イラク情勢Watch vol.59 07年10月31日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)【論説】シーレーン危機管理のためにも、米軍艦隊への給油は続けるべきではない
3)緊迫するトルコ・イラク情勢
4)高まる民間軍事企業に対する批判、擁護する米国
5)モハマド君基金の支援物資、空自が輸送〜日本のイラク支援者の間には戸惑いも
6)劣化ウラン兵器禁止を求める国際行動デー集会



1)イラク関連報道Pick up


【10.31日経】高村外相、海自撤収「ものすごい衝撃」

【10.31 沖縄タイムス】非軍事支援、検討の時だ

【10.30 時事】イラクのクルド自治政府を非難=PKK掃討作戦継続−トルコ

【10.30 CNN】米軍准将が爆弾で負傷、拉致被害者は一部解放か イラク

【10.29 ロイター】トルコ軍、武装ヘリで南東部のクルド組織の拠点を爆撃

【10.27 ロイター/朝日】米国各地で反戦デモ、イラクからの即時撤退求める

【10.25 日経】対テロ戦争経費、2兆4000億ドル・米、17年度まで試算


2)【論説】シーレーン危機管理のためにも米軍艦隊への給油は続けるべきではない


 イラク戦争へ参戦した空母や戦艦にも海上自衛隊による給油が行われたことが問題となっている。防衛省による給油量の隠蔽疑惑や、航海日誌の廃棄などもあり、インド洋上の給油活動継続への批判は高まるばかりだ。

    
    
補給船「とわだ」 海上自衛隊のHPより

 これに対し、与党の政治家や保守的なメディア・論客からは「日本は原油輸入の9割を中東に依存している。タンカーが行き来するシーレーン(海路)の安全確保は、日本にとって死活問題。日本籍タンカーの安全を守る上で、多国籍軍の協力は不可欠であり、給油継続は絶対必要」とする主張している。中でも産経新聞は、04年4月に日本のタンカーがペルシャ湾で襲撃を受けた事例を紹介、多国籍軍の保護を得るために給油が必要と訴える(「【やばいぞ日本】第3部 心棒を欠いている(1)」9月27日付の記事)。ブログなどネット上の意見を見ても、給油継続を支持する人々は、この産経新聞の記事を引用している人が少なくない。

 そもそも、テロ特別措置法は、9.11事件を契機とする米軍によるアフガニスタン侵攻「不朽の自由作戦」を支援するため立法されたものであり、「シーレーンの安全確保のため」というのは、アフガニスタン情勢が一向に安定しない中での議論のすり替えであろう。しかし、あえて「シーレーンの危機管理」という視点から語るにしても、多国籍軍、特に米軍への給油活動が、本当に日本籍タンカーの安全に寄与するものかは、疑問がある。

 前出の産経新聞の記事の要旨は、04年4月、イラク南部バスラ沖で、多国籍軍と不審船との戦闘があり、日本郵船の超大型タンカー「高鈴」も銃弾を被弾するなどの被害を受けた。タンカー警護のために海自を派遣できない日本は、多国籍軍に依存しており、インド洋上での多国籍軍への給油活動を停止することは、「信義にもとる」というもの。一見、一定の説得力があるように思えるかもしれないが、給油継続やその他の対米追従は、むしろ、日本人の安全を脅かすリスクでもある。

 かつて、日本は中東では非常に親しまれていた国であり、以前であれば日本の国旗を大きく掲げていれば、タンカーは攻撃されなかったかもしれない。だが、イラク戦争支持や自衛隊の派遣などで、中東における日本のイメージは急落、「米国の犬」とまで罵られるまでになった。「高鈴」が襲撃された04年4月は、イラク中西部ファルージャでの無差別虐殺が行われ、反米・反日感情が一気に高まった時期でもある。この時期は、人質事件に関連して、小泉首相(当時)ら日本政府関係者の言動は中東でも大きく報道され、それによる反発も高まっていた。「高鈴」襲撃事件もイラク南部バスラ沖で起きており、上記したような反米・反日感情と無関係とは言えないだろう。

 イラクで石油関連施設やタンカーが狙われる背景としては、米・イラク両政府に対する、現地の人々の強い不満があるだろう。原油貿易での利益が一般市民に還元されず、また現在イラク国会で審議されている「イラク石油法」などにより、国営事業だった石油関連事業が民営化され、しかも外国企業に圧倒的有利な条件であるなど、文字通り「外国にイラクの資源である石油を奪われる」という憤りがある。地域の人々に利益が公平に還元されることが、イラクの石油貿易を安定化させる上で必要なことだろう。

