イラク情勢Watch vol.68 08年9月17日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick
2)【コラム】空自イラク撤退、活動の実態を改めて明らかにすべき
3)国境沿いのイラク難民達の窮状〜UNHCRが報告
4)バグダッドで水不足―「必要量の半分」当局が危機感
5)現在も劣悪な人権状況―米軍収容所に9歳の子ども/南部バスラでも秘密の監獄が

 

1)イラク関連報道Pick up

【08.9.17 沖縄タイムズ】在沖米海兵隊イラク派兵8000人/なお2000人/死者計19人

【08.9.15 CNN】イラク北部でテレビ記者拉致・殺害、首相が徹底捜査を指示

【08.9.13 日経】防衛省の取引企業、佐藤正久議員側に献金

【08.9.12 CNN】イラクでコレラ発生、死亡者 発症者多数 バグダッドなど

【08.9.9 IPS/Jan Jan】米国:元アブグレイブ刑務所取調官が告白本を出版

【08.9.8 朝日】「米政権、マリキ首相らイラク高官を盗聴」米紙記者暴露



2)【コラム】空自イラク撤退、活動の実態を改めて明らかにすべき

 
今月11日、政府はイラクへ派遣されている航空自衛隊の年内にも撤退させる方針を発表した。これは、外国の軍隊のイラク駐留の法的根拠となっている国連決議の期限が年末で切れるためで、日本政府はイラク政府との二国間協定で自衛隊の駐留継続も検討していたが、野党が参院で多数を占め、公明党も慎重な中で、事実上、派遣延長を断念させられたと言える。

      

 
 空自がどのような物資・人員を空輸していたのかは全くと言っていいほど明らかにされていない。今月10日までに768回、640トンの輸送が行われたことだけが、辛うじて空自のサイトに記されている

 だが、野党もメディアも、そして国民もこれで満足するのではなく、空自はイラクで何をやっていたのか、活動を検証するべきである。国会での追及などにより、空自は米兵の兵員や物資を運んでいたことが明らかになっているし、当コーナー編集人の追及に対し、防衛省の広報担当は空自が運んだ米兵が現地での軍事作戦に参加していたことを暗に認めた。今年4月には、名古屋高裁が空自に活動を「違憲」とする判断を示している。しかし、その活動の詳細はより明らかにされるべきである。一体、何人の米兵を運び、どんな武器や弾薬を運んだのか。運ばれた兵員は、その後どの様な作戦に参加したのか。その軍事作戦で、イラク民間人にどの様な被害があったのか。

 政府は防衛省は「米軍との関係もあり、活動の詳細は公にできない」としているが、本当に軍事作戦に関係ない輸送であれば、情報は公開しても問題はないはずだろう。憲法違反の活動をしていたからこそ、その詳細をひた隠すのである。野党は国会が始まり次第、小泉元首相らこの間の責任者を証人喚問し、情報公開させるべきである。同時に米国でも資料公開を求め、その実態を明らかにすべきであろう。

 イラクでの空自の活動は、戦後政府が犯した最も重大な憲法違反である疑いが強い。それだけに、もう撤退するからと言って、曖昧にしたままにしてはならない。




3)国境沿いのイラク難民達の窮状〜UNHCRが報告


イラクにいたパレスチナ難民は開戦以来、危険に脅かされ、極度の貧困にあえいでいる

 
UNHCR(国連難民高等弁務官室)は、10日、交通事故で命を落としたり、近くに病院がなく医療を受けられないなどの、パレスチナ系イラク難民の窮状を訴えた。シリア国境沿いの難民キャンプのパレスチナ人達は、元はイスラエル建国やその後の中東戦争で追われ、イラクへ避難していた者やその子孫。しかし、サダム政権崩壊後の混乱や、民兵による襲撃などから、その安全が脅かされるようになる。UNHCRによれば、隣国に逃れようとして叶わなかった、約2030人が国境沿いで避難生活を送っているという。

 だが、避難生活は、非常に困難なものだ。今月9日の午後、シリア国境近くの難民キャンプの9歳の男の子が車にはねられて死亡した。国境はイラク〜シリア間を結ぶハイウェイとなっており、車の往来も激しい。過去にも難民キャンプの子どもが事故死するケースがあったが、UNHCRシリア支部長は「危険な状態に置かれた国境沿いの難民達をより安全な場所に移動させなくてはならないことが、今度の事件で証明された」とコメントしている。

