イラク情勢Watch vol.30 06年3月28日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)米軍兵士がイラク人一家を皆殺し〜4ヶ月の赤ん坊も犠牲
3)占領がイラクの教育現場に与える影響〜イラク人ジャーナリストが報告〜
4)イラクで拘束の平和活動家救出される



1)週間イラク報道Pick up

【06.3.28 共同】「決議なしでも開戦」 1カ月半前に米大統領

【06.3.28 ロイター】イラクのシーア派主要政党、米軍に治安維持権限の移譲を要求

【06.3.28 西日本】イラクに円借款800億円 月内表明 政府方針 調印は新政権発足後

【06.3.27 時事】3自衛隊の統合運用開始=指揮一元化、先崎統幕長就任

【06.3.22 毎日】<米軍>海兵隊への捜査開始 イラクの民間人殺害事件で

【06.3.22 共同】任期中に完全撤退なし イラク米軍でブッシュ氏

【06.3.20 共同】政治プロセスほぼ順調 安倍氏、イラク開戦3年で



2)米軍兵士がイラク人一家を皆殺し〜4ヶ月の赤ん坊も犠牲

 今月15日、イラク中部サマラ近郊のアル=サファ村で、地元小学校の教師のファリス・ハラットさん一家と来客の11人が米軍兵士に皆殺しにされるという事件が起きた。

      

 イラク・イスラム法学者協会も加わる現地NPO「イラク連盟」が遺族や隣人の話として伝えるところによると、深夜1時半頃、米兵達がファリスさん宅を強襲。ファリスさん達を殴りつけ、手錠で拘束した後、ファリスさん達を処刑したのだという。殺されたのは、90歳と高齢だったファリスさんの母親、ファリスさん夫妻と3人の子ども、ファリスさんの親戚の女性とその二人の子ども。子ども達は4ヶ月の赤ん坊から6歳までと、いずれも幼かった。ファリスさんの遺族によると、米軍兵士達は子ども達をクローゼットに入れた後、機関銃を浴びせ殺害したのだという。ファリスさん宅を訪ねていたカップルも殺された。彼らは婚約者同士で、次の週の火曜日に結婚する予定だったという。米兵らはファリスさん達を処刑した後、爆薬をファリスさん宅に仕掛け爆破していった。

 ロイター通信が伝えるところによれば、米軍は「イラクのアルカイダネットワークの支援者を捕らえるために民家を攻撃した」「敵からの銃撃を受け、兵士達は応戦した」と主張。だが、遺体は手を縛られており、遺族の証言からも、米兵らが無抵抗のファリスさん達を処刑した疑いは晴れない。
 
 殺された子ども達の写真は、http://www.chris-floyd.com/march/ で観ることができる。*非常にショッキングな写真なので注意。



3)占領がイラクの教育現場に与える影響〜イラク人ジャーナリストが報告〜

 治安が一向に回復しないイラク。社会の混乱は子ども達の教育にも悪影響を及ぼしている。イラク人ジャーナリストのイサム・ラシード氏の報告から抜粋して紹介する。

 「教育現場の腐敗がひどい。贈収賄が横行している」「生徒達も先生を尊敬していない」。「違う宗派の生徒につらくあたる先生がいる」…etcと様々な問題があるようだが、最大の問題はやはり治安の悪さ。中学校教師のM・Mさん(34)は言う。「私達は学校の窓側に土嚢を積んで、飛んでくる銃弾を防ごうとしています。学校の外では武装勢力と米軍の戦闘があるからです」。

警備員のMさん(35)が勤める小学校は何者かから脅迫を受けた。「学校を閉めろ、さもなければ職員や警備員を全員殺す、と脅迫状には書かれていましたが、我々に何ができるというのです。警察?彼らは信用できません。我々自身の手で学校を守るしかありません」。Mさんが知っているだけでも、ここ最近、3つの学校で職員や警備員が殺された例があるという。

 学校に子どもを送りに来たという主婦のE・Mさんは「子どもが誘拐されないか心配だ」と語る。イラクでは、フセイン政権崩壊後、身代金目的で子どもや女性が誘拐されるケースが相次いでいる。「自動車爆弾に、路肩爆弾も恐ろしいです。そして占領軍。彼らは理由もなく、我々を銃撃してきます」。多くの親たちが、様々な危険から子ども達を守るため、学校への送り迎えを強いられている。親が車を持っていないため、学校に通えない子どもも少なくない。
 スクールバスを持つ学校もあるが、米軍の検問で止められることもあるという。小学校教師のM・Aさん(36)は憤る。「先日、モスル(イラク北部の大都市)で女生徒用のスクールバスが止められ、米軍は生徒達のベールを剥ぎ、ボディーチェックを強要しました。これはイスラム教において許されないことですが、イラク政府も米軍の活動を自粛させることはできないのです」。

 米軍による学校の占拠も問題だ。M・Mさん(34)は「多くの学校が米軍に占拠されている」という。「イラク戦争前は7500の学校がありましたが、ファルージャへの攻撃の際に学校も破壊されたり、特にバクダッド西部で軍事拠点として接収されたので、今は7300以下です。ファルージャの子ども達は今もテントで勉強しているのです」。

 教育環境は占領が終わらない限り、良くならない。今回ラシード氏のインタビューを受けた人々が皆そう思っているようだ。



4)イラクで拘束の平和活動家救出される

 昨年11月末にイラクで武装勢力に拘束されたクリスチャン・ピース・チーム(CPT)のメンバー3人が、多国籍軍による作戦により23日救出された。CPTの声明によると、3人の健康には大きな問題はないという。

 解放されたジム・ルーニー氏は118日間の拘束について「恐ろしく、強力で、耐え難く退屈な経験だった」と語った。また「我々を命をかけて助け出してくれた英軍と救出のたためのチームを派遣してくれたカナダ政府に、そして我々の生還を祈ってくれた全ての人々に本当に感謝しております」と語った。ノーマン・ケンパー氏は「あなた方(メディアのこと)が話を聞かないといけないのは、私よりもむしろイラクの人々だと思います。彼らはそれだけ長く苦しんできました」となおもイラクの状況を気遣う姿勢を見せた。その上で「長続きする平和が力によってもたらされることはないと思うけども、私達を解放した人々の勇気に感謝したいと思います」とも語った。

 残念ながらトム・フォックス氏は今月11日、バグダッドで遺体で発見され、解放された3人もCPTもその死を深く悼んでいる。イラクで活動するNGOの調整委員会であるNCCIの報告によると、2003年以来50人以上のイラク人及び外国人の援助関係者がイラクで犠牲になっている。今年に入ってからも2人が亡くなった。イラクで活動する援助関係者は深刻なセキュリティ危機の中にあり、安全上の理由からプロジェクトを停止せざるをえなかった例もある。だが、厳しい情勢の中でも、現在80以上の外国のNGOと数十のイラクのNGOが活動している。



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