 国連も国際条約も無視したかたちで、「対テロ戦争」を続ける米国のやり方こそがテロを招いているのであって、ただただ米国に追従していくことは、むしろ日本の国益を損なうことだろう。さらに言えば、米国など多国籍軍の艦船自体が標的なのであり、日本のタンカーが多国籍軍の艦船と行動をともにすること自体が、リスクであることも忘れるべきではない。

 また、バスラ沖は、ペルシャ湾の中でも浅瀬や小島が多く襲撃を受けやすいなど、最も危険な海域ではあるが、そもそも日本への主だった輸出国は、サウジアラビア(30%)、アラブ首長国連邦(25.4%)、イラン(15%)であり、イラクは現在のところ、無視できるくらいの量である。仮にイラクから石油を輸入できなくなっても、日本経済が大打撃を受けることは考えづらい。以上のことから、「高鈴」襲撃事件を引き合いにして、「シーレーンの安全確保のため、多国籍軍への給油を続けるべき」という主張は、大いに無理があると言えよう。


追記:サウジアラビアからのタンカー航路となるアデン湾で、今月28日に、ソマリア沖で日本籍のケミカルタンカーが海賊に襲撃され、米軍が出動、海賊船を沈めるという事件もあった。この事件を受けて「やはり多国籍軍への給油は必要では」という意見がネット上でも散見できる。
 だが、海賊行為は、本来、航路の沿岸にある国々の警察力を強化していくべきであって、いたずらに軍を派遣したりするべきではないだろう。ソマリアでは主に反政府軍を中心に反米感情が高まっているので、露骨な親米路線はこの近辺でもトラブルの種となり得るだろう。
 内戦状態のソマリアには、海賊の取り締まりは期待できないにしても、シーレーンでの攻撃が頻発して一番困るのは、産油国である。事件現場のアデン湾は、アラビア半島にも面しており、本来はサウジアラビアやイエメン、オマーンなどの国々が協力して、海賊行為を取り締まればよいのである。
 また、アフリカ各国における極度の治安悪化は、自動小銃など武器蔓延にあり、国際社会、特に欧米や、中国、ロシアなどは国際的な武器の蔓延への歯止めに全力を尽くすべきであろう。


3)緊迫するトルコ・イラク情勢

 米国を中心とする多国籍軍の侵攻以後、イラクの治安は極度に悪化したが、例外は北部のクルド人自治区であった。米国は、クルド人勢力を「反フセイン派」と見なし、攻撃を加えなかったため、現地では大きな戦闘もなく、イラク中部や西部からの避難民の受け入れ先となっていた。だが、最近になり自国内にクルド人独立問題を抱えるトルコが、「クルド人労働党(PKK)の武装勢力が潜んでいる」として、F16 戦闘機による空爆などイラク北部へ越境攻撃を行い、さらに大規模な掃討作戦に備え、国境付近に戦闘機や戦車を伴った10万人の兵士を配置するなど、事態は急激に緊迫しつつある。
 来月5日には、米ブッシュ大統領とトルコのエルドアン首相が会談、越境攻撃の停止やイラク政府との対話などについて話し合う予定だ。


4)高まる民間軍事企業に対する批判、擁護する米国

 米系民間軍事企業「ブラックウォーター社」が先月16日に市民に向かって発砲、17人が死亡した事件を契機に、イラクでは、民間軍事企業に対する批判が高まっている。これまで民間軍事企業は、CPA(連合国暫定当局)の取り決めにより、イラク市民への発砲、殺害しても、起訴されることはなかったが、国民の反発を受けて、イラク政府は今月30日にこの免責特権を剥奪する決定を下した。
 しかし、同日米メディア報道によれば、米国防総省はブラックウォーター社の社員に対し、事情聴取に応じる代わりに、訴追免除を約束したという。
 16日にも、イラク側はブラックウォーター社をイラクから追放するよう、米国務省に要請したが、米国務省側は「ブラックウォーター社の従業員の処遇についてイラク側からの具体的な要請は今のところない」とするなど、国民の反発を苦慮するイラク側と、民間軍事企業の活用を積極的に勧めてきた米国側とで当局の対応にねじれが生じている。


5)モハマド君基金の支援物資、空自が輸送〜日本のイラク支援者の間には戸惑いも

 
  ファルージャは2004年4月と11月の米軍攻撃により壊滅的な被害を受けた。

 イラク支援団体「橋田メモリアル・モハマドくん基金」による医療支援物資が、25日、航空自衛隊の輸送機に積まれ、小牧基地(愛知県)から、バグダッドへ送られた。同基金は、04年5月にイラク中部マハムディーヤで襲撃を受け殺されたジャーナリストの橋田信介さんの遺志を継ぎ、幸子夫人らが設立。イラク中部ファルージャへ母子病院を建設する等を目的に、3000万円の寄付を集めた。現地での病院建設の目処が立ったため、今回の医療物資の提供に踏み切ったのだという。

