イラク情勢Watch vol.58 07年9月30日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)市民団体がイラク戦争への転用の証拠を入手〜テロ特措法による自衛隊の海上補給
3)イラク西部ラマディ、米軍と武装勢力の停戦続く
4)米NGO、在イラク米国大使館建設での人身売買を告発
5)米軍狙撃兵による「囮射撃」―米国防総省による指示


1)イラク関連報道Pick up


【07.9.30 AFP】米軍、イラクにおける民間人の犠牲者に遺憾の意

【07.9.28 CNN】作戦開始後の死亡者が3800人に、イラク駐留米軍

【07.9.28 cinemacafe.net】アンジェリーナ・ジョリー「イラク戦費の数時間分で15万人の子供が学校に通える」

【07.9.27 CNN】バグダッドでコレラ死者、イラク国内で12人目

【07.9.26 時事】来年度戦費、22兆円に増加=米

【07.9.22 CNN】イラクへの武器密輸疑惑が浮上、米警備会社の従業員に



2)市民団体がイラク戦争への転用の証拠を入手〜テロ特措法による自衛隊の海上補給

 平和に関する市民系シンクタンク「ピースデポ」は20日、緊急記者会見を開き、テロ特措法に基づく海上自衛隊からの給油を受けた米軍艦隊の一部が、アフガニスタンでの作戦ではなくイラク戦争に参戦していたという、米軍の公文書を得たと報告した。テロ特措法は、あくまでアフガニスタンでの作戦に従事する艦隊への補給を規定しており、イラク戦争に参加する艦船への補給は、テロ特措法違反となる。

      
       多国籍軍への海上補給の様子 海上自衛隊のHP

 今回、ピースデポが得た資料は、米給油艦ペコス、米イージス巡洋艦カウペンスの航海日誌、米空母キティホーク(CV63)の航海日誌と、2003年司令官年次報告。これらの公文書に、自衛隊補給艦「ときわ」から給油を受けたペコスが、カウペンスとキティホークに給油したことが記されている。また、カウペンスとキティホークの両艦が、そのままペルシャ湾に向かい、イラク戦争に参加したことが明らかになった。特にキティホークに関しては、年次報告の中で対アフガニスタン作戦である「不朽の自由作戦」の名前は登場せず、同艦が参加したのは「南方監視作戦」(イラク南部を監視)、「イラクの自由作戦」(イラク戦争)という言葉が明記され、最初からインド洋ではなくペルシャ湾での活動だったことが明らかになった。

 この問題は、30日午前のテレ朝での討論番組でも指摘され、町村官房長官は番組の中で「事実であれば、(日米)両国の了解とは違う形で使われたことになる」として、テロ特措法の趣旨に反すると認めた。また、「実態を調べた上で、改めて考える」として、米国防総省への照会などで事実関係の確認を行うとした。 


3)イラク西部ラマディ、米軍と武装勢力の停戦続く

 
イラク支援ボランティアの高遠菜穂子さんに、現地協力者が伝えたところによると、イラク西部ラマディでは現在も米軍と武装勢力との間の停戦状態は続いており、治安は比較的良いという。今月13日、停戦派の部族長アブドルサッタール・アブリーシャ氏がアルカイダ系武装勢力によると見られる爆破テロで殺害され、停戦の行方が危ぶまれていた。

       
         高遠さんのブログ「イラク・ホープ・ダイアリー」

 ラマディ市は、バグダッドから西へ100キロ程にある都市で、イラク西部アンバル州の州都。開戦以来、米軍と地元武装勢力との間で激しい戦闘が続いていたが、両者共に疲弊してきたこと、市民の被害が大きく街が荒廃してきたことから、今年の春くらいから、停戦を模索。アルカイダ系の武装勢力はあまりに凶暴で、ラマディ市民も辟易していたことから、地元部族勢力がアルカイダ系の取り締まりを行うことで、米軍と地元部族の間で合意がなされた。しかし、これに対してアルカイダ系勢力は不満を募らせ、アブドルサッタール氏殺害に至ったと見られる。
 
 高遠さんは、彼女のブログ「イラク・ホープ・ダイアリー」の中で、「この状態を手放しで喜べるかというとそうでもありません」と指摘。「この先に待っているのは、恒久的な米軍基地、新たに見つかったアンバール州の油田や天然ガスなどの資源など一筋縄ではいかない問題は少なくありません。そしてアメリカとしては来年の大統領選挙に向けて、イラクでのモデル地域をなんとしてでも作り出したいという思惑もあるでしょう」と分析する。   
一方で「いずれにせよ、掃討作戦がない、戦闘がない、死傷者が出ていないというのは奇跡のようなこと」とも評価。現在、ラマディでは地元市民による復興事業が進んでおり、この春に高遠さんらの招きで来日したカーシム・トルゥキ氏も活躍しているという。



4)米NGO、在イラク米国大使館建設での人身売買を告発

 米企業監視NGO「CorpWatch」は、そのウェブサイトで、在イラク米国大使館建設事業で、アジア人労働者達が行く先も知らないまま、イラクへ連れて行かれ、働かされている、と告発した。

 CorpWatch の報告によると、ハリバートン/KBRの下請けとして受注している業者達が、インドやフィリピン、ネパールなどからの労働者をイラクへ密入国させ、劣悪な労働条件で働かせ、病気や怪我をした者に対して、まともな医療を受けさせていないことを、内部告発者の話として紹介した。イラク隣国クウェートに集まるアジアからの労働者達は、行く先がイラクだとも伝えられないまま移送され、現地でパスポートを取り上げられるために、帰国することもできないのだという。

 こうした「人身売買」の被害者は数千人にもなるが、米国防総省はこれが違法行為だと知りながら、業者を処罰することもないという。


5)米軍狙撃兵による「囮射撃」―米国防総省による指示

 
24日付けの米紙ワシントン・ポスト紙は、「米狙撃兵はプラスチック爆弾や弾薬、爆発コードなどを道端に置き、拾おうとしたイラク人を無差別で射殺している」と報じた。同紙によると、これらを拾おうとする者は、それを米軍に使うと狙撃兵達は決め付けており、またこれは米国防総省による指示でもあるという。

 だが、これまでも間違って罪の無いイラク市民を殺害してしまった場合、米兵達は亡骸のそばにAK47(現地武装勢力が好んで使う自動小銃)を置くなど、「殺されたイラク人は武装勢力」との偽装を行っている。したがって、今回の「囮作戦」は、ただ興味を持って拾っただけの人々をも無差別殺す可能性がある上に、市民殺害の責任を回避するための偽装に使われる恐れもある。




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