故現場の統制は、日本国の当局の主導の下に行われること(沖国大ヘリ事故)。
  11. 18条、公務外の米軍等が起こした事件などでの損害賠償額の日米政府による補てん。
  12. 米軍等の給料を差し押さえできるようにする。
  13. 第25条、日米合同委員会の中に、地域特別委員会を設置。
  14. 日米合同委員会の合意事項の速やかな公表。
  15. 騒音軽減措置や飛行運用の制限に関する規定を設ける(最低安全高度を定める国内法の適用)。

項目10.は、16年12月の沖縄でのオスプレイ事故における統制は、まさにこの項目に該当する。この知事連絡協議会の取組みは重要なのであるが、一向に実現への流れが見えてこない。政府を動かすためには、市民の側から、自治体に働き掛けや情報提供をすることで、この力を強めていくことが求められる。

 

3.   地位協定無視の政府を地位協定で縛る

地位協定をめぐる問題で、もう一つ重要なことは、政府が地位協定を無視している場合、それを地位協定で縛る取組みである。具体的に米軍機による低空飛行訓練を例に考えてみよう。
日本列島には米軍機が低空飛行訓練を行う航法訓練ルートが8本あると言われる。これは、奈良県十津川での林業用ケーブル切断事故や高知県早明浦ダムでの米空母艦載機墜落事故など過去のいくつかの事故報告書から明らかになってきたもので、普天間配備オスプレイに関する米海兵隊作成の「環境レビュー」(2012年6月)で初めて地図上で示された。言うまでもなく、このルートは基地の提供施設や訓練場でない一般空域で、地域住民の生活する場であり、スキー場やハイキングコースとも重なっている。このような一般空域で、何故米軍の訓練が可能なのか?そもそも地位協定にそれに該当する条文があるのかが問題になる。実は、政府も地位協定には該当条項がないことを認めているのだが、1980年代後半からの長い経過がある。
外務省機密文書「地位協定の考え方」初版(1973年)は、「通常の軍隊としての活動(例えば演習)を施設・区域外で行うことは、協定の想定していないところであると考えられる」としている。
しかし、その増補版(1983年)になると、「米軍の軍隊としての機能に属する活動はいかなるものであっても施設・区域外において行い得ないかといえば、例外的に認められるものがあり得ないわけではないと考えられ、個々の活動の目的・態様等の具体的な実態に即し、同協定に照らし合理的に判断されるべきことと考えられる」と大きく変化する。
更に1988年12月23日付、政府答弁書は、「日米安保条約が米軍の日本駐留を認めていることは、低空飛行訓練を含む軍隊としての機能に属する諸活動を一般的に行うことを当然の前提としており、米軍は個々の飛行訓練の内容等について、我が国に連絡する必要はない。」、「米軍による実弾射撃等を伴わない通常の飛行訓練について日米地位協定は施設・区域の上空に限ることを想定しているわけではなく、施設・区域の上空外で行われることは認められる。」となった。
何と安保条約そのものが、施設・区域外での訓練をも保証しているとしたのである。ここには、低空飛行訓練に伴う事故が繰り返される中で、政府は、住民の生命と安全をより確保する道ではなく、返って米軍の低空飛行訓練を正当化する方向に解釈を切り替え、居直った様子が見てとれる。
このような経過を踏まえると、低空飛行訓練も「地位協定に照らし合理的なものと判断できるのか」と問うていくことが重要であろう。
合わせて、米軍機には、最低安全高度を定めた航空法第81条の規定の適用を米軍機には除外するという航空特例法が適用されている。この正式名称は、「地位協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」である。つまり「地位協定の実施」という縛りがかかっている。しかし地位協定の条文には「施設・区域外の訓練」に関する記述は全く存在しないのである。地位協定に根拠がない中で、「地位協定の実施に伴う特例」がどう適用されるのかを追求していくことが必要である。それを通じて、特例法を廃止し、米軍機にも航空法を適用すべきであるとの声を集中すべきである。

4.   改定すべき日本ジプチ交換公文

最後に日米地位協定のあり方を考える上で、忘れてならない「ジプチ共和国における日本国の自衛隊等の地位に関する日本・ジブチとの交換公文」(2009年4月3日)にふれておきたい。同公文第8項目は、公務中、公務外に関わりなく「日本国の権限のある当局は、ジブチ共和国の領域内において、ジブチ共和国の権限のある当局と協力して、日本国の法令によって与えられたすべての刑事裁判権及び懲戒上の権限をすべての要因について行使する権利を有する。」としている。これは、日米の差別的な関係性をそのまま、日本ジプチの関係に持ち込んだものといってもいい。このような協定を結んでいる日本に、日米地位協定を抜本的に改定せよと求めていく正当性はない。我々は、ジプチとの差別的な交換公文の改定をも求めていかねばならない。

本稿で見た渉外関係主要都道府県知事連絡協議会の継続的、包括的な取り組みは重要なものだが、その具体化には壁がある。そうした中では、具体的な課題を取り上げ、自治体、市民が認識を共有して協力しながら追及していくことが重要であろう。
沖縄で起きたオスプレイ事故を機に、自治体の多くも、オスプレイの安全性に対する不安や懸念が再度、関心事となっている。オスプレイの配備と飛行について「周辺住民の安全性への懸念、不安が解消されていない」ことにこだわることで、自治体と市民が問題意識を共有することができる。今回の事故は、比較的安全とみられる固定翼モードにおいて、プロペラが損傷することから発生しており、オスプレイの慢性的な揚力不足という構造的な問題が見えてきている。
今後、日本では横田配備のCV22空軍オスプレイをはじめ、約53機のオスプレイ配備が計画されており、その多くが低空飛行訓練を行う公算が強く、日本列島のどこで事故が起きてもおかしくない状態が出現する。特に17年に横田に配備が予定される空軍仕様CV22オスプレイは特殊作戦部隊の輸送任務を有しており、夜間低空飛行訓練の実施が予想される。CV22の訓練空域は、三沢、キャンプ富士、ホテルエリア※5、沖縄の4か所が想定されており、訓練空域への行帰りに7本の低空飛行訓練ルートを使用し低空飛行を含めた訓練が行われるであろう。従来からの戦闘機や輸送機による低空飛行訓練に加えて、オスプレイの低空飛行が始まるのである。
従来から低空飛行問題では、中国地方知事会をはじめ、訓練ルート下の多くの自治体が訓練の中止や住民の安全への配慮を求め続けている。訓練空域、低空飛行訓練ルート下の自治体を含め、幅広く総合的な自治体のネットワークを作り、連携して声をあげて行く必要がある。それを突破口に地位協定に穴をあけていく道筋が見えてくるはずである。

注(※)

  1. 外務省HP。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/
  2. 米議会調査局(CRS)報告書(2012年3月15日)。
    Status of Forces Agreement (SOFA):What Is It, and How Has It Been Utilized?
    R. Chuck Mason Legislative Attorney  March 15, 2012
    http://fas.org/sgp/crs/natsec/RL34531.pdf
  3. 「ドイツ駐留NATO軍地位補足協定に関する若干の考察―在日米軍地位協定をめぐる諸問題を考えるための手がかりとして―」本間浩(国立国会図書館『外国の立法』221(2004.8))。http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/221/022101.pdf
  4. 渉外関係主要都道府県知事連絡協議会;「基地対策に関する要望書(別冊)(日米地位協定関係)」、16年7月。
    http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837041.pdf
  5. 群馬県を中心に長野県、新潟県、福島県、栃木県にまたがる一般住民が生活している空域。従来から空母艦載機の低空飛行訓練が問題になっている。

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