イラク情勢Watch vol.42 06年9月30日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)アルカイダと旧サダム政権の関係否定―米上院報告書―
3)高遠菜穂子さん、イラク西部ラマディ近郊の学校へ支援物資を送る
4)「イラク戦争でテロリスク増加」米機密報告書
5)外務省、「サマワ支援総括」を発表


1)週間イラク報道Pick up

【06.9.29 CNN】イランが数百万ドルの資金援助、イラクのシーア派組織に

【06.9.27 日経】イラク「自爆テロ件数が過去最高」・駐留米軍

【06.9.27 CNN】「イラク戦争で世界は危険に」とパキスタン大統領

【06.9.26 CRI】イラク各派、連邦制法案問題で進展を見せる

【06.9.22 日経】イラクの拷問「フセイン時代よりひどい」・国連人権理事会



2)アルカイダと旧サダム政権の関係否定―米上院報告書―

 今月8日、米上院情報特別委員会は、旧・サダム・フセイン政権の大量破壊兵器開発とアルカイダとの関係に関する調査報告書を公開した。報告書は「フセイン政権はアルカイダと協力関係にある」というブッシュ政権の主張を全面的に否定するもので、イラク戦争の大義がまたも覆されたことにより、ブッシュ政権への批判がさらに強まることは必至だ。

報告書は、アルカイダ側は、物質的支援や活動拠点設置などで協力を仰いだものの、原理主義を嫌い世俗化政策を進めてきたフセイン政権は協力要請を拒絶した、としている。また、フセイン大統領はアルカイダを脅威と見なし、オサマ・ビンラディン容疑者が信仰するイスラム・ワッハーブ派を非合法化し、取り締まっていたことも報告されていた。

さらに、元「イラク聖戦アルカイダ機構」のリーダーで、今年6月に米軍の攻撃(イラク軍の攻撃との説もある)で、死亡したアブムサブ・ザルカウィ容疑者についても、イラク開戦前にバグダッドに滞在していたものの、フセイン大統領はザルカウィ容疑者に協力するどころか、拘束しようとしていたことが明らかになった。

 ブッシュ政権は開戦前から「フセイン政権とアルカイダとの関係」について強調、国際社会への脅威だとして、イラク攻撃の大義名分としてきた。FOXなど保守的なテレビネットワークを中心に米国のメディアもこれに同調、ブッシュ政権が米国民の支持を得る上で、大いに貢献した。米世論調査会社や、テレビネットワークが実施した3つの最新の世論調査のうち、二つの調査で「フセイン政権は9.11事件に関与していた」と信じる回答者が4割を超える結果*となっている。

*「フセイン政権は9.11事件に関与していた」と応えた回答者の割合
ゾグビー社(06年9月1日〜5日に実施)46%
CNN(06年8月30日〜9月2日に実施)43%
CBS(06年8月17日〜21日に実施)31% 
 


3)高遠菜穂子さん、イラク西部ラマディ近郊の学校へ支援物資を送る

 イラク市民への支援を続けるボランティアの高遠菜穂子さんは、先月末から今年10日まで、イラク隣国ヨルダンに滞在、同国南部アカバ港で、この7月に名古屋港から船便で送った支援物資を受け取った。支援物資は現地学校の備品で、机と椅子800セット、黒板4つなどで、二つのコンテナに詰め込まれた。高遠さんは「日本とイラクの平和のために」と日本語とアラビア語で書かれたステッカーをコンテナに貼り、コンテナをイラク人ドライバーに託した。支援物資を詰め込んだ2台のコンテナは、今月11日、イラク西部ラマディ近郊の村に無事到着した。高遠さんが日本からコンテナを送るのは、今年2度目。

  

 イラク西部・中部は相変わらず米軍の攻撃が激しく、支援物資を送るのも容易ではない。慎重にルートを選ばない限り、せっかくの支援物資が米軍に破壊・炎上させられる恐れもある。危険を嫌い、イラク人ドライバーであっても、現地まで支援物資を送り届けてくれるドライバーを探すのは一苦労だ。また、現地武装勢力の検問もあるため、支援先の地域の出身のドライバーでないかぎり、運搬を引き受けてくれないことも多い。

 イラク西部・中部への支援のニーズは高まっており、特に病院での基本的な医療品の不足が深刻だという。ラマディやディヤラなどの病院では、注射針も事欠き、複数の患者がまわし射ちを余儀なくされている。そのため、患者が感染症で死亡することも起きているのだという。コンテナに次ぐ支援として、高遠さんは輸血用具セットをラマディの病院に送る予定だという。



