イラク情勢Watch vol.28 06年3月7日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)香田証生さん殺害犯逮捕か?−改めて問われる小泉政権の責任
3)なおも続く衝突 スンニ・シーア抗争
4)「1年以内にイラクからの撤退すべき」が72% 在イラク米軍兵士の意識調査
5)「イラクの刑務所で虐待が増加」アムネスティ・インターナショナルが報告


1)週間イラク報道Pick up

【3.7 共同】元友好協会会長標的か サマワ、近所に手投げ弾

【3.7 毎日】<イラク>ジャファリ首相降ろしが高まる中、議会初招集へ

【3.7 共同】英軍、08年夏までに撤退 4段階でと英紙に司令官

【3.4 読売】政府、イラク陸自撤収に頭悩ます…本格政権の発足遅れ

【3.4 読売】香田さん殺害容疑者、1週間後にも起訴…イラク内務省

【3.4 時事】政府、イラク陸自撤収判断先送り=新政権樹立まで−米側の要請踏まえ英豪も

【3.1 共同】3人に1人が精神ケア イラク帰還米兵



2)香田証生さん殺害犯逮捕か?−改めて問われる小泉政権の責任

 一昨年10月、イラクを訪れた香田証生さんが拘束・殺害された事件で、3日深夜、日本政府は、イラク内務省が拘束している容疑者が自供していると報告を受けたことを発表した。
 香田さん殺害を自供しているのは、フセイン・ファハミ容疑者(27)で、先月上旬に「アルカイダ系テロ組織メンバー」として内務省特殊部隊の「オオカミ旅団」に拘束されたという。時事通信の報道によれば、ファハミ容疑者らは香田さんを拘束後、身代金と引き換えに解放を考えていた。だが、上層部から「自衛隊撤退要求のための人質」とするように指示を受け日本政府が拒否したので殺害したのだという。

       

 オオカミ旅団は、スンニ派の住民・宗教指導者等への拷問・殺害で悪名高く、「やってもいない罪を自供させられ、テロリストとして公表された」等との被害も報告されている。ファハミ容疑者が本当に香田さん殺害に関与したか、より詳しい事実関係がイラク当局から報告されることが望ましいだろう。

 ファミハ容疑者の自供内容が事実であれば、小泉政権の責任も改めて問われることになるだろう。香田さんを人質としたテロ組織「イラク聖戦アルカイダ機構」は、その残忍さで知られるが、2004年7月のフィリピン人労働者人質事件では、フィリピン軍撤退を受け人質を解放している。日本政府の対応次第では、香田さんの解放或いは救出の可能性もあったのだが、小泉首相は「自衛隊は撤退させない」と断言。交渉を自ら拒み、事実上香田さんを見殺しにした。



3)なおも続く衝突 スンニ・シーア抗争

 先月22日にイラク中部サマラにあるシーア派聖廟「アスカリ・モスク」が何者かに爆破されたことを発端とするイスラム・シーア、スンニ両派の衝突はなおも続いており、市民生活に深刻な悪影響を及ぼしているようだ。

  
  
和解のために集まったシーア、スンニ両派の宗教指導者達 
   2月25日 バグダッドのアブハニファ・モスクにて イサム・ラシード氏提供。

 バグダッドのスンニ派住民M氏が本コーナー編集人によせた報告によると、スンニ派のモスクをシーア派民兵「バドル組織」が攻撃。イラク警察ですら、スンニ派とシーア派で殺し合いをしているような状況だという。住民たちは自警団を組織して、警察であっても自分達のモスクに近づけさせないようにしている。襲撃を恐れて人々は外出できず、誰もが「なぜ、イラク政府はシーアやスンニのモスクを守ろうとしないのだ」と憤っているのだという。

 イラクでは、長い間シーア、スンニ両派は共存してきた。スンニ派とシーア派が結婚することも珍しくなく、今回もアリ・シスターニ師やムクタダ・サドル師など有力シーア派が「スンニとシーアは兄弟だ」と呼びかけ、シーア派とスンニ派の合同礼拝も行われている。しかし、暴力の応酬にさらされている市民の間には相互への不信感が拭い切れていない。宗教指導者同士の和解の呼びかけと共に、民兵組織の解体が急務だと言える。



4)「1年以内にイラクからの撤退すべき」が72% 在イラク米軍兵士の意識調査

 「今後一年年以内にイラクからの撤退すべき」が72%…米調査会社ゾグビー社とルモワール大学が共同で実施した在イラク米軍兵士の意識調査の結果は、米軍の士気低下を浮き彫りにする形となった。この調査はイラクに駐留する米軍兵士944人を対象に、今年1月18日から2月14日にまで行われ、先月28日に公表された。

 意識調査によると、イラクから撤退すべきと答えた兵士の中でも撤退時期については、「半年から一年以内」が21%、「半年以内」が22%で「今すぐに撤退すべきだ」が29%と最も多かった。一方、ブッシュ大統領が言うように「必要なだけイラクに留まるべき」とするのは、23%に過ぎなかった。撤退支持の回答を部隊ごとの内訳を見ると予備役と州兵が最も高く、それぞれ89%、82%。正規兵では70%、海兵隊でも58%だった。

 なぜ撤退を支持する米兵が多いのか、との問いに対しては「愛国心がない」が38%、「占領がうまくいくと思えない」が20%。「イラクへの先制攻撃が間違いだった」が16%、「なぜイラクに駐留し続けないかがわからない」が15%だった。



5)「イラクの刑務所で虐待が増加」アムネスティ・インターナショナルが報告

 今月6日、国際的な人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、「サダム政権崩壊から3年たった今も、数千人ものイラクの人々が基本的な人権が守られないまま刑務所に拘束されている」として、米英を主体とする多国籍軍を批判する報告書を発表した。報告書はまたイラク治安部隊による人権侵害の増加も危惧、イラク政府に対して国際人権規約を遵守するよう勧告している。

 報告書によると、多国籍軍に拘束されているイラク人には、投獄に是非を問う機会もなく2年以上拘束されている人々もいるという。彼らは弁護士や家族に会う機会も充分に与えられず、拘束の理由も不明確なまま、この先も拘束され続けられる恐れがある。
 内務省の特殊部隊「オオカミ旅団」による被害も報告されている。イラク北部モスルの住民である46歳のイラク人女性ハリダ・ザキヤさんは「武装勢力の支援者」として拘束され、イラキーヤ放送でも晒し者にされたが、その後、ザキヤさんは自供を撤回。自供は拷問によって強要されたものだったと主張した。ザキヤさんはケーブルで鞭打ちされ、性的虐待を受ける恐れもあったという。

 報告書は、死亡者も出しているイラク治安部隊の虐待・拷問の実態を把握し食い止める努力をしなかったと米軍当局の対応を批難。元治安部隊の指揮官の「米軍関係者が治安部隊が抑留者に対して拷問加えているのを見に来ていた」との証言も紹介、米軍関係者が虐待や拷問を知りながら、容認していた可能性も指摘した。

 さらに、米英軍の虐待問題においても処罰されているのが、下級軍人に限定されていることを問題視。虐待や拷問の実態が全て明らかにされ、どんな高位の者であれ、虐待や拷問を支持した者が法の裁きを受けるべき、と要求している。



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