イラク情勢Watch vol.19 05年11月24日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)白燐弾をめぐるその後の論争

1)週間イラク報道Pick up

【05.11.23 時事】米、アルジャジーラ爆撃を画策?=英首相の説得で回避−大衆紙

【05.11.21毎日】<韓国>イラク駐留部隊を1000人削減 2200人に

【05.11.21時事】部隊活動には影響ない=サマワ対車両地雷発見で守屋防衛次官

【05.11.19共同】米、サマワ陸自の移動打診 新たな軍事的貢献要請



【05.11.16 共同】イラク内務省部隊が虐待か スンニ派173人に



2)白燐弾をめぐるその後の論争

 イタリア国営放送『RAI』が今月9日に放送したドキュメンタリー「ファルージャ 隠された虐殺」の中で、「米軍は民間人に対して化学兵器を使用した」と報じたことは前号で紹介したが、同放送の報道は大きな波紋を呼び、特にネット上やイギリスのメディアの中で、白燐(リン)弾についての議論が続けられている。


・「照明弾」と言い逃れ>対人使用を認める

 04年11月10日付けの『イスラムオンライン』が「米軍が有毒ガスを使用している」と報じるなど、ファルージャ総攻撃開始直後から、現地人権団体やアラブ系メディアは、「米軍が禁止されている兵器を使用している」と告発していた。これに対し、米国政府は04年12月に「『違法とされている』白燐弾を使用しているという報道があるが、白燐砲弾は違法ではない。米軍は白燐砲弾をファルージャにおいて、極めて慎重に使用している。その目的は照明である。白燐砲弾は、夜間の敵の位置を照らし出すために空中に向けて発射され、敵の戦闘員に対して発射されているのではない」と反論していた。

今回も『RAI』の報道に対し、米軍は白燐弾の使用を認めたが、「照明弾として使用した」と弁明した。ところが、米軍兵士が発行する雑誌『Field Artillery magazine』の中で、白燐弾が現地武装勢力との戦闘の中で有効な兵器だったとの記述があり、今月10日、米国政府は一転して白燐弾の対人使用を認めた。


        
        『RAI』の放送を元に作成された白燐弾アニメーション


・白燐弾使用の違法性 

 米国がファルージャ総攻撃での白燐弾の使用を認めたことで、議論の焦点は、白燐弾の使用が国際条約や交戦規定に反するものなのか、白燐弾が化学兵器なのか、そうでないのか、というものに移っていった。

 16日には、英BBC放送に対し、米軍のスポークスマンが「白燐弾は『焼夷弾』として敵戦闘員に対して使用した」と話しているが、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)では、焼夷弾を市街地にむけて空中から投下することは同条約の第三議定書に反する。もっとも米国はこの第三議定書を批准していないのだが、条約を批准していないからと言って許される行為ではないのは言うまでもない。
 
 また、「ファルージャ 隠された虐殺」では、元米兵や現地人権団体のメンバーが民間人も攻撃の対象とされ、多くの犠牲者が出たことを証言している。ファルージャ総攻撃時、5万人の市民が市内に取り残されている中、市内の9割の建物が半壊か全壊させられたことから見ても、米軍が白燐弾だけ「敵の戦闘員のみに使用した」とは、考えづらいだろう。


・白燐弾は化学兵器なのか?

 白燐弾を化学兵器とする『RAI』の主張に対しては意見が分かれている。BBC放送は当初、そのウェブサイトで「化学兵器」という言葉を使っていたが、その後「焼夷弾」というように表現を差し替えた。
 白燐は猛毒であり、皮膚に付着すれば激しい化学反応を引き起こし骨まで達する火傷を負わせるが、化学兵器禁止条約に定められた毒性化学物質ではなく、白燐弾の使用目的も通常は焼夷弾であるため、化学兵器のカテゴラリに入れるのは、難しいのではないかとの意見もある。一方で、化学兵器禁止機関のスポークスマンであるピーター・カイザー氏はBBCのインタビューに対して、以下のように語っている。

「もし白リン弾の毒性や腐食性等の性質を特に意図して兵器として利用した場合、化学兵器禁止条約で禁止されるものにあたる。この条約の構成及び適用において、人間や動物に対して使用されその毒性によって害や死をもたらす化学物質は、全て化学兵器と見なされるからだ」


・米国防総省は白燐弾を「化学兵器」と認識していた

 このように、白燐弾を化学兵器と見なすか、そうでないかについて、まだ明確な答えが出ていないのだが、米国防省自体が白燐弾を化学兵器と見なしているという指摘もある。

 英紙ガーディアンのコラニスト、ジョージ・モンビオット氏は、今月22日付けのコラムの中で、米カンザス州の「米国指令部カレッジ」が発行する『戦闘書』に「対人兵器として白燐を使うことは戦争法に反する」という記述があることを紹介。

 さらに、モンビオット氏はフリージャーナリストのガブリエル・ザンパリーニ氏が入手、自身のブログで公開した米国防総省の文書「燐化学成分の使用可能性について」に以下のような部分があることを紹介した。

「イラク軍は、クルド人の反乱軍とアルビル州の住民…そしてイラクのドホーク州に対し、白燐化学兵器を使用した可能性がある。白燐化学成分は砲撃や攻撃ヘリで撃ち込まれた…」

 その上で、モンビオット氏は、白燐弾が化学兵器であると米国防省が認めていることに他ならないと断じている。



解説:白燐弾

 白燐は燐化合物の一種で、皮膚に付着すると化学反応を起こし骨まで達する大火傷を負う。猛毒で、致死量は0.11グラム。白燐弾は、その名の通り、白燐を使用した兵器で、焼夷弾、煙幕弾、照明弾など用途別に種類があり、煙幕用の白燐弾は、自衛隊も演習で使用している。米軍がファルージャで使ったとされる白燐弾はM110、M825。M110は榴弾として使用され、M825は煙幕・あぶり出し用として使用される。なお、M825は「酸化しきっていない白燐をバラ撒くだろう」とされている。



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