2019年10月アーカイブ

イランによる核合意の履行縮小
 2019年5月以降、イランが2015年に成立した核合意(共同包括的行動計画=JCPOA)の履行縮小(一部停止)を段階的に進めている。米国は昨年5月にJCPOAから一方的に離脱し、対イラン制裁を再開した。米国の離脱からちょうど1年のタイミングに合わせ、イランは対抗措置として合意履行の縮小に踏み切った。
 5月8日、イランはJCPOAの履行を縮小すると表明し、低濃縮ウランの貯蔵量をJCPOAで合意した300kgの上限以上に増やし、重水の貯蔵量も130トンの上限以上に増やすと発表した。さらにイランは60日間の猶予期間を設け、JCPOA当事国が米国の制裁によるイランの経済的損失を補填する措置を取らなければ、合意履行をさらに縮小すると警告した。そして7月1日、イランのザリフ外相は低濃縮ウランの貯蔵量が合意の上限を越えたと発表した(合意履行縮小の第1段階)[注1]。
 合意履行縮小の表明から60日目となる7月7日、イランは合意履行縮小の第2段階に入った。この日、イランのアラグチ外務次官、ラビエイ政府報道官、カマールヴァンディー原子力庁報道官は共同記者会見を開き、ウランの濃縮度がJCPOAで規定された上限の3.67%を超過したと発表し、5%程度まで引き上げる可能性に言及した。さらに、新たに60日間の猶予期間を設け、その間にJCPOA当事国によるイランの利益保護に進展が見られなければ、イランは合意履行縮小の第3段階に進むと警告した[注2]。これに対し英独仏はJCPOAの合意成立から4年目となる7月14日、JCPOAが「崩壊の危機にある」とする共同声明を発表し、対立を深める米国とイランが対話を再開するよう呼びかけた[注3]。だが対話の糸口が見えないまま、9月4日、ロウハニ大統領は合意履行縮小の第3段階として、新型遠心分離機の研究開発を拡大する方針を示し、9月7日にはイラン原子力庁が新型遠心分離機の稼働開始を発表した。さらに、イランは11月初めに履行縮小の第4段階を予定している。

イランの行動の背景:米国の一方的合意離脱と欧州へのいら立ち
 イランはなぜ核合意の履行縮小に踏み切ったのだろうか。その背景には、米国の一方的行動と、事態を解決できない欧州に対するイランのいら立ちがある。トランプ米大統領は大統領選挙中からオバマ政権のレガシーであるJCPOAを「最悪の合意」と繰り返し批判し、合意離脱を公約としていた。トランプ大統領は、合意の欠陥としてイランの弾道ミサイル開発規制が含まれていないことや、イランの核開発制限に期限があることなどを挙げ、欧州側に合意の修正を求めてきた。イランは合意の堅持を掲げて再交渉を拒み、英独仏も米国が合意にとどまるよう説得を続けてきた。ところが18年5月、トランプ大統領は米国の合意離脱を表明し、対イラン制裁を復活させる大統領令に署名した。続いてポンペオ米国務長官がイランに対する12項目の要求を提示し、見返りとして経済制裁の解除や国交回復に向けた用意があると強調した。12項目にはイランの国家主権や地域戦略、安全保障の根幹に関わる要求が含まれており、イラン側は猛反発した。
 米国の合意離脱後もイランのロウハニ大統領は合意にとどまると表明し、国際社会もそうしたイランの姿勢を支持してきた。だが米国による対イラン制裁再開の第1弾が18年8月に、第2弾が11月に実施されると、イランの経済や国民生活は大きな影響を受け始めた。特に、イランの歳入の大部分を占める原油輸出への禁止措置は、イラン経済に深刻な打撃を与えている。米国は日本を含む8か国・地域に対し、イランからの原油輸入の継続を180日間に限り認める特例措置を認めていたが、その期限も今年5月に終了し、イラン産原油は全面禁輸となった。
 イランはJCPOAにとどまる条件として、米国の制裁による経済的損失を他の当事国が補填することが不可欠だと主張してきた。英独仏とEUはイランを支援するため、欧州企業が米国による制裁に従うことを禁じるブロッキング規制を18年8月に発動し、今年1月にはイランとの貿易決済を可能とするための特別目的事業体として貿易取引支援機関を設立した[注4]。だが米国による二次的制裁の適用を恐れる欧州企業は及び腰で、欧州によるイラン支援の取り組みは十分に機能していない。イランは制裁に否定的な中国の企業との取引継続に期待を寄せていたが、今年10月に中国企業がイランでのガス田開発から撤退するなど、外資投入による経済成長を目指してきたロウハニ政権は大打撃を受けている。
 さらにイラン国内では苦境に陥った国民の不満を背景に、反米を基調とする保守強硬派が勢いを増し、JCPOAを成立させ対外融和政策を進めてきたロウハニ政権への圧力を強めている。イランによる合意履行縮小は、イランの経済的利益の保護という約束を果たせていない欧州に揺さぶりをかけるとともに、国内の保守強硬派からの批判をかわすことも狙ったものである。

あくまでも合意維持を求めるイラン
 イランは合意履行の縮小について、JCPOAに違反しておらず、合意の26節及び36節に規定された権利を行使しているだけだと強調している[注5]。これらの文節は、他の当事国に重大な合意不履行があった場合、イランは合意履行を停止できるとしている。先に合意に違反したのは米国であり、英独仏やEUも約束したはずのイランの経済的利益を保護できておらず、イラン側はそれを合意の不履行として問題視している。米国の合意離脱後もイランは欧州にイラン支援の仕組み作りの時間を与えてきたが、十分な結果が得られないため、「仕方なく」保有する権利を行使したというのがイランの主張だ。7月7日の記者会見でアラグチ外務次官は、「イランの合意履行縮小はJCPOAを維持するためのもので、破棄するためのものではない」と説明し、あくまでも合意にはとどまる姿勢を強調した[注6]。
 また、イランの行動は核武装につながる危険性からはほど遠い。履行停止の第1段階として、イランはウラン濃縮度を5%程度まで高めるとした。天然ウランにはエネルギー源として利用可能なウラン235が約0.7%含まれており、この濃度を高めることをウラン濃縮という。イランが現在達成している濃縮度3~5%は発電用原子炉で使用される燃料のレベルである。核兵器を製造するには濃縮度を90%まで高める必要があり、現在の濃縮度はそれよりはるかに低い。ウランの濃縮度20%の達成には長い工程が必要であるが、20%まで濃縮が進めば、そこから濃縮度を90%まで高める工程は比較的短期間で済むとされる。だが、核兵器製造には高濃縮ウランが数kg単位で必要であり[注7]、それを濃縮によって製造するには原料として大量の低濃縮ウランが必要とされる。今回、イランは低濃縮ウランの貯蔵量をJCPOAでの上限の300kgからわずかに増やしただけであり、核兵器に必要な高濃縮ウランを製造するには量が少なすぎる。今年9月にイラン原子力庁報道官が新型遠心分離機の研究開発拡大を発表した際も、「現状では20%の濃縮ウランは必要ない」と述べ、抑制的な態度を示した。
 さらに、イランはIAEA査察官を国内に留め、24時間体制の監視を継続させている。イランは合意履行縮小についてもIAEA査察官に確認させており、イランに核兵器開発の意図があるとは考えにくい。イランの合意縮小は、核兵器製造が可能なレベルには程遠い、きわめて抑制的な行動である。イランは欧州の対応次第では合意履行を再開するとしており、履行縮小は欧州に行動を求めるための政治的アピールと見て良いだろう。

続く米の強硬策と緊張の高まり
 抑制的なイランの態度にも関わらず、この間も米国はイランへの圧力を強化し続けてきた。米国は4月にイラン革命防衛隊を外国テロ組織に指定したのに続き、6月24日に最高指導者のハメネイ師、7月31日にザリフ外相を制裁対象とした。さらに5月以降、制裁強化に対してイランが軍事的に動く脅威が高まっているとして、ペルシャ湾近海に空母を再派遣し、カタールやUAEの米軍基地にB52戦略爆撃機やF22ステルス戦闘機の部隊を配備するなど、イラン周辺での軍事的プレゼンスを高めている。
 そんな中、米国とイランの対立に関連した不穏な動きがペルシャ湾など中東地域で相次ぎ、緊張をさらに高めている。安倍首相がイラン訪問中の6月13日、ホルムズ海峡ではタンカー2隻が攻撃を受ける事件が発生した。攻撃の実行者は不明であり、イランも関与を否定しているが、米国は攻撃をイランの仕業であると断言した。6月20日にはホルムズ海峡近辺で米海軍の無人偵察機が領空を侵犯したとして革命防衛隊に撃墜され、一時はトランプ大統領が報復攻撃を承認し、直前に中止させる事態となった。7月18日には米艦艇がホルムズ海峡で接近してきたイランのものとみられる無人機を撃墜。さらに7月19日にはホルムズ海峡で英国船籍のタンカーが革命防衛隊に拿捕された。9月14日にはサウジアラビアの石油施設に巡航ミサイルとドローンによるとみられる攻撃があった。イエメンのフーシが犯行声明を出したが、米国や英独仏はイランに責任があるとして非難した。10月11日、今度は紅海を航行中のイランのタンカーで爆発があり、イランはサウジアラビア方面から攻撃を受けたと主張している。
 こうした事態に対し、米国はサウジアラビアへのミサイル防衛システム配備や米軍増派を決めたほか、ホルムズ海峡での船舶の安全を守るためとして有志連合の結成を各国に呼び掛け、対イラン包囲網を強化しようとしている。これに伴い、日本もホルムズ海峡周辺への自衛隊の独自派遣を検討している。イランとの軍事衝突が起きれば、戦線は一気に中東全域に拡大する恐れがある。イランが支援するレバノンのヒズボラやイエメンのフーシが報復として、米国の同盟国であるイスラエルやサウジアラビアを攻撃する可能性もある。イランはイラクとシリアに軍を派遣しており、両国に駐留する米軍と衝突が起きる可能性もある。

JCPOA維持で国際秩序を守れ
 JCPOAをめぐる交渉の行き詰まりが合意履行縮小というイランの瀬戸際外交を招き、周辺地域の軍事的緊張まで高めてしまっている。JCPOA崩壊を防ぐには、国際社会がイランの経済的利益を保護する仕組みを作るか、米国の制裁を撤回させる必要がある。だが欧州企業は米国からの二次的制裁を恐れて動けず、再選を目指すトランプ大統領も、対イラン強硬策を求めるキリスト教福音派やイスラエル・ロビーからの支持を固めるため、イランへの譲歩は難しい。有効な打開策が見えないのが現状であるが、イランも欧州も共に、JCPOAは保持されるべきであるとの立場は一致している。国連を含め国際社会は、あくまでも合意に留まるとするイラン側の意図を正しく読み取り、多国間交渉の貴重な成果であるJCPOAを崩壊させないための国際的努力の必要性を強調すべきだ。
 イランの合意履行縮小を批判する前に、イランの行動の原因である米国の一方的な合意離脱を批判する国際的世論を高めることも必要だ。国際合意や多国間の枠組みに背を向けるトランプ政権の行動は、ルールに基づく国際秩序や核不拡散の体制を危険にさらしている。JCPOAの維持で一致する国際社会が、トランプ政権の一国主義的行動に対してどこまで有効な手立てを打てるかが問われている。



