イラク情勢Watch vol.65 08年5月31日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)日本のNPO・個人によるイラク支援、約4億円〜関心低下による寄付減も
3)9条世界会議で、イラク帰還米兵とイラク人エイドワーカーが対話
4)「治安改善」主張するも、米軍による民間人被害続く
5)米軍による民間人の大規模拘束続く〜少年や女性も拘束、虐待も

6)空自イラク空輸700回を越える



1)イラク関連報道Pick up


【08.5.30毎日】<米陸軍>兵士の自殺115人 07年・3年連続の増加

【08.5.28 産経】米駐留に抗議デモ呼び掛け イラク反米指導者

【08.5.23毎日】イラク派遣訴訟:「違憲判断」に反論へ 札幌高裁で国

【08.5.22 日経】イラク駐留米軍司令官、9月までに追加削減判断・上院委公聴会

【08.5.19 読売】イラク駐留米兵がコーラン標的に射撃訓練、米軍が謝罪

【08.5.16 CNN】13年1月までにイラク軍事作戦で勝利を期待、マケイン氏



2)日本のNPO・個人によるイラク支援、約4億円〜関心低下による寄付減も

 日本の11団体・2個人によるイラク支援ネットワーク「イラクに咲く花」が今月5日、「9条世界会議」で明らかにしたところによると、2003年〜2007年度の支援実績は3億8910万784円にのぼった。
 
 支援の内訳は、抗がん剤や抗生物質などの医薬品供与、医師・技師・研修医の受け入れや研修などの「医療支援」が大部分を占め、77.9%。続いて、ファルージャやサドルシティーなど、米軍による破壊活動に被害を受けた人々への支援などの「緊急支援」が5.6%。劣化ウラン弾被害現地調査やイラク人医師・アーティストなどの招聘や国際会議への派遣などの「その他」が5%、学校備品・図書・文具・遊具の送付や、障がい児福祉施設への支援など「教育・福祉関連」が4.9%、学校や病院の修復や回収など「施設の整備・再建等」が4.4%、井戸掘りや飲料水配給など「生活基盤関連」が2.5%という割合だった。

       

 当コーナー管理人が視察した範囲では、「イラクに咲く花」による支援は、現地の受益者達から高く評価され、自衛隊派遣など日本政府による支援と一線を画す存在感を、ある程度示すことができたと言える。ただ、同ネットワーク中、最大の支援団体である「日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)」の佐藤真紀事務局長は「イラク情勢への関心が薄れていくなかで、寄付額も激減している」と危機感を抱く。「当団体の実績でいうと、07年度は前年比で53%減。メディアがイラクの報道をほとんどしなくなっておりそれにつられて、関心も薄くなり募金も集まらないという悪循環になっています」(佐藤事務局長)。

 イラク国民の6人に1人が住居を追われ、国内外での避難生活を余儀なくされている、基本的な医薬品も病院に供給されていない、電気や水の供給も悪化するなど、現地の人々が置かれている生活環境はむしろ悪化している。当コーナーとしても、今後イラク支援を積極的に呼びかけていくつもりだ。

Iraq Hope Network  http://www.iraq-hope.net/Welcome.html

日本イラク医療支援ネットワーク http://www.jim-net.net/
同・バスラ危機緊急支援 http://www.jim-net.net/notice/08/notice08basra_aid01.html



3)9条世界会議で、イラク帰還米兵とイラク人エイドワーカーが対話

    
    左から二人目がカーシム氏、3人目がデルガド氏

 今月4〜6日の日程で開催された「9条世界会議」の海外ゲストとして、招聘されたイラク帰還米兵エイダン・デルガド氏とイラク人エイドワーカーのカーシム・トゥルキ氏は、9条世界会議終幕の記者会見で、固く握手を交わし、共に平和を呼びかけていくことを宣言した。
 
 デルガド氏はアブグレイブ刑務所での捕虜虐待や銃殺を目撃し、良心的兵役拒否を訴えたイラク帰還米兵。カーシム氏はイラク支援ボランティア・高遠菜穂子さんの「右腕」としてイラク西部ファルージャや、ラマディの復興支援に奔走してきたエイドワーカーだ。 二人は9条世界会議を通して、「戦争とは残忍で愚かなもの」「武器を捨てて話し合おう」と意気投合。9条世界会議の実行委員のピースボートの吉岡代表は、二人に「船に乗って、世界中に平和の大切さを訴える“大使”になってくれないか」と提案。二人はこれを快諾した。



4)「治安改善」主張するも、米軍による民間人被害続く

      
      ワシントン・ポスト紙のウェブサイト。空爆映像を視聴できる。


 イラク駐留米軍は24日、5月中旬の1週間にイラクで発生したテロや米軍などに対する攻撃が約300件で、2004年3月末以降で最少になったと発表。「治安改善」をアピールした。だが、一方で米軍による空爆や銃撃などによるイラク民間人の被害は今なお連日のように起きている。今月23日付けの米ワシントンポスト紙によれば、今年3月以降、人口密度の高いバクダッド北部サドルシティーへの空爆が増加し犠牲者も激増しているという。今月14日には米軍ヘリのミサイル攻撃で、子ども二人が死亡、同21日にも現地テレビ局のカメラマンが狙撃で殺されている。

 サドルシティーはシーア派勢力・サドル師派が多く住む地域で、同派とマリキ・イラク首相は、米軍の長期駐留をめぐり、対立が続いている。米軍のイラク駐留延長の国連安保理決議が来年1月に期限切れとなるため、米・イラク両政府は来年1月以降については、二国間協定による駐留に切り替える予定だ。米軍駐留延長容認のマリキ政権に対し、サドル師派は米軍の撤退を要求、30日には、イラク各地で米軍のイラク撤退を求めるデモが行われた。



5)米軍による民間人の大規模拘束続く〜少年や女性も拘束、虐待も

 米国の人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」は、今月22日、「今月13日現在、米軍は513人の少年を司法手続きもなく拘束している」と発表。少年達の平均拘束期間は100日を越え、中には一年以上拘束されている少年もいるという。ヒューマンライツ・ウォッチは、これらの少年に対し司法手続きを保障し、弁護士に面会させるべきだと主張している。

 イラクでの民間人拘束については、現地スンニ派系宗教者団体「イラク・イスラム法学者協会」も今月7日、そのホームページ上で、「6500人の子どもと1万人の女性を含む、約40万人のイラク人が刑務所にとらわれている」と主張。多国籍軍が直接管理する刑務所の他、イラク政府や宗教政党による刑務所にも人々は囚われており、拘留されている女性の95%がレイプされるなど深刻な虐待を受けているとしている。



6)空自イラク空輸700回を越える

     
     空輸活動700回を伝える航空自衛隊のウェブサイト

 防衛省によると、クウェート〜イラク間の航空自衛隊による空輸活動は、4月30日で通算700回に上ったという。2004年3月3日に開始された航空自衛隊の空輸活動は、「復興支援」という名目にされたものの、実際には米軍兵士やその物資を運搬していることから、先月17日、名古屋高裁はその活動を「違憲」とする判断を示している。航空自衛隊のホームページでは、米軍兵士・物資運搬や「違憲」判決に対しての説明も弁解もなく、ただ「任務運行700回記念」「今後701回、702回・・・・と、引き続き安全着実に運航していきます」と活動をアピールするのみである。




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