イラク情勢Watch vol.43 06年10月13日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラク戦争/占領で「65万人死亡」英有力医学誌が統計調査を掲載
3)安倍首相「大量破壊兵器」を理由にイラク戦争支持を肯定
4)イラク人ブロガー、米海兵隊に拘束される
5)イラクで深刻化する女性や子どもの誘拐



1)週間イラク報道Pick up

【06.10.12 読売】バグダッドで武装集団がテレビ局襲撃、11人を射殺

【06.10.12 日経】イラク、連邦制法を可決・シーア派自治区容認

【06.10.11 IPS/JanJan】イラク:米国による集団処罰に怯える市民

【06.10.10 AP/ライブドア・ニュース】米外交政策のご意見番、イラク政策の転換を政権に提案へ

06.10.8 日経】イラク北部で掃討作戦・首都では51遺体見つかる

【06.10.7 朝日】イラク香田さん事件、消えた被告 初公判開けず



2)イラク戦争/占領で「65万人死亡」英有力医学誌が統計調査を掲載

 11日、英有力医学誌ランセット(電子版)は、「03年3月のイラク戦争開戦から今年6月までのイラク人犠牲者の数は、約65万5000人に達する」とする論文を掲載した。同誌
は04年にも開戦1年半で「犠牲者10万人」という推計を掲載したが、今回の調査結果はそれを大幅に上回った。

    

 調査を行ったのは、ジョンズ・ホプキンス大医学部のギルバート・バーンハム教授ら4人の米国とイラクの研究グループ。同グループは、今年5月20から7月10日にかけ調査を実施。イラク全国47地域でランダムに選んだ40世帯1万2800人を対象に、家族構成や、死亡者の数、死因などについてインタビューを行った。その結果、年間の1000人当たりの死亡率は、開戦前は5.5人だったのに対し、今年7月では、13.3人。この数値をイラク全体に当てはめると、イラク戦争開戦前に比して、65万4965人の人々がより多く亡くなった、という計算になるという。

 死因については、犠牲者の大部分である60万1027人が暴力によるものとされる。具体的には、「銃撃」が最も多く、全体の56%を占めた。続いて、「自動車爆弾やその他の爆発」が14%、「空爆」が13%だった。加害者は、「多国籍軍」が全体の31%、「その他」が24%、「不明」が45%だった。また、直接の暴力ではない死因で最も多かったのは、「心血管系の不全」で37%だったが、特に増加が顕著なものとしては「癌」(14%)があった。
 地域別に見ると、アンバル州やニナワ州など、特にスンニ派が多い地域で特に犠牲者数が多く、米軍・イラク軍による掃討作戦や、宗派間衝突の影響をうかがわせる。

イラク戦争/占領の被害者数をめぐっては、ブッシュ大統領は昨年12月の演説で「3万人前後」と語っているが、今回ランセット誌が掲載した論文が正しいとすれば、ブッシュ政権の推計より22倍近くの人々が犠牲になった計算になる。イラク情勢がますます混迷を極める中、イラク戦争/占領の大儀が、ますます厳しく問われることは必至だ。



3)安倍首相「大量破壊兵器」を理由にイラク戦争支持を肯定

  「対イラク武力行使が開始された当時、イラクに大量破壊兵器が存在すると信じるに足る理由があった。武力行使を支持したのは正しい決定だったと現在でも考えている」。安倍首相は8日、参議院本会議で小泉政権でのイラク戦争支持を改めて肯定した。伊藤基隆議員(民主)の質問に対する答弁。

 米上院情報特別委員会は先月8日、「少なくとも96年以降、サダム政権は全ての大量破壊兵器を破棄し開発計画も打ち切られた」「サダム政権とアルカイダとの結びつきもなかった」と、ブッシュ政権が主張したイラク戦争の大儀を完全に覆す内容の報告書を発表。伊藤議員は、この報告書についての見解を問いただしたが、安倍首相は無責任にも「報告書の評価についてコメントする立場にない」と逃げた。