1 「イラン学生通信」(2019年7月3日):https://en.isna.ir/news/98041206186/Iran-to-comply-with-JCPOA-in-same-manner-as-Europe-Zarif 
2 「国営イラン通信」(2019年7月7日):https://en.irna.ir/news/83385716/Tehran-s-second-step-to-balance-nuclear-deal 
3 英国政府HP:https://www.gov.uk/government/news/e3-statement-on-the-joint-comprehensive-plan-of-action-14-july 
4 INSTEXに関する英独仏共同声明(在日フランス大使館):
https://jp.ambafrance.org/article14160 
5 JCPOA全文(国連HP)https://www.undocs.org/S/2015/544 
6 「イラン学生通信」2019年7月7日:https://en.isna.ir/news/98041608136/Iran-officially-begins-enriching-uranium-beyond-3-67-level 
7 IAEAは、核兵器の製造にはウラン235が25kg必要であるとしている。(RECNA)http://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/fms/nuclear_commentary

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 『自衛隊の中東派兵やめろ!米国の有志連合構想に加担するな!自衛隊を戦争に巻き込むな!1030首相官邸前緊急抗議行動』 が行われました。

 「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の呼びかけに、緊急にもかかわらず250名が首相官邸前に結集しました。

 まず総がかり実行委員会を代表し、福山平和フォーラム共同代表が台風被災者へのお見舞いを述べた後、「いま中東での緊張を招いたのは、一方的にイラン核合意を破棄したトランプ政権であり、緩和するようにトランプに直言すべきなのに、その言いなりになって中東に自衛隊を派遣するのを許してはならない。立憲野党と共に安倍を打倒しよう」と呼びかけました。

 次に日本共産党の井上参院幹事長が「中東派兵はトランプを守るためで、日本の防衛ではない。調査研究という名目では、国会の承認が必要ない。制約をさけての拡大を許してはならない」と発言しました。

 立憲民主党の大河原衆院議員は「国会で衆院120名、参院61名の大きな会派が出来た。共産党など他の野党とも協力し、安部打倒を実現したい。自衛隊は中東に行くのではなく、被災地支援に全力を尽くすべきである」と述べました。

 今井JVC共同代表は「中東では反米意識が強いが、日本は中立をまもるイメージがあり、大変好評であった。アメリカへの支援はこれを壊してしまう。またアフリカ・ジブチを拠点にした、中東・アフリカを見据えた自衛隊の活動が、制約されず拡大する危険がある。こうしたことを認めてはならない」と訴えました。

 海運9条の会の平山さんは「ホルムズ海峡はイラン・イラク戦争など多くの戦火にあっているが、われわれはどちらのエスコートも断り、中立を維持することで安全航行を守ってきた。船員の命を守るのに自衛隊派兵は必要ないし、逆に危険を増加させる」と話しました。

 その後、朝霞基地やオスプレイ反対の活動を、インド太平洋での中国封じ込めや中東派兵とも関連していることを見ながら行っているという発言があり、武器見本市に反対する行動が呼びかけられました。

 

 最後に『安倍改憲発議阻止!辺野古新基地建設やめろ!東北アジアに平和と友好!113憲法集会in国会正門前』への行動提起が行われ、集会を終えました。

 

 

 

 

 

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 1026日、全水道会館において、「未来へと私たちの水を届けたい」と題し、きれいな水といのちを守る全国連絡会の結成45周年記念集会が行われました。

 「どうする?日本の水道―自治・人権・公共財としての水―」のDVD上映から始まりました。

続いて、琉球大学・沖縄国際大学非常勤講師で、The Informed-Public Project代表の河村雅美さんが「有機フッ素化合物(PFAS)汚染の現状―沖縄水道の課題とは―」と題し、講演を行いました。多くの地図や資料などを用い、沖縄の米軍基地の問題を導入として、沖縄の水には有機フッ素化合物(PFAS)の汚染があることをめぐって国と地方が対立する現状を報告し、「水は体内に入って次世代の人をつくっていくもの」であるとして、環境問題という視点でも問題点を指摘しました。

続いて、「沖縄県企業局の有機フッ素化合物(PFOSPFOA)に対する取り組み」を全水道沖縄の新垣悟執行委員長が報告しました。「県民・国民の命の問題は、何よりも優先されるべきで、水源汚染の問題は基本的人権の生存権を守るための問題」だとし、日本政府は命の問題を軽視していると訴えました。

最後に、全国連絡会の辻谷貴文事務局長が、講演をしてくれた沖縄の2人の話を用いて、「問題意識を持ったからには、沖縄だけの問題にしてはいけない。全員に関わる問題であり、その意識を共有できた」とまとめました。

 

 

 

 

 

2019.10.19.~21. 第2回ピーススクール報告

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 10月19日~21日、平和フォーラム第2回ピーススクールを東京グリーンパレスおよび自治労会館で開催し、全国18都道府県から31名(うち女性6名)が参加しました。9つのテーマ(東アジア問題・基地問題・平和問題・憲法問題・原水禁運動・核兵器廃絶問題・原発問題・技能実習制度問題・人権問題)について学習し、フィールドワークとして19日行動に参加し、靖国神社・遊就館を見学しました。参加者からは、「全ての講義に共通する『強者による強者のための強者の社会』にこの国はなっている。犠牲になるのは常に弱者・労働者。」「同世代の方から講演いただいたことが今までなかったため、非常に刺激を受けた。」「一人の力では変わらないかもしれないけど、一人のアクションがきっかけで何かが動くことがある。」「同じ思いを持つ仲間とのつながりができました。次は、この仲間で集まって、運動・活動・行動を起こしたいと思います。」などの感想が聞かれました。今後は、3日間で知ったこと・学んだこと、同年代の仲間と深めた交流を通して、それぞれの職場や地域での活動にいかしてもらえることを期待します。

 福岡高裁那覇支部による「国の関与取り消し訴訟」判決に抗議する声明

 

 沖縄県による辺野古埋め立て承認撤回を取り消した国土交通大臣の裁決が、「違法な国の関与」であるとして、沖縄県が7月に国を相手に提訴した「国の関与取り消し訴訟」について、1023日、福岡高裁那覇支部は、沖縄県の訴えを却下した。判決では、沖縄県の主張に正面から向き合うことなく、「裁決は国の関与から除外され、訴訟の対象となりえない」として、訴えをことごとく却下した。まったくの不当な判決であり、強く抗議する。

 裁判では、本来、私人の権利を救済するためにつくられた行政不服審査法を、国の機関である沖縄防衛局が利用したことについての適法性について争われた。公有水面埋立法では、国が都道府県知事から埋め立て権限を得る場合は「承認」であり、国以外のものは「免許」として別な制度を設けている。このことからも、行政不服審査制度は本来、「承認」という特別な権限をもつ国の機関が利用できるものではないとの沖縄県の主張は、正当なものと言える。

 しかし、福岡高裁那覇支部は行政不服審査法について「国の機関と一般私人とを区別することなく同様に扱うことが予定されている」として、国土交通大臣の裁決は違法ではないとした。国の機関による行政不服審査法の利用が認められれば、国は地方の意思を無視して、国の政策を強引に推し進めることができるようになりかねない。この判決は、辺野古新基地建設の違法性の問題にとどまらず、まさに地方自治の否定・破壊であり、決して許されるものではない。

 さらに判決は、国が私人と同様に承認撤回処分を受けたことや、普天間飛行場の移設にともなう埋め立て事業を推進した内閣の一員である国土交通大臣による裁決だとしても「中立的判断者たる審査庁の立場を放棄していたということはできない」などとして、沖縄県の主張を全て退けた。本来、中立的な立場で判断を下すべき司法が、完全に国の強引な政策に追随していることは、極めて問題である。

 辺野古新基地建設については、選挙をはじめとしたさまざまな形で建設反対の沖縄県民の意志が示されている。さらには、軟弱地盤の改良工事を可能とした防衛省の報告書が、大規模地震を想定していないずさんな報告書であることが明らかになるなど、ますます工事の不当性がはっきりとしてきている。このようななかでも、司法と一体になって、なにがなんでも工事を強行しようとする国の姿勢には、怒りを禁じえない。

 本判決に対しては、沖縄県は今後、上告を予定している。また、同時に8月に那覇地裁に提訴されている「行政事件訴訟法」に基づく裁判も進行中である。平和フォーラムは、これら裁判の動向を注視するとともに、さらに全国で、辺野古新基地建設の撤回をもとめ、たたかいを強化していく。 

 

20191024

フォーラム平和・人権・環境

沖縄だよりNO.94(PDF)

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10月21日、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は「3・1朝鮮独立100周年キャンペーン」との共催により、東京・新宿駅西口で「11・3憲法集会」への参加を訴える街頭宣伝活動を実施しました。この日の街頭宣伝では各団体の代表らがリレートークを行い、安倍9条改憲NO!全国署名への協力を訴えながら、安倍首相が改憲への強い意志を表明し続けていることを批判、9条改憲が米軍と一体となっての戦争のできる国、軍事大国化への道につながる危険を訴え、対話重視での東北アジアの平和と友好、改憲発議阻止、安倍政権の退陣を訴えました。また、日本国憲法の公布記念日
である11月3日に国会正門前で開催する11・3憲法集会への参加も訴えました。

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 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会などが主催する19日行動が1019日、国会議員会館前で行われました。戦争法の強行採決からの同行動も、この日第49回目となり、「憲法審査会始動させるな!辺野古新基地建設やめろ!「嫌韓」あおるな!東北アジアに平和と友好!1019国会議員会館前行動」としてとりくまれました。

 集会では、前日に菅義偉官房長官が記者会見で表明した、中東への自衛隊独自派遣について、法的根拠もいい加減なペテンともいえる自衛隊派遣を許さず、派遣を許さないとりくみを進めようと呼びかけました。連帯のあいさつで登壇した立憲野党の、福島みずほ参議員、石川大我参議員、田村智子参議員は、それぞれ台風災害、自衛隊の中東派遣問題、事前通告した国会質問が事前に外部に漏れた問題、関西電力の原発マネー問題等に言及し、改憲に前のめりになる安倍政権の政治姿勢を批判、憲法理念の実現をめざすことが重要と発言しました。

