イラク情勢Watch vol.70 08年12月30 日

         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲



Topics
1)イラク関連報道Pick up
2)【論説】イラクから空自自衛隊撤退−疑問は残されたまま
3)靴投げイラク人記者を救え―イラク内外で広がる解放運動
4)チョコ販売でイラク支援―「限りなき義理の愛大作戦」4回目実施
5)イラク帰還兵証言DVD「冬の兵士」完成
6)ベトナム戦争を超える莫大な戦費−大義なき戦争に81兆円


1)イラク関連報道Pick up

【12.30.CNN】ワシントンのイラク総領事館でデモ、靴投げの記者釈放求め

【12.28.日経】トルコ軍、イラク北部空爆 クルド武装組織を攻撃

【12.25 JanJan】世界の人権状況がよくわかる、アムネスティ・フィルム・フェスティバル

【12.24.時事】「最高指揮官として誇り」=イラク空自の隊旗返還式で訓示−麻生首相

【12.24.毎日】イラク:多国籍軍の駐留延長を決議−−連邦議会

【12.19.共同】日本のイラク支援に不満増加 7回目のサマワ住民調査



2)【論説】イラクから空自自衛隊撤退−疑問は残されたまま


航空自衛隊小牧基地での帰国行事


 
今月、航空自衛隊が撤退し、約5年にもわたるイラクへの自衛隊派遣がついに幕を閉じた。空自は最終的に821回の飛行で約4万6500人、約673トンの物資を輸送したとされるが、そのほとんどは、米軍の兵士や物資だと観られる。麻生首相は、小牧基地での空自イラク派遣部隊の隊旗返還式で「最高指揮官として誇り」だと語ったが、空自の任務は本当に「誇れる」ことかどうかは、甚だしく疑問だ。本コーナー編集人の問い合わせに対し、空自幕僚監は、空自が輸送した米軍兵士がバグダッド等での掃討作戦に従事したことを認めている。これらの兵士がイラク市民をも殺害した可能性は極めて高い。空自が運んだのがどの部隊なのか、輸送後、どの様な活動に従事したのか、そして現地の住民にどのような被害があったのかを、明らかにする必要があるだろう。

 また、空自帰国後になって、武装勢力による地対空ミサイル攻撃予告や不審者発見などの「脅威情報」により、運航を中止したケースが約30回に上っていたこと等が報道されたが、危険な任務の実態を今まで隠し続け、あくまで「非戦闘地帯」と言い張ってきた政府の姿勢は厳しく批判されるべきである。莫大な派遣費も問題だ。喜納庄吉議員の質問趣意書に対する政府答弁によれば、

 03年度から集計が終わった今年6月末までの空自の派遣費用は約200億円で、今年の残りの分も合わせると、さらに増えるのだという。国の財政が厳しいとされる中、大儀のない戦争に加担することに、これだけの税金を投じてきたことも許されることではない。近く行われるだろう衆院選では、政権が交代する可能性もあるが、もし民主・社民などの現野党勢力が政権をとった暁には、より徹底した調査がなされるべきであろう。




3)靴投げイラク人記者を救え―イラク内外で広がる解放運動



 
今月14日にバグダッドを電撃訪問したブッシュ米大統領に靴を投げつけ逮捕されたイラク人記者ムンタザル・ザイディ氏への共感と彼の解放を求める声が高まっている。事件翌日、バグダッドでは数千人がザイディ記者解放を求めてデモ行進を行い、ザイディ記者が勤めるアルバグダディヤ放送も「米政府がイラク人民に約束した民主主義と表現の自由」に基づき、釈放を要求。「ザイディ記者に対するいかなる処罰も、独裁政権による行為とみなす」と同記者を全面的に擁護する構えだ。さらに、イラク西部ファルージャでは、ザイディ記者解放を訴えるデモに参加した人々に米軍が発砲するという事件までも起きた。

 イラク国外でも、パレスチナ自治区では、イスラエル軍に対し、いつものような投石ではなく靴を投げつけるという抗議行動が行われた。また、レバノンの有力政党ヒズボラは、ザイディ記者の行為への支持を表明。イランでもテヘラン大学でザイディ記者に連帯する趣旨でブッシュ米大統領のポスターに靴を投げつけるイベントが催された。ネット上では、ザイディ記者の解放を求める署名が始められた。
http://www.petitionspot.com/petitions/FreeMuntader

