イラク情勢Watch vol.53 07年6月6日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)【解説】「反戦の母」はなぜ、米平和運動と“決別”したか
3)イラク支援NGO・個人、3年間の支援額をまとめる
4)JIM-NET イラク人医師を招聘
5)悪化するイラク情勢と避難民の状況―国連スポークスマンが訴える
6)【お知らせ】本コーナー編集人の新著が出版されました


1)イラク関連報道Pick up


【07.6.5 CNN】不明2米兵のIDカードを公開 イラク武装勢力ビデオ

【07.6.4 共同】治安掌握わずか30% イラク首都圏、米軍に誤算

【07.6.4 東京】イラク戦に議論集中 米大統領選 各候補、違いアピール

【07.6.4 BNN】イラク特措法の延長審議に潜む空自輸送機の「危険な空域」

【07.6.3 AFPBBNEWS】英国防省、1年以内のイラク完全撤退とアフガニスタン増派を検討

【07.6.2 時事】半永久的なイラク駐留模索=「在韓」型モデル、地位協定締結も−米



2)【解説】「反戦の母」はなぜ、米平和運動と“決別”したか

 テキサス州黒フォードにある大統領の別荘前で座り込み等の反戦運動で知られるシンディ・シーハンさん(49)は、先月28日、リベラル系サイト「デイリー・コス」内のブログで、米反戦運動との決別を表明した。シーハンさんは、イラクで戦死した米軍兵士ケーシー・シーハンさん(享年24)の母親で、その抗議行動は米メディアでも大きく取り上げられ、「米反戦運動の顔役」を自認していた。
 だが、先の中間選挙で民主党が大勝したにも関わらず、同党がブッシュ大統領の弾劾を行わないこと、撤退期限を盛り込まないイラク戦費の拠出を同党が認めてしまったこと。さらに同党をかばおうとする米リベラル層への不満が爆発した模様だ。

                   
                シーハンさんの著書『ピース・マム』

 シーハンさんが、米平和運動との決別を宣言した、28日のブログのタイトルは、「“目立ちたがり屋の売女”のいい厄介払い」という刺激的なものだった。シーハンさんは、ブログの中で共和党のみを批判している間は反戦運動のヒロイン扱いだったが、イラクからの米軍撤退で煮え切らない民主党を批難した途端に、それまで彼女を支持していたリベラル層からも「目立ちたがり屋の売女」と罵倒されたことに消耗した、と書いている。
 米平和運動を支えるリベラル層の多くは、民主党の支持者であるため、同党を批判したシーハンさんへの共感を失い、敵意すら持つようになったと見られる。

 先月25日、米上下院では、イラクやアフガニスタンへの駐留経費として1000億ドルを追加する、今年度の補正予算案が可決された。当初、民主党はイラクからの米軍撤退期限を盛り込むよう、要求していたが、譲歩の姿勢を見せないブッシュ政権に屈したかたちとなった。
 米世論でブッシュ政権への批判が高まっている最大の理由は、イラクの一般市民が殺されているからではなく、米兵の死者・負傷者数が増加しているからである。シーハンさんの活動が全米で反響を呼んだのも、イラクに送られた息子を亡くしたことへの同情論からだ。つまり、「戦費の拠出を止め、イラクにいる米兵を危機にさらす」ことを批難され、悪者扱いされることを、民主党の指導部たちは恐れたのである。
 民主党は「今後もイラクからの撤退を求めていく」としているが、ブッシュ政権としては絶対に譲れない点を死守して戦費を獲得したことで、当面の勝利を収めたと言える。 
 
 米軍のイラクからの即時撤退を訴えていたシーハンさんは民主党の譲歩に大きく失望し、「もしこの腐敗した『二大』政党制に代わるものを見つけなければ、米国の民主主義は死ぬでしょう」とブログに書いている。
 ただ、ブログの文脈からすると、日本の多くのメディアがシーハンさんが「引退」「活動停止」したと書いたことは、正しくはない。ブログには、「これからも米国に苦しめられている人々を救う活動は続ける」「ただし、米国の枠の外で」と書かれている。
 米国のリベラル層には、人気取りのために軸がぶれる民主党に愛想を尽かしている層もかなりいるため、今後、これらの民主党に批判的なリベラル層とシーハンさんが連携していく可能性はあるだろう。



3)イラク支援NGO・個人、3年間の支援額をまとめる

 
イラク支援を行っている10団体2個人は、03〜06年に行った支援額をまとめた。支援データは愛知県豊橋市でのイベント「イラクに咲く花」で公開された。



 3年間の合計額は約3億2340万円。内訳は、がん・白血病の薬の供給など、医療関係が最も多く、約2億5198万円(77.9%)。次がファルージャなど米軍の攻撃を受けた人々への緊急支援約1821.9万円(5.6%)。以下、教育福祉関係が約1594.7万円、施設の整備・再建が約1065.5万円(4.4%)、生活基盤関連が約1027万円(2.5%)。

 主な支援先は、バグダッド、ファルージャ、ラマディ、バスラなど。これらの地域は、イラクでも最も支援を必要としている地域でもある。小泉前首相は「自衛隊だけがイラク支援を行える」と主張していたが、日本のNGOや個人は、サマワのみでしか活動できなかった陸自と異なり、最も必要する地域への支援を続けている。

 「イラクに咲く花」に参加している団体・個人は以下の通り。

JIM-NET、
セイブイラクチルドレン札幌、
セイブ・イラクチルドレン・名古屋、
セイブ・ザ・チルドレン・広島
高遠菜穂子
日本国際ボランティアセンター
PEACE ON
NO DU ヒロシマ・プロジェクト
ピースボート
BOOMERANG NET
細井明美
沖縄平和市民




4)JIM-NET イラク人医師を招聘

 
イラクの白血病やがんに苦しむ人々への医療支援を行っている日本イラク医療支援ネットワーク(JIM−NET)は、同団体と協力するイブラヒム・ニーマン・ムハンマッドさんの招聘を発表した。イブラヒムさんはイラク南部バスラで、院内の学校の先生をしながら、薬の運搬など、医療支援プロジェクトにも関わっている。イブラヒムさんは8月10日から約一ヶ月、日本に滞在する。JIM−NETでは、スピーキングツアーの受け入れ先と来日経費のカンパを募集している。

     

以下、JIM―NET 佐藤真紀さんのメールより。
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バスラの院内学級のイブラヒム先生を日本によぼう!