 つづいて、反安倍行動を行ってきた韓国の市民活動家3名も集会に参加し、連帯のアピールを行いました。グリーン・コリア代表のユン・ジョンスクさんは、815日に韓国で行われた反安倍行動に、総がかり行動などの日本の市民団体が参加し、連帯の行動をとりくんだことをとりあげ、市民がつくる日韓関係が大切であると述べました。東アジアの平和と友好を築き、希望の時代をつくっていこうとよびかけると、集会参加者からは大きな拍手が沸き上がりました。

 そのほか、「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲実行委員会、安保関連法に反対するママの会@ちばから、とりくみの要請などがありました。

 最後に2500人の参加者が、「東アジアに平和と友好! 安倍改憲は許さない!」とコールをして集会を終えました

 

 

 

 

 

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 101日から始まった幼児教育・保育の無償化で、無償化の対象から外された朝鮮幼稚園をはじめとした各種学校の問題を問う集会が1011日、朝鮮学園を支援する全国ネットワークなどが主催し、東京・連合会館で行われました。

 平和フォーラムの藤本泰成共同代表は、開会あいさつの中で、朝鮮学校の無償化排除や愛知で開催された「表現の不自由展。その後」などの問題に触れ、非文化的、不自由な雰囲気が蔓延している今日の日本の社会状況を話し、人権や民主主義など憲法の理念について意識がない安倍首相が、社会を後押ししているのではないかと課題を投げかけました。

講演では、朝鮮幼稚園に通う子どもの保護者でもあるソン・ヘス(宋恵淑)さんが、幼保無償化が実施される経過で、当事者の意見を聞くことなく政策決定がされた問題点を指摘したうえで、朝鮮幼稚園など各種学校の幼児教育施設が意図的に排除されたものだとして、政府の対応を批判しました。そして、ブラジル人学校の幼児教育施設も排除されているところから、朝鮮幼稚園の無償化適用を求める運動を足がかりにして、マイノリティーの子どもたちの教育の権利、学ぶ権利を確立させようと訴えました。

つづいて、朝鮮高校の無償化を求める裁判で、東京の裁判の弁護団を務めているリ・チュニ(李春煕)さんが、朝鮮高校無償化裁判の最高裁決定について報告し、827日の東京裁判での上告棄却の決定に対して、少数者の人権保護の義務を果たしていないと批判しました。一方で、裁判を提起したことによって、政治家と文部科学省の関与による政治的判断で朝鮮学校を無償化から排除した実態などを解明することができた点など、記録を後世に残すことができたことなどを評価し、今後の運動に利用して、当事者、支援者とともに頑張っていく決意を述べました。

 

最後に、高校無償化からの朝鮮学校排除に反対する連絡会の長谷川和男代表が、マイノリティーの自由と人権をないがしろにする社会の雰囲気を変えていこうとよびかけ、集会参加者は拍手で意思を確認し合いました。

 

 

 

 

 

 宮古島住民の生活を犠牲にした弾薬庫建設を許さず、

南西諸島における自衛隊の新基地建設に抗議する声明

 

2019103

フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)

事務局長 勝島 一博

 

防衛省は201910月、沖縄県宮古島の陸上自衛隊のミサイル部隊等の新設に関わり、弾薬庫の建設工事に着手するとしています。地元住民の反対の声を無視した着工を許すわけにはいきません。

宮古島市城辺保良の採石場(保良鉱山)に新たに造られる弾薬庫は、保良集落や七又集落に近接し、最も近い民家で200メートルほどしか離れていません。日々の生活を営んでいる住民の間近に危険な弾薬庫を造ることは、人びとの命とくらし、財産を全く軽んじているとしか言いようがありません。

宮古島の弾薬庫をめぐっては、「誘導弾を保管する弾薬庫は整備しない。警備等に必要な小銃弾等の保管庫を整備する計画」と防衛省は説明していましたが、20193月に新設された宮古島駐屯地に、中距離多目的誘導弾と迫撃砲弾を保管する弾薬庫が設置されていることが判明。「政府はミサイル基地を造るために住民に嘘をついた」と宮古島住民の批判が湧き起こっていました。その後、防衛省は弾薬を島外に搬出したものの、今後は保良鉱山に造られる新たな弾薬庫に保管するとしています。

自衛隊の宮古島配備、新基地建設では、2016年に野原集落会、千代田集落会が反対決議を上げ、ミサイル・弾薬庫等に近接する保良集落会が2017年に、七又集落会は2018年に、反対する決議を上げています。

住民に虚偽の説明まで行い、新基地建設を進めてきた政府・防衛省の責任は極めて重く、これ以上、新基地建設工事をすすめるべきではありません。保良集落会の決議では、「農漁業や観光で発展する可能性に富んだ地域に、弾薬庫等を配備することは、人びとの生命、財産をおびやかし、地域発展を阻害する」と訴えています。これら住民の切実な声を政府は真摯に受け止めなければなりません。

安全保障関連法(戦争法)の成立以降、安倍政権は、いずも級護衛艦の空母化、長距離ミサイル弾の導入、ステルス戦闘機の配備など、攻撃型兵器の充実を図り、日本領域に限定し必要最小限の防衛力としてきた「専守防衛」のあり方は、すでに破たんしています。日本の領域を超えた南シナ海での日米合同軍事訓練の実施や南西諸島へのミサイル部隊の新設などは、日米統合軍として米軍の東アジアでのプレゼンスを補完し、対中国を意識した軍事力増強の一環であることは間違いありません。

平和フォーラムは、東アジアの安全保障環境を不安定化させる、宮古島をはじめ南西諸島の自衛隊強化を許しません。そして、人びとのくらしに悪影響をもたらす弾薬庫および自衛隊の新基地建設に抗議する地元住民の訴えに連帯し、総力を挙げてとりくみを進めていきます。

「冷静」を失うな─ 扇動に乗ってはならない

 8月3日、メキシコ国境の町エルパソの大型店舗ウォルマートで、男が銃を乱射して20人が死亡する事件が起きた。男は犯行後「メキシコ人を狙った」と述べた。事件直前にはオンライン掲示板に「これは、テキサス州に来るヒスパニックの『侵略』に対する行動だ」と書いている。ネイティブから土地を奪った移民のアメリカンが、今度は新しい移民は出て行けというのか。全ての人々に開かれた自由な社会がアメリカではなかったのか。

 「国境に壁を」と主張するトランプ大統領も、さすがに「わが国に憎悪(ヘイト)の居場所はない」と主張しているらしいが、そもそも「移民による侵略」はトランプ大統領の常套句ではなかったのか。「人種差別と白人至上主義は非難されなければならない」と述べたとされるが、つい最近も、トランプ大統領を批判する、非白人の民主党新人議員に対して「米国が嫌なら国を出て行け」と発言している。トランプ支持者の中では「LoveitorLeaveit」の文字が、胸や背中に躍っているらしい。「憎悪」をあおり立て、真実を隠し、支持を集めるのは、為政者の常套手段だ。危険な手立てに乗ってはならない。

 日韓対立で揺れる日本でも同様だ、安倍首相は、自己の考えを主張するだけで話し合いなどとは考えず、日韓の歴史と文在寅政権の成り立ちを理解しない。週刊ポストは「厄介な隣人にサヨウナラ韓国なんて要らない」「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」などの見出しで、日韓対立を扇動するかの記事を掲載した。他も似たり寄ったりで、冷静な記事や発言を見つけるのは難しい。韓国ソウルの繁華街ホンデでおきた韓国人男性による日本人女性暴行事件を、あたかも日韓対立の中で起こったかのように取り上げ、中には「韓国人女性が来たら暴行しなくては」と堂々と発言したバカもいた。

 福沢諭吉が、明治18年、時事新報に掲載した「脱亜論」は有名だが、その後の日本の歴史を顧みなくてはならない。朝日新聞の世論調査では、韓国に嫌悪の感情を抱く人は、高齢者ほど多く、18才から29才では好きが上回るが、50歳以上では圧倒的に嫌いが多く70歳以上では41%に上っている。私も含めて、高齢者こそが日韓の将来に責任を持たなくてはならないのではないか。日韓の歴史を、日韓の今を冷静に見つめ直すことが大切だ。為政者の、マスコミの、扇動に乗ってはならない。
(藤本泰成)

ニュースペーパー2019年10月


 8月14日、韓国・旧日本大使館前で従軍慰安婦問題の解決を求めて毎週水曜日に開かれている「水曜集会」が、1400回目を迎えました。この日は、1991年8月14日に故・金学順(キム・ハクスン)さんが、日本軍の従軍慰安婦であったことを名乗り出た日に当たり、「世界慰安婦の日」となっています。韓国だけではなく、日本や英国、オーストラリアなど世界9カ国・地域の21都市で、慰安婦問題の解決に向けたとりくみが行われました。
 一方日本では、徴用工問題に端を発して、日韓関係が急速に悪化。事態を冷静に報道するマスメディアは皆無に等しく、むしろ韓国ヘイトを煽るような報道すら見受けられます。(本号5頁、12頁に関連詳細記事)
 また、3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術展である「あいちトリエンナーレ2019」では、慰安婦問題や天皇問題などを扱った企画展「表現の不自由展・その後」が、猛烈な「非難」を浴びて中止に追い込まれています。驚くべきことに、自治体の長(名古屋市)が内容に口を出して中止を要求し、菅官房長官にいたっては、あたかも公金・補助金支出で内容に介入するかのごとき発言をしています。
 本来政治は、表現の自由を守るために動かなければならないのに。政権政党の意図に沿わないものは排除していく。あったことをなかったことにする歴史歪曲、そしてヘイト、レイシズムを煽る政治。
 日本社会は徐々に『茶色の朝』が進行しているのではないでしょうか。
(写真は2019年8月15日、韓国・旧日本大使館前の少女像。集会のさなか、参加者らが次々に写真を撮っていた。)

インタビュー・シリーズ:149
狭山事件 56年のたたかいが 再審の扉を必ず開く
石川一雄さん&早智子さんに聞く


いしかわ かずおさんプロフィール
1939年1月14日、埼玉県狭山市の被差別部落に生まれる。小学校入学後も農家の奉公などで働き、十分な教育を受けることができなかった。1963年5月23日、別件逮捕され、取調べを受け虚偽自白を強要される。狭山事件の犯人として有罪判決を受けて、32年の獄中生活を経て、1994年12月21日、仮出獄で千葉刑務所から出所し、狭山に戻る。1996年に早智子さんと結婚、2人で無実を訴え、再審請求の闘いを続ける。
さちこさんプロフィールプロフィール
1947年2月16日、徳島市内の被差別部落に生まれる。労働組合の部落解放研究会の活動と出会い、狭山闘争、部落解放運動に参加するようになる。1995年夏に石川一雄さんが集会で徳島を訪れた際にはじめて出会う。1996年12月に石川一雄さんと結婚。ともに再審無罪を求める闘いを続ける。