 ザイディ記者の公判は今月31日に始まるが、「公式訪問中の外国元首に対する敵対行為」で起訴されており、最長で15年の懲役を科される可能性がある。裁かれる場も通常の裁判所ではなく、テロ事件を扱うイラク中央刑事裁判所だ。ザイディ記者への拷問も懸念される。既に、ザイディ記者と接見した家族によれば、同記者は殴られるなどの暴行を受け、腕や肋骨を骨折していたという。これに対し、国際的な人権団体アムネスティ・インターナショナルはイラク当局へ「拷問とその他の虐待についてのすべての疑いを調査する義務があり、これらの虐待の責任者を起訴すべき」「ザイディの居場所を公開し、彼が直ちに弁護士や家族との定期的な面会ができるように、また、必要とあれば治療を受けられるように保障し、さらに彼を拷問やその他の虐待から守らなければならない」と要求している。




4)チョコ販売でイラク支援―「限りなき義理の愛大作戦」4回目実施

 
イラクでは、多くの人々が劣化ウランが原因と見られるガンや白血病に苦しんでいるが、イラクの人々への医薬品等の支援を行っているNGO「日本イラク医療支援ネットワーク」(JIM−NET)は、バレンタインデーにあわせチョコを販売し、その収益を薬代にあてるキャンペーン「限りなき義理の愛大作戦」を今期も実施。今月1日からメールでの先行予約を受付け、来年1月5日からは電話やFAXでの注文受付も始めるという。



 「限りなき義理の愛大作戦」キャンペーンは今年で4回目。闘病中のイラクの子ども達が描いたイラスト入りメッセージカード付きのチョコを1個500円を4セットから販売、原価等のコストを差し引いた利益分(4セットで400円)を薬代にあてている。バレンタインデーにあわせた、このキャンペーンは毎回好評でJIM−NETの財源の大きな柱になっているという。今回は過去最多の7万個のチョコを用意、完売すれば約700万円がイラクへの支援となる。

● 電話:03−5816−3721
● ファクス:03−5816−3723

「限りない義理の愛大作戦」キャンペーンページ

http://www.jim-net.net/09campaign/09campaign001.html



5)イラク帰還兵証言DVD「冬の兵士」完成



 
イラクから帰還した米兵の中には、米軍による現地住民への弾圧や虐殺、虐待などについて、証言しイラク戦争に反対する者達もいる。今年3月、米ワシントンDC郊外で約50人のイラク帰還兵が集まり、公聴会を開いた。この公聴会の記録を収めたDVD「冬の兵士」が完成、ホームページを通じ販売している(定価3000円)。DVDではイラク帰還兵が「初めて人を殺した」「同僚が7歳の少女を撃ち殺した」等、衝撃的な証言が語られ、謝罪する姿が描かれている。


冬の兵士予告映像(Youtube)


 撮影・編集はジャーナリストの田保寿一氏。湾岸戦争直後の現地取材、イラク開戦後のバグダッドやサマワなどの取材を行ったベテランジャーナリストだ。以下、田保氏からのメッセージ。
****************
田保寿一です。

イラク帰還兵の証言を記録したDVD「冬の兵士・良心の告白」が完成しました。

今年の3月、ワシントンDC郊外でウインターソルジャー(冬の兵士)と呼ばれる歴史的に重要な公聴会が開催されました。イラク戦争に従軍したおよそ50人の帰還兵が、自分たちが何をしてきたのかを証言したのです。

それは犯罪としか言いようが無い事実でした。人殺し、暴行、およそ人が犯してはならない最もおぞましい犯罪を、彼らは組織的に強要されていたと代わる代わる証言しました。

イラク戦争は犯罪だと、それを最前線で実行した当事者たちが証言したのです。

私は、これを聞きながら、帰還兵たちの勇気に感動した。彼らの中にはこういう反戦運動をしたため、退役軍人として恩恵が受けられなくなった人もいる。しかも、米国はいまだ戦争中だ。そのさなかにそれを止めさせようとすることには、目に見えない様々な圧力も考えられる。しかし、それをものともせずに、多くの若者たちが立ち上がった。

そして、つたない英語でインタビューする私を、帰還兵達は「あなたはアメリカにはいない真のジャーナリストだ」と尊敬してくれ、イラクでしたことを詳細に話してくれた。

しかし、帰国後、これを編集しようとしても、その記録VTRは、膨大な量であるとともに、とてもデリケートな内容なので、私の能力では翻訳作業が暗礁に乗り上げた。途方にくれて苦しんでいる私を7月に、レイバーネットの向井さんが救ってくれた。彼女が彼女の友人たちと協力して翻訳の問題を解決してくれたため、編集を続けることが可能になった。取材してから今までの9ヶ月間は、ウインターソルジャーを理解するために費やされた。