8月10日−9月10日までの一ヶ月

イラクではがんの子どもたちが増えています。しかし、病院には、薬が不足。治安の悪化と物価の上昇で病院にすら通えない子どもたちも多く、折角続けてきた治療を断念する子どもたちもいます。イブラヒムさんは、イラク人のJIM-NETローカルスタッフ。院内学級で子どもたちに、算数やアラビア語、お絵かきを教えてきましたが、残念ながら子どもたちが亡くなっています。今では、より多くの子どもを助けようと、薬の調達、貧困家庭の子どもたちを病院に連れてきたりとバスラを走り回っています。そして、子どもたちを失った遺族の相談にのるのもイブラヒムの仕事です。
今のイラクは一体どうなっているのか、子どもたちはどうなのか。直接話してもらおうと、この夏、イラクからイブラヒム先生をよんでのスピーキングツアーを企画しました。ぜひ皆様のご支援、ご協力をお願いします。そして、一人でも多くの子どもたちが助かるように、イラクの病院の支援につなげましょう。


1.カンパ、賛同
交通費、宿泊など、約50万円が必要になります。あまった場合は、バスラの院内学級の費用や、病院にいけない子どもたちの交通費に使います。

必ず振込用紙に「イブラヒム」とお書きください。
振り込み先:郵便振替口座:00540-2-94945  口座名:日本イラク医療ネット

2.スピーキングツアーの受け入れ先を探しています。
イブラヒムと通訳一名の交通費と宿泊場所、謝礼をご用意願います。

3.ボランティア募集
アラビア語通訳や、アテンドなどボランティアを募集します。


○イブラヒム先生のプロフィール
イブラヒム・ニーマン・ムハンマッド

1970年 イラクのバスラ生まれ
1999年イエメンにUNICEF から先生として派遣
2001年には、ファートマが生まれる。
 
イラク戦争が始まり、帰国できず、2003年12月には、イラクに戻り、妻ミリアムが双子を妊娠したが、白血病にかかる。ニューマン基金の支援をうけ、ヨルダンで治療が認められた。帝王切開で生まれてきた子どもは2人とも500g前後。その後、ミリアムは化学療法、骨髄移植を受けるも2005年一月に他界。
 イブラヒムはヨルダンでJIM-NETに出会いスタッフになる。バスラの産科小児科病院の院内学級の先生として働く傍ら、薬の調達などで活躍中。戦火の中でも3人の子どもたちは元気に育っている。

問い合わせ先
担当:佐藤真紀 090-54122977 (6月6日〜6月28日まではヨルダンに出張しますので e-mail か松本事務所にお問い合わせください)
JIM-NET松本事務所
電話 0263−46−4218
ファクス 0263−46−6229
e-mail tokyo@jim-net.net




5)悪化するイラク情勢と避難民の状況―国連スポークスマンが訴える

 6月5日、国連難民高等弁務官室のスポークスマンのジェニファー・パゴニス氏は、ジュネーブで会見を開き、依然、イラク国内外に避難民が流出し続けていること、多くの避難民が食料にも事欠き、医療サービスも受けられていないことを発表した。

 パゴニス氏の発表によれば、イラクから避難を余儀なくされた人々は約200万人、イラク国内の避難民も約220万人いると推計される。全体の85%がイラク中部・南部からの避難であり、その多くがバグダッドとその周辺からの避難民だ。昨年2月以来、約82万人が追放されており、その中には行く場のない1万5000人のパレスチナ難民も含まれている。
世界食糧計画(WFP)と国連イラク支援ミッション(UNAMI)によれば、国内避難民の47%が公共サービスとしての食料配給の恩恵を被れていないという。

 国外に逃れた難民の詳細については、シリアでの状況しかわかっていないが、今年初めから登録された8万8447人のうち、半数以上の47000人は、特別な支援を必要するという。彼らのうち約4分の1は、拷問の被害者であるなど、イラクに送り返されないよう、難民条約における法的な保護を受けるべきだとしている。また2割弱の難民達が身体に重大な問題を抱えており、医療サービスを受ける必要があるという。

 こうした事態に対し、UNHCRとしては、今年末までにイラク国内30万人の避難民に対しての基本的な支援や、シェルターを提供、50万人の国外難民に、食料支援や基礎的な医療支援を行う計画だそうだ。



6)【お知らせ】本コーナー編集人の新著が出版されました

 本コーナー編集の志葉玲の新著が今月2日に社会批評社から出版されました。
イラク、レバノン、アチェなどの現地取材をまとめたものです。
是非ご一読いただければ幸いです。

『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』
(志葉玲 著/社会批評社)

   

プロローグ
第1章 米軍拘束事件
第2章 サマワ自衛隊
第3章 ファルージャの虐殺
第4章 地獄と化したイラク
第5章 米軍の虐待と拷問
第6章 橋田・小川さん襲撃事件
第7章 激戦地レバノンを行く 
第8章 インド洋大津波の地・アチェ
第9章 難民鎖国ニッポン  
エピローグ  

より詳しくはこちら↓
http://reishiva.jp/news/?id=1181


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