 ファルージャなどイラク中部・西部では、病院の医療物資は極度に不足しており、現地での支援ニーズは高い。だが、今回、「橋田メモリアル・モハマドくん基金」による支援物資が空自の輸送機によってイラクへと送られたことについては、これまで現地住民との関係を重視し、自衛隊など日本政府との距離を置いてきた日本のイラク支援関係者の間からは、戸惑いの声も少なくない。これらの支援者達は、イラクでの反日感情の高まりの中で、一時期は日本からの支援であることを伏せるなどして、現地で活動するイラク人スタッフの身の安全を確保してきた。その後、支援実績を重ねることで、徐々に日本の民間による支援であることを、現地の人々へ明かし、「政府と民間は別」と訴えてきた。そうした中、イラクへ米軍の兵員や物資を運搬している空自の輸送機で、日本の民間団体の支援物資が輸送されたことに、関係者達は大きなショックを受けている。中には、「余りに軽率」「これまでの苦労が水の泡」と批判したり、落胆の色を隠せない支援者達もいる。

 紛争地へ支援物資を運ぶことは、大変な危険と困難が伴う。軍や民間軍事企業と協力するか否かは、NGOにとっても大きな問題だ。今回の「橋田メモリアル・モハマドくん基金」の行動は、紛争地支援の難しさを改めて浮き彫りにしたといえるだろう。


6)劣化ウラン兵器禁止を求める国際行動デー集会

 
11月11日、東京・文京区民センターで、劣化ウラン兵器禁止を求める国際行動デーへの連帯集会が行われる。国際行動デーとは、11月6日を「戦争と武力紛争による環境収奪を防止する国際行動デー」とする2001年国連決議にあわせ、ウラン兵器禁止を国際社会に広く訴えようと、ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合)が毎年とりくんでいるもので、今年で4回目となる。

【日時】 11月11日(日)午後6時(開場5時半)〜午後9時
【会場】 文京区民センター 
【内容】
1 最近のイラク情勢について 志葉玲さん(ジャーナリスト)
2 ICBUW第4回世界大会(ニューヨーク)の報告とイラクの医療支援
   佐藤真紀さん(JIM・NET事務局長)
3 地震が原発を襲った→柏崎刈羽原発
                   山崎久隆さん(劣化ウラン研究会)
4 映像 「日本のテレビが伝えないイラク現地の状況」
      −希望を届ける民衆がつくったメディア−

【参加費】1000円(前売り800円)

【主 催】劣化ウラン兵器禁止・市民ネットワーク
      〒101-0061 東京都千代田区三崎町2−6−2
               ダイナミックビル5F たんぽぽ舎気付
      TEL/FAX 03-3238-0056(13時〜20時)


バックナンバー
第58号 2007年09月30日
第57号 2007年08月20日
第56号 2007年07月31日
第55号 2007年07月17日
第54号 2007年06月30日
第53号 2007年06月06日
第52号 2007年05月11日
第51号 2007年04月16日
第50号 2007年04月02日
第49号 2007年01月31日
第48号 2006年12月31日
第47号 2006年11月30日
第46号 2006年11月19日
第45号 2006年11月07日
第44号 2006年10月28日
第43号 2006年10月13日
第42号 2006年09月30日
第41号 2006年08月29日
第40号 2006年07月25日
第39号 2006年07月13日
第38号 2006年06月30日
第37号 2006年06月12日
第36号 2006年06月01日
第35号 2006年05月20日
第34号 2006年05月09日
第33号 2006年04月28日
第32号 2006年04月18日
第31号 2006年04月07日
第30号 2006年03月28日
第29号 2006年03月16日
第28号 2006年03月07日
第27号 2006年02月28日
第26号 2006年02月15日
第25号 2006年02月06日
第24号 2006年01月27日
第23号 2006年01月20日
第22号 2006年01月07日
第21号 2005年12月24日
第20号 2005年11月30日
第19号 2005年11月24日
第18号 2005年11月15日
第17号 2005年11月07日
第16号 2005年10月31日
第15号 2005年10月24日
第14号 2005年10月15日
第13号 2005年10月09日
第12号 2005年09月30日
第11号 2005年09月21日
第10号 2005年09月12日
第09号 2005年08月30日
第08号 2005年08月22日
第07号 2005年08月14日
第06号 2005年08月05日
第05号 2005年07月30日
第04号 2005年07月22日
第03号 2005年07月12日
第02号 2005年07月05日
第01号 2005年06月29日