イラク情勢Watch vol.34 06年5月9日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)米軍、社会インフラを破壊、100人以上を射殺〜西部ラマディからの報告〜
3)自衛隊駐留の「保険料」?日本政府が対イラク支援で35億ドル供与
4)米軍が自爆テロを「自作自演」?英紙コラムニストが指摘

1)週間イラク報道Pick up

【06.5.9 時事】陸自第10次群、クウェート到着=射撃訓練後サマワへ−イラク派遣

【06.5.9 共同】韓国軍が千人削減に着手 イラク派遣部隊

【06.5.8 共同】米、拘束者の処遇改善強調 イラクなどで120人死亡

【06.5.7 時事】英軍ヘリが墜落、数人死亡=救援部隊と群衆が衝突−イラク南部

【06.5.6 毎日】<米国防長官>講演中にイラク戦争めぐり集中砲火受ける

【06.5.2 ロイター】イラン軍がイラクのクルド武装勢力を砲撃=クルド自治政府高官



2)米軍、社会インフラを破壊、100人以上を射殺〜西部ラマディからの報告〜

 
現地情報提供者から本コーナー編集者へ寄せられた報告によると、米軍は先月下旬からイラク西部の都市ラマディで現地武装勢力と激しい戦闘を行い、多数の市民が犠牲になっているのだという。
    ラマディはイラク西部アンバル州の州都で、人口は約40万人。他のアンバル州の都市でそうであるように、反占領武力抵抗の激しさで知られる。現地情報提供者によると、街のあちこちに米軍の狙撃兵が陣取り、病院に向かうところだった7歳の女の子や、家の前で遊んでいた8歳の男の子など、子どもも容赦なく射殺している。米軍は住民に退避を呼びかけているが、外に出れば撃たれるので、逃げようがない状況なのだそうだ。

 米軍はラマディの社会的インフラをも破壊している。電話局は空爆されて完全に破壊され、ラマディ南部の発電所も損傷。その一帯で電気が配給されなくなった
 
 また電気が止まったため、水道も断水状態となり、飲み水にも困る状況なのだという。さらに多くの道路が封鎖されているが、進入禁止を警告するわかりやすい目印がなく、ただ小さな石を道路に並べているだけであるため、既に100人以上が封鎖地点で米軍に射殺されているのだと言う。

 ラマディを含むアンバル州の都市は、これまでも米軍による無差別攻撃に晒されてきた。これらの軍事作戦について、現地住民は「米軍に反抗的な住民および抵抗勢力を罰するため」と見ている。こうした暴挙は、アンバル州で多数派を占めるスンニ派もイラク新政権樹立プロセスに参加している中で、新政権に対する不信感を高めるだけであり、仮に米国が「イラク新政権の樹立や治安の安定化」を望んでいるとしても、荒っぽい軍事作戦はむしろ逆効果になるだろう。



3)自衛隊駐留の「保険料」?日本政府が対イラク支援で35億ドル供与

 5月2日付けのイラク紙「アザマン」は、イラク当局筋の話として日本政府が、2003年10月のイラク復興会議での発表した10億ドルを大きく上回る「35億ドル(現在のレートで約3850億円)を供与する」と報じた。同紙によると、日本政府はサマワのあるムサンナ州をハブとするインターネット網を整備。州政府が税金等の徴収を銀行の電子決済で行えるよう、支援する計画だという。また治安対策や低所得者層への支援も行う予定だという。

 一方、8日に第10次イラク復興支援群の先発隊150人がサマワに向け関西空港から出発した。この部隊を最後に陸自はイラクから撤退する可能性もあるが、依然撤退時期は流動的だ。また、仮に撤退が決まったとしても、頑強な要塞と化した宿営地の撤収する作業の間が最も危険だと見られている。

  
  
サマワのイラク警察と自衛隊員

 自衛隊宿営地を狙ったと観られる攻撃は過去13回あったが、ロケット弾の信管を抜いたり、路肩爆弾の火薬が通常の榴弾ではなく、TNT火薬だったなど、攻撃には「手加減」があったように思われる。このことから現地では「地元の人間が日本から援助を引き出すために脅している」との見方もある。外務省は対イラク支援がムサンナ州に重点を置いていることに関し、「一つの場所を重点的に支援する方が効率が良い」としているが、自衛隊駐留が長引く中、「保険料」として援助が使われている可能性もある。



4)米軍が自爆テロを「自作自演」?英紙コラムニストが指摘

 英インディペンデント紙は「米軍がイラク警察を騙し自爆攻撃の自作自演を行わせた」と報じた。記事を書いたのはロバート・フィスク紙。イラク戦争を取材する著名なジャーナリストだ。

 フィスク氏によると、元イラク警察の男性がフィスク氏の情報提供者に接触。「米軍に『モスクの前に来て連絡するように』携帯電話を持たされ、電話したところ電波が弱かったので、車を降り電波状態のいいところまで行って電話したところ、車が爆発した」との証言を得たのだという。フィスク氏は「信じられないことだが、似たような話は他にもある」として、「別の警察官も米軍にデモの様子を報告するよう携帯電話を持たされ、現場で電話すると、車が爆発した」というエピソードを紹介している。これらの事例について、フィスク氏の情報提供者は「攻撃の矛先を米軍からイラク人同士の争いへと矛先を変えるため、スンニ、シーア両派で内戦を起させるため」だと断じているそうだ。

  
   
2004年3月のバグダッド・カルバラ両聖廟での同時多発テロで憤るシーア派信徒たち。
   
「これはイラク人によるテロではない。CIAやモサドの犯行だ」と人々は主張していた。

 米軍による「自爆テロの自作自演」はアラブ圏のメディアでは従来から指摘されてきた問題だが、欧米系のメディアでこうした論考が紹介されることは珍しい。実際の真偽はまだ明らかではないが、シーア派やクルド人の民兵を引き連れ、スンニ派地区を攻撃するなど米軍が宗派間対立を煽るような行為をしてきたことは紛れもない事実だ。米軍がザルカウィについて情報操作を行っていた疑惑も持ち上がっているだけに、「米軍による自爆テロ自作自演」も単なる「陰謀論」と片付けられない問題なのかもしれない。



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