イラク情勢Watch vol.38 06年6月30日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)「自衛隊は連合軍の要」米空軍ニュースサイトが絶賛〜空自の活動に期待〜
3)日本のイラク支援者たち、ラマディ攻撃の停止を求める署名を始める
4)イラク人権団体が国連事務総長へ米軍の横暴を訴える


1)週間イラク報道Pick up

【06.6.29 毎日】サマワで無人偵察ヘリ墜落=警戒活動中、人的被害なし−統幕長

【06.6.28 共同】サマワ火力発電所で起工式 日本、支援継続を強調

【06.6.28 時事】陸自隊員骨折者さらに2人=2カ所の病院に搬送−イラク車両横転事故

【06.6.21 毎日】イラク自衛隊 空自は活動継続、北部空港にも輸送拡大

【06.6.20 徳島】「国際貢献の再検証を」 イラク陸自撤退で県内、派遣評価も

【06.6.20 ロイター】イラクに派遣した陸自撤収を決定=小泉首相

2)「自衛隊は連合軍の要」米空軍ニュースサイトが絶賛〜空自の活動に期待〜

報道されている通り、小泉首相は20日、自衛隊のイラクからの撤退を決定したが、撤退するには、サマワの陸上自衛隊(陸自)だけ。クウェートから南部バスラやタリル空港へと米軍の物資や兵士達を輸送していた航空自衛隊(空自)は今後も活動を続け、さらにバグダッドなどイラク中部へも活動範囲が拡大される。これはタテマエだった「イラク復興支援」からホンネの「米軍支援」へと、自衛隊のイラクでの活動がよりハッキリしたことを意味する。

そのホンネの部分は米空軍のニュースサイト「Air Force Link」にも現れていた。Japanese military key member of coalition(自衛隊は連合軍の要)と題された記事の中で、自衛隊の西野一等空佐は「 (この地において)大切な任務を、同じ目標つまり、イラクの安定化と再建をもった軍隊と行うことは、素晴らしいことです」と語っている。

      
       「Air Force link」のサイト

 同記事を書いた、ライアン・ハンセン三等軍曹(第386空軍遠征部隊広報部)も「米軍と共に自衛隊が初めて前線地域で活動することは両軍の隊員が良い関係を作る機会である」と語り、さらに同部隊司令官のティモシー・へール大佐も「自衛隊の協力は、テロに対する戦争に連合軍が勝利するための鍵です」と発言。「彼らの英雄的な人道的支援という任務は、この地域に平和をもたらすという決意を、何十もの国家が共有しており、イラク国民の心を勝ち取る戦いのため、それぞれ独自の能力を提供していることをはっきりと示すものです」と絶賛している。

これまでサマワの陸自に大きな被害が出なかったのは曲がりなりにも「人道復興支援」に専念していて「治安維持活動」には手を出さなかった(少なくとも掃討作戦は行わなかった)からだが、空自が米空軍と一体化する傾向が強くなる中で、イラクでの反日感情がさらに高まる恐れもある。

また、昨年1月バグダッド近郊で英空軍のC130輸送機(空自の使用しているのと同機種)が撃墜されているが、「前線地域」での活動はそうしたリスクがあることは否定できない。

3)日本のイラク支援者たち、ラマディ攻撃の停止を求める署名を始める

 高遠菜穂子さん達、日本のイラク支援関係の個人・団体で作る、イラク・ホープ・ネットワークは、25日、ラマディ攻撃の停止を求める署名を始めた。署名サイトは日本語、英語両方あり、国内・海外で署名を集めている。当コーナー編集人の志葉も呼びかけ人に加わっている。署名はこちら。

      
      英文署名のサイト

 以下、呼びかけ文を全文転載。
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ジョージ・ブッシュ米国大統領へ

「これ以上の殺戮をどうかやめてください」

 私たちは、米国政府に対し、イラク西部の町ラマディから兵を退き、これ以上の殺戮をただちにやめるよう要求します。ラマディはバグダッド西方に位置する人口40万人のアンバール州の州都です。

 米国が批准しているジュネーブ条約では、民間人に対する攻撃、殺人、傷害、虐待はジュネーブ条約の共通3条により禁止されています。この共通第3条は国際慣習法化されています。また、ジュネーブ条約第4条約では、以下のことを規定しています。

 16条 病人の保護
 18条 文民病院の攻撃禁止
 32条 民間人に肉体的苦痛を与える行為や虐殺を禁止

 ラマディの住民は以下のような状況に置かれています。また、ジュネーブ条約追加第一議定書に米国は締約国になってはいませんが、以下に指摘した規定は国際慣習法としての性格を認められており、仮に締約国になっていなくとも、国際法上許されません(以下、青文字は「ジュネーブ条約追加第一議定書」からの引用)。

● ラマディでは、ここ数ヶ月にわたり電気・水・食料・ガソリンスタンドなどのライフラインを断ち、人々の生活を困窮に落としいれています。これはジュネーブ条約追加第1議定書54条に違反しています。

