イラク情勢Watch vol.60 07年11月15日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)【論説】「治安改善」「増派の効果」…米軍寄りのイラク報道を問う
3)米軍死者数、開戦以来最多へ
4)深刻な電力不足に悩むバグダッド市民
5)東京・銀座で『イラク・アートの先駆者たち』展、今月19日から


1)イラク関連報道Pick up


【11.15 時事】参院委で15日審議入りも=イラク特措法廃止法案

【11.14.朝日】「理由なく市民殺害」 ブラックウオーター事件でFBI

【11.14.時事】戦争継続の経済負担は約390兆円=イラク・アフガン駐留で試算−米民主党

【11.13 ロイター】トルコ、イラク国境地帯に特殊部隊投入

【11.12.CNN】イラク首相、宗派間抗争に「終結」宣言

【11.9.CNN】米国民68%がイラク戦争に反対、最高比率 世論調査



2)【論説】「治安改善」「増派の効果」…米軍寄りのイラク報道を問う


 バグダッドなど特にイラク中部で吹き荒れた宗派間暴力の嵐。一時期は、月に3000人という犠牲者を出したが、この間、その犠牲者数は減少傾向にあり、先月に報告された犠牲者数は685人。このため、ブッシュ大統領は「治安は改善されている」「兵員増派のおかげだ」とアピールしている。

 こうした現地情勢の変化に関し、日本のマスメディアの中にはブッシュ政権の主張をそのまま鵜呑みにしたような論調も見られるが、実際には複合的な要因がある上、イラク市民達は依然、厳しい状態に置かれていることを充分伝えていない。

 まず、バグダッド等での犠牲者が減少したことは事実であり、喜ばしいことだが、その大きな理由として、筆者の情報提供者は以下のような点を指摘する。

・虐殺行為を行っていた民兵組織マハディ軍に対し、彼らの忠誠の対象であるサドル師派の指導者ムクタダ・サドル師が、暴力行為を止めるよう、強く求めたこと
・地元の自警団的な武装勢力が、アルカイダや民兵組織への取り締まりに動き始めていること
・米軍がスンニ派地区を壁で囲み、武装勢力のコントロールをしやすくしていること
・米国と、イラクのシーア派勢力に強い影響力を持つイランとの間で、イラク情勢を改善させるという方向で、一定の合意がなされたこと
・既に、シーア派とスンニ派は分かれて住むようになり、以前のように混在することがなくなったこと

 つまり、「米軍の兵員増派こそが、イラク治安改善の要因」というブッシュ政権の主張は、多分に彼自身の決定を正当化させる意味合いが大きいだろう。また、先月も日に1000〜2000人の人々がイラク国境に押し寄せ、これまで国内の別の地域や・国外に避難し我が家を追われた人々の数は455万人、つまりイラクの人口のおよそ6人に1人という割合だ。イラク情勢は依然として大変厳しいと言えるのに、そうした状況を伝えずに楽観的な主張を垂れ流すのは、ジャーナリズムのあり方として、好ましいものだと言えないだろう。


3)米軍死者数、開戦以来最多へ

 イラクに駐留する米軍の一年ごとの死者数が、11月現在で857人に上り、イラク戦争開戦以来最多となった。年末まで一ヵ月半までの間にさらに死亡者数が増えることが予想され、支持率が低迷するブッシュ政権への批判がさらに高まりそうだ。
 
 開戦以来の米軍死亡者数は、03年が486人、04年が849人、05年が846人、06年が822人。これまで、二度に渡ってイラク中西部ファルージャへの掃討作戦が行われた04年が最多だったが、今年はバグダッドでの掃討作戦や、それにともなう兵員増加があったため、死者数が増えたもの、とみられる。

 開戦以来のイラクでの米軍死者総数は、現在3860人。月ごとの死亡数のペースはこの数ヶ月は減少傾向にあるものの、「戦死者4000人」の大台を越えるのも、時間の問題だといえる。


4)深刻な電力不足に悩むバグダッド市民

 米軍のイラク占領開始から、莫大な額の資金が「復興支援」に当てられてきたのにも関わらず、イラク市民は電力供給の滞りに悩まされ続けてきた。独立系メディア「Institute for War and Peace Reporting(IWPR)」のレポートによれば、バグダッドの電力事情は、過去最悪の状態にあるという。

 イラク戦争開戦前後の2003年3月、バグダッドでは各家庭に一日16〜24時間、電気は供給されていた。だが、現在は6時間程しか電気は供給されておらず、地域によっては、
10日間も電気が来なかったところさえあるのだという。

 バクダッドの電力難の原因には、
・湾岸戦争や、その後の経済制裁で、電力施設が破壊された、もしくは著しく劣化した
・イラク占領開始後、それまでバグダッドに集中していた供給が、イラク全土で平均化された
・サダム政権崩壊後に経済制裁が解かれ、結果として電力需要が高まった
 などがあるが、2003年以来、約46億ドルが投じられたにも関わらず、武装勢力によるインフラ攻撃や、汚職、非効率で誤った復興計画の進め方により、電力施設の復興は進んでいない。


5)東京・銀座で『イラク・アートの先駆者たち』展、今月19日から

 イラク現代アートの巨匠達の作品約20点が、19日から銀座の中和ギャラリーで公開される。いずれも本邦初公開。イラクへの教育・医療支援や文化交流などを行うNPO法人、PEACE ONの協力。詳しくは以下、告知文を参照。
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『イラク・アートの先駆者たち』展

チグリス、ユーフラテスの大河に育まれ、
七千年もの歴史の上に継承されてきたイラクの文化、芸術。
今日、破壊と殺戮の闇に覆われた首都バグダードは、
かつてはアラブ・イスラーム文化の中心地として栄え、
「平安の都」とすら呼ばれていました。
そのいにしえの美と誇りを受け継ぎ、
イラク現代アートを築き上げた9人の巨匠たち。
かれらの作品約20点がこの度日本にやって来ます。
もちろん日本初公開。
今年の秋も、イラク美術をお愉しみください。

会場:中和ギャラリー(東京都中央区銀座6-4-8曽根ビル3階/03-3575-7620)
http://www.chu-wa.com/
会期:11月19日(月)〜12月1日(土)11:00〜19:00(日祝休廊/最終日16:00まで)
協力:NPO法人PEACE ON 
※19日17:00よりオープニングパーティをおこないます。
出展作家(予定):Saadi Al-Kaabi/Khaid Al-Rahal/Khaid Al-Qassab/Faiq Hassan/
Ismail Al-Chekhly/Ismail Fattah/Ardash Kakiffain/Najeeb Younis/Jamil Hammoudi/他


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