イラク情勢Watch vol.67 08年7月31日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)年内撤退?イラク派遣航空自衛隊―安保理決議期限切れで
3)イラク戦争を忘れないで―市民サミットでNGO関係者が訴え
4)反イラク石油法活動家、来日できず―ヨルダン入管の制限で
5)8月に米軍が大規模掃討作戦開始か―大統領選に向け衝突激化の恐れ
6)宗派間衝突再燃のきざし―イラク・イスラム法学者協会が危機感
7)米軍、サラハディン州の知事の家族を殺傷する―州当局が調査と処罰を要求


1)イラク関連報道Pick up

【08.7.29 産経】空自、イラクから年内撤収へ

【08.7.29 CNN】イラク早期撤退を「支持する可能性ある」とマケイン氏

【08.7.28 AFP】バグダッドで女性3人が自爆、シーア派巡礼者25人死亡

【08.7.28.日経】イラク派遣延長などに予備費92億円

【08.7.22.共同】10年末までの撤退を希望 オバマ氏にイラク側

【08.7.18.毎日】イラク油田に外資36年ぶり復帰 始まる資源争奪戦



2)年内撤退?イラク派遣航空自衛隊―安保理決議期限切れで

 
イラクの多国籍軍駐の根拠となる国連安保理決議1790が今年末に切れるため、自衛隊の駐留継続のための二国間協議を日本・イラク間で結ぶかの問題で、共同通信は「参院の与野党逆転による国会審議の紛糾も懸念し、協定の締結と活動の継続を断念した」「イラクの航空自衛隊は年内に撤退」(7月29日付け配信)と報道した。

 これに対し、自民党の伊吹文明幹事長は29日の記者会見で、「(政府が空自イラク撤退を決めたかは)少なくとも私は存じません」「個人的な意見」としながらも、「日本の今までの憲法解釈等から、航空自衛隊といえど、主権の存する国の上空であり、今までの国連決議が期限切れした後は、どう説明していくのかというのは、苦労がいるのではないか」と答えている。

 ただし、米大統領選の結果によっては、ガソリン税の暫定税率の維持のように、例え参院で否決されても、衆院のみで自衛隊派遣延長のための二国間協定を承認する可能性もないわけではない。



3)イラク戦争を忘れないで―市民サミットでNGO関係者が訴え



 
7月、洞爺湖サミットにあわせ、環境・貧困・平和などの分野で活動する国内外のNGOが札幌市に集まり催された「市民サミット2008」で、JIM-NET、JVC、ヒューマンライツナウの3団体が共同報告会を行い、「イラク戦争を忘れないで」と訴えた。

 報告会で、JVCの調査研究担当の高橋清貴氏は「G8サミットではジンバブエでの混乱が議題に上ったが、イラク情勢は扱われていない」と問題視。「各国首脳だけでなく、一般市民やメディアのイラクへの関心も落ちている」と懸念を表明した。

 JIM-NETの佐藤真紀事務局長は砂漠の中、ヘビやサソリに囲まれたテントの中で涙を流している、というイラク難民の子どもの絵を見せて、「日本政府は当初からイラク戦争を強く支持してきた。日本にとってイラクの人々窮状は関係ないことではなく、彼らを助ける責任があるのではないか」と問題提起した。また急増するイラク難民たちが、国連からもなかな充分な支援を受けられない現状を報告。ガンを患うイラク人が隣国ヨルダンに入れず、検査を受けることすら容易でなく、重度の患者の場合は治療拒否されたという事例も紹介した。

 ヒューマンライツナウの伊藤和子弁護士は、「2007年10月に公表された国連イラク支援ミッションの報告書の中で、多国籍軍による大規模なイラク市民の殺害が続いており、これらの人権侵害は『人道に対する罪』に相当する、と書かれている。これは例えば、ナチスドイツが戦争犯罪を問われた時に使われた表現で、イラクでの人権侵害はそれほどまで酷いものだと、国連も認めている」と指摘。「G8諸国はまず自分たちがやっている人権侵害を直視するべきだ」と語った。




4)反イラク石油法活動家、来日できず―ヨルダン入管の制限で

 
日本の市民団体が招聘していた、「反イラク石油法戦線」の議長スブヒ・アルバドリ氏は、イラク隣国ヨルダンの国境で入国拒否され、30日に東京で予定されていた集会に間に合うことができなかった。ヨルダンでは、イラク難民の増加から、イラク人の入国を厳しく制限するようになり、医療関係者やNGOスタッフですら、入国できない状態が続いている。


イラク最大の油田地帯キルクーク

 イラク石油法とは、同国の油田の大部分を占める未開発油田に関し、最大35年間優先的に開発を行う権限を与えるなど、外資に圧倒的な有利な条件を認める法案で、昨年2月にイラク政府が閣議決定したものの、その内容から議会でも反発が強く、いまだに承認されていない。