また、私はこの作品をイラクでの取材を裏付けるため始めたが、そのうち帰還兵の証言がそれ以上に重要なことに気がついたので、編集方針が変わってしまい、物語が破綻する可能性があった。そのため、私は編集が進むたびに関心を示してくれる人たちに見せ、意見を聞いた。レイバーネットの松原さんや国際部の会員達が、そのことに理解を示し、試写会をして見て下さった。私は、その意見を聞いて、作品のあり方を考え、ようやく編集を終えることができた。松原さんを初めレイバーネットの人たちに感謝している。

やっと作品が完成しました。ぜひ、このDVDを見て、イラク戦争という犯罪の軌跡を知ってほしい。そして、それと立ち向かっているアメリカの若い帰還兵達の真摯な姿を見てほしい。

販売はホームページで行っています。

アドレスは
http://wintersoldier.web.fc2.com/wintersoldier.html

です。
****************



6)ベトナム戦争を超える莫大な戦費−大義なき戦争に81兆円


チェイニー副大統領と関係の深いハリバートン社がイラク戦争で大儲けしていること描いた風刺画

 
米防衛専門シンクタンク、戦略予算評価センター(CSBA)がまとめた報告書によれば、イラク、アフガニスタン等での対テロ戦争の戦費が、約81.6兆円にも上ることが明らかになった。また対テロ戦争戦費の7割以上を占めるイラク戦争だけで、既にベトナム戦争を上回り、第二次世界大戦を除く他のすべての近現代の戦争の戦費を上回っている。さらに、同センターの予想では2018年まで対テロ戦争が継続されるとした場合、「戦費総額は最大で150兆円にも上る」としている。

 米議会予算局は今年10月、2008年度(今年9月まで)の財政赤字が44兆円に達する見込みだと発表。金融危機、米自動車産業ビッグ3の経営危機などもあいまって、米国経済自体への国際社会の信頼をも揺るがす自体となりつつある。オバマ新政権にとっても、ブッシュ政権の負の遺産をどう処理するか、大いに苦労しそうな状況だ。オバマ新政権はアフガニスタンでの対テロ戦争は継続するとしているが、それよりも失われた信頼の建て直しが急務であろう





バックナンバー
第69号 2008年11月17日
第68号 2008年09月17日
第67号 2008年07月31日
第66号 2008年06月30日
第65号 2008年05月31日
第64号 2008年04月30日
第63号 2008年03月31日
第62号 2008年02月07日
第61号 2007年12月28日
第60号 2007年11月15日
第59号 2007年10月30日
第58号 2007年09月30日
第57号 2007年08月20日
第56号 2007年07月31日
第55号 2007年07月17日
第54号 2007年06月30日
第53号 2007年06月06日
第52号 2007年05月11日
第51号 2007年04月16日
第50号 2007年04月02日
第49号 2007年01月31日
第48号 2006年12月31日
第47号 2006年11月30日
第46号 2006年11月19日
第45号 2006年11月07日
第44号 2006年10月28日
第43号 2006年10月13日
第42号 2006年09月30日
第41号 2006年08月29日
第40号 2006年07月25日
第39号 2006年07月13日
第38号 2006年06月30日
第37号 2006年06月12日
第36号 2006年06月01日
第35号 2006年05月20日
第34号 2006年05月09日
第33号 2006年04月28日
第32号 2006年04月18日
第31号 2006年04月07日
第30号 2006年03月28日
第29号 2006年03月16日
第28号 2006年03月07日
第27号 2006年02月28日
第26号 2006年02月15日
第25号 2006年02月06日
第24号 2006年01月27日
第23号 2006年01月20日
第22号 2006年01月07日
第21号 2005年12月24日
第20号 2005年11月30日
第19号 2005年11月24日
第18号 2005年11月15日
第17号 2005年11月07日
第16号 2005年10月31日
第15号 2005年10月24日
第14号 2005年10月15日
第13号 2005年10月09日
第12号 2005年09月30日
第11号 2005年09月21日
第10号 2005年09月12日
第09号 2005年08月30日
第08号 2005年08月22日
第07号 2005年08月14日
第06号 2005年08月05日
第05号 2005年07月30日
第04号 2005年07月22日
第03号 2005年07月12日
第02号 2005年07月05日
第01号 2005年06月29日