イラク情勢Watch vol.39 06年7月13日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)陸自サマワ撤退、知日派のバグダッド市民の声
3)米兵が14歳少女をレイプ・殺害、家族も皆殺し〜イラクでの反米感情さらに高まる〜
4)売買されるイラクの子ども達


1)週間イラク報道Pick up

【06.7.13.ロイター】米陸軍、ハリバートンとの兵たん業務契約を打ち切り

【06.7.12.共同】「ああ、イラクを出た」 クウェートの陸自第1陣

【06.7.12.毎日】<イラク陸自撤退>「おおむね順調」後送業務隊長が会見

【06.7.11.共同】復興支援に約80%「満足」 サマワの住民千人調査

【06.7.8.共同】英軍宿営地狙い迫撃弾 サマワ、負傷者情報なし

【06.7.5.朝日】イラク首都周辺「殺し合い」激化 新政府は手を打てず




2)陸自サマワ撤退、知日派のバグダッド市民の声は

 陸自がサマワからの撤退を本格化させる中、バグダッドでは空自が活動の範囲を拡大していく予定されている。陸自撤退と空自の活動範囲拡大をどう観るか。日本のNGOのスタッフとして働くA氏(匿名希望)と、この5月下旬から6月半ばまで来日していたカメラマンのイサム・ラシード氏の二人に聞いた。

 A氏は「日本の軍隊(自衛隊)は他の国の軍隊とは違う。むやみに人を殺さないし、イラクの人々の生活を助けようとしている」としながらもこう述べた。「人道復興支援だろうが、なんだろうが、外国の軍隊にはもう帰ってもらいたい。外国の軍隊がイラクにいることがすべての問題の元凶だ」。

ラシード氏は「陸自ばかりが注目されるが、空自は米軍の兵員や物資を運んでいるので、より問題がある」と言う。「イラクで米軍が何をしているか、見てください。(女性や子ども24人が海兵隊に惨殺された)ハディーサの事件は本当に酷いものでしたが、あれは例外ではありません。あのような虐殺は頻繁に行われているものです」

     
    東京・文京区民会館で講演するイサム・ラシード氏

 もともと、バグダッドではサマワに比較して日本の自衛隊派遣に関しても「日本は何故米国に従うのか。ヒロシマ、ナガサキを忘れたのか」との批判的な声が多かった。空自のバグダッドへの活動範囲拡大はバグダッド住民の間では、まだあまり知られていないものの、バグダッド住民が知ることになれば、これまで以上に厳しい視線が日本に向けられることは間違いないだろう。




3)米兵が14歳少女をレイプ・殺害、家族も皆殺し〜イラクでの反米感情さらに高まる〜

 イラク駐留米軍当局は6月30日、米兵5人をバグダッド南方マハムディヤでイラク人女性をレイプし、女性を含む家族4人を殺害した容疑で捜査していることを発表。主犯格のスティーブン・グリーン被告(21)は既に除隊し、米国に帰国しているため、米連邦検事事務所は今月3日、グリーン被告を強姦殺人で起訴した。

 グリーン被告らは今年3月12日、アビール・カシム・ハムザ・アルジャナビさんの家を襲い、アビールさんの両親と6歳の妹を殺害した後、アビールさんをレイプした。その後、アビールさんを射殺し家屋に火を放ったのだという。米軍は事件後、「テロリストの犯行」と発表したが、先月24日から事件真相の調査を進めていた。また、アビールさんの年齢について、米軍は「20歳未満」としか明らかにしていないが、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、身分証明書に14歳と記されていたという。

         
         イラクでは以前から米兵がイラク人女性への性暴力の疑惑があった。
           写真はアブグレイブ刑務所での女性への虐待に抗議するオブジェ。



 このレイプ殺人事件は当然ながら、現地で激しい怒りを買っている。現地通信社「イラクの声」が6日付けの記事で伝えるところによると、地元部族のリーダーらはグリーン被告ら犯行に加わった米兵達の引渡しを求めている。ある部族長は、要求が応じられなかった場合、米軍やイラク政府への武力闘争を始めると警告した。

 またアルカイダとの関係が疑われる武装組織「ムジャヒディン評議会」は、10日、拘束していた米兵二人を「レイプ殺人への報復」として処刑、その映像をネット上で公開した。内容は米兵の遺体を踏みつけ、切断した頭部を手に吊るすといったもの。