─ 一雄さんは差別や貧困のなかで育ち、たいへんな思いをされてきたと思いますが。  とても貧しい生活で、小学生のころから学校にはほとんど行かずに農家の手伝いをしていて、生きることに精一杯でした。境遇を恨んだこともありましたが、親父が貧しさに負けず、がんばっていた姿を見ていますし、両親には感謝しています。
 職を転々としましたが、18歳からは製菓工場に勤めはじめました。毎日残業をしてがんばったので、3年後くらいには現場責任者に抜擢されました。
 しかし、小学校にちゃんと通えず文字が読めなかったので日報が書けず、ある人に頼んで書いてもらっていたのですが、その人が休みをとっていて、かと言ってほかの人に頼めば自分が読み書きできないことがみんなにわかってしまうから、前日の日報をそのまま書き写してしまったのです。
 そのことを「今日は前日より菓子がたくさんできていると工場長から報告があったのに、伝票を見ると昨日と同じになっているがこれはどういうことだ」と人事課長に指摘され、みんなの前で、読み書きができず書き写したことを謝罪することになり、いたたまれず辞めてしまいました。それが事件に巻き込まれる1年前です。
(早智子さん)狭山市内で街頭宣伝をしていたとき、一人の男性が話しかけてきました。一雄さんと同じ小学校の一年年下の方でした。彼が3年生のとき、4年生のはずの一雄さんが、3年生の教室の席に座っていて、あれ?となったところ、一雄さんは彼の顔を見て教室を飛び出して行ったというんです。つまり、学校にちゃんと通えていなかった一雄さんは進級したこともよく知らなかったし、そういう生徒をサポートしようとする学校の仕組みもなかったんです。
 そのことを聞いて、まるでいないかのように、学校からほったらかしにされていた被差別部落の子どもたちの姿が浮かび上がってきました。こんなふうに、ちゃんと教育を受けることのできなかった石川一雄には、狭山事件の脅迫状など書けはしないという根本的なところに、裁判所は目を向けてほしいです。

─1963年5月23日、一雄さんは24歳で逮捕され、その後32年も獄中にありました。
 逮捕されたときは、まったく身に覚えのないことだったので、お袋にはすぐに帰ってくるからと言いました。取り調べは大変でした。殴られたりするのは我慢できますが、寝かせてくれなかったのがこたえました。そのなかで、容疑が一家の大黒柱の兄にかかっているかのように言われ、家族を守るために、ついには自分がやったと自白したのです。
 現場に残された足跡と兄の地下足袋が一致していると警察に吹き込まれ、「自白しなければ兄を逮捕する」という警察官の言葉を信じ込んでいました。死刑判決を受け、接見禁止が解けて兄と面会し、はじめて兄にはアリバイがあることを聞かされ、警察にだまされていたことを知りました。そこから無実の訴えを行っていくことになります。
 嘘の自白をしたからこうなったという自責の念に駆られていましたが、刑務所の中で勉強して、文字を取り戻し、いろいろなことを学びながら、拘禁生活を耐え抜いてがんばってきました。部落の兄弟姉妹や労働組合などからの面会や手紙も多く寄せられ、こうした全国各地からの支援の声にも支えられました。

─仮釈放になったとき、地元である狭山に住むという決断をされましたが、不安はなかったのでしょうか。
 いまから25年前、仮釈放になったとき、無実を訴えながら(再審請求をしながら)の仮出獄であったし、部落解放同盟を中心として幅広い支援が地元にありました。当時の狭山市長が「(仮出獄になれば)石川さんを一市民として受け入れる」とおっしゃっているということも聞きました。私は無実ですから、狭山に住むことに不安はありませんでした。出てきてすぐに同級生たちも会いに来てくれたりしましたしね。
 ほかの冤罪事件では、無罪を勝ち取ってもいやがらせをうけて地元に住めないようなこともありましたが、幸いなことに、生まれ育った被差別部落の人びとをはじめ無実を信じてくれているということがとても大きいです。これも支援のみなさんのおかげです。
 仮釈放になっても、当初は毎週のように、保護観察官や保護司に面会しなければなりませんでした。いまでも1週間以上の旅行には許可願を出さなくてはならないし、選挙権がないなどさまざまな権利の制限があり、「見えない手錠」につながれていることを実感します。

─早智子さんは96年に一雄さんと結婚されて以来、一雄さんといつもいっしょにがんばっていらっしゃいますね。
(早智子さん)私も徳島の被差別部落出身です。とても差別が強いところで、就職しても差別がついて回り、当初、部落出身であることを隠していました。職場の上司が差別発言をしても、それを咎めることもできませんでした。でも、労働組合の仲間によって部落解放研究会が職場につくられ、私も役員に立候補し、そこから勉強を始め、一雄さんのことを知りました。
 「隠していても差別はなくならない。差別をなくすために立ち上がろう」。一雄さんの獄中からのメッセージに出会い、それまで殻に閉じこもっていた私もがんばろうと思いました。はじめて狭山の集会に参加したとき、たなびくたくさんの荊冠旗に、涙が止まりませんでした。自分は労働組合の仲間に支えてもらって集会にも参加できた。だから、私自身ががんばろうと決意しました。
 自分が殻を破って変われば、周りの人たちも変わるんです。差別発言をした上司にも何度も話をしました。差別したことを認めなかった彼もそのなかで変わっていき、勤務時間中に職場で同和研修の報告をさせてくれるようになりました。人は変われるんだ、人は信じられると思えるようになったんです。だから、こうして労働組合の人たちが、狭山のたたかいを支援してくれていることは、本当に希望だと思っています。
 実際に一雄さんに出会ってからしばらくして、徳島に呼びました。海で何十分も泳いで回って、上がったら唇まで真っ青(笑)。でも彼は子どものころから働いて、そのあと32年も刑務所にいて、楽しい人生の経験が少ないのです。だから、いちご狩りをするとか、きれいな景色をみるとかの経験を、彼といっしょにできたらいいな、と思ったんです。


─第三次再審請求も行われており忙しいところだと思いますが、最近はどのようにお過ごしでしょうか。
 いまも月に10日くらいは、いろんなところに行き、支援を呼びかけて回っています。また、全国からこの狭山に、現地調査に訪れる人たちがたくさんありますから、挨拶をしたりもしています。
 数年前まではよく走っていましたが、最近は目を悪くして、もっぱらウォーキングです。これは体を動かすのが好きというよりも、長生きするためです。冤罪は生きて晴らすということが目標です。
 狭山事件が起こってからすでに56年が経過しましたが、焦りはありません。この間、警察が隠してきた証拠を少しずつ開示させてきたことによって、私の無実が、多くの人びとに、よりわかりやすくなってきました。科学の力で、証拠とされた万年筆(写真は石川さん宅の鴨居から警察が「発見」した状況を再現したもの)が別物であることも証明されています。56年経ったからこそ、科学の進歩によってこうして事実が明らかになってきたことは、がんばってきた甲斐があったと思っています。多くの一般市民のみなさんにもこうした事実を知ってもらいたいと思っています。

─再審勝利に向けて、意気込みをお願いします。
 私は、近いうちに、再審開始は必ずあると思っています。第一次、第二次の再審請求は書面審理だけで終わってしまったのが、現在行われている第三次再審請求では、三者協議もおこなわれているので、書面だけで判断を下すことはできないと思います。これまでに有罪判決を覆すような、無実の証拠が出てきていますから、まずは証拠調べ、事実調べが行われることになると思っています。
 狭山事件以外にも、冤罪事件はたくさんあります。警察がさまざまな証拠を隠し持っている現状では、これからも冤罪はつくられていきますから、こうした証拠を開示させるような法律をつくっていかなければならないと思います。
 平和フォーラムのみなさんにも、ぜひ、要請行動などを行って裁判所に直接働きかけていただきたいなと思います。

─早智子さんからも、一言お願いします。
 (早智子さん)狭山事件は子どもから高齢者、労働組合、市民、宗教者等のみなさんから、幅広い応援をもらっていることが大きいです。
 一雄さんが冤罪に巻き込まれた根本には部落差別、そしてそのことによって教育を受けられなかったということがありますから、子どもたちには一所懸命勉強してもらいたいとの思いが私たちにはあります。
 いまも差別に苦しんでいる部落出身者が、みなさん方の職場にいるかもしれない、そうしたときに労働組合の存在というのはとても大きくて、反差別とか平和を訴える労働組合の運動があることが、どんなに力を与えてくれているかと考えると、とても意義があると思います。今後ともご支援よろしくお願いします。

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自衛隊の海外派兵を許すな!
米国主導の「有志連合」、日本政府はどうするのか?

 米国がイラン核合意から一方的な離脱をして以降、米国とイランの対立が再燃し、中東情勢が緊張しています。トランプ米政権は7月上旬、ホルムズ海峡やペルシャ湾などで、民間船舶の安全確保のため、同盟諸国と有志連合を結成し護衛活動を行うことを表明しました。米国務省と国防省は7月19日、欧州やアジア諸国から60か国以上を招待して、有志連合の「説明会」を実施。2回目以降の参加国は半減したものの、同月中に3回の説明会を開きました。このほか個別に各国への要請は続けており、日本でも8月7日、来日したエスパー米国防長官が、有志連合構想を説明したうえで、参加要請をしています。
 こうした米国の精力的な働きかけにもかかわらず、これまでに参加要請に応えた国は、イギリス、バーレーン、オーストラリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の5か国にとどまっています(9月19日現在)。当初は数週間以内に有志連合を結成すると息巻いていましたが、8月下旬には「海洋安全保障イニシアチブ」と軍事色をおさえた名称に変え、参加を募るようになっています。
 石油の安定確保で友好関係にあるイランと米国との間にはさまれた日本政府の対応はどうなっているのでしょう。当初は、イランを刺激しないように、ペルシャ湾の外のオマーン湾に、ソマリア沖で海賊対処活動をしている海上自衛隊を派遣することで有志連合参加とする案を検討していたようです。9月上旬の菅義偉官房長官の記者会見では、「緊張緩和と情勢の安定化に向けた外交努力を継続していくことを基本に」との姿勢を示しています。
 中東は緊張しているものの、湾岸戦争やイラク戦争の時のような、具体的な軍事力の行使を伴う方向に向かってはいないというのが世界の流れであり、日本もその流れにとどまっているという状況です。
 もう一つ、日本が米国の要請に対して明確な回答をしないのは、民間船舶を護衛する法的な根拠がないからです。