 1 戦闘の方法として文民を飢餓状態に置くことを禁止する
 すなわち、住民の生活に必要不可欠なものを利用させないようにして、住民を飢餓に陥れることは、いかなる理由をもってしても禁止されています。

● 家々を襲撃し、屋上を占拠し、道行く人を狙撃し、米軍はラマディの街を恐怖と暴力で支配し続けています。これは、ジュネーブ条約追加第1議定書第51条に違反しています。
 2 文民たる住民それ自体および個々の文民は、攻撃の対象としてはならない。
   文民たる住民の間に恐怖を広めることを主たる目的とする暴力行為または暴力による   威嚇は、禁止する。
 4 無差別な攻撃は、禁止する。

 すなわち、無差別な攻撃とは、軍事目標と文民または民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有するものをいいます。過去、米軍は民家をミサイルで攻撃し、あるいは民家に押し入り住民を銃殺し、多数の民間人を殺傷しています。

● 米軍は検問と称して、病人さえも通ることを禁じています。このため、治療が間にあわず亡くなる住民が多数います。これは同条約追加第1議定書第10条に違反します。
 2 傷者、病者および難船者は、すべての場合において、人道的に取り扱われるものとし、また、実行可能な限り速やかに、これらの者が必要とする医療上の看護および手当を受ける。
 すなわち、いかなる場合も、住民の生命をおびやかす行為は禁止されています。

● 米軍は市内にある病院を攻撃の対象として住民が治療を出来ないようにしています。
  これは同条約追加第1議定書第12条に違反しています。
 1 医療組織は常に尊重され、かつ、保護されるものとし、また、これを攻撃の対象としてはならない。

      米軍はイラクでの占領を取材しているロイター通信社のイラク人記者を含む、イラク人ジャーナリスト7人を、確たる理由もなく逮捕・拘束しています。 これは同条約第1追加議定書第79条に違反します。
 1 武力紛争の行なわれている地域において職業上の危険な任務に従事する報道関係者は、第50条1に規定する文民と認められる。
 ジャーナリストも文民としての権利を有し、保護され、暴力行為または暴力による威嚇は禁止されています。

 かようにイラクにおける米軍の占領は国際条約上からみても、あらゆる面から許されるものではありません。

 今、ラマディの街には、貧しくて街を出ることが出来なかった人、交通手段を持たず出ることが出来なかった人、家を守るため、あるいは家族を守るために出ることが出来なかった人々が閉じ込められています。
 即刻米軍はラマディの街から占領軍を退き、ジュネーブ条約にのっとり適切な方法で住民と接することを要求します。

 米国政府およびイラク政府は2004年にも二度にわたりファルージャを攻撃し、多くの人々を殺しました。ファルージャだけではありません。過去3年間にアルカイム、ハディーサ、タルアファル、サマッラ、ナジャフ、バグダッドで、繰り返し繰り返し行なっています。
 私たちは何度このような殺戮を見なければならないのでしょうか。
 この間、亡くなったイラク人の数は10万人を越え、米兵は2500人を越えました。

米兵がイラク人を殺せば殺すほど、彼らは、米国政府とイラク政府を敵とみなし、レジスタンスが増えていきます。

米軍が敵とみなしているのはイラクの民衆そのものです。
人々を殺すことをやめ、平和的創造に向けて、その力を発揮してください。


                                                                  
2006625

団体:

イラク・ホープ・ネットワーク、BOOMERANG NET

個人:

相澤恭行、青柳行信、青井茉莉子、荒井眞理、上野白湖、大嶋愛、菊地邦夫、キンバリー・ヒューズ、 熊谷 宏 、郡島恒昭、郡山総一郎、小坂祥司、佐々木あきら、佐藤真紀、志葉玲、杉原浩司、攝津正、高瀬香緒里、高遠菜穂子、高橋建吉、田中泉、田口 敬三、田村祐子、千葉喬、利元克巳、中島 健、七尾寿子、 西方さやか、原 文次郎、布施祐仁、細井明美、山口たか、吉橋登志彦、

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4)イラク人権団体が国連事務総長へ米軍の横暴を訴える

 イラクの人権団体ネットワークである、「イラク人権監視ネット」は19日付けで、米軍によるイラク西部の都市ラマディへの攻撃をやめるよう介入することを求める手紙を公開した。以下、その内容を全文転載する。翻訳は永井愛弓さん。
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コフィ・アナン国連事務総長
ニューヨーク
2006年6月17日

謹啓

事務総長:
バグダッドから西に110kmの人口35万人以上の町ラマディにおいて、1ヶ月以上前から米軍が非人道的封鎖を行っています。軍は1ヶ月以上前から以下に述べる行為をもって市民に多大な苦しみを与えています。

