イラク情勢Watch vol.33 06年4月28日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラク次期首相にマリキ氏
3)ザルカウィ容疑者?映像を公開
4)ODAとイラク警察による人権侵害の関係−サマワ


1)週間イラク報道Pick up

【06.4.28 時事】第10次群にきょう派遣命令=陸自イラク派遣−防衛庁

【06.4.28 時事】路上爆弾警戒を強化=イタリア兵死亡事件で−陸自部隊

【06.4.27 共同】拷問や死亡、460人以上 米軍虐待でNY大など調査

【06.4.27 読売】イラクの米軍、年内3万人削減へ…司令官検討とCNN

【06.4.24 時事】民間警備車両を攻撃=対戦車弾で−サマワ

【06.4.20 共同】サマワの住宅街で爆発 負傷者なし


2)イラク次期首相にマリキ氏

 昨年12月の選挙結果を受けての新政権発足は、ジャファリ首相の続投にクルド人会派やスンニ派会派が反発、最大会派UIA内でも続投の是非が議論されていたが、22日、ジャファリ首相が辞任し、次期首相としてジャワド・マリキ氏が指名された。次期首相が指名されたことで、一ヶ月以内を目標に組閣作業が行われる。全く目途の立たなかった新政権発足にはずみがついた模様だ。

 だが、閣僚ポストをめぐって組閣作業が難航することも予想され、マリキ氏指名で新政権発足への道が完全に開けたわけではない。特に今年2月のアスカリ聖廟爆破以来、宗派間衝突が続く中で、治安権限のある内務省や国防省のポストをめぐっては、スンニ・シーア両派で熾烈な争奪戦が繰り広げられることが予想される。特に内務大臣をスンニ派虐待で非難されるSCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)が引き続き得ることになれば、スンニ派の人々への新政権への不信感や敵意にもつながるだろう。

 スンニ・シーア両派の宗派間激突は極めて深刻なものとなっている。20日付けの現地紙「アザマン」が現地人権団体の話として報じるところによれば、今年1月から3月にかけて誘拐されたイラク人は1万5000人に上り、この中には2355人の子どもと4959人の女性が含まれている。こうした被害のほとんどは暴力的な民兵組織によるものだという。マリキ氏は、「宗派や民族的背景に基づかない”家族”を築く」と発言、国民融和を訴えていく姿勢をアピールしたが、現在横行している暴力をいかに止められるかがカギとなりそうだ。


3)ザルカウィ容疑者?映像を公開

 25日、イスラム系サイトでアブムサブ・ザルカウィを名乗る人物の映像が公開された。ザルカウィを名乗る男は「イラク新政権は米軍の操り人形」と批難、「米国は軍とシーア派だけではムジャヒディンに勝利できないと気付き、自称スンニ派のスパイを引き入れた」とイラク新政権にスンニ派の政治家も参加したことを批判した。

      

 なぜ今、ザルカウィを名乗る人物が映像を公開してきたのかは不明だが、ビデオの主張から観て、22日に新イラク首相候補にマリク氏が選ばれたことを受け、新政権発足に揺さぶりをかけるべく、攻撃を活発化させることを促すことが考えられる。或いは、今月10日にワシントンポスト紙が「米軍が心理作戦の一環としてザルカウィの脅威を利用していた」と報じたことに対抗することを狙った可能性もある。

 ザルカウィなる人物が実在するかも不明だが、ザルカウィ一派を名乗る過激な武装集団は、イラク人の間では元から嫌われていて、「ザルカウィはCIAのエージェントだろう」との言った「米国の陰謀」説を多くのイラク人が支持していた。「ザルカウィがいる」とされたイラク西部でもザルカウィ一派は現地武装勢力に拘束されるか、米軍に引き渡されるといったケースが多々あったのである。そのためザルカウィ一派は実際にはイラクで孤立し、もはや戦力としてはかなり小さいと見られる。


4)ODAとイラク警察による人権侵害の関係−サマワ

 本コーナー編集者の志葉の元にサマワの情報提供者から、「(SCIRIの民兵組織である)バドル団が軍や警察を牛耳っていて、何の理由もなく人々を拘束し殺している」との連絡が入った。情報提供者曰く、「毎日のように、道端で捨てられた遺体が発見される」とのことで、サマワでも治安組織や民兵集団による深刻な人権侵害が行われているようだ。
 
 志葉はサマワでの人権状況について、外務省中東第二課に問い合わせたが「(サマワのある)ムサンナ州では特に深刻なケースは聞いていない」と否定。イラク復興支援の一環として、ムサンナ州警察の訓練プログラムが行われていることに関し、「イラク内務省による不当逮捕や拷問が問題になっている中で、真相が明らかになるまで援助を停止すべきでは」との聞いたところ、「今のところイラク内務省への支援停止の話はない」と回答。現地の人権蹂躪に、日本の税金が使われている疑いも出てきた。

 外務省は「治安回復」支援の名目で、400万ドル(約4億6000万円)をかけ、ムサンナ州警察官の訓練をイギリスの民間警備会社に依頼している。もし、情報提供者の言うようにサマワでも治安機関による人権侵害が行われており、訓練を受けた警察官達も関与しているのならば、外務省や小泉政権の責任も問われる事態に発展する可能性もある。



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