安保法制(戦争法)でできるか?
 2015年に安倍政権が強行採決した安保法制(戦争法)の枠組みでは、船舶の護衛はできません。「重要影響事態」を名目にしても、米軍等他国の軍への後方支援、捜索救助、船舶検査が実施可能な活動です。「存立危機事態」を名目にして「集団的自衛権の行使」を利用することもできません。米国など日本と密接な関係にある国に対して武力攻撃が起きていないからです。仮に実際に起きたタンカー襲撃を「我が国に対する武力攻撃」あるいは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」として集団的自衛権の行使をするには、要件のハードルが高く困難です。蛇足ですが、国際平和協力法や国際平和支援法を援用することは、当然できません。国連決議もなければ、PKO参加5原則にも当てはまらない米国主導の有志連合ですから。

海上警備行動の発令か?
 政府が検討したと思われる一つは、先にも掲げた海賊対処法です。これにより、多国籍部隊に加わることもできますし、民間船舶の護衛をすることもできます。しかし、海賊に対処することが目的ですから、「民間船舶へのイランが関与していると思われる妨害活動」に対処することが目的の有志連合に加わることはできないでしょう。
 そしてもう一つ考えられるのが、自衛隊法に基づく海上警備行動です。そもそもソマリア沖での海賊対処で海上自衛隊を派遣する根拠とされたのが、自衛隊法82条に基づく海上警備行動でした。しかし、護衛の対象が日本船籍、日本人乗組員がいること、日本の企業が運航などと限定され、外国船の護衛はできませんでした。武器使用についても制限があったのです。そこで、海賊対処を目的として、護衛対象を拡大し、武器使用の基準も緩和したのが海賊対処法でした。
 つまり、自衛隊の海上警備行動での護衛対象は、制限されたままなのです。
 6月のタンカー襲撃事件では、日本の企業が運航する外国船籍の船舶でしたので、この襲撃事件を理由として、海上警備行動の発令は可能と思われます。
 しかし海上警備行動を発令はしたものの、自衛隊が中東で日本の民間船舶だけを護衛するわけにはいきません。また、日本の民間船が襲われた場合、どのように対処するか。武器使用基準は制限されています。警告射撃、正当防衛、緊急避難、武器防護のためと限られています。そしてもし、国、国に準ずる組織から攻撃を受けたらどうするのでしょうか?

特措法、新法制定を阻止しよう
 国際情勢並びに今の法律の枠組みでの有志連合参加はかなり難しいでしょう。しかし、アメリカの要請に従って、自衛隊の海外派遣を可能にし、集団的自衛権の行使ができるように、日本の国内法を整備してきたのがこれまでの日本政府です。あらゆる民間船舶の護衛を目的とした自衛隊の海外派遣を可能とするために、何らかの手を打ってくることはあり得ます。特別処置法などを許さず、国会の動きを、警戒を怠らずに見守っていく必要があります。
(近藤賢)

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日韓対立の危機─真摯な歴史認識に立て
フォーラム平和・人権・環境共同代表 藤本 泰成

 2018年10月30日、韓国の最高裁である大法院は、新日本製鉄(現日本製鉄)に対し、戦時中の韓国人元徴用工への損害賠償を命じました。安倍政権は、直ちに、「本件は日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決済み」との立場で、毅然とした態度で臨むと表明しました。大法院判決は、「反人道的不法行為に対する個人の損害賠償請求権は依然として有効」との立場を示しています。

歴史事実に真摯に向き合う姿勢が必要
 日本政府は、1965年の日韓請求権協定によって個人請求権は消滅しており、日本政府及び日本企業には賠償責任はないと判決を無視するよう企業に圧力をかけ、韓国政府からの問題解決の提案にも全く応じませんでした。しかし、日本政府は、サンフランシスコ講和条約などの請求権放棄の条項に関して、日本国民へは国家間の外交保護権は放棄されるが「個人請求権は含まれない」と説明してきましたが、2000年代になって企業側に不利な判決が出始めると前言を翻す行為に出ます。国連においては、1996年の人権委員会へのクマラスワミ報告が、「日韓請求権協定には個人請求権は含まれない」との立場を取っています。中国政府は、1972年の日中共同声明で「日中両国民の友好のために、日本に対する戦争賠償の請求権を放棄する」としました。しかし、中国人徴用工の訴えには、三菱マテリアル、鹿島建設や西松建設などが、和解によって解決しています。和解の基本は、謝罪と記憶の継承そして賠償です。そこには、歴史事実を事実として、そして自らの非は非として認める真摯な姿勢がなくてはなりません。
 韓国大法院判決は、現在の国際的な人権環境では説得力をもつものと考えます。日本政府および被告企業は、日本の戦争責任としての人権課題として、解決に向けて動き出さなくてはなりません。

対立をあおるマスコミ報道
 日本政府は、8月2日の閣議において、韓国をホワイト国から外すことを表明しました。安倍首相の発言からは、ホワイト国外しが徴用工問題の意趣返しであることは明らかです。その結果、韓国政府は、日本との「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)を破棄しました。ホワイト国は、「大量破壊兵器及び通常兵器の開発等に転用可能な物品の輸出や技術提供行為に、経産大臣への届け出・許可を義務付ける」としたキャッチオール規制を免除するもので、安全保障上問題のない国と位置づけられるものです。日本から安全保障上信用できないとホワイト国から外されて、なお軍事情報を日本と共有化することを問うことなく、韓国のみを批判することは極めて一方的です。
 この間のマスコミ報道は、ホワイト国とGSOMIAの関連性には触れず、一方的にGSOMIA破棄を非難するばかりです。また、政府見解をそのままに徴用工問題は解決済みと主張するだけで、問題解決をさまざまな視点で考えるものではありませんでした。また、早朝の5時にソウルの繁華街ホンデで発生した、韓国人男性による日本人女性への暴行事件をことさらに取り上げ、日韓対立をあおるような報道が目立ちました。政府の対立が激化する中にあって、マスコミの報道姿勢は、より冷静で客観的でなくてはならないと思います。
 安倍首相は、政権内部の多くの議員と同様に、2012年11月4日に米国のTheStar-Ledger紙に掲載された、日本軍慰安婦の歴史事実を否定する「Yes,werememberthefacts.」と題した全面広告に名を連ねています。安倍政権の対韓国外交姿勢は、戦前からのアジア蔑視を基本に、侵略戦争と植民地支配を正当化し、韓国は「気に入らない」という感情的対立とナショナリズムを煽るもので、東アジアの将来にとって全く益のないものです。国内に於いても朝鮮高校や幼稚園を無償化措置からはずしています。アジア蔑視、朝鮮民族差別から、アジアでの日本の将来は生まれてきません。


韓国の旧日本大使館前で慰安婦問題の解決を求めて
プラカードをかかげる学生ら(2019年8月14日)
草の根の交流を進めて相互理解を深めていこう
 自民党の石破茂衆議院議員は、「わが国が敗戦後、戦争責任と正面から向き合ってこなかったことが多くの問題の根底にある」として、「(ナチス・ドイツの戦争犯罪を裁いた)ニュルンベルク裁判とは別に戦争責任を自らの手で明らかにしたドイツとの違いは認識しなくてはならない」と指摘しています。橋下徹元維新の会代表も「日本は韓国を併合した側、韓国は日本に併合された側」と指摘しつつ、「日本統治の象徴朝鮮総督府は、李氏朝鮮の王宮景福宮に置かれた。それは韓国の人たちは怒るよね。日本で言えば皇居だ」と述べています。様ざまな立場の人々が、日韓対立を危惧しています。
 今の危機的な日韓対立の解決には、真摯な歴史認識に立って、戦争責任に対する謝罪と記憶の継承そして賠償を、被害者の気持ちに添って考えていくことが大切です。安倍政権の責任はそこにあります。そして、私たち市民は、草の根の交流を絶やすことなく、両国民の相互理解を進めていかなくてはなりません。アジア蔑視の歴史観を、私たちが自ら克服していくこと。そこにアジアにおける日本の未来が開けるに違いありません。
(ふじもとやすなり)

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日米貿易交渉で大枠合意 9月下旬に署名
内容公開されず一方的な譲歩で決着
全日本農民組合連合会 書記長 市村 忠文

牛・豚肉はTPP並みに引き下げ
 安倍晋三首相とトランプ米大統領は8月25日、フランスで開かれた先進国首脳会議(G7サミット)の場で、日米2国間の貿易協定に大枠で合意し、9月下旬の署名を目指すことで一致しました。日本政府は10月からの臨時国会での協定承認を予定しており、年内にも協定が発効する可能性があります。
 今回の日米交渉は、2017年2月にトランプ大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を表明したことで、特に農畜産物の関税水準がTPP参加国より米国が不利になることから、2018年9月の日米首脳会談で交渉入りを合意。それからわずか1年足らずで決着となりました。これは、2020年の米国大統領選挙を前に、トランプ大統領の成果を示す必要から行われたものと言えます。
 焦点の米国産牛肉と豚肉の関税は、オーストラリアなどTPP参加国と対等となるように、発効時から一気に同じ税率まで関税を削減します。一方、米国産牛肉の輸入が急増した場合は、一時的に関税を引き上げるセーフガード(SG)が設けられます。発動基準数量は最近の輸入実績などを勘案して設定するとしています。しかし、現在のTPP協定でも、牛肉のSGの発動基準数量は米国の参加を見込んだ水準のままになっています。この発動基準を見直さないで日米協定が発効すると、全体の総量が基準を超えてもSGが発動されず、国内により大きな影響が出ることになります。早急にTPP協定の見直しが必要です。


市民が集まったストップ!日米FTA集会
(6月11日・参院議員会館)
米国の輸出1.5倍に 疑惑のトウモロコシ輸入
 2018年12月末のTPP、2019年2月からの欧州連合(EU)との通商協定に続く日米協定により、日本の農業は甚大な影響を受けることは明白です。米国の通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は農産物について「70億ドル(約7400億円)超の市場を開くことにつながる」との見通しを示しました。特に成果として牛肉、豚肉、乳製品、小麦、ワインを挙げています。現在、米国からは農畜産物で1兆5千億円も輸入していますが、これがさらに1.5倍に拡大することになります。
 しかし、日本政府は「どういう根拠での数字か判断できない」として内容に触れることを避けています。そればかりか、交渉結果の全容も明らかにしていません(9月10日現在)。政府は「協定文のすべてが確定していない」ことを理由に公表しないとしていますが、過去の貿易協定では「大枠合意」の段階でも内容の公表が行われていました。野党側は「早く国会を開いて問題点を議論すべきだ」と求めていますが、政府は応じる姿勢を示しません。農産物を犠牲にしても自動車では米国側の関税を撤廃させることが目標とされていたにも関わらず、これが見送られるなど、一方的に日本が譲歩したことが明らかにされるのを避けているとみなければなりません。
 さらなる譲歩として浮上したのが275万トンもの米国産飼料用トウモロコシの追加輸入問題です。米国と中国との貿易摩擦により米国産のトウモロコシが輸出できずにだぶついています。そこで、日本政府は、国内で飼料用トウモロコシの害虫被害が広がっていることを理由に、民間企業がトウモロコシを前倒しで輸入する際の保管費用を補助するとしています。昨年度の飼料用トウモロコシの輸入量は約1100万トンで、米国産が9割を占めており、実質的に米国からの輸入を見込んでいます。
 しかし、なぜ追加輸入が必要なのか、民間企業が輸入するものになぜ税金を使うのか疑問です。全日本農民組合連合会は、9月9日に農林水産省交渉を行い、こうした点を質しました。しかし農水省は「貿易協定とは別で、飼料不足に備えて前倒しで輸入するものに保管経費を補助する」としていますが、実際に不足するかどうかの見通しも「これから検討する」と、根拠はあいまいです。トランプ大統領の強引な売り込みに安倍首相が応えたことは明白です。