 「反イラク石油法戦線」は、全イラク石油労組やIFC(イラク自由会議)などが結成したイラク石油法案へ反対活動を行っている組織で、アルバドリ氏や副議長のアブドル・カリム・アブドル・アルサダ氏に対し、イラク政府は逮捕状を出している。

 アルバドリ氏を招聘していた全交(平和と民主主義をめざす全国交歓会)は引き続きヨルダン当局への働きかけを続け、京都などで予定されている集会へのアルバドリ氏参加を目指すという。



5)8月に米軍が大規模掃討作戦開始か―大統領選に向け衝突激化の恐れ

 
イラク中東部ディヤラ州が、米軍の大規模掃討作戦の脅威にさらされようとしている。

 現地独立系メディア「アザマン」が報じたところによると、米軍の高官が「ディヤラ州での作戦は8月から始める」と発言しているのだという。ディヤラ州は、今なお米軍への抵抗の激しい地域であり、米軍側は「イラクに潜むアルカイダの牙城」と見なしている。これまでも度々、ディヤラ州では米軍による大規模攻撃を受けており、州都バクバでは、非常に大きな被害が出ている。アザマン紙によれば、バクバ市民の中には、既に8月の攻撃を恐れ、何万人もの人々が避難し始めているのだという。また現地通信社「イラクの声」によれば、189人が米軍により拘束され、外出禁止令が敷かれているのだという。

 イラクでは、今後11月の大統領選に向けて、各地で米軍による軍事作戦が活発化することが考えられる。一つは、イラク軍がそれ単体の戦力は今なお脆弱であり、武力抵抗を続ける反政府勢力に対抗できるかが疑問だからだ。もし、民主党のオバマ候補が大統領選で勝てば、場合によっては、イラクのマリキ政権は崩壊する可能性もある。二つ目は、イラクでの「対テロ戦争」を続けるとしている共和党のマケイン候補への手助けだ。イラクの反政府武装勢力を叩き、「イラクでの対テロ戦争は上手くいっている」とアピールする必要があるからだ。

 いずれにしても、ただでさえ「イラク国民の6人に一人」という数の避難民がさらに増えることは予想され、これらの人々への支援の必要性も高まることだろう。



6)宗派間衝突再燃のきざし―イラク・イスラム法学者協会が危機感

 
イスラム・スンニ派現地有力組織である、イラク・イスラム法学者協会は、7月24日付けの声明で、「民兵による一般市民の拉致や殺害が再び激しくなってきている」と訴えた。
声明の中で、イラク中部マダインでの事例を紹介。同市の駅の近くで多くの家々が民兵によって焼かれ、住民達が殺されたとしている。また、女性を狙った誘拐未遂も起きているという。マダインは、イスラム・スンニ派とシーア派の住民同士が混在する地域で、これまでも民兵による住民への虐殺が起きている。


シーア派民兵

 イラク・イスラム法学者協会によれば、民兵組織のメンバーは、治安機関の妨げもなく、犯罪行為を繰り返しており、民兵組織と治安機関との関係は深いとされる。イラク・イスラム法学者協会は、「傀儡政権と民兵組織は、人々のイラク人としての一体感を破壊し、分裂させようとしていることは、もはや驚くまでもない事実だ」として、今だに暴れまわる民兵組織を放置する政府の姿勢を批判している。



7)米軍、サラハディン州の知事の家族を殺傷する―州当局が調査と処罰を要求

 
現地の複数のメディアが報じたところによると、7月20日、イラク中部サラハディン州の州知事の息子と甥の2名が米軍に殺害され、家族の者も負傷した。当初、米軍は「アルカイダの関係者で米軍兵士に銃撃してきた」と発表したが、現地当局はこれを否定。「殺害された二人は、武装していなかった。これは、すぐに銃を乱射したがる米兵達のやらかした大失敗の一つである」と批難。また、米軍は襲撃の際に逮捕した男性の身柄を拘束したままだが、当局側は「逮捕されたイサ氏は潔白である。米軍が自分達の襲撃を自己正当化するために、イサ氏を拘束し続けているだけだ」と解放を求めた。当局は、米軍に対し、事件の調査と関係者の処罰を要求、また、この問題が解決するまで、全ての州職員のボイコットを呼びかけ、米軍への協力を拒否するよう州民に訴えている。

 今回の事件は、犠牲者が知事の身内だったため、大きく報道されたが、アザマン紙に対し現地の匿名の行政関係者は「同様の事件は何百とあるが、そのほとんどは公表されず、なかったことにされている」と語ったと言う。





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