4)売買されるイラクの子ども達

 IRIN(国連地域統一情報ネットワーク)は「Concern over reports of child trafficking」と題した先月29日付けの記事の中で、イラクの子ども達が人身売買の犠牲になっている実態を伝えた。

 IRINの記事によると、地元当局と現地支援関係者達は、イラクの子ども達が全国的に姿を消すという状況に懸念を表明したという。

「少なくとも週5人の子ども達が消えています」。子どもの失踪問題を追うNGO「イラク家族協会」の副議長オマール・カリーフ氏は語る。「そして実際の行方不明となった子どもの数は、イラク政府が公開していない統計よりも多いはずでしょう。いくつかのケースでは、近隣の国から欧州へ売られていったという情報もあります」。

 地元の調査とイラク家族協会が得た未確認の情報によると、欧州の中でもイギリスやオランダへ子ども達が売られていくケースが多いらしい。しかし、誰が何のために子ども達を買っていくのか、についての詳細な情報は得られていない。イラク当局は、イラク内部のブローカーと協力して子ども達を売買する国際的なマフィアの存在するのだという。

 子どもを探す家族達は、失踪の数週間後にイラク家族協会を尋ねてくることが多い。それは最初、警察に相談したが、多くの場合、警察は子どもを探し出すことができないからだ。「私の3歳の娘は武装した男達に誘拐されました」。バグダッド在住のサハル・イブラヒムさんは訴える。「私達はそれを誘拐だと思っていました。しかし、後日『子どもはヨーロッパの金持ちに渡した』という手紙を受け取ったのです」。

 イラク内務省の高官ファタハ・フセイン氏は「彼らが行方不明の子どもの親たちから、多くの苦情を受けている」と話す。「状況は大変複雑です。偽造された文書が使われている。子どものいない夫婦はイラクやアフガニスタンに目を向けます。なぜなら安いから。子ども達は最初5000ドルで売られ、その10倍の値段でさらに売られていきます」。

 いくつかの事例では、家族が金のために自発的に彼らの子どもを売っていた。「時に我々は、その親戚や友人から父親自身が子どもを売ったという主張を聞かされます」イラク家族協会のカリーフ氏は言う。「その場合、彼ら自身の決定ですので、我々は何もできません」。

 IRINがインタビューしたあるバグダッド在住の男性は「食べ物もないのにどうやって家族を養ってけるんだ」と語った。アブ=カラムさんは9人の子どもの父親で、子どもの一人を6000ドルで売った。「外国の子どもを欲しがる家族は支払いが良かったので、私達は子どもを売りました。彼はそこでよい生活を送るでしょう。このお金で他の子ども達も食べものにありつくことができます」。

 ユニセフは事態への対処のために、労働・社会福祉省との協議を始めた。「長期化し悪化する一方のイラク情勢は、市民の生活に多大な悪影響を与えています」。ユニセフ「イラクの子どもの保護」担当のパトリシア・ジョバンニ氏は語る。「子ども達は毎日、直接的・間接的に暴力にさらされているのです」。

*引用文はIRINからの資料であるが、これは必ずしも国連あるいは関連機関の見解を示すものではない。



バックナンバー

第38号 2006年06月30日
第37号 2006年06月12日
第36号 2006年06月01日
第35号 2006年05月20日
第34号 2006年05月09日
第33号 2006年04月28日
第32号 2006年04月18日
第31号 2006年04月07日
第30号 2006年03月28日
第29号 2006年03月16日
第28号 2006年03月07日
第27号 2006年02月28日
第26号 2006年02月15日
第25号 2006年02月06日
第24号 2006年01月27日
第23号 2006年01月20日
第22号 2006年01月07日
第21号 2005年12月24日
第20号 2005年11月30日
第19号 2005年11月24日
第18号 2005年11月15日
第17号 2005年11月07日
第16号 2005年10月31日
第15号 2005年10月24日
第14号 2005年10月15日
第13号 2005年10月09日
第12号 2005年09月30日
第11号 2005年09月21日
第10号 2005年09月12日
第09号 2005年08月30日
第08号 2005年08月22日
第07号 2005年08月14日
第06号 2005年08月05日
第05号 2005年07月30日
第04号 2005年07月22日
第03号 2005年07月12日
第02号 2005年07月05日
第01号 2005年06月29日