さらに続く交渉で市民の生活にも影響
 今回の譲歩は、さらに米国の要求を強めることにつながります。日米交渉はこれですべて終わったわけではなく、米国は日米交渉の項目として、食の安全に関わる規制や医療・医薬品、サービス貿易、特許などアメリカが得意とする「知的財産権」等、TPP以上に挙げています。トランプ大統領が再選されれば、こうした市民生活につながる分野にも交渉が広がっていきます。それに対し、秘密交渉を許さず、内容の公開と民主的討議を求めていく必要があります。
 平和フォーラムも参加する「TPPプラスを許さない!全国共同行動」は、10月10日16時から衆院第1議員会館で、各党・議員に対して、日米交渉に対する姿勢を問う集会を開きます。
(いちむらただふみ)

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福島第二原発の廃止と福島第一原発の事故処理
原子力資料情報室 上澤 千尋


東京電力刑事裁判の判決日9月19日、
東京地方裁判所前
福島第二原発の廃止発表
 7月31日、東京電力が福島第二原発すべての原子炉(1~4号炉)の廃止の決定をようやく発表した。解体にあたっては1基30年程度の期間を見込んでおり,全基の解体・撤去を終えるには40年以上の期間が必要という。
 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生以降はまったく稼働していない福島第二原発ではあるが、24~29年間の運転で蓄積された放射能のため、原子炉内や主要系統の配管や機器類の汚染は激しく、すぐに解体作業をはじめることはできない。化学薬品をつかって原子炉内壁や配管内壁に付着した放射能をおびた"サビや水垢"を除去する除染作業が最初におこなわれるが、除去できる放射能は一部だけで、とりのぞけない放射能は減衰してくれるのを待つ必要がある。
 福島第二原発のような沸騰水型炉では、放射能を含んだ蒸気がタービンにまで行くので、除染の作業や放射能の減衰を待つ工程は原子炉建屋内だけでなく、タービン建屋にもおよぶことになる。例えば、原子炉圧力容器の鋼材に含まれる不純物に中性子があたってたくさんの放射能ができる。コバルト60はそういう放射能のひとつであり、非常に強いガンマ線を出す。コバルト60の半減期は約5年なので、運転終了から5年たてばもとの放射能の半分、10年で4分の1、15年で8分の1という減衰の経過をたどる。
 5年前に訪ねたドイツ北部のグライフスバルト原発では解体作業が進められており、撤去された原子炉圧力容器や蒸気発生器が何基も大型体育館のような貯蔵庫に横たえられていた。とくに放射化の度合の激しい原子炉圧力容器の胴部には遮蔽のための部材が巻き付けられており、撤去されてから10年ほどたっていたにもかかわらず、容器から2m離れた位置でも50μSv/h以上を示すものばかりであった。ドイツでの説明では、解体撤去された原子炉圧力容器など汚染の強いものは、50年間は貯蔵庫の中に保管されるということであった。グライフスバルト原発はロシア型の加圧水型炉なので、タービン建屋の汚染がほぼなかったこともあり、建屋をいかして海上風力発電所のシャフト製作工場に転換利用していたが、福島第二原発の場合はそうはいかない。せいぜい、福島第一原発の事故処理作業の後方基地としての機能を充実させるぐらいであろう。
 福島第二原発のそれぞれの原子炉の使用済み燃料プールのなかには、放射化した容器類とは比べものにならないくらい強烈な放射能のかたまりである使用済み燃料が大量にたまっている。1号炉には2534体(約438トン)、2号炉には2482体(約429トン)、3号炉には2544体(約440トン)、4号炉には2516体(約435トン)、合計で10076体(約1742トン)がそれぞれの原子炉建屋内に保管されている。
 東京電力はこれらの使用済み燃料のとり扱いについて、「廃炉終了までに全量を県外に搬出する方針ですが、できるだけ早期の搬出に努めてまいります」と福島県知事向けのリップサービスをしているが、使用済み燃料の受け入れ先などそう簡単に見つかるはずがない。

福島第一原発の事故処理・原因究明
 福島第一原発をみると、汚染水の処理と貯蔵のための作業をメインに、3号炉の使用済み燃料の撤去作業をおこなうかたわら、1・2号炉の格納容器にアクセスすることが試みられている。
 核燃料の熔融物(デブリ)を冷却するために循環している水(汚染水)は、集中廃棄物建屋以降の工程で物理的・化学的な処理を何重かに施されるが、汚染水であることには変わりがない。まったく除去できないトリチウムだけでなく、ストロンチウム90やヨウ素129なども、環境中への放出基準を何倍、何十倍も超えて残留しており,どんなに増えても汚染水は溜めておくしかない。貯蔵の場所や方法には工夫の余地が十分ある。
 汚染水を漉すのに使ったフィルター類や化学処理にともなう沈殿物は非常に高いレベルの放射能を含んでいる。部分的には、デブリを間接的にとりだしているようなものだからそれは当然である。フィルター類は非常に発熱量が高く、数百度にもなることがあるという。これらの貯蔵や処理も深刻な問題である。
 2019年2月28日に公表された東京電力による2号炉の格納容器内部調査によると、これまでの傾向と同様に、原子炉圧力容器の台座(ペデスタル)の内部が6.4Gy/hであるのに対し、その外側が13~43Gy/hとずっと高くなっており、原子炉圧力容器の底よりも、胴部の方が大きく壊れている可能性を示唆している。
 9月4日、原子力規制委員会は、福島第一原発事故の調査を「再開」すると発表した。事故後8年が経過し線量も大分下がってきたので、それまで近づけなかった場所でも調査できる場所がでてきたとして、国会事故調査報告書で未解明問題とされている課題に取り組むとしている。規制委員会の調査には、東京電力と日本原子力開発機構が全面的に協力するとなっているが、国会事故調関係者には声がかかっていないようである。この調査で、東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働に有利な流れをつくろうとすることに注意が必要だ。
(かみさわちひろ)

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高校生平和大使の国連訪問
核兵器の廃絶は、決して夢物語ではない
第22代高校生平和大使・東京  小泉 花音

 2019年8月18日から23日まで、第22代高校生平和大使としてスイスを訪問しました。全国の高校生が集めた215,547筆の署名を国連に届けるとともに、同じ志を持つ団体のみなさまや現地の高校生と交流しました。
 初日の訪問先は4か所です。最初に訪れた赤十字国際委員会では、武器ユニットのロヴォルト氏による講演がありました。実現不可能だとされていた核兵器禁止条約が2017年に122カ国の賛成を経て採択されたことをふまえ、「Impossibleispossible(不可能は可能だ)、そして不可能を可能にするのは人々の持続的な努力と強い意志、あの日の惨劇を想像する勇気だ」と、核兵器廃絶への希望を力強く語ってくれました。
 次に労働組合の世界組織UNIグローバルユニオンを訪問し、スピーチを行いました。スピーチの途中、原爆投下というあの日の惨劇を語る場面で、私は泣いてしまいました。これまで伺ってきた被爆者の方々の悲痛な声が、次々と脳裏をよぎりました。無我夢中でスピーチを終え、大失敗してしまった、と思い呆然としながら客席を見やると、そこには涙を流している方がいました。練習通りのスピーチはできませんでしたが、私の、そして何より被爆者の方々の想いは職員の方々に届いたのではないかと思っています。
 続いて女性の国際キリスト教団体、世界YWCAを訪問し、意見交換を行いました。ブラジル出身の方の「鍵は、止まらないこと」という言葉が強く印象に残っています。21年間先輩方が繋いできてくれた平和へのバトンを受け取り、私は平和大使になりました。このバトンを後世に受け継いでいくのは私の役目です。私の命の続く限り、核兵器廃絶と平和を願う声を上げ続けていこう、そう改めて決意しました。
 次に軍縮会議日本政府代表部を訪問しました。髙見澤將林軍縮大使からの核兵器に関する見解、世界情勢などについての説明の後、質疑応答を行いました。高見沢大使は「緊迫した世界情勢の中、日本の安全保障の面でアメリカの核の傘に入っていることは重要である」と核兵器禁止条約に否定的な意見でした。条約の発効は各国の分断につながりかねないという考えのようでした。

対話を重ねていくことが核廃絶の一歩
 その後、日本政府主催の夕食会兼レセプションに参加し、露、仏、印などの核保有国を含む30カ国40人程の外交官の方々に質問をしました。核保有国の方々は、やはり核抑止論に肯定的な意見をもっていましたが、外交官個人としては核兵器を非人道的兵器だと考え、廃絶を望んでいるという方もいました。「国」という抽象的な概念に囚われず、対等な「個人」として対話を重ねていくことこそが核兵器廃絶への一歩なのではないかと感じました。
 2日目は、国連訪問です。軍縮会議を傍聴し、国連内部を見学した後、いよいよ軍縮局を訪問しました。23名の大使全員によるスピーチの後、質疑応答、署名の提出を行いました。アニャ・カスペルセン軍縮局長は私たちの活動を高く評価し、質問にも真摯に答えてくれました。「互いに相手を認め合い、家族のように大切にできる平和な世界。誰にも脅されず、怯えることのない平和な世界。そんな世界に核兵器はいらない。」この言葉が強く心に残りました。
 3日目の訪問先はトローゲン州立高校で、現地の高校生と折り鶴作成や意見交換を行いました。平和大使の活動について紹介すると「署名したい」と言われ本当に嬉しかったです。それまでは核兵器問題を他人事として捉えていたという子も、「話をして考えが変わった、核兵器は廃絶させなければならない」と言ってもらい、活動の輪が確実に広がっていくのを実感できました。

核の平和利用は認められない
 最終日は、国際赤十字の創始者であるハイデンのアンリ・デュナン記念博物館を訪問しました。長崎選出の平和大使のスピーチの後、9年前に長崎大学より贈られた長崎の鐘のレプリカを鳴らし、博物館を見学しました。昼食を兼ね、国際赤十字やIPPNW(核戦争防止国際医師会議)のメンバーと意見交換を行いました。
 博物館館長のジョン・ボール氏と原発について議論したことが印象に残っています。福島の事故以降、ヨーロッパでは原発の廃止が急速に進んでいるそうです。IPPNWの放射線科医の方も福島の放射線レベルは決して安全とは言えないとおっしゃっていました。日本は原発を「核の平和利用」として推進していますが、核を保持している以上、事故は必ず起こりえます。その時、核の強大な力によって傷つけられてしまうのは他でもない無実の市民です。原発を核の平和利用として認めることはできない、そう思うようになりました。
 この訪問を通し、国籍も年齢も異なるたくさんの方々と出会い、対話し、核兵器について多角的かつ現実的に見つめ直すとともに、新たな知識も得ることができました。今回学んだことを活かし、これからも活動を続けていきます。
 核兵器の廃絶は、決して夢物語ではない。そう信じます。
(こいずみかのん)

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「仏高速炉死んだ」報道─
日本の再処理・高速炉計画は?