4)「イラク戦争でテロリスク増加」米機密報告書

 米国政府は、26日、テロとイラク戦争の関係を分析した機密報告の一部を機密解除し、公開した。この機密報告では、「イラク戦争は、新世代のイスラム原理主義組織の誕生を助け、全体として9.11後のテロの脅威は増大した」と結論付けられていたことが、24日付けの米有力紙「ニューヨークタイムズ」によって報じられていた。
 
 報告書は「イラクが次世代のテロリストの重要な訓練地になっている」「テロネットワークはますます広がっている」と指摘。「このままの状態が続けば国内外での米国への脅威はより多様なものとなり、また世界規模で増加していくだろう」と警告している。

 こうした報告書の内容は、ブッシュ政権の「対テロ戦争によって世界は以前より安全になった」との主張を覆すもので、既にイラクでの泥沼化を批判されているブッシュ政権にとっては、さらなる打撃となりそうだ。



5)外務省、「サマワ支援総括」を発表

 外務省は今月、同省ウェブサイトで、「我が国によるサマーワ支援 総括と今後の展望」と題したPDF文書を公開した。同総括では自衛隊の活動と外務省によるODA(政府開発援助)により、

電力:県全体の総需要(200MW)の約1/3以上を供給(サマーワ大型発電所の完工後)
給水:県民一人当たり毎日5リットルの安全な飲料水を提供
保健・医療:サマワ母子病院での新生児死亡率が1/3減少
教育:県内全生徒数約12万人の約30%の教育環境を改善
輸送:約130qの生活道路を補修・舗装し、県民の日常生活の利便性を向上
雇用:県全体の推定失業者数約3.5万人に対し、一日平均3,500人の雇用を提供 
延べ191万人・日程度の雇用を創出

 したとして、「県民の基礎的な生活基盤が再建されつつあり、サマーワ市内は賑わいを見せ、経済活動が拡大」と成果を誇っている。

 しかし、同総括では、そもそも復興支援に自衛隊が参加する必要性があったのか、という点についての再検証はされていない。サマワを中心としたムサンナ州への支援のうち大半を占めたのは、自衛隊の活動ではなく、外務省のODAによるものだ。治安上、外務省の職員が現地で活動できなくとも、多くのNGOがそうしているように、イラク人職員を現地での調整役とすることもできたはずだ。

 同総括によると、サマワ等のムサンナ州支援に費やしたODAの総額は2億ドル。(約234億円。1ドル=117円で換算)。だが、自衛隊の派遣費用の総額は785億円にも上り、ODA総額をはるかに上回る(03〜06年の総予算。WORLD PEACE NOW調べ)。しかも、派遣費のうち、装備品(武器など)整備費209億円(27%)、運搬費134億円(17%)、手当128億円(16%)の3項目だけで471億円(60%)も占めている。学校の補修費が600万程度とされるから、自衛隊員の派遣手当(給与や他の人件費は別)だけで2,000校以上の学校を補修することができる計算となる。

 さらに同総括では、サマワ宿営地の引渡しについて、「宿営地を適正に管理・運営する能力等を勘案し、ムサンナー県の治安維持を担当するイラク陸軍第10師団に引き渡した」としている。だが、地権者の了解ない上、イラク治安関係機関が、一般市民の虐殺に加わっていることを考えても、この引渡しには大きな問題があると言えよう。



バックナンバー
第41号 2006年08月29日
第40号 2006年07月25日
第39号 2006年07月13日
第38号 2006年06月30日
第37号 2006年06月12日
第36号 2006年06月01日
第35号 2006年05月20日
第34号 2006年05月09日
第33号 2006年04月28日
第32号 2006年04月18日
第31号 2006年04月07日
第30号 2006年03月28日
第29号 2006年03月16日
第28号 2006年03月07日
第27号 2006年02月28日
第26号 2006年02月15日
第25号 2006年02月06日
第24号 2006年01月27日
第23号 2006年01月20日
第22号 2006年01月07日
第21号 2005年12月24日
第20号 2005年11月30日
第19号 2005年11月24日
第18号 2005年11月15日
第17号 2005年11月07日
第16号 2005年10月31日
第15号 2005年10月24日
第14号 2005年10月15日
第13号 2005年10月09日
第12号 2005年09月30日
第11号 2005年09月21日
第10号 2005年09月12日
第09号 2005年08月30日
第08号 2005年08月22日
第07号 2005年08月14日
第06号 2005年08月05日
第05号 2005年07月30日
第04号 2005年07月22日
第03号 2005年07月12日
第02号 2005年07月05日
第01号 2005年06月29日