 イラクの大量破壊兵器に関しては、ブッシュ大統領ですら、昨年12月14日の演説で「情報は誤りだったことが判明した」として間違いを認めている。



4)イラク人ブロガー、米海兵隊に拘束される
 
複数の米国人達とイラク人達とで、共同運営されているブログ*「ALIVING BAGDHAD(バグダッドに生きる)」に参加しているイラク人ブロガーが米海兵隊に拘束された。その理由はやはりブログ。イラク現地の状況を伝えようとしたからだった。

このイラク人ブロガーは、イラクの中でも最も米軍の掃討作戦の激しいアンバル州に在住。この間の米軍の攻撃による現地市民の被害を、ネットを通じて訴えていた。彼を米軍が拘束したのは、先月27日。深夜2時に米軍の海兵隊が家に押し入り、「家宅捜索」を行った後、イラク人ブロガーとその兄弟も拘束した。

手を縛られ、目隠しされた状態で、イラク人ブロガーは海兵隊の基地に連行された後に、米軍の刑務所へ収監された。そこでの取調べ官は、ブログを印刷したものを見せ、ブログの内容についての尋問を行ったのだという。

イラク人ブロガーは12日間拘留された後、解放された。彼は今回の体験に関して、「私のブログを温厚な米国人だけではなく、海兵隊達も見ていることは重要なことだ。彼らには私達が直面している地獄を観てもらう必要があるから」とコメントしている。拘留中、海兵隊員の中にも好意的で、ブログの内容を評価する者がいたからだ。

 しかし、今回の拘束は、深刻な言論弾圧であり、米国の掲げる「イラクの民主化」にも反することだ。

用語:ブログとは、個人やグループで運営され、日々更新される日記的なWebサイトの総称で、「ウェブログ」の略が語源とされる。ブロガーとはブログを運営している人のことを指す。従来の日記サイトに比べ、時事問題や専門的なトピックスに関して、批評や分析、議論を行う場としての色合いが濃い。有名な「バグダッド・バーニング」などイラク人が運営するブログも多く、現地の生の情報をネットから世界に発信している。



5)イラクで深刻化する女性や子どもの誘拐

 独立系メディアのIWPRは、10月4日付けの記事の中で、犯罪者グループによる女性や子どもの誘拐が一層深刻になっている状況を報じた。

 バグダッドのギャング達にとって、女性や子どもの誘拐は割のいいビジネスとなってしまっている。彼女らは、男性達と異なり銃を持っていないことが多いため誘拐が簡単で、特に女性や女の子の場合は彼女の名誉に傷がつくことを恐れ、家族はすぐに身代金を払うからだ。被害者は特に裕福な家庭の人々に多いが、最近は一般家庭の人々ですら、誘拐の対象になることが多いのだという。

 誘拐はまた人身売買目的としても行われる。バグダッド南部のドーラ地区で、警察が犯罪者グループの拠点を急襲した際、誘拐された女性二人と偽造パスポートが発見された。これは、被害者を海外に売りさばくつもりだったと観られる。現地の女性団体「女性の自由機構」は、「今やイラク人女性は“安く、また交換価値のある商品”になってしまった」と危惧している。

 「女性の自由機構」によれば、わかっているだけでこの3年間に約2000人の女性が誘拐された、としているが、これは控えめな数字だろう。というのも、誘拐事件が起きた時、家族は誘拐された被害者に危険が及ぶのを恐れ、警察に通報しないケースが多いからだ。

 イラクでの犯罪増加の理由の一つとして、サダム政権崩壊直前、多くの囚人が恩赦で解放され、或いは自力で脱獄したり、米軍によって釈放されたりしたことがあげられている。
 また、誘拐ビジネスには旧サダム政権の関係者が絡んでいるという見方もある。旧サダム政権関係者は誰が土地や店を持っているか等の個人情報を持っているからだ。

注:IWPRの記事には触れられていないが、現地人権団体からは、イラク治安当局が誘拐と身代金要求を行った、とする事例がいくつも報告されている。





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