 適切な医療を受けられる施設が近くにないことも問題だ。多くの難民達が病気やトラウマなどの精神的な問題を抱え、医療を受けることを必要としているが、難民キャンプから最も近い医療施設はシリア側で270キロ、イラク側で400キロ以上の距離がある。ほとんどの難民達は、医療を受けられないのが、現実である。しかも、国境付近は砂漠地帯で、極端な寒暖の差や砂嵐、蛇やサソリなどが難民達を脅かしているのだ。

UNHCRは、これまでも国境沿いの難民達の支援の必要性を訴えてきた。しかし既に何十万という単位の難民に辟易しているイラク周辺の国々は、これ以上の難民受け入れに消極的なのである。国連のイラク難民支援の資金不足も問題だ。今年5月、UNHCRは「1億2700万ドル(約136億6520万円。1ドル=107.6円で計算)の資金が不足しているとして、「イラク難民数十万人分の支援を打ち切らなくてはならないかもしれない」と危機感をあらわにしている。


 
ちなみに、日本のNGOではJIM-NETが早くからイラク国境沿いのパレスチナ難民の支援に当たっている。詳しくはこちら



4)バグダッドで水不足―「必要量の半分」当局が危機感

 イラク戦争開戦以来、毎年の様に水不足に悩まされてきたバグダッドの住民達にとって、今年の夏も非常に厳しいものであった様だ。現地独立系メディア「アザマン」によると、バグダッド水道局のサディク・シャマリ局長は「300万人もの住民が水道を使えないでいる」と危機的な状況を訴えたという。

イラクは世界で最も暑い国であり、夏の気温は50度を超えることすらある。そうした中の今回の水不足。シャマリ局長は「電気の供給停滞が水不足に拍車をかけている。数分の停電で、3時間は水の供給が断たれる」「下水処理施設の状況も酷い」と状況の深刻さを嘆いた。
             

 
イラクでは現在、浄水施設の稼働率の低さから不衛生な水を飲まざるを得ないことによるコレラなどの感染症が発生している。写真はサマワで2004年に撮影。

 また、ユニセフのスタッフが匿名でアザマンに話したところによると、「イラク政府は石油売買で利益を得て資金はあるはずなのに、投資には時間がかかっている」と、上下水道や電力供給など社会的インフラに資金が使われていないことを示唆した。今年10月には、イラクの石油売買について、日系企業も含む民間企業も参加する国際的な会議が開かれるが、国際社会は不透明な石油売買と利益の分配について、監視を厳しくするべきであろう。



5)現在も劣悪な人権状況―米軍収容所に9歳の子ども/南部バスラでも秘密の監獄が

  

 
米軍の収容所内に9歳の子どもが収容されている・・・そんなショッキングな映像が動画投稿サイトYoutube にアップされ、波紋を呼んでいる。問題の動画は先月13日、投稿されたもので、撮影者の一団(イラク人?)が米軍兵士の案内で収容所を訪れ、捕虜たちと一団が金網越しに会話するというもの。映像では、18歳未満と見られる少年達が何人も登場するが、中でも幼い少年は「僕は9歳。もう5ヶ月も拘束されている」と話している。家宅捜索に来た米兵達は少年の父親を探したものの、発見できなかったため、少年を拘束していったのだという。米軍が手配中の容疑者が見つけられなかった場合、家族をいわば「人質」として拘束していくのは、度々、証言されていることで、米人権団体が入手した米軍内部資料の中にも、容疑者の妻を拘束するよう指示した記述がある。

 また、今月11日に現地独立系メディア「アザマン」が伝えたところによれば、イラク南部バスラで秘密の監獄があり、被収容者が劣悪な状況下に置かれていることが、イラク議会人権委員会の視察で明らかになった。その監獄では、200人以上が栄養失調で衰弱し、病気になっていたという。牢屋に屋根はなく、被収容者達はイラクでも最も暑いバスラで、焼け付く様な日差しにさらされていた。トイレも200人に対し一つしかなく、溢れて非常に不衛生だったという。そもそも、被収容者達が本当に罪を犯したかも疑わしい。彼らの誰も裁判にかけられず、弁護士の支援も受けられないままであるからだ。油田都市バスラでは、石油事業の民営化や外資への解放をめぐり、現地労働組合と政府が対立しているからだ。実際、組合関係者が逮捕されたり、脅迫されることも起きている。

 今回紹介した事例からわかるように、米軍もイラク当局も、人権意識は依然低く、第三者による実態調査が必要だろう。



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