 仏ルモンド紙が8月29日付電子版で、仏原子力庁(CEA)、第4世代原子炉の高速炉ASTRID(アストリッド)計画放棄と報じました。現行の予備計画完成作業は年内継続も、建設は短中期的に予定しておらず、25名編成の計画統括室もこの春閉鎖されたとのことです。日本政府は2016年12月に、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを燃えないウラン(238U)から生み出すナトリウム冷却「高速増殖炉」の原型炉もんじゅの放棄を決定した際に、ASTRIDなどの「データ蓄積等により、今後もんじゅを再開した場合と同様の知見の獲得を図る」としていました。「要するに、ASTRIDは死んだ。もう資金もエネルギーも使わないということだ」(CEA関係者)となると、日本の計画は?
 増殖炉は急速な原子力利用の伸びでウラン枯渇との想定の下、1967年には昭和60年代初期の経済性達成が期待されました。普通の原発の使用済み燃料の再処理は、増殖炉の初期装荷燃料を提供するためのものでした。ところが、枯渇が起きず、増殖炉計画は技術的にも難しくて頓挫。他国が増殖炉計画から撤退する中、日本は、英仏への再処理委託や国内での再処理を続けた結果、2018年末現在で約46トンのプルトニウムを抱えています。国際原子力機関(IAEA)の数え方で核兵器5750発分。ウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料」にし、これを軽水炉で燃やす不経済な計画も遅れ続け、福島第一原発の事故後、再稼働された9基のうち、MOX利用許可を得ているのは4基だけで、その年間消費量は約2トン。20年初頭に運転開始予定の六ヶ所再処理工場は、本格運転では年間約7トンのプルトニウムを分離する計画です。
 もんじゅの廃炉が議論される中、推進派は廃棄物の減容・無毒化のためにもんじゅが使えると強調し始めました。同炉の高速中性子は、プルトニウムなどの長寿命の超ウラン元素を核変換する(核分裂させて短寿命の核種に変える)のに都合がいいとの主張です。2014年2月のエネルギー基本計画では増殖の文字が消え「高速炉」となります。2015年11月2日、原子力規制委員会の更田豊志委員長代理(当時)は、プルトニウム以外の超ウラン元素を燃やすのはペレット1個作るだけでも大変で、すぐできそうに言うのは「誇大広告と呼ぶべき」と批判しました。同月13日、原子力規制委は、運転主体の原子力研究開機構はもんじゅの安全運転に必要な資質を有せずと宣告します。
 政府は、再処理で生じる高レベル廃棄物の方が直接処分する使用済み燃料より体積が小さいと言いますが、処分場での必要な容積を規定するのは発熱量です。使用済みMOX燃料は発熱量が大きく、これを地下処分すると再処理路線に必要な容積は減りません。それで経産省は使用済みMOX燃料を第二再処理工場で再処理し、分離したプルトニウムは高速炉で燃やすと主張しています。再処理継続には高速炉計画続行という虚構が必要という構造です。
 ASTRID(工業的実証用改良型ナトリウム技術炉)の起源は、1991年の放射性廃棄物関連法にあります。同法は、長寿命放射性核種の「分離・核変換」について研究し、遅くとも2006年までに報告せよと定めています。これを受けた06年「放射性廃棄物等管理計画法」には、現在の軽水炉に変わる新[第4]世代の原子炉と廃棄物核変換専用「加速器駆動炉」の工業的展望について12年に評価し、20年末までにプロトタイプ(原型)施設の運転を開始とあります。10~12年にASTRIDの予備概念設計作業を進めたCEAは、期限の12年末、「工業用実証」用プロトタイプ(原型)として電気出力60万kWのASTRID建設を提唱しました(12年3月の計画では19年に建設可否を決定)。実用炉の一つ前の実証炉という触れ込みのスーパーフェニックス(電気出力120万kW)が技術的問題で1998年に運転終了となって以来巻き返しを狙っていたナトリウム冷却炉推進派が廃棄物対策への関心を利用した格好です。
 「死んだ」報道について、13~19年度に累積300億円以上の様々な協力名目の費用を計上してきた日本での反応はぱっとしません。記者諸氏によると、経済産業省は、報道に新しい情報はないと主張しているようです。確かに日経は、昨年11月に仏政府はASTRID凍結方針を日本に伝えたと報じていました。同12月に発表された「高速炉開発戦略ロードマップ」もASTRID凍結・死亡を前提にした内容です。しかし、日経報道の翌日、菅義偉菅官房長官は承知していないと報道内容を否定しました。今になってすべて知っていたとする経産省。そもそも19年までしかついていなかった仏予算、度重なる遅延・縮小など、以前から「ASTRID、お前はすでに死んでいる!」という状況でした。今さら死んだと言われても報道機関も、反核・反原発運動も、政治家も盛り上がらないということでしょうか。
(「核情報」主宰田窪雅文)

もんじゅがなければASTRIDがあるさ略年表

2016年10月
CEA側、日本の会議でASTRID運転開始は30年代予定と説明12月日本政府、ASTRID頼みの論理でもんじゅ廃炉を決定
2018年1月
仏経済紙、CEAがASTRIDの電気出力縮小(60万kWから10~20万kWに)を仏政府に伝え、政府は2018年中に予定延期を含め決定すると報じる。
6月
日本の会議でCEA側が同様の縮小内容を伝え、詳細設計に進むか否かは24年に確認、と説明。前年のフランス電力(EDF)よる60年以前にはナトリウム冷却高速炉に投資しないとの決定が背景にあり、ウラン市場の状況から「それほど緊急ではない」とも。
11月28日
日経、仏政府が2020年以降計画凍結の方針を日本側に伝えた、仏政府は20年以降は予算を付けない意向、と報道
11月29日
菅官房長官、承知していないと日経報道内容を否定
12月20日
電事連12月4日付の現地紙によるとCEAが日経報道を否定との記事掲載
12月21日
日本政府「高速炉開発戦略ロードマップ」、もんじゅの後継炉はナトリム冷却炉以外も検討し、24年以降に選択肢を絞り込む方針示す。仏米との二国間協力言及もASTRIDは登場せず。
2019年2月
仏多年次エネルギー計画(EPP):「少なくとも21世紀後半まで、高速炉の実証炉及び実用化は有用ではない」
6月26日
日仏の高速炉協力に関する合意(2020~24年)、ASTRIDの建設に言及なし
8月29日
ルモンド紙の「ASTRIDは死んだ」報道
8月30日
CEA、ルモンドの記事内容を否定し「今年中に20年以降の第4世代原子炉の修正計画提示」と発表
9月
経産省来年度予算に日仏高速炉共同開発の概算要求なしとの報道

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《投稿コーナー》
「幼保無償化」からの各種学校幼児教育施設除外問題
外国人学校の子どもたちを仲間外れにしないで!
在日本朝鮮人人権協会・朝鮮幼稚園保護者 宋恵淑

 2019年10月から実施されることとなった「幼児教育・保育の無償化」。その基本理念のひとつに「全ての子どもが健やかに成長するように支援する」ことを掲げていながらも、(1)朝鮮学校幼稚部40校をはじめとする各種学校の認可を受けている外国人学校幼児教育施設88校、森のようちえん(注1)などの幼稚園類似施設は「幼保無償化」の適用対象外とされている。
 「幼保無償化」の全面実施を決めた2017年12月時点では、その適用対象はあくまでも認可施設に限るとしていた日本政府であるが、「財源は消費税増収分なのに適用除外になるとは不公平だ」「認可施設に入れたいが待機児童となったため認可外施設にいれている実態がある」などの切実な声をうけ、認可施設以外も対象とするかどうかの検討会を開催し、「保育の必要性のある世帯」への適用に限りながらも、適用対象施設を拡大した経緯がある。しかしながら、各種学校の幼児教育施設は計7回行われた検討会に呼ばれず、また施設への実態調査なども一切行われることなく、2018年12月の「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」(関係閣僚合意)において、(1)学校教育法1条の学校とは異なり、個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っているため、(2)児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、「幼保無償化」の対象とはならないとされてしまったのだ。 

露骨な朝鮮学園差別
 朝鮮幼稚園としては今ある形のままでの「幼保無償化」の適用を求めているが、今年に入って「幼保無償化」から完全に除外されないための次善策として、都内の朝鮮幼稚園の「認可外保育施設」としての届出を行った。ところが東京都の担当部署の対応は、いったんその届出を受理しながらも、後に「受理は誤りだったので取り消したい」というひどいものだった。不受理の根拠は、2019年4月に各都道府県知事に宛てた「児童福祉法施行規則の一部を改正する省令の公布について」という通達のなかで、(各種学校は)「児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象とならないとされている」からだとのことだが、これはあくまでも「技術的助言」にすぎないもので、各種学校の幼児教育施設が認可外保育施設を届出ることを禁じるような法的根拠や規定などは存在しない。実際に、東海地方のブラジル人学校のなかには各種学校認可を受けていながら認可外保育施設としての届出を行っている実例がある。それにも関わらず「幼保無償化」実施に際して「各種学校は認可外保育施設には該当しない」などとわざわざ入れ込んだのは、朝鮮学校幼稚部が「幼保無償化」の対象となるためのあらゆる道を閉ざして排除しようとする日本政府の悪意を感じざるを得ない。
 朝鮮幼稚部をはじめとする外国人学校は、多種多様なバックグラウンドをもつマイノリティの子どもたちにとって、自己のルーツや出身国や民族、言語や文化にふれながら自己の出自を肯定的に受け止め、アイデンティティを確立していくとても大切な学びの場であると感じている。なぜ、「多種多様な教育」が問題視されるのか。近年、スポーツや英語教育に特化した「多種多様な」幼児教育を行っている認可外保育施設が多数作られている。一方でそうした認可外施設を「幼保無償化」の対象に含めながら、他方で認可施設である各種学校の外国人学校幼児教育施設は「多種多様な教育」を行っているので適用対象外とするのは矛盾に満ちている。

