イラク情勢Watch vol.27 06年2月28日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)航空自衛隊、活動範囲をイラク中部へ拡大か−英軍機撃墜の事例も
3)【スンニ・シーア派抗争】イラク・イスラム法学者協会クバイシ師が緊急記者会見
4)イラク人医師が来日 小児がん治療の現状を報告



1)週間イラク報道Pick up

【2.28 共同】イラク復興チームへ文民要請 米、陸自に固執せず

【2.27 産経】イラク各派 連立協議推進を確認 抗争やまず首都警戒続く

【2.26 時事】米、南部バスラに派遣打診 陸自のイラク復興関与

【2.26 共同】テロ阻止と武装グループに警告=英司令官、相次ぐ治安施設攻撃で−サマワ

【2.23 人民日報】シーア派の聖廟爆破 イラク、宗派対立激化へ


2)航空自衛隊、活動範囲をイラク中部へ拡大か−英軍機撃墜の事例も
 

 政府はイラクでの航空自衛隊の活動範囲をこれまでのタリル空港やバスラから、バグダッドやバラドへ拡大することを検討しているという。28日付けの読売新聞が政府筋の話として報じた。

自衛隊イラク派遣にともない、航空自衛隊はC130輸送機で自衛隊員や、多国籍軍の兵士・物資を運搬し続けてきた。その活動実態は明らかにされていないが、200412月8日付けの共同通信は、空自がそれまで1200人の武装した外国兵を空輸、そのほとんどが米兵で約半分が前線へ配置される兵士だったという衝撃的な記事を配信している。兵員や物資の運搬は「兵站」であり、事実上の参戦行為だと言え、イラク特措法の趣旨に違反する。

自衛隊員の安全も懸念される。バグダッドやバラドなどのイラク中部は西部と並ぶ最激戦地であり、昨年130日には、バグダッド〜バラド間で英軍のC130輸送機が現地武装勢力の携帯式ミサイルで撃墜され、乗員10人全員が行方不明となるという事件も起きている。


3)【スンニ・シーア派抗争】イラク・イスラム法学者協会クバイシ師が緊急記者会見

 22日にイスラム・シーア派の聖廟・アスカリモスクが何者かに爆破されたことを契機に、イラク各地でシーア派民兵がスンニ派住民やモスクを襲い、スンニ派武装勢力もこれに報復するなど、両派が激しく衝突、内戦に発展することが懸念されている。

 シーア派有力指導者のアリ・シスターニ師やムクタダ・サドル師らが「スンニとシーアは兄弟で争いあうべきではない」と訴え、沈静化をはかっているが、すでに死者は1300人以上(ワシントン・ポスト 27日付け)に上っているとの情報もあり、事態は予断を許さない状況だ。

 イラク人ジャーナリストのイサム・ラシード氏が本ページ編集の志葉へ送ってきた報告によると、23日、スンニ派の有力宗教者団体のイラク・イスラム法学者協会は緊急の記者会見を開いた。同協会の幹部で日本人人質事件での貢献で知られるアブドルサラーム・アル=クバイシ師は「168のモスクが破壊され、18人の宗教指導者が殺された」と発表。「スンニ派が占領軍に対して頑強に抵抗しているのは皆が知るところだ。だが、我々スンニ派はその力をシーア派信徒の人々に向けることはない。なぜならスンニ派もシーア派も同じイラク人だからだ。それをシーア派の人々にも理解してもらいたい。スンニ派のモスクを破壊するのではなく、占領軍からイラクを解放するために力を合わせるべきだ」と訴えた。

 記者会見でアル=クバイシ師はまたムクタダ・サドル師にも暴力の停止を要請。「思い出していただきたい。2004年にナジャフが占領軍に攻撃された時、スンニ派があなたがたを助けに行った時のことを。そしてスンニ派への攻撃を止めてほしい。今起こっていることを見てくれ。イラクのどこの道路も閉鎖されも店もシャッターを下ろしている。どこの家族も皆、家の中に身を隠し怯えている」。

 その上で、アル=クバイシ師は、「事態の沈静化のために何もしていない。本当のところ、犯罪的な行為を武装集団が行った時、イラク警察も軍もただ見ていただけだった」とイラク政府の対応を批判し、アスカリモスク爆破への治安機関の関与を疑った。


4)イラク人医師が来日 小児がん治療の現状を報告

 イラクから来日したバグダッド中央教育病院小児がん科部長イブラヒム・ナシール医師は25日、東京都・文京区民会館の会合で、バグダッドでの医療環境の困難さを報告、がん・白血病治療のための臍帯血バンクの設立に協力を訴えた。JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)、CADUJP(劣化ウラン廃絶キャンペーン)、イラクホープネットワークの共催。

        
         講演するナシール医師

 講演で、ナシール医師は、抗がん剤は勿論のこと、消毒薬などの基礎的な医薬品・物資ですら不足している窮状を報告。抗がん剤を届けたり、イラク人医療関係者の研修をコーディネートしたりなどの日本のNGOからの支援に感謝を表明した。

 臍帯血とは、母体と胎児をつなぐ臍の緒の中を流れる血液。最近、これらの血液の中に「造血幹細胞」が多く含まれ、白血病治療に役立つことが発見され、日本や他の先進国での白血病の治療の現場で活用されている。ナシール医師は「今はイラクは大変な状況だが、一時的なものだと思っている。将来的には、イラクの医療は発展し、周辺の中東諸国へ大きな貢献をするだろう」と臍帯血バンク設立への意欲を燃やした。

 JIM-NETの井上俊医師は「高度医療に挑戦することが、イラクの医師たちのモチベーション向上につながる」と語り、2〜3年後を目標に臍帯血バンクの設立を目指すという。イラクで臍帯血を扱う小規模なラボをつくるのに、2500万円ほどかかるという。

 

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