イラク情勢Watch vol.45 06年11月07日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)サダム・フセインに死刑判決〜イラク情勢への影響無し、法廷の公正さに疑問視も〜
3)米軍人むけ新聞4紙がラムズフェルド国防長官の辞任を主張
4)停戦合意後も続く宗派間衝突〜キルクークではスンニ、クルドの戦闘も

1)週間イラク報道Pick up

【06.11.07 東京】 空自のイラク派遣延長へ 特措法期限の来年7月まで

【06.11.06 共同】拉致、殺害が日常化 無政府状態のイラク

【06.11.06 北海道】イラクへ自衛官出発 第7師団から連絡調整役で

【06.11.04 CNN】刑務所虐待で処罰の米軍兵士が再度イラクへ、帰国命令

【06.11.04 東京】国内外避難民340万人 イラク、国連が懸念

【06.11.03 読売】自衛隊のイラク支援「評価」71・5%…内閣府調査


1)サダム・フセインに死刑判決〜イラク情勢への影響無し、法廷の公正さに疑問視も〜

 旧フセイン政権の罪を裁く「イラク特別法廷」は、5日、1982年にイラク中部ドゥジェイル村でシーア派住民148人を虐殺したとして、「人道に対する罪」を問われていたサダム・フセイン元大統領に対し、死刑判決を下した。ブッシュ大統領は、「サダム・フセイン(元大統領)を打倒するというわたしの決断は、正しい判断だった。世界はより安全になった」
と絶賛。イラク問題のために、米中間選挙での共和党の劣勢が伝えられる中で、自らの実績をアピールした。

       

・イラク情勢への影響無し

 混迷するイラク情勢はブッシュ大統領率いる共和党には大きな逆風だ。5日の米メディア各社の世論調査によれば、「共和党支持」は45%なのに対し「民主党支持」は51%。民主党は下院では12年ぶりに過半数を取ることは確実視され、上院も制する可能性すらある。
ブッシュ政権としては、フセイン元大統領の死刑判決を「イラク民主化の成功」と位置づけ、中間選挙での巻き返しを図りたいところだが、今回の判決がイラク情勢に与える影響は小さいだろう。大統領の出身地である、ティクリートでは一時的に米軍との衝突が激しくなるだろうが、その他の地域で米軍と交戦している武装勢力は、そのほとんどが自分たちの地域から米軍を追い出そうとする地元抵抗勢力であり、フセイン元大統領のために戦っている訳ではない。また、米軍の駐留に加え、なおも続く宗派間衝突こそが深刻な問題だ。元大統領の死刑判決は、現在のイラク情勢の中での意味はほとんどない。

・法廷の公正さに疑問視も
 ブッシュ大統領はフセイン元大統領の裁判を「暴君による支配を法の支配にかえるイラク人の努力のなかで画期的な出来事だ。(判決は)若いイラクの民主主義と政府にとって、偉大な成果だ」と誇り、安倍首相も、6日、記者団に対し、「イラクにおいて法律の支配のもとに公正な裁判が行われたと認識している」と評価した。だが、法廷の独立性と公正さに関して、アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体から問題視する声も上がっている。最初の裁判長は「法廷へのイラク政府からの過剰な干渉」を理由に辞任。また「フセイン元大統領に同情的」と見なされた裁判官は追放された。さらに被告側の弁護士や証言者は、護衛をつけるなどのセキュリティー確保の対策が講じられず、裁判中、三人が暗殺されている。アムネスティ・インターナショナルは、6日、「被告の罪の大きさに関わらず、裁判は公正・公平に行われるべきだ」と声明を発表している。



2)米軍人むけ新聞4紙がラムズフェルド国防長官の辞任を主張

 今月4日、「アーミー・タイムズ」「エアフォース・タイムズ」「ネイヴィ・タイムズ」「マリンコープス・タイムズ」の四紙は、そろってラムズフェルド国防長官の辞任を主張する社説を掲載した。これらの新聞は独立した新聞社が発行するもので、購読契約をしている読者や、世界中の米軍キャンプ内の売店へ配布されている。米軍の公式見解ではないものの、ブッシュ政権のイラク政策への批判に拍車をかけることになりそうだ。

 四紙は、「米国はイラクの軍と警察を訓練すれば米軍のあとを引き継ぐことができると見積もってきたが、イラクの分裂は手の施しようがなく、米国の目論見は失敗であることは否定しようがない」「ラムズフェルドは制服組指導層の、兵士らの、議会の、そして広く国民一般の信頼を失った。彼の戦略は潰えた。彼にもはや指導力はない。イラク戦失敗の責任は長官にこそあるというのに、その結果を現地で身に引き受けさせられるのは兵士らなのだ」と厳しく批判。中間選挙の結果に関係なく、ラムズフェルド国防長官はその座をさるべき、と主張している。 

 ここ最近、米国では、対イラク政策に関する機密文書が相次いでメディアにリークされることが起きるなど、米軍や米政府関係者の間に、ブッシュ政権のイラク政策に対して批判が高まっていることと関係していると思われる。今回の四紙の社説も米軍内の不満を反映したものと見られる。ブッシュ大統領は、残る任期の間、ラムズフェルド国防長官を軍のトップに置くことを明言しているため、軍内部の不満はますます高まりそうだ。



3)停戦合意後も続く宗派間衝突〜キルクークではスンニ、クルドの戦闘も

 先々週25日のイラクの独立系ネット新聞「アザマン」は、20日のスンニ、シーア両派指導者による停戦合意後も続いている状況を報じた。同紙記事によれば、停戦合意後、たった2日後に衝突は再開、9人が死亡、12人が負傷したという。争いはバグダッド〜ティクリート間の地域で行われ、ロケット弾や手榴弾が使用されているという。また、モスルやキルクークといった街ではスンニ派とクルド人との戦闘も行われ、各部族のリーダー達もこうした衝突を止められないのだという。

 キルクークはイラク最大の油田のある地域にあり、旧フセイン政権時代、クルド人が強制移住させられ、18万人が虐殺されたとされている。そのため、クルド人勢力はキルクークのクルド人自治区の帰属を求めているが、石油利権を独占されることにスンニ派勢力は警戒感を抱いている。
 

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