すべての子どもたちに無償化を
 そもそも「幼保無償化」は、逆進性の高い消費税の増税と同時に実施され、しかも応能負担で設定されていた認可保育施設の利用料を無償とするため高所得者ほど恩恵を得られるとして、また国費を投入するのであればまずは保育士の待遇改善などを行うべきだなどとして、野党から制度設計の議論が不十分であると批判を受けていた。その拙速な議論の中でマイノリティの子どもたちが有する教育を受ける権利を尊重しようという観点がすっぽり抜け落ち、排除ありきですべてがすすんでいったことに対し、この上ない憤りを感じている。
 日本に居住し、日本社会の一員として生きる外国人学校の子どもたちを差別することなく、平等に扱ってほしい。マイノリティの子どもたちを尊重し、仲間はずれにしないでほしい。そんな当たり前のことがこの日本では叶わないことは、「高校無償化」からの朝鮮高校の露骨なまでの排除、そしてその後の裁判闘争でも経験していることだが、今回の安倍政権による「幼保無償化」からの外国人学校幼児教育施設の除外が、外国人の子どもたちは幼少期から仲間はずれにしても良いなどというとんでもないメッセージとして日本社会に伝わってしまわないよう、保護者として国や地方自治体に対し、強く声をあげていく所存である。朝鮮幼稚園とともに対象外とされたブラジル人学校やインターナショナルスクールなど、他の外国人学校幼児教育施設との共闘とともに、これまで培ってきた地域での交流や親善の絆を土台に、心ある日本のみなさんとともに、国や地方自治体に対して、「幼保無償化」実施に際し朝鮮幼稚園保護者への支援策を講じるよう働きかけていきたい。
(ソン・ヘシュク)
(注1)「森のようちえん」については、http://morinoyouchien.org/を参照。

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加盟団体の活動から(第20回)
平和と民主主主義を守る行動を積み重ねる
新産別運転者労働組合書記長 太田 武二


2019年「連合平和行動in沖縄」辺野古
 新産別運転者労働組合(略称新運転)は、今年結成60周年を迎えた労供事業を行う労働組合です。当時、タクシー会社からはじき出されていた10数名の運転手仲間が、その名のとおり今は亡き「新産別」というナショナルセンターに加盟して職安法で禁止されている労供事業の許可を得て運転手の職業別労働組合として発足し、今も新産別の名前を冠して「連合・交運労協・労供労組協」などに加盟すると共に「平和フォーラム」の構成組織の一員として微力ながら活動しています。
 新産別は、戦前からの労働組合運動のリーダーの一人で、戦後の産別会議を創設しながら共産党と決別して産別民同を結成した細谷松太氏が創設したナショナルセンターで、「労働組合は、国家権力、政党、資本から独立し、その自主性を貫かなければならない」とする「労働組合主義」と「全面講和、中立堅持、軍事基地反対、再軍備反対」の「平和4原則」を統一した「戦闘的労働組合主義」を結集軸としていました。従って、私たちの先輩たちは「企業内労働組合」が殆どの日本労働組合の中では、ニッチな存在として「労供事業」と「平和と人権」を両軸として頑張ってきたのです。そこで2019年2月15日に結成60周年祝賀会を開催し、春闘真っ盛りの寒空にも拘わらず、連合、交運労協傘下の労働組合代表からタクシー、清掃、生コンなどの業界代表、立憲民主党の初鹿明博衆議院議員をはじめ都議会、区議会議員の方々、そして平和フォーラムから藤本共同代表など100名以上参集して頂きました。
 また、「平和と民主主義を守る」活動方針で、沖縄辺野古新基地建設反対を決定してきたことを受け、初めて10名の組合員で「連合平和行動in沖縄」に連動して現地行動に取り組みました。そして、広島、長崎の原水禁大会から根室の平和行動まで総勢13名がそれぞれに参加してきました。ということで結成60周年を期して、安倍政権が推し進めてきた対米隷属、戦争への道を平和の未来へと大きく舵を切り替えるために今後も平和フォーラムの一翼を担っていく決意です。
(おおたたけじ)

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〔本の紹介〕
『朝鮮学校を歩く―1100キロ/156万歩の旅』
長谷川和男・著/花伝社

 1100キロメートルを156万歩で旅をした。ざっと計算して、この人の一歩は約70センチ、60代の平均の歩幅としては大きい。さすがは山岳部出身、足腰は強い。でいったいなんで旅したのか、本の題名から一目瞭然「朝鮮学校を歩く」ということ。この人、全国の67校の朝鮮学校を訪問するため、北は北海道札幌から南は九州福岡まで、1100キロを歩き通した。本書は、その記録。そして、人と人の交流の記録。
 1945年8月15日、日本敗戦、そして、日本の植民地朝鮮半島は解放された。敗戦の当時、徴用であったり、騙されたり、強制的に連行されたりして約200万人とも言われる朝鮮半島出身者が、日本に存在した。その内約55万人は、日本に留まらざる得ない、また留まることを選択した。このことが、日本に生きる在日朝鮮人のルーツとなった。朝鮮学校は、混乱した戦後の日本社会の中で、母語の学びの場として開設された。しかし直後に、朝鮮戦争前の情勢を受けてGHQと日本政府から民族教育を否定され学校閉鎖を強制された。民族教育を、民族のアイデンティティーを守るため、命を張っての阪神教育闘争があり、そして16歳の金太一(キム・テイル)は警察官に銃殺された。命をかけた闘いの中で、朝鮮学校は守られた。民族教育は守られた。
 しかし、日本社会は朝鮮学校を差別し続けた。通学定期取得、大学受験資格、さまざまな権利は与えられたものではなく、奪い取ったもの、闘わずして権利は手に入らなかった。今、類い希な差別主義者、歴史修正主義者、安倍晋三は、当然の権利としての授業料無償化や補助金を、朝鮮学校から奪い取っている。そして、日本人の多くはそのことに目を向けない。
 この人、長谷川和男は、心の底からこの差別に憤り、1100キロの旅を考えた。ひとりの無力な人間の、できる限りの思いとしての156万歩。70才になる人間の「これではいけない」との思いに、圧倒される。本書のほとんどのページを飾る長谷川本人の写した写真には、差別にうなだれる姿はない。笑顔の向こうに、なにくそと負けない強い意志を感じさせる。民族の誇りを感じさせる。マイノリティーの人権の確立、それは私たちの人権の確立、そう信じて、長谷川は、そして私たちは、朝鮮学校支援に向かう。
(藤本泰成)

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核のキーワード図鑑


たまるたまる核のゴミ 原発をゼロにするしかない

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 今秋開会の臨時国会へ向けて安倍首相は憲法「改正」について、「国会においていよいよ本格的に議論を進めていくべき時を迎えている。」と述べています。日本国憲法の三大原則である国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を守り、絶対に「改正」させないたたかいが続きます。一刻も早く安倍政権を倒しましょう!10月以降の集会等のご案内です。

安倍内閣の退陣を要求する10.19行動
日時:10月19日(土)15:00~16:00
場所:衆議院第2議員会館前
主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

安保法制違憲訴訟「差し止め」結審裁判傍聴
日時:10月30日(水)14:00~
アピール行動13:00~
傍聴席抽選13:25~
場所:東京地裁103号法廷
主催:安保法制違憲訴訟の会

集会名称未定
日時:11月3日(日・祝)14:00~
場所:国会議事堂正門前
主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

安保法制違憲訴訟「国賠」結審裁判傍聴
日時:11月7日(金)15:00~
アピール行動14:00~
傍聴席抽選14:25~
場所:東京地裁103号法廷
主催:安保法制違憲訴訟の会

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 「原子力空母の横須賀配備を撤回させよう」と、神奈川県平和運動センターと三浦半島地区労センターが主催する、「10.1原子力空母ロナルドレーガン横須賀配備抗議!母港撤回を求める神奈川集会」が101日、横須賀市のヴェルニー公園で行われました。

 主催者を代表して、福田護弁護士(神奈川県平和運動センター代表)があいさつに立ち、2015年の安保法制成立以降、日米軍事一体化が進み、海外派兵への歯止めがなくなっている現状を批判しました。つづいて平和フォーラムの藤本泰成共同代表が、南シナ海での日米共同軍事訓練やアフリカのジブチに建設された陸上自衛隊の基地にふれ、対中国を意識した軍事拡大路線が日本の安全保障に危機を招いていると、日本の防衛政策を批判。韓国や朝鮮民主主義人民共和国と対立し、戦前の日本社会を美しいと考えている安倍首相の政治姿勢を許さず、侵略戦争・植民地支配の歴史に対する反省をふまえて未来を作り上げていくことの大切さを訴えました。

 北海道平和運動フォーラムの長田秀樹代表は、全国基地問題ネットワークを代表して登壇。全国基地ネットの結成経過を紹介し、在日米軍および自衛隊基地に対する闘いを強化していくと力強くアピールしました。また、北海道で、長射程の高機動ロケット砲システム(HIMARS)の射撃訓練が米陸軍と陸上自衛隊共同で行われたことや、来年1月にはオスプレイが参加しての日米共同訓練が計画されていることを報告し、全国で日米共同訓練が進められている現状に対して、連帯して闘う必要性を訴えました。

 

 平和センター関東ブロック代表で埼玉県平和運動センターの持田明彦議長は、千葉県の台風災害をはじめとして、全国で豪雨災害等が繰り返されているなか、人びとが安心して生活できる環境をいかに作っていくかが政府に求められてるとしたうえで、海に浮かぶ原子炉といわれる原子力艦船の災害対策が全く十分でないと批判しました。

 

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 このほか厚木基地と横須賀の市民団体から現地報告があり、厚木基地爆音防止期成同盟委員長の石郷岡忠男さんは、全国の米軍基地等で行われている基地訴訟で、判決が国寄りになっており、厚木での第5次訴訟を頑張っていきたいと決意表明。またヨコスカ平和船団の新倉裕史さんは、1966年に初めて原潜スヌークが横須賀に入港して以来、原子力艦船の入港が999回にもなっていることを紹介。米海軍や日本政府はこの間一度も事故を起こしていないとしているが、市民団体の調査で多くの事故が発生して事実を、パネルにした事故年表を示しながら説明しました。

 

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 集会ではそのほか、福島みずほ参議院議員が連帯のあいさつ、集会アピールを採択し、反核平和の火リレー実行委員会副代表の矢崎幹雄さんが、元気よくシュプレヒコールを行ったのち、1400人の参加者は、原子力空母の母港化撤回を訴えて横須賀市内をデモ行進しました。

 

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 集会アピールはこちら

 

 

 

 

 

 

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