1.町の電源を1ヶ月以上も絶ち、様々な公共事業の停止を招いています。

2.度重なる停電により浄水場の機能が停止し、その結果家々は飲料水を絶たれ、多くの市民は飲料に適していない水源を探すか、あるいはチェックポイントをすりぬけられる小型給水車から水を買うことを余儀なくされています。

3.町に石油や燃料が入ってくるのを防ぎ、町にたった一つ残されていた車両用のガソリンスタンドだけでなく主要な給油所も焼き尽くし破壊しています。

4.コンクリートのバリケードで町のほとんどの道路を封鎖することにより、市民生活を抑圧して町全体を大きな牢獄のように変えています。移動車両には一本の道しか残されていないため人々は移動することも働くこともできず、町全体が麻痺し、特に病人や老人が大きな被害を受けています。ご参考までに申し上げると、1年半以上前から町の出入り口にはチェックポイントがありました。

5.ファルージャの状況や、またシオニスト団体がパレスチナ人に対するのと同じように、親族が町に出入りするのに圧力やまた長い時間がかかっています。

6.武装した人々を差し出すか、そうでなければ集団処罰として町全体を爆撃して破壊する前に町を脱出するかを迫るちらしが巻かれています。また拡声器からは、人々を罵倒する言葉やスピーチとともに避難を要求する軍の声が流れています。

7.昼夜を問わず、基本的人権や人としての尊厳すら侵害するおぞましい手段を用いた侵入や逮捕が行われ、住居内にある私有財産が破壊されています。これまでの予想逮捕人数は今月だけでも350人以上にもなります。彼らには、町を出ることを拒否したという以外になんの容疑もありません。また、残りの家族を脅迫し、町を出ることを強制するよう逮捕され、人質に取られているのです。

8.軍事措置や病院の封鎖により医薬品や医療機器が著しく欠乏しています。

9.特に何台もの米軍用車両が人々を脅し、町を出ることを強いるために市民や私有地に向けて発砲した時を含む武装軍との衝突の際に多くの市民が誤って、あるいは意図的に殺害されています。

10.特に町で起こる断続的な衝突をはじめとするラマディにおける出来事について報道しようとしたことを理由に、7人のイラク人ジャーナリストが米軍に逮捕されました。そこにはロイター通信社のカメラマンであるアリ・アル・マシュハダニ氏、バグダーディ・アル・マナール新聞の通信員、そしてアル・ザウラ衛星チャンネルの通信員、他大勢のジャーナリストが含まれています。

11.スタジアム地区や20号線、他多くの場所で起こったように、戦闘員がいるという理由で戦闘員と一般市民を区別することなく多くの住宅区域が攻撃されています。

12. 軍事行動としての人々の集団移出は2006年6月2日に始まり、ラマディの人口の何千人もが近くの市町村に強制的に移動させられました。必要最低限の必需品や補助も与えられないまま、特に子供や老人が大きな被害を受けています。これまでヒートの町には500世帯が、クベイサの町には375世帯が、そして数え切れないほどの家族がジャジーラ・アル・ラマディ (砂漠)、アル・ザングーラ、アンナ、ラワ、カイムそしてファルージャの町に移動しました。

こういった軍事行動はすべて、米軍が今後予定しているラマディにおけるさらなる戦闘のための大規模な準備活動の一部なのです。

事務総長、誰でも国際人道法(ジュネーヴ諸条約)の一般的概念に目を通すと、市民と戦闘員を識別しないこと、文民たる住民に対する攻撃や無差別攻撃、そして文民たる住民の間に恐怖を広めることといった行為はテロ攻撃として禁止されていることがわかるはずです。(第1追加議定書第51条第2項、第2追加議定書第13条第2項)以下にあげる行為は、テロ攻撃とみなされ国際人道法により禁じられています。
 
1.文民たる住民それ自体及び個々の文民への攻撃(第1追加議定書第51条第2項及び第52条、第2追加議定書第13条)

2.軍事目標と文民又は民用物とを区別しない無差別な攻撃(第1追加議定書第51条第4項)

3.人質の抑留(第1追加議定書第75条、ジュネーブ諸条約共通第3条、第2追加議定書第4条第2項(B))

従って、単純に国際人道法と米軍とその支援軍が行っている行為を比較しただけでも彼らの行為はテロ行為と呼ぶことができ、世界の平和と安全に対する責任がある国際社会とその基盤、特に国際連合、国連人権高等弁務官、そして赤十字国際委員会の介入が求められます。

28の人権に特化した団体のネットワークである我々は、イラク政府がイラクの人々に対する虐殺、そして占領軍の犯罪の抑止に対して責任を持ち、平和を築く機会、そしてしっかりした国民和解や話し合いの基盤を達成するために、ファルージャや他の町でおこったような虐殺行為の繰り返しやさらなる暴力行為を生むだけのような脅迫や訴訟の乱用を防ぎ、前向きで平和的な話し合いを支持するよう要請します。

謹白

Muhamad T. Al-Deraji
イラク人権監視ネット(MHRI)ディレクター
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